14 / 25
14.モルタルができました
しおりを挟む
朝が来た。新しい朝だ。
ドットさんの容体の回復が著しい。ドットさんの顔色も良くなっている。
「随分と痩せたけどねぇ。しばらくはたくさん食べないといけないねぇ」とコゼットさんが言った。
ドットさんは肩幅からして体格が良かったのだろう。
ドットさんは、荷物の運送の仕事をしていたそうだ。あと、小麦の収穫時期になると、粉挽きとして大きな石臼を回していたらしい。
運搬も、粉挽きも、どちらも力仕事である。
最近、労働が楽しい。王宮では引き籠もっていてまったく働いていなかった。
私の朝の仕事は水汲みだ。そして、とても、重要な仕事だ。
人間の体重の六割を水分が占めている。
人間の肉体の生命維持に欠かすことができない。食物に含まれている水を除いても飲料水として一リットルほど摂取する必要がある。水は、生きる為に必要なのだ。そして、当然、それらを手に入れなければならない。
コゼットさん、セト君、ドットさん、レベッカさん、ロバートさん、そして、私。飲料水用としてだけでも五リットルは確保しなければならない。
数字って、残酷であったりするのかもしれない。元の世界であれば、蛇口をひねって貯めておけば、五リットルの水など簡単に手に入る。だけど、この世界では水を確保するというのが優先事項となる。そして、その水を手に入れられないということは、死を意味する。
水は、その他にも、衣服を洗う、体を拭くなど、生活、というか文明的な暮らしを支えている。ゆえに、水、井戸は重要であるし、井戸の水汲みも重要な仕事だ。
また、重要であるがゆえに、朝の王都の井戸というのは、行列ができる場所だ。
スラム街で行列が出来るのは、朝と夕方の井戸くらいだ。 ちなみに、昼頃は井戸もけっこう閑散としている。
なぜなら、昼は暑いからだ。水を運ぶって、けっこうな重労働だし、やるなら涼しい時間帯に行いたいと思うのは、当然だろう。
「おはようございます」
私は、スラム街に住んでいる人たちと挨拶を交わす。水を汲みに来ているのは主に女性である。
「あら、おはよう。ソフィーちゃん。今日も元気ねぇ~」
井戸の水を汲んでいる間の待ち時間は、お喋りの時間だ。井戸端会議、というのが前の世界にも言葉として残っていたが、井戸でなぜお喋りが始まるかというと、井戸、つまり水が必需品であるため、必然的にみんな井戸に集まる。
井戸の水汲みは同時に作業できないために順番待ちとなる。
待っている間は暇なので、王都の噂話など、情報交換が始まるのだ。
「みなさんもお元気そうでなによりです」
「そうなのよ。最近、元気なのよ~」
「あら、私の所もみんな元気でねぇ」
「体の調子が良いのよ~」
スラム街の住人たちは、最近、体の調子が良いようだ。
原因として、思い当たることは井戸の水質が改善したことだ。ロバートさんに作ってもらった立て看板には、『聖女様の井戸周辺を汚すなかれ。これより井戸に近い場所でゴミを捨てることを禁じる』と書かれていて、それをスラム街の人たちは忠実に守るようになった。
井戸の周りに糞尿や汚物、汚水を捨てたら、細菌などが井戸の水にまで侵入し、井戸水全体を汚染してしまう。それを飲んだ人、その井戸水を使う人の、感染症の危険が高まるのだ。
衛生的な水にアクセスすることができる。
これは、意外と簡単なようで難しい。元の世界でも、世界の人口七十億人のうち、四十二億人が、衛生的なトイレを使うことができていなかった。また、そのうちの七億人は、トイレそのものが近くに無く、道ばたや草むらで用を足していた。
また、二十二億人が、安全な飲み水を確保できていなかったし、三十億人が、石鹸や手洗いする綺麗な水がなかった。
基本的な問題でありながら、解決するには難しい問題なのだ。
せっかく王都は、井戸が整備されているのに、その井戸を知識が無い故に自ら汚していて、非衛生的にしていたのだ。 衛生的な水を使う。 それだけで、健康面で大きく生活の質が改善するのだ。
「やっぱり、井戸の周りを綺麗にしているから、聖女様が加護を与えてくださっているのかねぇ~」
「聖女様のお言いつけを守っているからねぇ~」
「ありがたい話だねぇ~」
「聖女様は、お優しくて、それに美しい人だと聴くねぇ~」
「結婚式のときも、とても美しく神々しかったらしいわよ」
「王子様との結婚式は、とても恩赦もありがたかったねぇ~」
そう言いながら、スラム街の人たちは、『ソフィアの井戸』を拝んでいる。 ……いや、加護とかそういうのないから……。
ってか、美しいとか、その噂、どっから出たのだろう。
私は平凡な外見だ。王子が見向きもしてくれないで、側室に走るほど魅力がない。
