26 / 38
第二十六話
しおりを挟む
「ほら、手に取ってみてくれよ」
「え、えぇ」
動揺を抑えながら、ユーゴが作り出した魔石を受け取るミリエル。
彼女の震える手の上でユーゴの作った魔石が輝いている。
「これ、本当に魔石なの? 私が知っているものとは違うのだけど……」
ミリエルはその魔石に食い入るように見ながら尋ねる。
「魔力の密度を濃くして、割れないように徐々に変性させていく。そうすると魔石の特性が変化して、こうやって宝石みたくなるんだよ。――おかしいな……今はこうやって作るやつはいないのか?」
最後の呟きはミリエルに聞こえない程度の大きさで口にする。
「そうなの……でもたぶんこれは魔石というより、魔宝石といったほうが適切ね。まさかこんなものを作れるなんて、前にも聞いたけど一体あなたは……なんていうのはいつか聞かせてもらう約束だったわね」
今は答える時期じゃないんだろうと優しい笑みを浮かべたミリエルは察して引き下がる。
「まあ、そういうことだな。とりあえず、それはミリエルにやるよ。持っていてもいいし、売ってもいいし、いらなかったら捨ててもいい。何か別のものに加工しても構わない」
いくらでも作れるため、ユーゴはその一つに執着はなかった。
「え!? こ、こんな値段がつけられないものをもらえないわ!」
ぎょっとしたような表情のミリエルは慌てて魔宝石をユーゴに押しつけようとする。
「いやいや、魔石さえあればいくらでも作れるから気にしなくていいさ。大丈夫なら、それ一個でここにある空の魔石を全部譲ってくれればそれでいいよ」
ユーゴにしてみてれば、面倒なことをスキップして魔石が手に入るほうが好都合だった。
「そんなものでいいならいいけど……本当にいいのかしら?」
明らかに価値が見合わないと思っているミリエルにしてみれば、腑に落ちないことであった。しかし、ユーゴがいいというので、魔宝石を手に取り再度その輝きを確認していた。
「まあ、もしそれの価値が高いのなら何かの機会に返してもらえればいいさ。それより、空の魔石はここにあるので全部なのか?」
手のひらサイズの空の魔石。数は二十を超える程度。
「えっと、奥の倉庫にまだあったと思うわ。いくつか……いえ、全部持ってくるわ」
ポーションで稼がせてもらった分、そして今回もらった魔宝石。これらを考えると、それでも足らないくらいだったが、せめて数だけはそろえようと奥に向かう。
しばらく待っていると、ミリエルがは抱えた籠いっぱいの魔石を持ってきた。
「よいしょっと、これで全部よ。売れ行きはあまり良くないのだけど、それでもたまに買っていく人がいるのよ」
そう言いながら、ミリエルは籠をユーゴの前に置く。
「おぉ、これはすごいな。百個はあるんじゃないか? ありがとう、助かるよ」
ざっくりと数えただけだったが、大量の空の魔石を見てユーゴは笑顔になっていた。
「うっ、なんかずるい……」
ミリエルは不覚にもユーゴの笑顔を見て可愛いと思ってしまっていた。
「うん? 何が?」
「いいえ、気にしないでいいわ。それより、ポーションは全部売りに出してしまっていいのかしら?」
ユーゴが納品した百本のポーションを思い出してミリエルが質問する。
「あぁ、いつもどおりで構わない。あのポーションで何か文句はでなかったか?」
問題は解決できたとは言っていたが、その過程で何かおきなかったかと念のためユーゴが確認する。
「うーん、最初に大量に買っていった人たちが使ってみて効果が弱くなっているのに気づいて質問には来たけど、文句というほどではなかったわね」
最初に買い占めようとした者がいたが、そのうちの誰かが確認に戻ってきた程度だった。
「それはよかった。難癖でもつけられたら困ると思ったけど、うまくいったみたいだ。それで、今後も同じ量の納品でいいのかな?」
同じ量とは、つまり今日と同じ百本の納品でいいかというものだった。
「そうねえ、今日納品してもらったものの売れ行きを見てからでもいいかしら? この間の販売分で効果が落ちているのはわかったと思うから、それでどれくらい売れるかをみたいの。たくさん納品してもらって、売れ残ったら申し訳ないから」
ミリエルの頭の中にはいつもの閑散とした店、一日に数人の来客があればいい。そんな状況を思い浮かべており、そこにずっと陳列されるユーゴのポーションという光景に申し訳なくなっていた。
「なるほど、毎回百本納品されて売れ残ったら置く場所に困るな。それじゃあ、またしばらくしたら様子を見に来るから、それ次第で納品数を変えるよ」
在庫が余っても魔倉庫に入れておけばいいため、ユーゴは置き場所に困らないのである程度の在庫を用意しておくことが可能だった。
「そうしてくれると助かるわ。いつもありがとうね」
今度はミリエルがいつもより柔らかい笑顔になり、内心でユーゴはドキッとしていた。
「あ、あぁ、気にしないでくれ。それよりいつまでも店を閉めておくわけにはいかないだろ? 俺も納品と買い物ができたからもういくよ」
「あらそう? でもそうね、どうやら外に何人かお客さんが来てるみたいだしそろそろ開けるわ。ユーゴは……」
ミリエルが外の様子を見て、振り返った時には既にユーゴの姿はなかった。
「ふう、本当に不思議な人ね。恐らく隠し通路から出たとは思うけど、どうやって? 音も気配もなかったわよ?」
ため息をつきながらユーゴが出て行ったであろう方向を見て、彼が出て行った方法を考えていた。
「――すみません、今日はお休みですか?」
その時、外から声がかかってきたためミリエルは思考を止めて開店の準備に向かって行った。
「え、えぇ」
動揺を抑えながら、ユーゴが作り出した魔石を受け取るミリエル。
