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第六話
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最初にソレを見た時にバームは思った。
まさか出てきたのが、ただのナイフか――と。
しかし、手に取った瞬間バームの身体に電気が走るような感覚がおこる。
「っ……こ、このナイフは!」
そこまで言うと、バームは奪い取るように手元に持っていき、ナイフを隅々までチェックしていく。
見た目の確認を終えると、今度は急ぎ足で小さな板切れを持ってきてそれをナイフで斬る。
「すごい、木がまるで紙のようだ……これは一体なんなんだ!?」
感動と困惑を共有しながらバームが食い入るようにユーゴへと質問する。
「なんなんだと言われても、ただのナイフなんだけどな。俺の持つ技術をつぎ込んで作ったただのナイフさ」
「ただの!?」
ユーゴの返事を聞いて一ミリも納得ができないバームはつい大声を上げてしまった。
普通のナイフだと板切れに傷をつける程度にしかならない。
しかし、ユーゴが作ったナイフは板切れをあっさりと真っ二つにしていた。
それも力をいっぱいこめるでもなく、するりと切り裂いたのだ。
「こんなものがただのナイフだと言われたら、わしが作ったものなんぞおもちゃ同然じゃぞ! まさかこんなにすごいものに出会えるとは思わんかった!」
鼻息荒くバームが興奮しながらナイフを見て熱く語る。
「あー、そんなに大したものを作ったつもりはないんだけど……喜んでもらえたみたいでよかったよ。お近づきのしるしにそれはやるよ。飾ってもいいし、捨ててもいいし、売ってくれてもいい。ほら、ついでにもう一本作ったからこれもどうぞ」
その言葉を聞いてバームは目を大きく見開く。
「これをくれるじゃと!? しかも二本も! これほどのものをそんなに簡単にくれるとは……しかし、これほどの武器をわしのところで腐らせるのはもったいない……」
そう言うと腕を組んで何やら考え込むバーム。
「えーっと、それで……」
たまに作業場を使わせてほしいんだけどと言おうとするユーゴだったが、すぐにバームが口を開く。
「そうだ! 一本は知り合いの武器商人を通して売ってもらおう。もちろん信頼できる相手にな。これを使わずに眠らせておくのはもったいなさすぎる! もちろん報酬は渡すから、構わんな?」
一人で話を進めていくバームに対してユーゴは何か言おうとするが、バームの動きは早い。
「それじゃあ、早速あいつのところにいかないとだ! ……ん? 何かあるか?」
でかける準備を始めたところで、ユーゴが何か言いたそうな顔をしていることに気づいたバームはまくし立てるようにしゃべり続けていたのをやめて振り返る。
「いや、その、たまにこの作業場を使わせてもらえると助かるんだけど……」
「あぁ、なんだそんなことか。うむ、構わんぞ! わしがいる時に声をかけてくれれば自由に使ってもらってええ。それより、すぐに出かけたいから出てもらってもいいかの?」
作業場の使用をあっさりと許諾したバームは、ユーゴをせかして店を出て行く。
外に出ると、再度バームが声をかける。
「売れたら報酬はわしのところに来ることになる。だから、たまに顔を出してくれ。あー……他に何かあるか?」
「あー、そうだなあ……念のため製作者だけはふせておいてくれるか?」
ユーゴとしては大したものを作ってないので、それをわざわざ売りに出して名前を出されるのが恥ずかしかった。
バームがあれほどまでに褒めちぎっているのを嬉しいと思うよりも先に戸惑っているほどだった。
「ふむ? まあ、わかった。作者の意思を尊重しよう。それではいってくる!」
そう言うと、バームは嬉々とした足取りでドタドタと走ってどこかに向かっていった。
「あわただしいな……まあ、たかだかナイフだからそんなに高くは売れないだろうな」
バームの背中を見送りながらやれやれと肩を竦めつつつぶやくユーゴは、ここまで来た道を戻って行く。
途中、ユーゴは錬金術師の店が何時までやっていて、開店は何時なのかを確認するために足を店へと向けていた。
日が落ちて、夜も遅くなってきたが錬金術師の店にはあかりが灯っていた。
「……まだやってるのか?」
街には街灯が少ないため、夜間やっているのは宿屋に酒場、一部の食堂と冒険者ギルドくらいである。
しかし、店の窓からは煌々と光が漏れていた。
だが扉にはCLOSEの札がかけられている。
静かに扉を開くと、中にはあの店主の姿があった。
「あっ! あなたはポーションの人!」
ユーゴを見つけた店主が嬉しそうに駆け寄ってきて声をかけてくる。
「あぁ、どうも。俺のポーションの売れ行きはどうだった? ……まあ、一日で売れる数なんてたかが知れてるか」
ユーゴは店の中を見渡して、自分のポーションがどこにあるかを探す。
「なんと、ポーションは完売よ! うん、買い取ってよかったわ」
そう言って店主は指を二本立てる。妖艶な彼女の茶目っ気たっぷりの仕草は愛らしさがあった。
「ピースサイン……って完売? 十本全部?」
驚いて質問するユーゴに、店主はニッコリと笑顔で頷く。
「すっごく効果が高いし、実演したら次々に買っていったわよ。さすが、えっと……そういえばお互いに名前を言ってなかったわね。私の名前はミリエル、エルフよ。普段は人族の老婆に見えてるはず。よろしくね」
余程ユーゴのポーションの売上が良かったことが嬉しかったのか、ミリエルは機嫌良く自己紹介と共に、どんな姿に偽装してるかまで説明する。
「俺の名前はユーゴ。見てのとおり普通の人族だ」
普通という部分にミリエルは眉をピクリと動かすが、それはおいて本題に入ることにする。
「ユーゴ、率直に質問するけど、あのポーション……いったいなんなのかしら?」
似たような質問をバームから受けたことを思い出しながら、ミリエルの質問に肩をすくめる。
「なんなのと言われても、ただのポーションだ――自作のな」
これは何かを隠しているわけではなく、純粋に思ったことを口にしている。
「ただのポーション……なわけないわよね? だって、昼間買った冒険者はダンジョンで大けがをして使ったら一瞬で回復したって言ってたわよ」
神妙な顔つきで質問してくるミリエルに対して、ユーゴは首を傾げる。
「すぐに回復したんだったらいいんじゃないのか? それに、回復の早さは事前にミリエルが確認していただろ?」
指先を傷つけてユーゴのポーションで回復し、その効力を実感していた。
だからこそ何を当たり前のことを言っているのだろうかと彼は困惑している。
「そうだけど、まさか魔物に斬られた右腕が一瞬で治るだなんて思わないでしょ? 斬られた腕がくっついて、しかも以前よりも強くなっているだなんてわけがわからないわよ!」
冒険者から聞いた話が今でも信じられないといった様子で、ミリエルはまくし立てるように興奮しながらユーゴに詰め寄る。
「お、落ち着いてくれ。作り方はある程度自己流で、あとは普通の薬草じゃなく、特薬草で作っているくらいか……?」
ユーゴは思い当たる部分を話すが、ミリエルは納得せず、夜遅くなるまで彼女の話に付き合うことになる。
数時間後
「ふう、ごめんなさい。思わず興奮しちゃって……。なんにしても、あなたの作るポーションはとても良質で、信じられないほどの効果があるから、次も納品してもらえるなら最初に買い取った金額の三倍の金額を出させてもらうわね」
ひと息ついたミリエルはよほどユーゴのポーションのことを高く評価したらしく、普通ならあり得ない申し出をする。
「わかった、また作ったら持ってくるよ。それと、ここの営業時間を確認しておきたいんだけど……」
自分の作ったものを評価してもらえることは嫌な気持ちはしないため、頷きながらユーゴが言うと、ミリエルは何やら小さなカードを取り出す。
「ここに私についてと店について書いてあるから、それで確認して? あ、言っておくけどこのカードを渡すのは限られた人だけなのよ?」
