世界に一人だけの白紙の魔眼 ~全てを映す最強の眼~

かたなかじ

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第二十二話

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 バンズゥはアレクシスの攻撃をさばくため、拳を構えている。


 ──身体強化の魔眼起動──


 一方でアレクシスは開始の合図とほぼ同時に魔眼を起動させていた。

 学院に入ったばかりの学生が魔眼を十全に使えるとは誰も思っていない。

そして、アレクシスが例外であることも誰も知らない。


「たあっ!」

 強化された肉体でアレクシスは床を思い切り蹴る。

 強化されているはずの床だったが、アレクシスの足の形にへこみができている。


 しかし、誰もそこには注目していなかった──。


「んなっ!?」

 それはアレクシスが一瞬のうちにバンズゥとの距離を詰めて、攻撃態勢に入っていたからだ。

 距離があったはずなのに今は目の前にアレクシスがいる事実に、バンズゥは驚きから変な声を出してしまう。


「せいっ!」

 驚き固まるバンズゥに気づいていたが、かけ声とともに繰り出されるアレクシスの拳。


「まずいっ!」

 あまりに速い展開にバンズゥにはアレクシスの攻撃がまるでスローモーションのように映っている。

 それと同時に、彼は魔物と戦ってきたこれまでの記憶が走馬灯のように一気によみがえってきていた。


 初めて倒した魔物、仲間と共に戦った魔物、村を壊滅させようとしていた魔物、初心者冒険者を襲っていた魔物、Aランク指定の魔物をソロで倒したこと……。

 今までの辛く、厳しく、そして楽しかった思い出は次々に浮かんでは消える。


「げふぅ!」

 それらの記憶が泡がはじけるように、パチンと消えた瞬間、バンズゥは腹部に強烈な痛みを感じて、そのまま後方へと吹き飛ばれた。

 そして、床に這いつくばったまま気絶してしまう。


「……」

「……」

「……」

 全員がこの結果を見てポカーンとしている。


「はっ! だ、誰か治療を! バンズゥの治療をしてくれ!」

 いち早く正気を取り戻したギルドマスターが気絶しているバンズゥがピクピク動いていることに気づいて、慌てて治療を指示していく。


 回復の力を持つ水系統の魔眼所持者がバンズゥのもとへと駆け寄って治療を開始する。


「……えっと、ちょ、ちょっとやりすぎましたかね?」

 アレクシスの言葉を聞いて、ちょっと? と全員が怪訝な表情になる。


「えっと、でも、その、なんにせよ、バンズゥさんを倒したので、冒険者登録してもいいってこと、ですよね?」

 バンズゥを倒した事実が目の前にあるため、アレクシスは恐る恐るギルドマスターに確認をする。

 やりすぎたため、許可できないなどと言われないかとアレクシスは不安を覚えている。


「う、うむ。合格条件はバンズゥに一撃をいれるというもので、確かにそれを達成したわけだから許可しないくわけにはいくまい……」

 ギルドマスターも未だ動揺が残っていたが、それでも今回の力試しの結果に対する裁定を下す必要があるため努めて冷静に判断していく。


「ミスナ、あれだ、冒険者登録してやってくれ」

 ギルドマスターはミスナに指示を出すと、自身はバンズゥのもとへと近づいていく。吹き飛ばされた彼の状態を気にしていた。


「わ、わかりました。そ、それではこちらへどうぞ」

 ハッと我に返ったミスナは動揺しながらも、アレクシスの冒険者登録を行っていく。


「えっと、これが学生証になります」

 まずは、アレクシスが学院の学生証を提示しそれをミスナが確認する。


「はい、ありがとうございます。それでは冒険者ギルドについての説明をしますね」

 ここからミスナによる冒険者ギルドの説明が始まる。


 一般的には最高ランクがSであり、一番下がFランクとなる。

 登録したての冒険者は総じてFランクから始まることとなり、一定の成果をあげることでランクが上がる。

 掲示板に依頼の用紙が貼ってあり、それを剥がして受付に持っていくことで依頼を受けられる。


