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第1章 古代の魔法使い
トント村の専任薬師
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あまり整備もされていない街道を一台の馬車が進んでいる。その馬車の四方を4人の冒険者が囲み警護していた。
村を出発してからおよそ4時間。クラウドは難しい顔をしていた。心配したルークが声をかける。
「どうしたのクラウド?
具合が悪い?」
「ん?
ああ、いや何でもない。具合も悪くないよ、心配かけたか?
大丈夫だよ。」
何でもないと言うが、クラウドの顔は実際に血の気が引いている。それはこの旅が始まってから、不思議に思いエストに尋ねてみたある質問のせいであった。
休憩を取ったのはついさっきだ。集まってきたエストに聞いた。
『なぜ真っ直ぐ向かわないのか?』
馬車で移動しだしてすぐに気づいた。村長からミルトアの街はトント村から北東にあると聞いていたにもかかわらず、馬車は真北に進路を取っている。
横で聞いていたカインがそれを聞き、大笑いしながら答えた。
「真っ直ぐなんか進める訳ねーじゃん。
村から一度も外に出たことが無いんじゃ知らないだろうけどよ、魔物には縄張りってもんがあってな。
街道は強い魔物の縄張りを避けて安全を確保出来るように作られているんだよ。
まぁ俺たちみたいな冒険者や国や領主の兵たちが、命をかけて長年調べてきたからこそ出来たことさ。」
得意顔で答えてくれたがその答えはクラウドにとっては辛いものであった。
かつて世界の中で強者のヒエラルキーの頂点に立ったのは人類である。
魔法使いを先頭に、なみいる魔物を押しのけて。
だが、今この世界はどうか?
人類は頂点から陥落し、遂には魔物様の邪魔にならないよう縄張りを避けて移動しているという。
「(何てこった・・・
別に人類のために戦うなんて気はねぇが、さすがに辛ぇわ・・・)」
そのあまりの惨状にクラウドの血の気が引いたのであった。
旅自体は特に問題も無く順調であった。
問題はといえば途中の草原で5匹の狼と出くわしたくらいであった。しかしそれも隊列を組んだ4人の護衛に寄って追い払われていた。
そのまま馬車は進み続けていたが、日が傾いてきたことでエストがクラウドに声をかける。
「暗くなっての移動は危険です。今日はこれくらいにしておきましょう。
もう少し行ったところに簡単なキャンプが出来る場所があります。今日はそこで休みましょう。」
「分かりました。
護衛をお任せしているんです。旅の行程もお任せしますので。
では着いたら休憩の準備をしましょう。」
そんな会話の横でルークはクスクスと笑っている。
キャンプ場へ移動している最中にクラウドがルークに話しかける。
「何がおかしかったんだ?
さっきずいぶんと笑ってたろ?」
「だってクラウドってば家に居るときと全然しゃべり方が違うんだもん。
おばあちゃんとおねえちゃんが聞いても大笑いしたと思うよ。」
「うるせー。これが大人の処世術ってもんよ。」
クラウドが久々に過ごすルークとの時間に癒されながらも、一行はキャンプ場へと向かう。
キャンプ場へと着くとほかに一組先客があるようだった。
エストが挨拶へと向かうようだ。
イゴールによると、こういう場合は全員で挨拶に行かなくても代表者が行けば問題はないとのことであった。そのため残りのメンバーはそれぞれが決めてあった役割のため動き出す。
クラウドとルークは近くの薪を集める役割だ。2人で談笑しながら集め始めるとカインが走って近づいてくる。
「あれ?カインさんだ。どうしたんだろう?」
「さあ?どれだけ集まったか見に来たのか?
まずいぞ、話しながらだったしな。まだ十分とは言えねぇや。
というか、さっき拾い始めたばかりなんだけどな。」
そんな話しをしているとカインが近づくまで待てないと声を上げた。
「おお~い、クラウドさんよーーっ!