彼女の震える手の上でユーゴの作った魔石が輝いている。
「これ、本当に魔石なの? 私が知っているものとは違うのだけど……」
ミリエルはその魔石に食い入るように見ながら尋ねる。
「魔力の密度を濃くして、割れないように徐々に変性させていく。そうすると魔石の特性が変化して、こうやって宝石みたくなるんだよ。――おかしいな……今はこうやって作るやつはいないのか?」
最後の呟きはミリエルに聞こえない程度の大きさで口にする。
「そうなの……でもたぶんこれは魔石というより、魔宝石といったほうが適切ね。まさかこんなものを作れるなんて、前にも聞いたけど一体あなたは……なんていうのはいつか聞かせてもらう約束だったわね」
今は答える時期じゃないんだろうと優しい笑みを浮かべたミリエルは察して引き下がる。
「まあ、そういうことだな。とりあえず、それはミリエルにやるよ。持っていてもいいし、売ってもいいし、いらなかったら捨ててもいい。何か別のものに加工しても構わない」
いくらでも作れるため、ユーゴはその一つに執着はなかった。
「え!? こ、こんな値段がつけられないものをもらえないわ!」
ぎょっとしたような表情のミリエルは慌てて魔宝石をユーゴに押しつけようとする。
「いやいや、魔石さえあればいくらでも作れるから気にしなくていいさ。大丈夫なら、それ一個でここにある空の魔石を全部譲ってくれればそれでいいよ」
ユーゴにしてみてれば、面倒なことをスキップして魔石が手に入るほうが好都合だった。
「そんなものでいいならいいけど……本当にいいのかしら?」
明らかに価値が見合わないと思っているミリエルにしてみれば、腑に落ちないことであった。しかし、ユーゴがいいというので、魔宝石を手に取り再度その輝きを確認していた。
「まあ、もしそれの価値が高いのなら何かの機会に返してもらえればいいさ。それより、空の魔石はここにあるので全部なのか?」
手のひらサイズの空の魔石。数は二十を超える程度。
「えっと、奥の倉庫にまだあったと思うわ。いくつか……いえ、全部持ってくるわ」
ポーションで稼がせてもらった分、そして今回もらった魔宝石。これらを考えると、それでも足らないくらいだったが、せめて数だけはそろえようと奥に向かう。
しばらく待っていると、ミリエルがは抱えた籠いっぱいの魔石を持ってきた。
「よいしょっと、これで全部よ。売れ行きはあまり良くないのだけど、それでもたまに買っていく人がいるのよ」
そう言いながら、ミリエルは籠をユーゴの前に置く。
「おぉ、これはすごいな。百個はあるんじゃないか? ありがとう、助かるよ」
ざっくりと数えただけだったが、大量の空の魔石を見てユーゴは笑顔になっていた。
「うっ、なんかずるい……」
ミリエルは不覚にもユーゴの笑顔を見て可愛いと思ってしまっていた。
「うん? 何が?」
「いいえ、気にしないでいいわ。それより、ポーションは全部売りに出してしまっていいのかしら?」
ユーゴが納品した百本のポーションを思い出してミリエルが質問する。
「あぁ、いつもどおりで構わない。あのポーションで何か文句はでなかったか?」
問題は解決できたとは言っていたが、その過程で何かおきなかったかと念のためユーゴが確認する。
「うーん、最初に大量に買っていった人たちが使ってみて効果が弱くなっているのに気づいて質問には来たけど、文句というほどではなかったわね」
最初に買い占めようとした者がいたが、そのうちの誰かが確認に戻ってきた程度だった。
「それはよかった。難癖でもつけられたら困ると思ったけど、うまくいったみたいだ。それで、今後も同じ量の納品でいいのかな?」
同じ量とは、つまり今日と同じ百本の納品でいいかというものだった。
「そうねえ、今日納品してもらったものの売れ行きを見てからでもいいかしら? この間の販売分で効果が落ちているのはわかったと思うから、それでどれくらい売れるかをみたいの。たくさん納品してもらって、売れ残ったら申し訳ないから」
ミリエルの頭の中にはいつもの閑散とした店、一日に数人の来客があればいい。そんな状況を思い浮かべており、そこにずっと陳列されるユーゴのポーションという光景に申し訳なくなっていた。
「なるほど、毎回百本納品されて売れ残ったら置く場所に困るな。それじゃあ、またしばらくしたら様子を見に来るから、それ次第で納品数を変えるよ」
在庫が余っても魔倉庫に入れておけばいいため、ユーゴは置き場所に困らないのである程度の在庫を用意しておくことが可能だった。
「そうしてくれると助かるわ。いつもありがとうね」
今度はミリエルがいつもより柔らかい笑顔になり、内心でユーゴはドキッとしていた。
「あ、あぁ、気にしないでくれ。それよりいつまでも店を閉めておくわけにはいかないだろ? 俺も納品と買い物ができたからもういくよ」
「あらそう? でもそうね、どうやら外に何人かお客さんが来てるみたいだしそろそろ開けるわ。ユーゴは……」
ミリエルが外の様子を見て、振り返った時には既にユーゴの姿はなかった。
「ふう、本当に不思議な人ね。恐らく隠し通路から出たとは思うけど、どうやって? 音も気配もなかったわよ?」
ため息をつきながらユーゴが出て行ったであろう方向を見て、彼が出て行った方法を考えていた。
「――すみません、今日はお休みですか?」
その時、外から声がかかってきたためミリエルは思考を止めて開店の準備に向かって行った。
1
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』
宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる