白き魔女と黄金の林檎

みみぞう

文字の大きさ
133 / 197
第七章 災厲の魔女

第48話 黒い導き

しおりを挟む
 後輩というよりは、弟の方が近い。
 事実彼は、二人を姉のように慕っていたように思う。

 それはそうだ。学院時代は随分世話を焼いたし、勉強も教えた。
 慕って当然である。

 そんな弟分が──何の相談もなく聖都への転任を決めた時、ひどく驚かされた。
 何か事情があることは、薄々察していた。
 だから三年前、不死の魔女と対峙した仮面舞踏会で、わたしたちを頼れと、そう伝えたのだ。

 ──それなのに、何も、分かっていない。

 あの、世界の悩みをひとりで背負い込んだような、辛気くさい顔を思い出すと、フツフツと怒りが沸いてくる。
 どうせ「お二人を巻き込むことはできませんから」とか、下らない気遣いでもしているのだろう。

 勘違いは、正さなくてはならない。
 強くて可憐で、優しい姉代わりがいることを、思い出させてやるのだ。 
 そしてついでに、魔女から押し付けられた難題を手伝わさせよう。

 双子は、心に強く誓う。
 その為には、一刻も早くアルヴィンを見つけ出さなくてはならない。 

 正門での騒動の後、三人の姿は市場にあった。 
 そこは外の張りつめた空気とは裏腹に、それなりの人手と商品で賑わっている。
 聖都は広大で、人口も多い。
 手がかりなく探しても、時間を浪費するだけだろう。

 教会の手を借りず、アルヴィンと合流したいところだが──
 アリシアは、隣で物珍しそうに露天を見やる、赤毛の少女を見やった。

「ねえ、メアリー。魔法でアルヴィンの居場所を探せないかしら?」
「無理です!」

 自信満々に、且つ即答、である。

「わたし、銷失《しょうしつ》の魔法しか使えないですし! あっ! 今、あからさまにガッカリした顔をしましたね!?」
「そりゃあ……アルヴィンを捜す手間を考えたら、ガッカリくらいするわよ」

 肩をすくめるアリシアに、メアリーは、珍しく神妙な顔つきになる。

「魔法って、そんな便利なものじゃないのです。わたしは魔力が弱いので、他にも制約があるんです」
「制約……って、魔女が月夜でしか魔法を使えないような、かしら?」
「そうです! えーっと。魔法は、魔女の血と月の力によって行使される……だったっけ。それに加えて、わたしは手で触れた相手の魔法しか打ち消せないんです!」
「手で触れた、ね……」

 メアリーの力に制約があったとしても、驚きはない。
 だがアリシアは、呟きの途中で何かに引っかかる。
 廃教会で、魔女の当主たちと決裂した時、メアリーは氷の魔女グラキエスに触れ、彼女らを一喝したが──

「ちょっと待って! じゃああの時、魔法を封じられていたのは、グラキエスだけだった?」
「そうですけど」
「他の魔女は、魔法を使えた? あたかも全員の魔法を封じました、あなたたちの負けですから、みたいな口ぶりだったわよね?」
「ハッタリです!」
「はっ!?」

 胸を張って、どや顔で答えるメアリーに、アリシアは喫驚する。

「おばさまも、人生の困難の八割は、ハッタリでどうにかなると言っていました!」
「また、おばさま……」

 隣に立つエルシアも、二の句を継げない。
 猛然と、アリシアはメアリーの胸ぐらを掴んだ。

「正気なのっ!? あそこにいたのはね! 魔道の頂点に立つ、魔女の中の魔女たちなのよ!」 

 上下に激しく揺さぶられながら、メアリーは頭をガクガクとさせる。

「でも、上手く行きましたし♪」

 どこまでも危機感の薄い声が返されて、アリシアは手を離した。 
 怖いもの知らず、という意味では双子と同じなのだろうが……次元が違う。 
 頭が痛い。
 これ以上深く考えるのはよそう。

「……とにかく! アルヴィンを探すわよ!」

 一刻も早くアルヴィンと合流して、爆弾娘の世話を押しつけたい。
 魔法があてにならないのなら、地道に探す他ないが……さて、どうしたものか。

「アリシア、ちょっと」

 エルシアの耳打ちで、思索は中断された。
 目配せに気づき、さりげなく周囲の気配を探る。
 市場の様子は、日常と何ら変わらないように見える。

 だが注意を凝らせば……人混みに紛れて、審問官の姿が目につく。
 その中には、見知った顔もあった。

「……どうやら、わたしたち以外にも、大陸中から審問官が集められているみたいですわ」
「何の目的で、かしら?」

 言って、アリシアは眉をひそめる。

 閉鎖された聖都の門、多数の火砲、そして審問官。
 平穏に感じられる聖都の水面下で、深刻な事態が進展している──そのことに、今更驚きはない。
 双子は周囲に気取られぬよう、視線と小声でやりとりする。

 そしてメアリーは、欠伸をかみ殺した。
 退屈、である。

 シンモンカンがどうのこうの、チンプンカンプンだ。
 小難しい話は苦手である。
 それよりも、絹織物や磁器の並べられた露天に興味が引かれ、歩き出す。

 キョロキョロと見回して、目が合った。
 商人でも、審問官とでもない。 
 黒い、仔猫とだ。

「カワイイ!」

 メアリーは思わず目を輝かせた。
 青果を扱う露店の前で、仔猫が青い瞳を向けていた。
 親猫の姿はない。

 飼い猫、というわけでもなさそうだ。
 ……はぐれたのだろうか?

「おいで!」

 手招きをすると、仔猫は身を翻した。サッと、路地裏へ隠れてしまう。

「猫ちゃん!」  

 メアリーは駆け出し、後を追う。
 深刻な顔をして話す、双子を残して。




「──?」

 ややあって、異変に気づいたのは、エルシアだ。

「どうしたのよ?」

 急に黙り込み、辺りを見回すエルシアに、アリシアは訝しむ。

「メアリーの姿が見当たらないのです」
「え!?」

 驚きの声をあげて、視線を走らせる。
 傍にいたはずの赤毛の少女は、忽然と消えていた。
 悪意の接近は、なかったはずだ。
 もしあったのなら、とっくに双子は察知して、招かれざる客に丁重にお帰りいただいただろう。

 だとすれば……メアリーの意志で? 
 だが、なぜ?

「噓でしょ!? こんな短時間に、どうして!?」

 アリシアの悲鳴じみた叫びに、答える者はいない。
 こうしてメアリーは──聖都に到着して一時間としないうちに、迷子となったのだ。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...