鍛冶師×学生×大賢者~継承された記憶で、とんでもスローライフ!?~

かたなかじ

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第二十六話

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「ほら、手に取ってみてくれよ」

「え、えぇ」

 動揺を抑えながら、ユーゴが作り出した魔石を受け取るミリエル。

彼女の震える手の上でユーゴの作った魔石が輝いている。


「これ、本当に魔石なの? 私が知っているものとは違うのだけど……」

 ミリエルはその魔石に食い入るように見ながら尋ねる。


「魔力の密度を濃くして、割れないように徐々に変性させていく。そうすると魔石の特性が変化して、こうやって宝石みたくなるんだよ。――おかしいな……今はこうやって作るやつはいないのか?」

 最後の呟きはミリエルに聞こえない程度の大きさで口にする。


「そうなの……でもたぶんこれは魔石というより、魔宝石といったほうが適切ね。まさかこんなものを作れるなんて、前にも聞いたけど一体あなたは……なんていうのはいつか聞かせてもらう約束だったわね」

 今は答える時期じゃないんだろうと優しい笑みを浮かべたミリエルは察して引き下がる。


「まあ、そういうことだな。とりあえず、それはミリエルにやるよ。持っていてもいいし、売ってもいいし、いらなかったら捨ててもいい。何か別のものに加工しても構わない」

 いくらでも作れるため、ユーゴはその一つに執着はなかった。


「え!? こ、こんな値段がつけられないものをもらえないわ!」

 ぎょっとしたような表情のミリエルは慌てて魔宝石をユーゴに押しつけようとする。

「いやいや、魔石さえあればいくらでも作れるから気にしなくていいさ。大丈夫なら、それ一個でここにある空の魔石を全部譲ってくれればそれでいいよ」

 ユーゴにしてみてれば、面倒なことをスキップして魔石が手に入るほうが好都合だった。


「そんなものでいいならいいけど……本当にいいのかしら?」

 明らかに価値が見合わないと思っているミリエルにしてみれば、腑に落ちないことであった。しかし、ユーゴがいいというので、魔宝石を手に取り再度その輝きを確認していた。


「まあ、もしそれの価値が高いのなら何かの機会に返してもらえればいいさ。それより、空の魔石はここにあるので全部なのか?」

 手のひらサイズの空の魔石。数は二十を超える程度。


「えっと、奥の倉庫にまだあったと思うわ。いくつか……いえ、全部持ってくるわ」

 ポーションで稼がせてもらった分、そして今回もらった魔宝石。これらを考えると、それでも足らないくらいだったが、せめて数だけはそろえようと奥に向かう。


 しばらく待っていると、ミリエルがは抱えた籠いっぱいの魔石を持ってきた。


「よいしょっと、これで全部よ。売れ行きはあまり良くないのだけど、それでもたまに買っていく人がいるのよ」

 そう言いながら、ミリエルは籠をユーゴの前に置く。


「おぉ、これはすごいな。百個はあるんじゃないか? ありがとう、助かるよ」

 ざっくりと数えただけだったが、大量の空の魔石を見てユーゴは笑顔になっていた。


「うっ、なんかずるい……」

 ミリエルは不覚にもユーゴの笑顔を見て可愛いと思ってしまっていた。


「うん? 何が?」

「いいえ、気にしないでいいわ。それより、ポーションは全部売りに出してしまっていいのかしら?」

 ユーゴが納品した百本のポーションを思い出してミリエルが質問する。


「あぁ、いつもどおりで構わない。あのポーションで何か文句はでなかったか?」

 問題は解決できたとは言っていたが、その過程で何かおきなかったかと念のためユーゴが確認する。


「うーん、最初に大量に買っていった人たちが使ってみて効果が弱くなっているのに気づいて質問には来たけど、文句というほどではなかったわね」

 最初に買い占めようとした者がいたが、そのうちの誰かが確認に戻ってきた程度だった。


「それはよかった。難癖でもつけられたら困ると思ったけど、うまくいったみたいだ。それで、今後も同じ量の納品でいいのかな?」

 同じ量とは、つまり今日と同じ百本の納品でいいかというものだった。


「そうねえ、今日納品してもらったものの売れ行きを見てからでもいいかしら? この間の販売分で効果が落ちているのはわかったと思うから、それでどれくらい売れるかをみたいの。たくさん納品してもらって、売れ残ったら申し訳ないから」

 ミリエルの頭の中にはいつもの閑散とした店、一日に数人の来客があればいい。そんな状況を思い浮かべており、そこにずっと陳列されるユーゴのポーションという光景に申し訳なくなっていた。


「なるほど、毎回百本納品されて売れ残ったら置く場所に困るな。それじゃあ、またしばらくしたら様子を見に来るから、それ次第で納品数を変えるよ」

 在庫が余っても魔倉庫に入れておけばいいため、ユーゴは置き場所に困らないのである程度の在庫を用意しておくことが可能だった。


「そうしてくれると助かるわ。いつもありがとうね」

 今度はミリエルがいつもより柔らかい笑顔になり、内心でユーゴはドキッとしていた。


「あ、あぁ、気にしないでくれ。それよりいつまでも店を閉めておくわけにはいかないだろ? 俺も納品と買い物ができたからもういくよ」

「あらそう? でもそうね、どうやら外に何人かお客さんが来てるみたいだしそろそろ開けるわ。ユーゴは……」

 ミリエルが外の様子を見て、振り返った時には既にユーゴの姿はなかった。


「ふう、本当に不思議な人ね。恐らく隠し通路から出たとは思うけど、どうやって? 音も気配もなかったわよ?」

 ため息をつきながらユーゴが出て行ったであろう方向を見て、彼が出て行った方法を考えていた。


「――すみません、今日はお休みですか?」

 その時、外から声がかかってきたためミリエルは思考を止めて開店の準備に向かって行った。
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