白き魔女と黄金の林檎

みみぞう

文字の大きさ
17 / 197
第二章 不死の魔女

第14話 疑惑の後輩

しおりを挟む
 ── 他者の命を、喰らう魔女。
 アルヴィンはそう小さく呟いて、天井を見上げた。
 剣呑な現場検証を終えた後、リベリオは用があると言い残して立ち去り、アルヴィンは自室へと戻っていた。 

 教会から与えられた彼の部屋は、実に質素なものだ。
 家具と言えば、書き物机とベッドくらいだ。
 だがそれで、不便があるわけではない。そもそも、大した荷物などないのだ。
 手荷物と言えば、最低限の着替えと日用品。聖書、それに銃と手入れ道具ぐらいか。少し大きめの旅行鞄があれば、事足りる。

 アルヴィンは、日中に露天商から買い求めた新聞を開いた。

 ”── 凶風の魔女、ついに駆逐される”
 ”── 明晩、公会堂で仮面舞踏会を開催”
 ”── 5月の聖都に時季外れの雪”

 読んだところで、不死の魔女に繋がる情報が見つかるわけでもないが── 
 と、新聞から、何かがひらりと舞い落ちた。
 足元に手を伸ばして拾い上げ、しげしげと見る。
 葉書ほどの大きさの、紙だった。何も書かれていない、ただの紙である。

「これは── 」

 そこに、扉をノックする音が被さった。
 ドアを開けると、立っていたのは双子だ。

「立ち話もなんだから、入ってもいいかしら?」

 いいかしら? と尋ねる割には、返事を待たずに、二人はずかずかと入室してくる。
 どうやらアルヴィンに拒否権はないらしい。

「それは何ですの?」

 彼が手にした紙切れを目を留めて、エルシアは怪訝そうに尋ねる。

「新聞に入っていたんですよ。大方、印刷屋が入れ間違えたんでしょう」

 手で丸めると、ゴミ箱に放り込んだ。

「……それで、ご用件は?」

 双子はベッドに腰掛け、アルヴィンは書き物机の椅子に座った。
 口を開いたのは、アリシアだ。

「あなたに、忠告しておこうと思って」
「……忠告、ですか?」
「そうよ。あの男には気をつけなさい」

 アリシアが苦々しげに言うあの男、とはリベリオ以外には考えられない。
 アルヴィンは一触即発となった、昼間の騒動を思い出した。
 見習いの部屋を盗み聞きをしようとする物好きなどいないだろうが……彼女は、声を潜める。 

「白の祭服に、薄気味の悪い仮面。あいつは、枢機卿会直属の審問官よ」

 枢機卿会とは、七人の枢機卿で構成される、教皇の顧問団だ。
 教皇ミスル・ミレイが魔女から眠りの呪いを受け、公の場から姿を消して久しい。
 そのため枢機卿会は、実質的な教会の最高指導部となっていた。
 リベリオは、その直属の審問官だと言うのだ。

「彼らの任務は、表向きは地方の審問官が手に負えない、魔女の駆逐なのです」
「でも、実態は大きく異なる。── あいつらは、処刑人よ」

 アリシアの声には、不吉極まりない響きがあった。 
 顔を近づけ、アルヴィンの耳元で囁く。

「確証はないけど、連中は枢機卿会の意にそぐわない審問官を、合法非合法を問わずに粛正するのが任務だと噂されているわ」
「審問官を狩る審問官、というわけですか……」

 アルヴィンは、妙に心がざわつくのを感じた。
 一ヶ月前のあの夜、ウルバノを粛正し、彼女と取引をした。
 リベリオは真相を知っていて、自分を粛正するためにこの街に来たのではないか── 
 そんな疑念が、わき上がってくる。

「アルヴィン、顔色が悪いですわよ?」
「……いえ、大丈夫です。なんでもありません」

 心配そうに見つめるエルシアに、アルヴィンは冷静を装って答えた。 
 双子の忠告の通り、リベリオには警戒したほうがいいのかもしれない。
 叩けばホコリなど、いくらでも出てくる身なのだ。
 自分が清廉潔白だとは、口が裂けても言えない。
 アルヴィンの声は、緊張を帯びた。

「……では審問官リベリオには、隠した目的があるかもしれない、ということですね?」
「そうよ。不死の魔女の駆逐なんて、ただの口実で、あいつには真の狙いが別にあるかもしれない。── あなたも、気をつけなさい」



 双子が部屋を辞したあと、アルヴィンは足早にゴミ箱へ向かった。
 急ぎ、始末しておかなければならない物があった。
 来室があった時、投げ入れた紙を取り出す。
 それは印刷屋が入れ間違えた、何の変哲も無い紙だ。

 ── いや、そうではない。

 エルシアは妙に勘の鋭いところがある。彼女に、気取られなかったのは幸いだった。
 書き物机の引き出しからマッチ箱を取り出すと、アルヴィンは紙に火をつけた。
 瞬く間に燃え上がり── ゆらめく炎の中に、文字が浮かび上がった。

  ”今夜二十四時、プリムローズ・パークで”

 数秒で燃え尽きると、文字はかき消えた。
 秘密を知る者にしか読めない、魔女の連絡手段だ。  
 そして、こんな物をよこす相手は、一人しかいない。
 アルヴィンは、小さくため息をつく。
 昼間、リベリオと双子の相手で、散々神経をすり減らしたのだ。
 だが彼女は、休むことを許してはくれないらしい。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...