 などなどの基本的な説明をしてくれる。


 アレクシスはそれらの話を冒険者だった両親から聞いていたが、改めて復習するためにミスナの説明に耳を傾けていた。


「説明は以上となります。何かご質問はありますか?」

 通常業務をこなしているうちにミスナは冷静さを取り戻して、アレクシスに質問がないかを確認する。


「えっと、とりあえず大丈夫です。また何かあったら質問させて下さい!」

 アレクシスは教えてもらったことを思い出しながら、頷いて返す。


「はい、いつでもいらして下さい。それでは、最後にカードの作成をして完了となります。こちらの針で指をあてて、出た血をカードに垂らして下さい」

 ミスナの指示に従って、カードに血が一滴垂れると一瞬だけボヤッと光を放ちすぐに収まる。


「これで登録完了です。登録完了おめでとうございます。様々な依頼を受け、良き冒険者生活を送れることを願っております!」

 これは誰にでも言う決まった言葉だったが、ミスナは心からこの言葉をアレクシスに送っていた。


「ありがとうございます! それじゃ、早速依頼掲示板を見てきますね!」

 アレクシスは、早く依頼を見にいきたかったため、ミスナに礼を言うと走って掲示板まで移動していた。


 子どもであるため、一番上に貼られている依頼を確認するには少し背が足りず、仕方なく真ん中から下に貼られている依頼を確認する。


「うん、まずはこのあたりかな」

 しばらく眺めていたアレクシスだったが、一つ頷くと何も取らずに受付へと戻って行く。


「はい、決まりましたか? ……あれ、依頼は受けないのですか?」

 先ほど依頼の受け方を説明したにも関わらず、依頼用紙をとってこないことにミスナが疑問を持つ。


「いえ、受けようと思います。あの、恒常依頼の薬草採集を受けようと思って……」

 新人冒険者に推奨する、基本的な依頼。

 それゆえに依頼用紙を剥がすことなく直接依頼の受諾を申し出るシステムになっている。


 しかし、それを実際に受けようとする新人冒険者はほとんどおらず、今では中級冒険者が暇つぶしの小遣い稼ぎに受ける程度だった。


「ほ、本当ですか? 先ほどのアレクシスさんの力を見る限りではもっと難しい依頼も受けられると思いますが……」

 ミスナの言葉も最もだったが、ふっと柔らかく微笑んだアレクシスは首を横に振る。


「いいんです。僕はまだ冒険者登録したばかりです。だから、まずは手堅く基本的な依頼を受けて一歩一歩コツコツと進みたいんです」

 素直で、そして謙虚なアレクシスの言葉は、周囲の冒険者たちの胸にグサグサと突き刺さっていた。


 冒険者になれたことで高揚しているためか、ほとんどの冒険者が最初から背伸びした依頼を受けて失敗している。

 成功しても武器が壊れたり、怪我をしたり、採ってくる素材に傷がついていたりと散々な目にあっていた。

 そんなことを思い出しているところに、アレクシスの堅実な言葉は太陽のように彼らの過去の傷を照らしていた。


「なるほど、それはとても良い心がけだと思います。みなさん、最初の頃から魔物討伐などの難しい依頼を受けて失敗しているのですよねえ」

 さらに困ったように笑ったミスナが悪気のない言葉で彼らの傷口に塩を塗るかのごとく追い打ちをかける。


「僕はそこまで自信を持てないので、薬草集めから頑張ります。はい、カードです」

「ありがとうございます。うふふっ、先ほどの説明をちゃんと覚えてらっしゃいますね。それでは手続きをして……はい、完了です」

 依頼を受ける際には最初にカードを提出する。依頼の報告の時も、買い取り依頼の時もまずはカードを提出する。その説明を覚えてくれていたことにミスナは微笑み、カードを返却する。


「一束五枚で依頼完了は五束から、買い取りは一束から行っていますので、よろしくお願いします。それでは、初依頼お気をつけて」

「はい!」

 笑顔のミスナの言葉を受けて、アレクシスは元気よく返事をすると意気揚々と出発していった。


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