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第1章 古代の魔法使い

旅中の交流

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 クラウドがアイリスの治療に取り掛かる。

「傷を診るため服を脱がさなくちゃいけない。

 悪いが見物は遠慮してくれ。

 ルーク、お前は手伝ってくれ。何をするかは分かるな?」

「うん、荷物を取ってくるよ。その後は暴れないように手を押さえるんでしょ?」

「ああ、そうだ。

 そっちの親父さん、あんたは足を頼む。足は手より力が強いからな。気をつけてくれよ。」

「何!?

 手足を押さえてどうするというんだ?」

 服を脱がして手足を押さえつけるという2人に不安が募る。

 しかし、クラウドは心配するなと告げた。アイリスを助ける為に先ずは傷を洗う必要があること。その時痛みで暴れないようにする為だと説明した。

「地面に落ちている小瓶を見るに、ポーションを使ったんだろ?」


 アイリスのすぐ横の地面に小瓶が2個転がっている。

「あ、ああ。旅の備えとして3個ほど持っていた。

 だが効かなかったんだ。口から飲ませても傷に振りかけても。」

 そう言って顔をしかめる。

 だからこそ、信じられない。この傷で助かると簡単に言ってのけるこの男が。

「(その割に地面に落ちている小瓶は2個か。

 おそらく飲ませても傷にかけても効かなかったことでポーションでの治療は出来ないと判断し、残りの1個を無駄に使わず旅への備えとして残したのだろう。

 随分冷静だな。)」

 そんな事を考えているとルークが鞄を持って来た。

「お待たせ、クラウド。」
「おぅ、ありがと。」

 荷物を受け取りアイリスに向き直る。

 尚、2人は荷物を全て馬車に乗せている。大した日数でも無い為荷物が少なくて済んだ事とアイテムリングの使用をロデリックに止められたせいだ。

『無用なイザコザに巻き込まれたくないなら使うな』

 そう言うロデリックの言葉にクラウドは頷いた。そのため、クラウドが今回の旅に持って来たのは通常旅にいるような食糧や着替えなどの他は、薬と他数点の荷物が入った肩からかけるタイプの鞄が1つだけである。



 手早く服をまくり上げ傷が見えるようにした後、取り出した水筒で傷を洗う。針と糸ですいすいと傷を縫っていく。

 この旅でクラウドはルークに危険が無いようにと出来る限りで努めている。自分が持つアイテムがあれば一瞬で治るだろうが、そんなアイテムを持つと人に知られればどうなる?譲ってくれと言うものや奪おうとするものがわんさかと集まるだろう。

 勿論、使う以外に助かる手が無いなら使うが、診た限りで大丈夫と思ったクラウドは通常の治療のみに留めようとしている。

 身体を縫うという治療を初めて見た父親は大丈夫なのかと何度も繰り返しクラウドに聞いているが

「大丈夫だよ、案外こんな原始的な止血方法が効いたりするもんさ。」

 心配するなと答えるクラウドだが、実際の傷の深さは酷いものであった。内臓にまで達しており普通ならまず助からない。

「(こいつが無かったら危なかったな。)」

 そう言って手に持っているのは鞄から取り出した傷薬の溶液である。村の鍛冶師フリッツに作ってもらった薄い鉄製で持ち運びに重宝するこの容器をクラウドは非常に気に入っている。

 通常薬草は30分ほど煎じた後の煮出汁を使い作られる。これは薬草が持つ薬効成分が30分以上の加熱に耐えらない為にそれ以上加熱すると効能が無くなってしまうからである。
 しかし薬草から出る煮出汁は最初の5分ほどのものが最も高い効能を持つことを知っているクラウドは、5分間煎じた煮出汁を集め更に25分煮詰めることで薬効を凝縮した溶液を作り出していた。

 特殊な材料を使わないため人に見咎められても言い訳がきくと考え、通常の治療にも使用しているこの傷薬は現代の回復薬の中では上級ポーションに値する程の効果を持つ。

 アイテムや装備にはクラスがあり下から順に
  『一般級ノーマルクラス
  『上級ハイクラス
  『国宝級トレジャークラス
  『伝説級レジェンドクラス
  『神話級ミソロジークラス

 と並ぶ。しかし現存するとされるアイテムは国宝級までであり、もちろんそれらは国の重要な機密として厳しい体制のもと管理されている。
 世界に流通するものはほぼ上級までであり、その上級でさえ裕福な貴族や高額な稼ぎを持つ冒険者のみがせいぜい手に入れる程度である。上級ポーションの効力を知らないものからしてみればその効力は常識外なほどである。

 特製の傷薬を布に染み込ませ傷口にあてる。その上から紐で縛り固定させた。あっという間に終わった治療であるが効果は抜群であり、途端にアイリスの呼吸は落ち着きを取り戻していた。

「おぉっ!顔色がっ!」

 赤みを取り戻した顔を見て男が声を上げた。

「まぁ、とりあえずはこれで大丈夫だろ。

 後は目を覚ましたらしっかりと栄養を取らせることだ。血は止まりはしても流れ出た分が戻ったわけじゃないからな。」

「・・・あんた!

 最初は疑って悪かった!今回の件は本当に恩にきる!!」

 泣きながら手を握ってきた男の話しによると、自分はアイリスの父親でメイソンというらしい。ユーテリア王国の南部を商圏とするロズウェル商会を立ち上げたものの、その規模はいま一つ伸び悩んでいるらしい。

「本当にありがとうよ!あんたは娘の命の恩人だ!

 この恩はいつか必ず返す!

 まだ、小さな商会だが協力できることがあったらなんでも言ってくれ!」

 メイソンはクラウドとルークに丁寧に礼を言い頭を下げた。

「そうだ!今夜はみなさんにごちそうさせてくれませんか?

 商談帰りなので良い荷があります!奮発しますよ!」

 治療が終わったと聞いて様子を見に来ていたカインがそれを聞いた。

「マジ!?俺たちも良いのかい!?」

「ええっ!

 娘の命が助かったってのに、しみったれたことなんか言いませんよ!

 是非みなさんでどうぞ!」

「ラッキーッ!

 こりゃついてるぜー!」

 結局クラウド達一行は全員で歓待を受けることになる。また、食事の途中で意識が戻ったアイリスを傍らに寝かせた状態で全員は楽しく夕食をとったのだった。
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