白き魔女と黄金の林檎

みみぞう

文字の大きさ
57 / 197
第四章 原初の魔女

第41話 聖都からの使者 1

しおりを挟む
 冷たい雨が外套を打ち、水滴が頬を伝う。
 四人の前に、真夜中の墓地に全く不釣り合いな、豪奢な馬車が停車した。
 黒い客車には、彫刻と金の装飾がふんだんに施されている。扉には、盾の中に緋色の帽子とタッセルを描いた──枢機卿の、紋章が描かれていた。 

 アルヴィンは、空気が張りつめるのを感じた。 
 迎えが来たことも驚きだが、その人物が何者あるにせよ、枢機卿の息がかかっていることは間違いない。
 処刑人を擁し、裏で陰謀の糸を引く枢機卿たち。 
 これが罠である可能性は、否定できない。

「──乗りたまえ」 
 
 客室の扉が開け放たれ、尊大な響きを帯びた声が発せられた。車内は暗く、姿は見えない。
 進むべきか、それとも留まるべきか……アルヴィンは、躊躇する。

「行きましょう」

 その背中を押したのは、エルシアである。
 
「罠だったとしても、あたしたちなら大丈夫。返り討ちにしてやるだけよ」

 アリシアが不敵な笑みを浮かべる。
 頷くと、アルヴィンは客車のステップに足を乗せた。
 目の前にぽっかりと開いた黒い口の中へと、四人は乗り込んだ。



 
 車内は薄暗い。
 暗がりの中、アルヴィンは目を凝らした。
 外装だけでなく、内装も華美なようだ。目が慣れると、金糸で細やかな刺繍が施された、赤い絨毯が見えた。車内は、ゆうに八人ほどが座れる広さがある。
 
 そして客席の真ん中に、でっぷりとした肥満体の男が鎮座していた。黒の祭服に緋色の帯を締めている。胸元には、青銅の蛇が巻きついた銀の十字架が揺れていた。
 年齢は、二十代の半ばあたりだろうか。いや、もう少し若い……案外、双子よりも少し年上くらいかもしれない。
 そして使いにしては、随分態度が大きい。 

「……あなたは?」

 対面に座り、アルヴィンは油断なく男を見据えた。

「俺は、枢機卿ウルベルトだ」
「!!」

 枢機卿──その返答は、全く予想だにしないものだった。
 遠くで稲光が瞬いた。その刹那、双子が電光石火のごとく動いた。一瞬の間を置いて雷鳴が窓を震わせた時、既に男は身動きを封じられている。
 アリシアが短剣を喉元に、エルシアが拳銃をこめかみに突きつけたのだ。
 男は狼狽し、口許を引きつらせた。

「まっ、待て! 待て! 初対面の相手に武器を向けるなど、お前達はどんな教育を受けておるのだ!?」

 その抗議は、もっとも至極である。
 だがアルヴィンらは、寸分の警戒も解かない。
 遠く離れた聖都にいるはずの枢機卿が、アルビオの──しかも深夜の墓地に、なぜいるのか。

「あなたは何者ですか」
「人の話を聞いていなかったのかっ!? お前達の上役の、さらに上役の上役の、枢機卿ウルベルトだ!」
「噓おっしゃい! こんな若い枢機卿がいるわけないでしょう」

 双子とて、十分に若すぎる審問官ではある。だが、冷え切った声で指摘すると、アリシアは喉元に突きつけた刃を数ミリ食い込ませた。ひっ、と男が悲鳴を上げる。

「し、信用のおける者がおらんのだ! だから俺自ら出向いた。ベラナから、何も聞いておらんのかっ!?」
「聞いてはいますが……」

 最後に会った時、ベラナは手を打ったと話した。枢機卿の中には、悪癖に染まらない気概のある男がいる、とも。

 ──それが、この男なのか。

 アルヴィンは困惑を隠しきれない。想像していた人物像との乖離が酷すぎる。
 脂ぎった欲深そうな目、そして指先にはエメラルドとサファイアの指輪が光る。
 聖職者というよりは、強欲な商人といった印象である。
 だが、ベラナとの密約を知り、ここに現れたということは──この男が、そうなのか。

「とにかく、剣を、引けっ」

 ウルベルトが、唾を飛ばしながら叫ぶ。
 アルヴィンは、双子に目配せをした。不承不承、といった様子で二人は剣と銃を引く。
 ただし、信用したわけではない。
 首元を撫でながら、ブツブツと文句をこぼす男に問いかける。

「──あなたが枢機卿だとして、敵ではない保証は?」
「敵か味方かくらい、審問官なら見極めろ。相手に尋ねるのは、愚の骨頂だ」
「じゃあ敵ね」
「待て待て!」

    アリシアが黒豹のように目を光らせたのを見て、男は腰を浮かせた。

「お、俺は敵ではない!」
「信用できないわね」
「娘は、必ず聖都に送り届けてやる!」

    ウルベルトは打算と野心で膨らんだ腹を揺らした。そしてメアリーを指差して、こう叫んだのだ。

「この娘こそが、わが家の宿願を叶える鍵なのだからな!」


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...