そう言ってパチンとウインクをすると、ミリエルはとびきりの笑顔になっていた。
まさか出てきたのが、ただのナイフか――と。
しかし、手に取った瞬間バームの身体に電気が走るような感覚がおこる。
「っ……こ、このナイフは!」
そこまで言うと、バームは奪い取るように手元に持っていき、ナイフを隅々までチェックしていく。
見た目の確認を終えると、今度は急ぎ足で小さな板切れを持ってきてそれをナイフで斬る。
「すごい、木がまるで紙のようだ……これは一体なんなんだ!?」
感動と困惑を共有しながらバームが食い入るようにユーゴへと質問する。
「なんなんだと言われても、ただのナイフなんだけどな。俺の持つ技術をつぎ込んで作ったただのナイフさ」
「ただの!?」
ユーゴの返事を聞いて一ミリも納得ができないバームはつい大声を上げてしまった。
普通のナイフだと板切れに傷をつける程度にしかならない。
しかし、ユーゴが作ったナイフは板切れをあっさりと真っ二つにしていた。
それも力をいっぱいこめるでもなく、するりと切り裂いたのだ。
「こんなものがただのナイフだと言われたら、わしが作ったものなんぞおもちゃ同然じゃぞ! まさかこんなにすごいものに出会えるとは思わんかった!」
鼻息荒くバームが興奮しながらナイフを見て熱く語る。
「あー、そんなに大したものを作ったつもりはないんだけど……喜んでもらえたみたいでよかったよ。お近づきのしるしにそれはやるよ。飾ってもいいし、捨ててもいいし、売ってくれてもいい。ほら、ついでにもう一本作ったからこれもどうぞ」
その言葉を聞いてバームは目を大きく見開く。
「これをくれるじゃと!? しかも二本も! これほどのものをそんなに簡単にくれるとは……しかし、これほどの武器をわしのところで腐らせるのはもったいない……」
そう言うと腕を組んで何やら考え込むバーム。
「えーっと、それで……」
たまに作業場を使わせてほしいんだけどと言おうとするユーゴだったが、すぐにバームが口を開く。
「そうだ! 一本は知り合いの武器商人を通して売ってもらおう。もちろん信頼できる相手にな。これを使わずに眠らせておくのはもったいなさすぎる! もちろん報酬は渡すから、構わんな?」
一人で話を進めていくバームに対してユーゴは何か言おうとするが、バームの動きは早い。
「それじゃあ、早速あいつのところにいかないとだ! ……ん? 何かあるか?」
でかける準備を始めたところで、ユーゴが何か言いたそうな顔をしていることに気づいたバームはまくし立てるようにしゃべり続けていたのをやめて振り返る。
「いや、その、たまにこの作業場を使わせてもらえると助かるんだけど……」
「あぁ、なんだそんなことか。うむ、構わんぞ! わしがいる時に声をかけてくれれば自由に使ってもらってええ。それより、すぐに出かけたいから出てもらってもいいかの?」
作業場の使用をあっさりと許諾したバームは、ユーゴをせかして店を出て行く。
外に出ると、再度バームが声をかける。
「売れたら報酬はわしのところに来ることになる。だから、たまに顔を出してくれ。あー……他に何かあるか?」
「あー、そうだなあ……念のため製作者だけはふせておいてくれるか?」
ユーゴとしては大したものを作ってないので、それをわざわざ売りに出して名前を出されるのが恥ずかしかった。
バームがあれほどまでに褒めちぎっているのを嬉しいと思うよりも先に戸惑っているほどだった。
「ふむ? まあ、わかった。作者の意思を尊重しよう。それではいってくる!」
そう言うと、バームは嬉々とした足取りでドタドタと走ってどこかに向かっていった。
「あわただしいな……まあ、たかだかナイフだからそんなに高くは売れないだろうな」
バームの背中を見送りながらやれやれと肩を竦めつつつぶやくユーゴは、ここまで来た道を戻って行く。
途中、ユーゴは錬金術師の店が何時までやっていて、開店は何時なのかを確認するために足を店へと向けていた。