それに、王都でお披露目として、王都で一番広い広場で、参列者が万を超えていたらしいけれど、結婚式をのときはずっとベールを被っていたから、私の顔、見た人いないじゃん……。まぁ、そのお陰で、私は顔バレしていないからこのスラム街で生活できているのだけれど。
みんなが、井戸を衛生的に使っているから、健康面で生活が改善したんですよ~と言いたい。なぜなら、一人でも井戸周辺を汚染させる人がいたら、それだけで衛生の改善は成り立たない。
それにしても……どうやら王国は、聖女を排斥したことを国民に公表しないようだ。王宮では周知の事実となっているが、どうやら城外では秘密の事らしい。
まぁ、国民をいたずらに不安にさせないという配慮だろうか。
「じゃあ、私は失礼します~」
聖女の褒め殺し、ないし、私への羞恥プレー的な井戸端会議は恥ずかしいので早々に立ち去ることにした。
『王子様と王宮で幸せに暮らしているのでしょうねぇ~』は、まじで地雷だ。そんな瞬間は結婚してから四年間、一度もなかったよ。
さて。
気を取り直して、今日は、昨日に引き続き、石鹸の制作をする予定だ。 昨日、竃で焼いた貝灰に、油と水を加えて混ぜてみれば石鹸が出来上がるはずだ。
コゼットさんの家の前に置いていて桶を回収して…………あれ? 昨日、焼いた貝灰に水を入れて、そのまま放置していただけなの桶の中が石になっていた。
手の甲で叩いてみても、石のように固まっている。まるでコンクリートだ……。
どうして?
石鹸の材料を作ったはずが、硬い、まるでコンクリートのようなものができてしまった。それに、桶を一つ、ダメにしてしまった。
コゼットさんに怒られるかもしれない。コゼットさんの家の前で、私は呆然とする……。やらかしてしまった。さすがに、石鹸を作ろうとして、コンクリートが出来てしまうなんて想定外だ。
家の玄関の前で、長いこと呆然としていたら、ロバートさんとコゼットさんが家から出て来てしまった。
ロバートさんは、桶の中を覗き込み、中の石を叩いたあと、「これは、モルタルですね」と言った。
「これが分かるのですか?」
「えぇ。大工の仕事で使う時もありますから。これがモルタルかちょっと調べてみましょう」
ロバートさんは仕事道具で桶を分解して、中の固まったモルタルだけを取り出そうとする。
「あの……桶が壊れてしまいますけど大丈夫ですか?」
「桶くらい、僕が作れますから大丈夫です」とロバートさんは何でもないことのように言った。
そして、手早く桶を分解し、中のモルタルをトンカチで叩いたり、少し削ったりしている。
格好いいなぁ~。DIYのできる男。
『桶くらい、僕が作れますから大丈夫です』
かっこいいな~。とても格好良かったから、二度言います。
ドットさんの容体の回復が著しい。ドットさんの顔色も良くなっている。
「随分と痩せたけどねぇ。しばらくはたくさん食べないといけないねぇ」とコゼットさんが言った。
ドットさんは肩幅からして体格が良かったのだろう。
ドットさんは、荷物の運送の仕事をしていたそうだ。あと、小麦の収穫時期になると、粉挽きとして大きな石臼を回していたらしい。
運搬も、粉挽きも、どちらも力仕事である。
最近、労働が楽しい。王宮では引き籠もっていてまったく働いていなかった。
私の朝の仕事は水汲みだ。そして、とても、重要な仕事だ。
人間の体重の六割を水分が占めている。
人間の肉体の生命維持に欠かすことができない。食物に含まれている水を除いても飲料水として一リットルほど摂取する必要がある。水は、生きる為に必要なのだ。そして、当然、それらを手に入れなければならない。
コゼットさん、セト君、ドットさん、レベッカさん、ロバートさん、そして、私。飲料水用としてだけでも五リットルは確保しなければならない。
数字って、残酷であったりするのかもしれない。元の世界であれば、蛇口をひねって貯めておけば、五リットルの水など簡単に手に入る。だけど、この世界では水を確保するというのが優先事項となる。そして、その水を手に入れられないということは、死を意味する。
水は、その他にも、衣服を洗う、体を拭くなど、生活、というか文明的な暮らしを支えている。ゆえに、水、井戸は重要であるし、井戸の水汲みも重要な仕事だ。
また、重要であるがゆえに、朝の王都の井戸というのは、行列ができる場所だ。
スラム街で行列が出来るのは、朝と夕方の井戸くらいだ。 ちなみに、昼頃は井戸もけっこう閑散としている。
なぜなら、昼は暑いからだ。水を運ぶって、けっこうな重労働だし、やるなら涼しい時間帯に行いたいと思うのは、当然だろう。
「おはようございます」
私は、スラム街に住んでいる人たちと挨拶を交わす。水を汲みに来ているのは主に女性である。
「あら、おはよう。ソフィーちゃん。今日も元気ねぇ~」
