追放された聖女は立ち上がる【完結】

池田 瑛

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15.粗大ゴミ……改め、便利な材料

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 ロバートさんのさらなる精緻な分析により、正真正銘、モルタル認定されました。トンカチで叩いて、削って調べたから間違いがないだろう。

「それにしても……驚きました。ソフィーさんは錬金術師だったのですね」

「あたしも驚いたね」

 何故か錬金術師に認定されてしまった。以前の、黒魔術使いよりは、良い扱いかもしれない。一応、王城にも錬金術師を名乗る人たちは存在しているし。

 しかし、どうしてモルタルが出来たのか、分からない。


「本当は石鹸を作ろうと思ったのですが……」

 渾身の大失敗である。情けない気持ちでいっぱいだ。

「石鹸をかい……石鹸も金持ちしか買えない代物だけどね……」

 コゼットさんが、そんなの無理だろう~というような目で私を見ている……。

「凄腕の錬金術師は、尿から黄金を作り出すと聞いたことがありますが……迷信だと思っていました」

 いや、さすがに尿から黄金は、迷信だろう。元素的に不可能だ。その錬金術師は、たぶん、尿からアンモニアでも作ったのではないだろうか。でも、尿からちゃんとアンモニアを生成できているなら素晴らしい錬金術だと思う。

 私なんて、石鹸とはほど遠いものが出来てしまった。

 料理を作ろうとして、焦がして消し炭作ってしまう方がまだましかも知れない。

 本当に落ち込んでしまう。聖女としても失格。錬金術師としても失格の部類だろう。自分のダメさが嫌になる……。


「それにしても……これ、どうしましょうか?」とロバートさんが言う。

 机の上に置かれたモルタルの固まりを全員でみつめる。

「邪魔ですよね……。今日、王都のどこかの空き地にでも捨ててきます。それか、川に沈めます。本当に済みませんでした」

 でっかい石の塊。使い道がまったくなさそう……漬物石にしては大きすぎる。
 本当のゴミを作ってしまった。捨てるのに困る、粗大ゴミだ。

「もう、二度とこんな真似はしないので、許してください」

 私は頭を下げて誠心誠意、謝る。

「え? もう作らないのですか?」

 ロバートさんが意外な顔をして言った。

「でも、こんな岩なんて作っても邪魔なだけですよね……」

 わざわざ王都の川辺にゴミとして捨ててある貝を拾って来て、薪という燃料を無駄にした挙げ句、出来上がったのが、石という粗大ゴミ……。言い訳の仕様が無い。

「それは使い方次第です。僕の調べたかぎり、品質は王都で使われているものとほとんど同じです。ソフィーさん、可能ならまたこれ、作って欲しいのですが、作れますか?」

「え……?」

 ロバートさんのまた作って欲しいという言葉に驚く。

 昨日と同じようにしたら、同じ結果となるはずだけど……。

「できるとは思いますが、役にたつのですか?」

「ちょうどかまどの修理をしたいと思っていたところでした」

「え? 竃ですか?」

 どうして竃が出てくるのだろうか? 

「長年使い込んだからねぇ」とコゼットさんも言う。

 どういうことだろうと私は首を傾げていると、ロバートさんが説明してくれた。

「モルタル、というのは王都の道路の舗装に大量に使われていますが、実は、それ以外にも沢山用途があるんです。例えばですが……」
 
 ロバートさんは椅子から立ち上がり、竃のところへと行く。

「この竃は、適当な大きさの石を積み上げていき、そして最後に泥を石と石の間に練り込んで乾燥させて焼くという方法で作られています。ですが、使っているとやはりボロボロになってきます」

 たしかに、コゼットさんの家の竃は、石がしっかり組み上げられているが、無骨というか、バランスを崩したら倒壊してしまいそうではある。

「石と石の間を、このモルタルで埋めると、もっと丈夫な竃ができるんです。もっとも、モルタルの材料がとても高くて、普通は泥で固めるんですけどね」

「そんな使い道があるんですか!」

「これはほんの一例ですよ。屋根の隙間に塗り込めば、雨漏りの穴も防ぐことができます」

「すごいです! ロバートさん!」

「あと、実はソフィーさんがやったように、木材で型を作り、その中にモルタルを流し込むと、思い通りの形の石ができるので使い勝手も良いんです。レンガのような型を作れば、わざわざ乾燥させて焼かなくても、レンガと同じようなものが作れます」

