鍛冶師×学生×大賢者~継承された記憶で、とんでもスローライフ!?~

かたなかじ

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第十三話

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 人の邪魔にならないように壁際に移動して、冒険者たちの動向を観察するユーゴ。

 色々な種族、色々な職業の冒険者がホール内を移動している。


 この場の空気を感じているだけで、ユーゴのワクワクは満たされていく。

 その気持ちを表には出さずにいたが、ユーゴに声をかけてくる人物がいた。


「あ、あのー、何か御用でしょうか……?」

 びくびくとおびえた様子の声の主は獣人の受付嬢だ。

 猫の獣人であるらしく、かわいらしいトラ柄の耳と尻尾が特徴である。年齢は恐らく十代半ばといったところか。


「あぁ、ちょっと聞きたいことがあったんだけど、初めて来たものだからどうすればいいかと思って」

 実際の理由はただ観察していただけだったが、ユーゴはへらっとわらってそれっぽい理由を口にする。


「なるほど、とりあえず正面の受付でご用件を話してもらえれば、その後どこに行けばいいか案内しますのでこちらへどうぞ」

 すると、ぱっと笑顔になった獣人の受付嬢はユーゴを先導して受付に向かっていく。


 受付に到着すると、彼女はカウンターの中に入りユーゴの対応をする。


「それでは改めまして、冒険者ギルドへようこそ。私は当ギルドの受付嬢のキャティナと申します。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 カウンター越しに立ったキャティナはニコっと笑顔で言う。


「俺の名前はユーゴ。今日はいくつか聞きたいことがあって来たんだよ」

 その言葉にキャティナは何度も頷く。


「どうぞお聞き下さい。全ての質問に答えられるかはわかりませんが、努力します!」

 ふんと息巻いて話を聞く姿勢に入ったキャティナは最近見習いから卒業したばかりであるため、自分の知識で答えられるかどうか内心ではドキドキしていた。


「ありがとう。それじゃあ、この周辺にいる魔物について聞きたいんだけど、魔物の種類と生息範囲がわかる資料はあるかな?」

 データをまとめるパソコンや情報を共有するようなネットワークがない世界でそのようなものがあるかわからないが、一応確認で質問する。


「ふっふっふ、私が対応して正解でしたね! 少々お待ち下さい」

 そう言うと、キャティナはカウンターの奥にある部屋へと向かって行った。


 その様子を見ていた隣の大人びた猫を思わせる獣人の受付嬢がくすくすと笑っている。


「ごめんなさいね、あの子魔物に関しての情報を聞かれたの初めてで嬉しいんですよ。今、資料をとってくると思うのでお待ち下さいな」

 隣の受付嬢はどうやらキャティナが何をしに奥の部屋に行ったかわかっているようで、彼女へと優しい笑顔を向けてから、自分の業務へと戻っていく。


「……さてさて、何が出てくるやら」

 ユーゴは肩を竦め、キャティナが戻ってくるのを待つことにする。


 数分後、キャティナが慌てて戻ってきた。


「す、すいません。お待たせしました」

 少し息を乱した様子のキャティナ。しかし、手ぶらであることにユーゴが首を傾げる。


「すいません、ちょっと資料が多いのと確認するためにこちらへどうぞ」

 キャティナはユーゴをカウンターの中へと引き入れて、そのまま奥にある部屋へと案内していく。


 その部屋は本棚がいくつもあり、中央のテーブルには資料が積まれていた。


「こちらがその資料になります。こっちが生息している魔物の一覧で、こっちがその魔物の生息域の載っている地図で、こっちはその魔物の特徴などが書かれています」

 一生懸命に伝えているキャティナが示したそれらはユーゴの希望を全て叶えるものだった。


「これはすごい! こんなに詳細なデータがあるなんて!」

 思わずそんな声を出してしまうユーゴ。


 その言葉を聞いたキャティナの毛が嬉しさから一気に逆立っていく。

 しかし、ユーゴは資料に気を取られてその反応に気づいていない。


 こみ上げてきた感情そのままにキャティナは目を大きく見開いて、目からポロポロと涙を流し始める。


「これだけの資料を集めるのは苦労しただろ……ってキャティナ、どうした!?」

「わ、わだじのぢょうざげっががはじめでほめられまじだああ!」


 顔を押さえて大きな声で泣き出すキャティナだったが、その声は部屋の外には聞こえていない。

 涙を確認したユーゴは慌てて風の結界を張って、外に声が聞こえるのを防いでいたためだった。


 キャティナは見習いから抜け出たばかりで仕事ではまだまだミスがあり、褒められることはほとんどない。

 少しでも冒険者の役にたつようにと調べた魔物の資料も誰一人として見向きもしてくれなかった。


 しかし、目の前にいるユーゴはその、誰も興味を持たなかったそれを見て、誰も言ってくれなかった言葉であるすごいと言ってくれた。

 そのことがキャティナの涙腺を崩壊させていた。


「まさかこんな反応をするとは思わなかったな……仕方ない、資料を見ながら戻るのを待つか」

 そう呟くと、ユーゴは椅子に座って資料を確認していく。


 魔物のデータには、イラストがついておりどこが弱点で、どんな属性に対して強いかなどといった細かい情報まで載っている。

 ユーゴは全ての情報を記憶するのはさすがに厳しいので、それらの情報を取り出した紙に転写していく。


 資料のほとんどを転写し終えた頃には、一時間近く経過していた。


「うぅ、ひっくひっく、あの……すみません……」

 やっと泣き止んだキャティナがユーゴに声をかけてくる。


「あぁ、落ち着いたか。よかったよ、資料のおかげでこのあたりのことがよくわかった。ありがとう」

 ユーゴはかなりの収穫を得たため、笑顔でキャティナに感謝の言葉を述べる。


「わ、わわわ、そ、そんな、お役にたったのならよかったです。このまま、ここにしまったままになるかもと思っていたので、日の目を見ることができてよかったです」

 嬉しさに頬を赤らめたキャティナは自分がちゃんと役にたてた喜びをかみしめているようだった。


「というか、この資料を必要としないやつのほうが信じられないけどな。細かい情報までまとめられてるし、これって今でもちょいちょい修正をいれてるんだろ?」

 思わぬユーゴの指摘にキャティナは目を見開く。


「そ、そこまでわかったんですか? 綺麗に直したつもりだったんですけど……」

 読み手がわからないように修正を加えたはずだったが、それを見抜かれたことに驚いている。


「あぁ、綺麗に修正してあるけど、インクの濃さがあきらかに違う部分が何か所かあるからそう思ったんだよ」

「ふわあ、す、すごいですね。まさかそんなところから見抜かれるとは思いませんでした……」

 ユーゴは何気なく指摘しただけだったが、キャティナは目を輝かせながらユーゴのことを見ていた。


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