井戸の水を汲んでいる間の待ち時間は、お喋りの時間だ。井戸端会議、というのが前の世界にも言葉として残っていたが、井戸でなぜお喋りが始まるかというと、井戸、つまり水が必需品であるため、必然的にみんな井戸に集まる。
井戸の水汲みは同時に作業できないために順番待ちとなる。
待っている間は暇なので、王都の噂話など、情報交換が始まるのだ。
「みなさんもお元気そうでなによりです」
「そうなのよ。最近、元気なのよ~」
「あら、私の所もみんな元気でねぇ」
「体の調子が良いのよ~」
スラム街の住人たちは、最近、体の調子が良いようだ。
原因として、思い当たることは井戸の水質が改善したことだ。ロバートさんに作ってもらった立て看板には、『聖女様の井戸周辺を汚すなかれ。これより井戸に近い場所でゴミを捨てることを禁じる』と書かれていて、それをスラム街の人たちは忠実に守るようになった。
井戸の周りに糞尿や汚物、汚水を捨てたら、細菌などが井戸の水にまで侵入し、井戸水全体を汚染してしまう。それを飲んだ人、その井戸水を使う人の、感染症の危険が高まるのだ。
衛生的な水にアクセスすることができる。
これは、意外と簡単なようで難しい。元の世界でも、世界の人口七十億人のうち、四十二億人が、衛生的なトイレを使うことができていなかった。また、そのうちの七億人は、トイレそのものが近くに無く、道ばたや草むらで用を足していた。
また、二十二億人が、安全な飲み水を確保できていなかったし、三十億人が、石鹸や手洗いする綺麗な水がなかった。
基本的な問題でありながら、解決するには難しい問題なのだ。
せっかく王都は、井戸が整備されているのに、その井戸を知識が無い故に自ら汚していて、非衛生的にしていたのだ。 衛生的な水を使う。 それだけで、健康面で大きく生活の質が改善するのだ。
「やっぱり、井戸の周りを綺麗にしているから、聖女様が加護を与えてくださっているのかねぇ~」
「聖女様のお言いつけを守っているからねぇ~」
「ありがたい話だねぇ~」
「聖女様は、お優しくて、それに美しい人だと聴くねぇ~」
「結婚式のときも、とても美しく神々しかったらしいわよ」
「王子様との結婚式は、とても恩赦もありがたかったねぇ~」
そう言いながら、スラム街の人たちは、『ソフィアの井戸』を拝んでいる。 ……いや、加護とかそういうのないから……。
ってか、美しいとか、その噂、どっから出たのだろう。
私は平凡な外見だ。王子が見向きもしてくれないで、側室に走るほど魅力がない。
それに、王都でお披露目として、王都で一番広い広場で、参列者が万を超えていたらしいけれど、結婚式をのときはずっとベールを被っていたから、私の顔、見た人いないじゃん……。まぁ、そのお陰で、私は顔バレしていないからこのスラム街で生活できているのだけれど。
みんなが、井戸を衛生的に使っているから、健康面で生活が改善したんですよ~と言いたい。なぜなら、一人でも井戸周辺を汚染させる人がいたら、それだけで衛生の改善は成り立たない。
それにしても……どうやら王国は、聖女を排斥したことを国民に公表しないようだ。王宮では周知の事実となっているが、どうやら城外では秘密の事らしい。
まぁ、国民をいたずらに不安にさせないという配慮だろうか。
「じゃあ、私は失礼します~」
聖女の褒め殺し、ないし、私への羞恥プレー的な井戸端会議は恥ずかしいので早々に立ち去ることにした。
『王子様と王宮で幸せに暮らしているのでしょうねぇ~』は、まじで地雷だ。そんな瞬間は結婚してから四年間、一度もなかったよ。
さて。
気を取り直して、今日は、昨日に引き続き、石鹸の制作をする予定だ。 昨日、竃で焼いた貝灰に、油と水を加えて混ぜてみれば石鹸が出来上がるはずだ。
コゼットさんの家の前に置いていて桶を回収して…………あれ? 昨日、焼いた貝灰に水を入れて、そのまま放置していただけなの桶の中が石になっていた。
手の甲で叩いてみても、石のように固まっている。まるでコンクリートだ……。
どうして?
石鹸の材料を作ったはずが、硬い、まるでコンクリートのようなものができてしまった。それに、桶を一つ、ダメにしてしまった。
コゼットさんに怒られるかもしれない。コゼットさんの家の前で、私は呆然とする……。やらかしてしまった。さすがに、石鹸を作ろうとして、コンクリートが出来てしまうなんて想定外だ。
家の玄関の前で、長いこと呆然としていたら、ロバートさんとコゼットさんが家から出て来てしまった。
ロバートさんは、桶の中を覗き込み、中の石を叩いたあと、「これは、モルタルですね」と言った。
「これが分かるのですか?」
「えぇ。大工の仕事で使う時もありますから。これがモルタルかちょっと調べてみましょう」
ロバートさんは仕事道具で桶を分解して、中の固まったモルタルだけを取り出そうとする。
「あの……桶が壊れてしまいますけど大丈夫ですか?」
「桶くらい、僕が作れますから大丈夫です」とロバートさんは何でもないことのように言った。
そして、手早く桶を分解し、中のモルタルをトンカチで叩いたり、少し削ったりしている。
格好いいなぁ~。DIYのできる男。
『桶くらい、僕が作れますから大丈夫です』
かっこいいな~。とても格好良かったから、二度言います。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~
しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。
豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。
――食事が、冷めているのだ。
どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。
「温かいごはんが食べたい」
そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。
地下厨房からの高速搬送。
専用レーンを爆走するカートメイド。
扉の開閉に命をかけるオープナー。
ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!?
温かさは、ホッとさせてくれる。
それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。
冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、
食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ!
-
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる
若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ!
数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。
跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。
両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。
――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう!
エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。
彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。
――結婚の約束、しただろう?
昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。
(わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?)
記憶がない。記憶にない。
姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない!
都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。
若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。
後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。
(そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?)
ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。
エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。
だから。
この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し?
弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに?
ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる