白き魔女と黄金の林檎

みみぞう

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第二章 不死の魔女

第16話 スーキキョーの手下

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 不死の魔法と、不死の呪い。
 同じ不死であったとしても、両者には決定的な差異がある。
 代償が生ずるか、否か。
 そして自身の意思によるか、他者の悪意によるものなのか、だ。
 もしクリスティーの言う通り後者であったのなら……この事件は全く様相を異にすることになる── 

 教会への帰途、夜道を急ぎながらアルヴィンは思索した。
 はたと立ち止まったのは、路地から大通りに出た時だ。

 街路沿いに等間隔に設置された、ガス灯の灯り。
 それがぶつりと、不自然に途切れていた。
 視線の先にある闇に覆われた空間は、異様な空気で満たされている。
 街灯がまるでマッチ棒のように折れ、尋常ではない力が作用したのだろう、石畳が波打ったように乱れていた。
 そして道路の中央を、横転した馬車が塞いでいる。 

 暗がりに一歩踏み出した途端、頭の裏側が、チリチリと焼けるような独特な感覚に襲われる。
 魔法の痕跡を、人はそう感じ取る。
 周囲を満たしたそれは、もはや頭痛に近い、強烈なものだ。
 つい先刻、ここで魔法が使われたのか。
 もしくは── まだ、魔女が近くにいるのか。 
 アルヴィンは神経を研ぎ澄ますと、馬車に走った。

「誰か、いるか!?」

 怪我人を探す。
 だが── 御者台にも客車にも、人の気配はない。
 否、御者と客、双方の姿があった。
 いずれも精気を吸い取られたように、ミイラ化していたが……

「最悪だ……!」

 アルヴィンは心の中で悪態をついた。 
 危険信号が、煌々と灯った。 

 ── よりにもよって、こんな時に不死の魔女に遭遇するとは!

 その時だ。
 馬車の影から、ふらりと歩み出た人影があった。
 ハンチング帽を目深にかぶった、赤毛の少女だった。
 髪は長髪で、ライトベージュのトレンチコートを着ている。
 まだ、若い。
 おそらく、アルヴィンより少し年下か。
 ── そして、魔法の痕跡は、彼女から濃厚に発せられていた。

「動くなっ!」

 咄嗟に拳銃を抜くと、アルヴィンは警告の声を発した。
 距離は、三メートルもない。
 審問官見習いに、実弾は支給されない。 
 だが模擬弾とは言え、当たりどころ次第では重傷を負わせることができる間合いだ。
 アルヴィンには、たとえ魔女が仕掛けてきたとしても、狙いを外さない絶対の自信がある。
 少女の反応は── だが予想を、完全に超えるものだった。

「撃たないでっ! 死にたくないっ!!」

 頭を抱えると、その場にへたり込んだのだ。
 恐慌をきたして、肩を細かく震わせている。
 魔女らしからぬ、見苦しい反応だ。

「君は不死の魔女か!?」

 アルヴィンは拳銃を下ろさず、鋭く詰問する。
 あっけに取られつつも、警戒は解かない。

「ま、魔女っ!? わたしはメアリーよっ! ただのメアリーよ! 魔女なんかじゃないわ!」

 そう叫ぶと、メアリーは地面に視線を落として嗚咽し始めた。
 ぽろぽろと、地面に落涙する。
 アルヴィンは困惑した。
 泣きぬれる少女に拳銃を突きつける……これではまるで、自分の方が悪人ではないか。
 これまで彼が相対してきた魔女たちは、不敵で、ずる賢く、そして冷酷だった。 
 こんな臆病で、みっともない魔女は、見たことがない。

 周囲に遺された、濃厚な魔法の痕跡の影響で誤認したのか── 
 彼女の顔には、魔女特有の邪気のようなものが一切感じられない。
 素人然とした反応からして……事件に巻き込まれた不憫な被害者、なのだろう。
 神経質になりすぎていたかもしれない。 
 アルヴィンはため息をつくと、拳銃を収めた。

「驚かせてすまなかった。勘違いをしていたようだ」

 メアリーに頭を下げ、詫びる。

「ここは危険だ。すぐに安全な所へ避難しよう」

 少女に近づき、手を差し伸べる。
 メアリーが、顔を上げる。
 その目は── ぞっとするような、冷たいものだ。

 ── 魔女、だ。

「しまっ── !!」

 咄嗟に、アルヴィンは後方に跳躍した。
 だが、何もかもが遅すぎた。
 次の瞬間に少女の手は、彼の首を捉えていた。
 右手一本で首を締め上げると、いとも容易く、彼を持ち上げたのだ。
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