わりぃがこっちに来てくれーーっ!けが人だとよーー!」
「けが人?」
「たぶんさっき居た先客たちの誰かだろ。行こうルーク。」
クラウドとルークの二人が走り出す。途中でカインと合流する。
「カインさん、けが人だって?」
「ああ、さっきエストが挨拶に行った時に居たんだと。
どうやら途中でオークに襲われたらしい。俺も見たけど結構な深手だ。
お互いの紹介の時、こちらに薬師がいると知ってどうしても見て欲しいって言って聞かないらしい。
・・・・こんなこと言いたくねぇが、もしなんとかなると思っても用意している薬はあまり使って欲しくないんだよ・・・」
つまりカインはここで薬を使うことで、これから会いに行く貴族のところで使う分が足りなくなることを心配しているようだ。
「・・・あんたも嫌な役回りだな。
大丈夫だよ。俺の薬は自作ばかりでな。数だけは十分ある。
ついでに言うと、あんた達4人がケガをする事もあると思って準備していたからな、これから先であんた等が大怪我しないでいてくれるなら問題ないさ。」
そう言うとクラウドはカインに目くばせした。
「・・はははっ!
それなら安心しな、俺たちは大丈夫だからよ!俺たちの分の薬なら好きなだけ使ってくれていいからよ、あの子を助けてやってくれよ!」
その時クラウドの袖をルークが引っ張る。
「なんだか軽い人と思ってたけど、ちょっといい人だねカインさんって。」
ルークが小声で感想を言ってくる。全くそのとおりだとクラウドも思っていた。
「あの子?けが人は子供か?」
「ああ、まだ10歳くらいの女の子だ。可哀相に血だらけでよ・・。」
「・・・ふふっ、任せておいてくれ。トント村の専任薬師の腕前を見せてやるぜ。」
自身ありそうにそう言うクラウドを見てカインが驚いている。
「こいつは驚いた。
口調がさっきまでと全然違うようになったかと思ったら、随分と頼もしいじゃねーか!」
そんなやり取りをしていると、もうキャンプ場が見えてきていた。
駆け込んでくるクラウドにエストがいち早く気づいた。
「クラウド様、こっちです!」
キャンプ場の一角には人が集まっている。そこから手が上がった。エストが誘導してくれる。
「すまん、通してくれ!」
そう言って人だかりの中に入る。
「待たせたな。
けが人はどこだ?」
そこには地面の上に敷いた布の上で横になり、腹部から血を流して倒れている女の子が居た。必死になって腹部を押さえている、痛みが酷いようでブルブルとふるえていた。
「あんたが薬師かっ!
頼む、何とか娘を助けてやってくれっ!
オークに襲われてからもう30分は経ってるんだっ!
このままじゃアイリスは・・ちくしょうっ!!」
倒れている子の父親であろう男が声をあげる。
死んでいく愛娘を見ているだけ・・・
藁にも縋りたかったのであろう。おそらく駄目とは思いつつも助けを求めているのが見て取れる。
クラウドは手をアイリスと呼ばれた女の子の額にあてた。
「随分と熱が低い。まずいな。」
普通ならこれほどの傷を負うと身体は熱を持つ。身体が冷たいということは血が流れすぎたということだ。
「・・・ち、ちっくしょうっ!!
何で、何でだっ!この子が一体何をしたってんだぁっ!」
運悪く魔物に襲われただけ。
可愛い娘が死んでいく。
その理由が不運だなど、そんな理由を受け入れられるはずが無かった。
護衛も雇っていたのに。
冒険者の一人がバランスを崩したオークに向けて剣を振り下ろした時、命の危険を感じたオークが手に持っていた棍棒を力任せに振り回した。
その結果、剣の一撃を浴びたオークの腕からは力が抜け、すっぽ抜けた棍棒は馬車を引いていた馬の一匹に当たってしまう。暴れる馬のせいで揺れる馬車から落ちてしまったアイリスは混乱のあまり馬車に戻るのではなく、いつも守ってくれていた父親の元に駆け寄ろうとした。
多少腕に覚えがあったせいで冒険者と共に戦っていた父親の元に。
結果、戦場に飛び出したアイリスは父親の元まで行くより先にオークに襲われ、腹に噛み付かれたのだった。
父親が急いで駆け寄り、娘に噛み付いているオークの首筋に剣を振り下ろしたが・・・
すでにその牙は彼女の身体に突き立っていたのだった。
大粒の涙を流す父親。
その横でルークが尋ねる。
「大丈夫でしょ。クラウド?」
「ああ、問題ない。」
2人の会話に父親が固まった。
「な、何っ?
今・・・なんて言った・・?」
まさかの言葉であったため、すぐには信じられず聞きなおす。
その後に出てきた言葉に一同が耳を疑った。
「これくらい大丈夫だと言ったんだよ。
トント村でも何度も診てきた。後はまかせてメシの準備でもしててくれない?
腹減っちゃった。」
村を出発してからおよそ4時間。クラウドは難しい顔をしていた。心配したルークが声をかける。
「どうしたのクラウド?
具合が悪い?」
「ん?
ああ、いや何でもない。具合も悪くないよ、心配かけたか?
大丈夫だよ。」
何でもないと言うが、クラウドの顔は実際に血の気が引いている。それはこの旅が始まってから、不思議に思いエストに尋ねてみたある質問のせいであった。
休憩を取ったのはついさっきだ。集まってきたエストに聞いた。
『なぜ真っ直ぐ向かわないのか?』
馬車で移動しだしてすぐに気づいた。村長からミルトアの街はトント村から北東にあると聞いていたにもかかわらず、馬車は真北に進路を取っている。
横で聞いていたカインがそれを聞き、大笑いしながら答えた。
「真っ直ぐなんか進める訳ねーじゃん。
村から一度も外に出たことが無いんじゃ知らないだろうけどよ、魔物には縄張りってもんがあってな。
街道は強い魔物の縄張りを避けて安全を確保出来るように作られているんだよ。
まぁ俺たちみたいな冒険者や国や領主の兵たちが、命をかけて長年調べてきたからこそ出来たことさ。」
得意顔で答えてくれたがその答えはクラウドにとっては辛いものであった。
かつて世界の中で強者のヒエラルキーの頂点に立ったのは人類である。
魔法使いを先頭に、なみいる魔物を押しのけて。
だが、今この世界はどうか?
人類は頂点から陥落し、遂には魔物様の邪魔にならないよう縄張りを避けて移動しているという。
「(何てこった・・・
別に人類のために戦うなんて気はねぇが、さすがに辛ぇわ・・・)」
そのあまりの惨状にクラウドの血の気が引いたのであった。
旅自体は特に問題も無く順調であった。
問題はといえば途中の草原で5匹の狼と出くわしたくらいであった。しかしそれも隊列を組んだ4人の護衛に寄って追い払われていた。
そのまま馬車は進み続けていたが、日が傾いてきたことでエストがクラウドに声をかける。
「暗くなっての移動は危険です。今日はこれくらいにしておきましょう。
もう少し行ったところに簡単なキャンプが出来る場所があります。今日はそこで休みましょう。」
「分かりました。
護衛をお任せしているんです。旅の行程もお任せしますので。
では着いたら休憩の準備をしましょう。」
そんな会話の横でルークはクスクスと笑っている。
キャンプ場へ移動している最中にクラウドがルークに話しかける。
「何がおかしかったんだ?
さっきずいぶんと笑ってたろ?」
「だってクラウドってば家に居るときと全然しゃべり方が違うんだもん。
おばあちゃんとおねえちゃんが聞いても大笑いしたと思うよ。」
「うるせー。これが大人の処世術ってもんよ。」
クラウドが久々に過ごすルークとの時間に癒されながらも、一行はキャンプ場へと向かう。
キャンプ場へと着くとほかに一組先客があるようだった。
エストが挨拶へと向かうようだ。
イゴールによると、こういう場合は全員で挨拶に行かなくても代表者が行けば問題はないとのことであった。そのため残りのメンバーはそれぞれが決めてあった役割のため動き出す。
クラウドとルークは近くの薪を集める役割だ。2人で談笑しながら集め始めるとカインが走って近づいてくる。
「あれ?カインさんだ。どうしたんだろう?」
「さあ?どれだけ集まったか見に来たのか?
まずいぞ、話しながらだったしな。まだ十分とは言えねぇや。
というか、さっき拾い始めたばかりなんだけどな。」
そんな話しをしているとカインが近づくまで待てないと声を上げた。
「おお~い、クラウドさんよーーっ!
