暑い秋の文化祭

あやねあやみ

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放課後の部活動

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春に高校に入学してから、瞬く間に月日が過ぎた。入学式に満開だった桜の花は散り、うだるような暑さのなかで体育祭は順風満帆につつがなく終わり、読書の秋、食欲の秋、スポーツの秋、などという言葉で何でもかんでも正当化される秋になった。暑くもない寒くもない穏やかで過ごしやすい秋。秋が嫌いだという日本人は比較的少ないのではないか。あくまで自論だ。異論もあるだろうがそこは抑えてくれ。
まあ今年の秋は少し湿度が高いようで、不快な汗をかいてしまうくらいには暑いのだが。
そんな夏に近いような秋という微妙な季節に差し掛かった頃、校内は文化祭の話題で持ちきりとなっていた。我が校は進学校であるが、文化祭にはそれなりに力が入っている。生徒達の熱の入り方を見ても、この高校の文化祭が大きな行事だと言う事は一年生の俺にも痛いほど分かる。かく言う俺も文化祭を楽しみにしている一生徒だ。
俺が所属している茶道部でも、「何を展示するか」、「何を売るか」、「お抹茶をたてて和菓子を出して・・・」などの意見が出ている。茶道部なら着物を着てお抹茶と和菓子を振る舞うのがベターというか世の理のようなものだろう。俺もそれでいいと思っていたので特に反論などはしなかった。もちろん文化祭が楽しみではないという理由ではない。異論を唱える程の理由が無かったというのが理由だ。理由が無いのが理由というのも変な話のようだが、実際にそうなので仕方が無い。ちなみに、文化祭で何をやりたいか、の意見をあれこれと出し合ったのは、部員の白井向日葵と夏川海だ。その意見を俺が、部室のホワイトボードに書き出していく。白井向日葵と夏川海、二人とも部長の俺と同じ一年生で、俺と同じくらい文化祭を楽しみにしている。いや、俺と同じくらいだと語弊があるか。唯一の女子部員の白井向日葵は、部の中で浮くほどに文化祭を楽しみにしている。唯一の女子部員と言っても、部員は、部長である俺、佐倉葵と、ムードメーカー的存在の夏川海と、紅一点の白井向日葵の三名だ。よく三人で部活動が成り立っているなぁ、と関心せざるを得ないが、それも白井の人望と立ち回りの上手さ故にだろう。
白井と海の意見をまとめて、というかまとまった意見をただホワイトボードに書きとめた。「文化祭・・・お茶と和菓子を振る舞う(値段は経費によって決める)」と。そこで文化祭の話し合いは終わるはずだった。
「文化祭ではお茶と和菓子を出すってことで。異論のある人は挙手して発言をどうぞ。」
一応部長らしく、司会進行をしてみたりする。
すると我が部のムードメーカーが挙手をしたので、発言を促した。
「僕はね、厚紙を丸く切り抜いて、親指を入れて扇ぐうちわなんかも別売りで売ったらどうかな、と思うんだよ。そしたらうちわの売上の分、お茶代を安く出来る」
厚紙には茶道部の宣伝を書いたら、もっとお客さんがくるんじゃないかな?と、海は付け加えて発言した。
「厚紙に茶道部の名前をコピーして丸く切り取って、親指を入れる穴を開けるだけだよ。うちわって言う程の物でもない。」
いまいちイメージが出来ていない白井が小首を傾げたので、海は身振り手振りで簡易うちわの説明をする。
「そうね、宣伝としては良いかも」
白井は賛成の意を示した。
「さすが向日葵ちゃん。で、葵はどう思う?」
海は俺の方に顔を向け、人差し指を俺に向ける。
「宣伝効果を狙うのは良い考えだな。でも、今のご時世だ、うちわなんて百円出せば良いのが買える。厚紙を切り抜いただけのうちわもどきに、金を出す客はそう多くはないぞ」
案を出さなかったくせに人の意見には難癖を付ける、そう言うわけではないのだが、思った事を率直に言ってみた。
「うーん、確かに葵の言う通りだね。」
「うちわがなくても、扇風機やエアコンがあるものね」
海も白井も、俺の意見に同意した。
「でも宣伝効果を狙うのは大切よね」
白井は同意したものの食い下がる。
「うちわ一つ、十円で売るのはどう?」
うちわの値段を下げて宣伝効果の方を狙おうという考えだろう。十円なら、デザインが良ければ買ってくれる客も居るだろう。なにせ、今年の秋は前述したように暑いのだ。
「いいね、向日葵ちゃん。うちわのデザインなら、僕が美術部の友達に頼んでみるよ」
「夏川くん、よろしくね」
「デザインを海の友達に頼むなら、デザイン料金もかからないし、厚紙の料金だけで事足りそうだな。ただ、厚紙を切るのは手作業になる。忙しくなるが構わないな?」
話がまとまってきた。最後に文化祭にむけて何をすべきかをホワイトボードに書き出していった。
海が美術部の友達に茶道部のうちわのデザインを頼み、印刷所に厚紙へのコピーを委託し、俺と白井と海で厚紙を切り抜く、という手順だ。これには何の意見、反論も出ずに、茶道部の話し合いは終わった。
念のためホワイトボードのメモは消さずに残しておき、今日の部活動は終了ということになった。
今日決まったのは、文化祭では茶道部はお茶と和菓子を数百円(和菓子の料金にもよるが、三百円ぐらい)で振る舞い、茶道部の販売促進うちわを一つ十円で売る、ということだ。俺は対して意見を出したわけでは無いが、なかなか悪くないと思う。十円ならうちわも完売するだろう。常識的な数なら売れ残りはしないだろう。うん、上手くいきそうな気がする。そう思った所で、俺は海と一緒に下校した。この時は上手くいくと思ったんだ。思っていたのだ。
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