「そうなんですか……」

 桶に入れっぱなしだっただけで、私は型にはめようとしたわけではないのだけど……。 建築のことなんて私には分からない。ただ、建築資材として便利なようだ。

 型に流し込んで固める。きっと、前の世界のコンクリート・ブロックのようなものであろう。

「だから、ソフィーさん」

 ふっとロバートさんに呼びかけられる。

「だから、明るい顔をしてください。そんなに落ち込まなくてもいいですよ。ずっとさっきから泣き出しそうな顔じゃないですか。笑ってください」

 さっきから使い方をいろいろ説明してくれていたのは、私を励ましてくれるためだったのか……。私はフォローされていたのか。

「あ、ありがとうございます」とお礼を言う。ロバートさんの優しさに、思わず少しだけ涙が出そうになる。コゼットさんをはじめ、人の優しさというのは温かい。王宮で聖女をしていたときには感じることなかった温もりだ。

「分かりました! 材料は、貝殻で沢山拾ってこれるので、もっと沢山作りますね!」

 なんだか元気が出てきた。そうだ。石鹸を作るのには失敗したけれど、前向きに考えると、コンクリートの材料を作ることができたのだ。モルタルを作れたと考えれば大成功だ。

「なんだい、あのゴミの山から作ったのかい」

 コゼットさんが驚いている。ゴミと言っても、貝殻だけど……まぁ、使い道がないという点ではゴミなのだろう。

 でも、有効に利用できるロバートさんがいれば、きっとそれはゴミではないのだろう。

「そういうことなら、俺が貝殻、運んで来てやるよ!」

 奥の部屋から出て来たのはドットさんだ。

「ドットさん、体調はもう良いんですか?」

 まだまだ休息と体力の回復が必要だと思う。

「なぁに、ずっと寝ていたら体が鈍って仕方がねぇ。それに、貝殻もたくさん必要なんだろう? 桶で運んでたら日が暮れるだろう? 俺が荷台で運んでやるよ」

 あっ。たしかに、桶を両手に持って運ぶよりも大量に運べる。

 ドットさんは、荷物運搬の仕事をしている。専門家に任せたほうが良いかもしれない。「無理をしない程度にお願いします!」

「おう! 俺の看病をしてくれたお礼だ! たくさん運んで来てやっから楽しみにしといてくれ!」

「竃に、天井、壁。モルタルはいくらあっても困りません。使い道はたくさんあります。お願いしますね」とロバートさんが言った。

「お、俺もなんか手伝うぞー」とセト君が元気よくが言った。セト君には、燃料探し、薪拾いを手伝ってもらうことになった。

 ドットさんが、川辺の貝殻捨て場に行って、貝殻を拾ってくる。

 セト君が燃やす木材を集めてくる。 私が、貝殻を焼く、という役割分担となった。 モルタル作り、軌道に乗ったらいいなぁと思う。
 
 あれから冷静に考えてみたら、貝殻を焼いてできた貝灰は、王都の工事現場で使われているモルタルと同じものだろう。

 どうしてモルタルが出来てしまったのかを私なりに考えた。

 まず、この王都で使われているモルタルは、王都から遠い東の山で産出した石灰を、砕いて、焼いて、消石灰にして、モルタルの材料にしていると工事の人から聞いた。
 つまり、数億年前くらいだろう。海で、貝殻やサンゴが堆積してできた地層が、隆起して地上に出てきたのだ。それが石灰岩として採掘されているということだ。

 重要なのは、石灰岩がサンゴや貝殻によって出来ているという知識だろう。

 化石になったり、岩石化によって、石灰岩は余計な成分が流れ出したりして、純粋な成分となっているかもしれない。
 でも、石灰も、貝殻も、主成分は同じなのだろう。
 だから、石灰を焼いた消石灰も、貝殻を焼いてできた貝灰も、ほとんど同じ成分で、モルタルの材料となる。

 貝殻を使ってモルタルを作れるというこは、まだ発見されていなかったということだ。だから、貝殻はゴミ扱いなのだ。遠心分離機とかで、物質の成分などを分析できない時代だ。発見は偶然性に左右されるのだろう。

 私は当面、太陽が昇っている間は、貝灰の制作をすることになった。
 そして、太陽が傾いた夕方からは、コゼットさん家に住んでいるみんなで竃を囲んで、暖を取りながら内職をする。

 私は、セト君だけでなく、コゼットさんやロバートさん、ドットさんの服にも、ボタンとボタン穴がある服を作ってあげたい。

 よし、夜は、ひたすら裁縫作業だ。
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