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第八章 白き魔女
第73話 夜を駆けよ、背教者
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詰め所から離れた建物の影に、ベネットとウルベルト、黒猫のルイを抱くメアリーの姿がある。
駆け戻ったアルヴィンに、ウルベルトが興奮しながら唾を飛ばし、噛みついた。
「アルヴィン! 何だ、この騒ぎはっ!?」
「魔女の襲撃です!」
端的に示された回答に、若き枢機卿は息まく。
「魔女だと!? 教官たちはどうした! 合流する手筈だっただろう!?」
「分かりません」
「分からないだとっ!?」
アルヴィンとしては、そう答えるしかない。
氷の魔女グラキエスは、教官たちは永遠に来ないと嘯いた。
当主たちは、かつて魔道の頂点に君臨した、原初の十三魔女の末裔だ。
いかに、あの教官たちとはいえ──いや……魔女たちを退け、こちらへ全力で向かっている……そう、信じたい。
だが、真偽を確認する術もない。
最悪の事態を考え、行動するしかない。
アルヴィンは覚悟を決め、仲間たちに宣言する。
「時間がありません。僕たちで計画を進めます。教皇庁へ向かいましょう」
「馬鹿を言うな!」
気炎をあげ、ウルベルトがアルヴィンの胸ぐらを掴んだ。
血迷ったのか、と言わんばかりに怒鳴りつける。
「魔女の襲撃をかいくぐり、ステファーナを拘束し、教皇猊下を目覚めさせる……それを、我々だけでやるだと!?」
「困難に挑むことは、最初から分かっていたはずよ」
どこまでも冷静に、クリスティーが言ってのける。碧い双眸には、揺るぎない決意を宿している。
彼女は、紅く染まる夜空を仰ぎ見た。
「このままじゃ、魔女に焼き殺されるか、神に滅ぼされるだけ。白旗をあげても、結末は同じよ」
何もしなければ、待つのは死である。
窮地を脱するには、自らの手で道を切り開くしかない。
アルヴィンはウルベルトを見据えると、声に力をこめた。
「大陸の命運はまだ決していません。僕たちは、まだ負けていない。行きましょう、教皇庁へ!」
「正気かっ!? 俺は行かんぞっ! 絶対に行かんぞっ!」
「オージョーギワが悪いわよ、ゴーヨク! 安全な場所なんて、大陸のどこにもないでしょっ!」
「覚悟を決めてください、枢機卿ウルベルト!」
往生際の悪い三十路男を、十代のベネットとメアリーが叱咤する。
その光景は、どこか滑稽ですらある。
四人の視線を受けて、ウルベルトは地団駄を踏んだ。
「まったく……命知らずの馬鹿どもめっ!」
口汚く罵り、頭を掻きむしる。
盤石の計画のはずが、蓋を開けてみれば綱渡りである。
腹立たしいのは、その綱を渡るしか選択肢がないことだ。
ウルベルトは歯をむき出し、破れかぶれに叫んだ。
「ついてこい! 最短路を案内してやる!!」
五人は、混乱極まる市中を駆け抜ける。
大通りを避け裏路地を走り継ぎ、唐突に視界が開けた。
聖都の中心部──列柱廊に囲まれた、楕円形の広場へ出たのだ。
目に飛び込んだ光景に、アルヴィンは思わず息を呑む。
白亜の教皇庁、そして初代教皇の墓所の上に造営されたとされる大聖堂は、黒煙を吐き、無惨に半壊している。
アルヴィンは火の粉が舞い飛ぶ広場に、素早く視線を走らせた。
四人──いや、五人か。
赤黒い世界の中に、魔女の姿を見出す。
原初の十三魔女の系譜にある当主たち。その力は、圧倒的だ。
火球だけでなく、雷までもが降り注ぐ。列柱廊に据えられた、聖人の像がはじけ飛ぶ。
一方的な、破壊と殺戮の宴が催される。
──そう思えた。
次の瞬間、銃声と砲声が轟き、アルヴィンの鼓膜を乱打した。耐えがたい轟音に、耳を庇う。
教会は、敗北などしてはいない。
審問官が、火砲で果敢に反撃する。長剣を手にした者が、決死の覚悟で肉薄する。
両者の間で、熾烈な戦いが展開される。
混乱は皮肉なことに、教皇庁へ侵入を試みる者たちに、有利に作用した。
死闘の最中、彼らを見咎める者などいない。火事場泥棒のように、まんまと教皇庁へ侵入を果たす。
騒然としているのは内部も変わらない。薄く煙が立ちこめ、銃声と悲鳴が残響する。
鏡のように磨き抜かれた白大理石の廊下を、ウルベルトの案内で足早に駆ける。目指すは、ステファーナの執務室だ。
「──脇に寄れ!」
押し殺した声で警告が発せられるのと、正面から審問官の一団が走り出たのは同時だった。
アルヴィンは咄嗟に身構える。
見つかった──そうではない。外の応援に向かうのだろう。男たちは速度を緩めず、走り抜けていく。
背教者たちは廊下の端により、何食わぬ顔で道を譲る。
混乱の中、妙な五人組に注意を払う者などいない。
そこで、不幸な偶然が生じた。
すれ違いざま、年配の審問官とアルヴィンの目が合う。
ベテラン審問官の勘が、何かを閃かせた。
「お前ら──!」
誰何の声は、不本意な中断を強いられた。
短剣を抜こうとした男の顔に、アルヴィンの拳が突き刺さり、意識を奪ったのだ。
ベネットがグングニルを振るい、審問官をなぎ倒す。
「侵入者だっ!!」
怒号があがり、混乱が爆発する。
教会を守ろうとする者、変えようとする者の間で、乱戦が始まった。
駆け戻ったアルヴィンに、ウルベルトが興奮しながら唾を飛ばし、噛みついた。
「アルヴィン! 何だ、この騒ぎはっ!?」
「魔女の襲撃です!」
端的に示された回答に、若き枢機卿は息まく。
「魔女だと!? 教官たちはどうした! 合流する手筈だっただろう!?」
「分かりません」
「分からないだとっ!?」
アルヴィンとしては、そう答えるしかない。
氷の魔女グラキエスは、教官たちは永遠に来ないと嘯いた。
当主たちは、かつて魔道の頂点に君臨した、原初の十三魔女の末裔だ。
いかに、あの教官たちとはいえ──いや……魔女たちを退け、こちらへ全力で向かっている……そう、信じたい。
だが、真偽を確認する術もない。
最悪の事態を考え、行動するしかない。
アルヴィンは覚悟を決め、仲間たちに宣言する。
「時間がありません。僕たちで計画を進めます。教皇庁へ向かいましょう」
「馬鹿を言うな!」
気炎をあげ、ウルベルトがアルヴィンの胸ぐらを掴んだ。
血迷ったのか、と言わんばかりに怒鳴りつける。
「魔女の襲撃をかいくぐり、ステファーナを拘束し、教皇猊下を目覚めさせる……それを、我々だけでやるだと!?」
「困難に挑むことは、最初から分かっていたはずよ」
どこまでも冷静に、クリスティーが言ってのける。碧い双眸には、揺るぎない決意を宿している。
彼女は、紅く染まる夜空を仰ぎ見た。
「このままじゃ、魔女に焼き殺されるか、神に滅ぼされるだけ。白旗をあげても、結末は同じよ」
何もしなければ、待つのは死である。
窮地を脱するには、自らの手で道を切り開くしかない。
アルヴィンはウルベルトを見据えると、声に力をこめた。
「大陸の命運はまだ決していません。僕たちは、まだ負けていない。行きましょう、教皇庁へ!」
「正気かっ!? 俺は行かんぞっ! 絶対に行かんぞっ!」
「オージョーギワが悪いわよ、ゴーヨク! 安全な場所なんて、大陸のどこにもないでしょっ!」
「覚悟を決めてください、枢機卿ウルベルト!」
往生際の悪い三十路男を、十代のベネットとメアリーが叱咤する。
その光景は、どこか滑稽ですらある。
四人の視線を受けて、ウルベルトは地団駄を踏んだ。
「まったく……命知らずの馬鹿どもめっ!」
口汚く罵り、頭を掻きむしる。
盤石の計画のはずが、蓋を開けてみれば綱渡りである。
腹立たしいのは、その綱を渡るしか選択肢がないことだ。
ウルベルトは歯をむき出し、破れかぶれに叫んだ。
「ついてこい! 最短路を案内してやる!!」
五人は、混乱極まる市中を駆け抜ける。
大通りを避け裏路地を走り継ぎ、唐突に視界が開けた。
聖都の中心部──列柱廊に囲まれた、楕円形の広場へ出たのだ。
目に飛び込んだ光景に、アルヴィンは思わず息を呑む。
白亜の教皇庁、そして初代教皇の墓所の上に造営されたとされる大聖堂は、黒煙を吐き、無惨に半壊している。
アルヴィンは火の粉が舞い飛ぶ広場に、素早く視線を走らせた。
四人──いや、五人か。
赤黒い世界の中に、魔女の姿を見出す。
原初の十三魔女の系譜にある当主たち。その力は、圧倒的だ。
火球だけでなく、雷までもが降り注ぐ。列柱廊に据えられた、聖人の像がはじけ飛ぶ。
一方的な、破壊と殺戮の宴が催される。
──そう思えた。
次の瞬間、銃声と砲声が轟き、アルヴィンの鼓膜を乱打した。耐えがたい轟音に、耳を庇う。
教会は、敗北などしてはいない。
審問官が、火砲で果敢に反撃する。長剣を手にした者が、決死の覚悟で肉薄する。
両者の間で、熾烈な戦いが展開される。
混乱は皮肉なことに、教皇庁へ侵入を試みる者たちに、有利に作用した。
死闘の最中、彼らを見咎める者などいない。火事場泥棒のように、まんまと教皇庁へ侵入を果たす。
騒然としているのは内部も変わらない。薄く煙が立ちこめ、銃声と悲鳴が残響する。
鏡のように磨き抜かれた白大理石の廊下を、ウルベルトの案内で足早に駆ける。目指すは、ステファーナの執務室だ。
「──脇に寄れ!」
押し殺した声で警告が発せられるのと、正面から審問官の一団が走り出たのは同時だった。
アルヴィンは咄嗟に身構える。
見つかった──そうではない。外の応援に向かうのだろう。男たちは速度を緩めず、走り抜けていく。
背教者たちは廊下の端により、何食わぬ顔で道を譲る。
混乱の中、妙な五人組に注意を払う者などいない。
そこで、不幸な偶然が生じた。
すれ違いざま、年配の審問官とアルヴィンの目が合う。
ベテラン審問官の勘が、何かを閃かせた。
「お前ら──!」
誰何の声は、不本意な中断を強いられた。
短剣を抜こうとした男の顔に、アルヴィンの拳が突き刺さり、意識を奪ったのだ。
ベネットがグングニルを振るい、審問官をなぎ倒す。
「侵入者だっ!!」
怒号があがり、混乱が爆発する。
教会を守ろうとする者、変えようとする者の間で、乱戦が始まった。
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