わりぃがこっちに来てくれーーっ!けが人だとよーー!」
「けが人?」
「たぶんさっき居た先客たちの誰かだろ。行こうルーク。」
クラウドとルークの二人が走り出す。途中でカインと合流する。
「カインさん、けが人だって?」
「ああ、さっきエストが挨拶に行った時に居たんだと。
どうやら途中でオークに襲われたらしい。俺も見たけど結構な深手だ。
お互いの紹介の時、こちらに薬師がいると知ってどうしても見て欲しいって言って聞かないらしい。
・・・・こんなこと言いたくねぇが、もしなんとかなると思っても用意している薬はあまり使って欲しくないんだよ・・・」
つまりカインはここで薬を使うことで、これから会いに行く貴族のところで使う分が足りなくなることを心配しているようだ。
「・・・あんたも嫌な役回りだな。
大丈夫だよ。俺の薬は自作ばかりでな。数だけは十分ある。
ついでに言うと、あんた達4人がケガをする事もあると思って準備していたからな、これから先であんた等が大怪我しないでいてくれるなら問題ないさ。」
そう言うとクラウドはカインに目くばせした。
「・・はははっ!
それなら安心しな、俺たちは大丈夫だからよ!俺たちの分の薬なら好きなだけ使ってくれていいからよ、あの子を助けてやってくれよ!」
その時クラウドの袖をルークが引っ張る。
「なんだか軽い人と思ってたけど、ちょっといい人だねカインさんって。」
ルークが小声で感想を言ってくる。全くそのとおりだとクラウドも思っていた。
「あの子?けが人は子供か?」
「ああ、まだ10歳くらいの女の子だ。可哀相に血だらけでよ・・。」
「・・・ふふっ、任せておいてくれ。トント村の専任薬師の腕前を見せてやるぜ。」
自身ありそうにそう言うクラウドを見てカインが驚いている。
「こいつは驚いた。
口調がさっきまでと全然違うようになったかと思ったら、随分と頼もしいじゃねーか!」
そんなやり取りをしていると、もうキャンプ場が見えてきていた。
駆け込んでくるクラウドにエストがいち早く気づいた。
「クラウド様、こっちです!」
キャンプ場の一角には人が集まっている。そこから手が上がった。エストが誘導してくれる。
「すまん、通してくれ!」
そう言って人だかりの中に入る。
「待たせたな。
けが人はどこだ?」
そこには地面の上に敷いた布の上で横になり、腹部から血を流して倒れている女の子が居た。必死になって腹部を押さえている、痛みが酷いようでブルブルとふるえていた。
「あんたが薬師かっ!
頼む、何とか娘を助けてやってくれっ!
オークに襲われてからもう30分は経ってるんだっ!
このままじゃアイリスは・・ちくしょうっ!!」
倒れている子の父親であろう男が声をあげる。
死んでいく愛娘を見ているだけ・・・
藁にも縋りたかったのであろう。おそらく駄目とは思いつつも助けを求めているのが見て取れる。
クラウドは手をアイリスと呼ばれた女の子の額にあてた。
「随分と熱が低い。まずいな。」
普通ならこれほどの傷を負うと身体は熱を持つ。身体が冷たいということは血が流れすぎたということだ。
「・・・ち、ちっくしょうっ!!
何で、何でだっ!この子が一体何をしたってんだぁっ!」
運悪く魔物に襲われただけ。
可愛い娘が死んでいく。
その理由が不運だなど、そんな理由を受け入れられるはずが無かった。
護衛も雇っていたのに。
冒険者の一人がバランスを崩したオークに向けて剣を振り下ろした時、命の危険を感じたオークが手に持っていた棍棒を力任せに振り回した。
その結果、剣の一撃を浴びたオークの腕からは力が抜け、すっぽ抜けた棍棒は馬車を引いていた馬の一匹に当たってしまう。暴れる馬のせいで揺れる馬車から落ちてしまったアイリスは混乱のあまり馬車に戻るのではなく、いつも守ってくれていた父親の元に駆け寄ろうとした。
多少腕に覚えがあったせいで冒険者と共に戦っていた父親の元に。
結果、戦場に飛び出したアイリスは父親の元まで行くより先にオークに襲われ、腹に噛み付かれたのだった。
父親が急いで駆け寄り、娘に噛み付いているオークの首筋に剣を振り下ろしたが・・・
すでにその牙は彼女の身体に突き立っていたのだった。
大粒の涙を流す父親。
その横でルークが尋ねる。
「大丈夫でしょ。クラウド?」
「ああ、問題ない。」
2人の会話に父親が固まった。
「な、何っ?
今・・・なんて言った・・?」
まさかの言葉であったため、すぐには信じられず聞きなおす。
その後に出てきた言葉に一同が耳を疑った。
「これくらい大丈夫だと言ったんだよ。
トント村でも何度も診てきた。後はまかせてメシの準備でもしててくれない?
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