日が落ちて、夜も遅くなってきたが錬金術師の店にはあかりが灯っていた。
「……まだやってるのか?」
街には街灯が少ないため、夜間やっているのは宿屋に酒場、一部の食堂と冒険者ギルドくらいである。
しかし、店の窓からは煌々と光が漏れていた。
だが扉にはCLOSEの札がかけられている。
静かに扉を開くと、中にはあの店主の姿があった。
「あっ! あなたはポーションの人!」
ユーゴを見つけた店主が嬉しそうに駆け寄ってきて声をかけてくる。
「あぁ、どうも。俺のポーションの売れ行きはどうだった? ……まあ、一日で売れる数なんてたかが知れてるか」
ユーゴは店の中を見渡して、自分のポーションがどこにあるかを探す。
「なんと、ポーションは完売よ! うん、買い取ってよかったわ」
そう言って店主は指を二本立てる。妖艶な彼女の茶目っ気たっぷりの仕草は愛らしさがあった。
「ピースサイン……って完売? 十本全部?」
驚いて質問するユーゴに、店主はニッコリと笑顔で頷く。
「すっごく効果が高いし、実演したら次々に買っていったわよ。さすが、えっと……そういえばお互いに名前を言ってなかったわね。私の名前はミリエル、エルフよ。普段は人族の老婆に見えてるはず。よろしくね」
余程ユーゴのポーションの売上が良かったことが嬉しかったのか、ミリエルは機嫌良く自己紹介と共に、どんな姿に偽装してるかまで説明する。
「俺の名前はユーゴ。見てのとおり普通の人族だ」
普通という部分にミリエルは眉をピクリと動かすが、それはおいて本題に入ることにする。
「ユーゴ、率直に質問するけど、あのポーション……いったいなんなのかしら?」
似たような質問をバームから受けたことを思い出しながら、ミリエルの質問に肩をすくめる。
「なんなのと言われても、ただのポーションだ――自作のな」
これは何かを隠しているわけではなく、純粋に思ったことを口にしている。
「ただのポーション……なわけないわよね? だって、昼間買った冒険者はダンジョンで大けがをして使ったら一瞬で回復したって言ってたわよ」
神妙な顔つきで質問してくるミリエルに対して、ユーゴは首を傾げる。
「すぐに回復したんだったらいいんじゃないのか? それに、回復の早さは事前にミリエルが確認していただろ?」
指先を傷つけてユーゴのポーションで回復し、その効力を実感していた。
だからこそ何を当たり前のことを言っているのだろうかと彼は困惑している。
「そうだけど、まさか魔物に斬られた右腕が一瞬で治るだなんて思わないでしょ? 斬られた腕がくっついて、しかも以前よりも強くなっているだなんてわけがわからないわよ!」
冒険者から聞いた話が今でも信じられないといった様子で、ミリエルはまくし立てるように興奮しながらユーゴに詰め寄る。
「お、落ち着いてくれ。作り方はある程度自己流で、あとは普通の薬草じゃなく、特薬草で作っているくらいか……?」
ユーゴは思い当たる部分を話すが、ミリエルは納得せず、夜遅くなるまで彼女の話に付き合うことになる。
数時間後
「ふう、ごめんなさい。思わず興奮しちゃって……。なんにしても、あなたの作るポーションはとても良質で、信じられないほどの効果があるから、次も納品してもらえるなら最初に買い取った金額の三倍の金額を出させてもらうわね」
ひと息ついたミリエルはよほどユーゴのポーションのことを高く評価したらしく、普通ならあり得ない申し出をする。
「わかった、また作ったら持ってくるよ。それと、ここの営業時間を確認しておきたいんだけど……」
自分の作ったものを評価してもらえることは嫌な気持ちはしないため、頷きながらユーゴが言うと、ミリエルは何やら小さなカードを取り出す。
「ここに私についてと店について書いてあるから、それで確認して? あ、言っておくけどこのカードを渡すのは限られた人だけなのよ?」
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