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第1章 古代の魔法使い

バダックとコーラン

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 妻エリスが助からないと聞いたバダックは妻に聞こえないよう、先ほどまでいた応接室まで戻りクラウドを問い詰めていた。

「一体何故だ!お前が作ってきた薬は役に立たぬのかっ!?

 先ほどまでと言ってることが違うではないか!まるですぐにでも治せるような口ぶりであっただろう!」

 希望を持った人間はその希望が強い程、それが叶わぬ時のショックは大きい。

「一体何があったのですか?

 直接診てみるとやはり間違いに気づかれたということでしょうか?

 それなら早く診察のやり直しを・・・」

 コーランも慌てているようだ。

「まぁ落ち着いて。

 まず薬に間違いはありません。むしろ直接診て確信したくらいです。」

「ならば一体何故なのだ!!!」

 更に語気を強めるバダックに向け、クラウドは人差し指を立て口元へと動かし、その後扉を指さした。そのジェスチャーを見てバダックとコーランが首をかしげる。その時、かつて冒険者であったコーランが自分達がいる応接室の扉の向こう側に誰か人の気配があることに気づいた。

 コーランを見て事情を察知したバダックが声をかける。

「誰かいるのか?」

「!」

 コーランが急ぎ扉を開けた時にはそこには誰も居なかった。

「なんだ、だれも居ないではないか。」

 そう言うバダックの前でクラウドは天井を見上げながら右手で目の辺りを覆っている。

「どうしたと言うのだ?」

「・・・一体何のためにジェスチャーで知らせたと思っているんですか?」

 不意をつき相手を捕まえるつもりであったクラウドは恨めしそうな目でバダックを見ている。

「まぁ、してしまった事は仕方がないか。」

 ふぅとため息を吐きクラウドが続けて言う。

「バダック様の奥様、エリス様が助からないと言ったのは今のが理由です。」

「そ、そうかっ!」

 一呼吸おいてオーランが声を上げた。

「今度は何なのだコーランまで!」

「バダック様、今回の一件はやはり例の貴族の仕業ということでございます!

 さっき扉の前に居たのは諜報員ですねクラウド様?」

「な、本当かっ、クラウド殿!」

「ええ。おそらく間違いはないと思いますよ。

 先ほど私がエリス様を見て思ったことは一つ。病状が重すぎる、です。」

「「病状が重すぎる?」」

 バダックとコーランが同時に聞き返した。

「はい。普通毒にかかると一番最初が最も酷いものです。

 エリス様はそれに耐え抜き命を落とさなかった。

 ならば今は危篤状態を抜け小康状態のはずなのです。

 死にはしないが身体が動かない。この状態なら少しは病状は落ち着くものなのに、彼女は頬はこけ
身体はやせ細っている。まるで危篤状態が続いているようです。」

「つまり何が言いたい?早く言ってくれ!」

 急かすバダックにクラウドが告げた事は、バダックとコ-ランを激怒させた。

「つまり、現在もエリス様に毒を飲ませ続けている者が屋敷の中にいるということです。それも容体が急に悪化しないよう、長く苦しむように少しづつ飲ませていると思われます。

 それを何とかしない限りはいくら薬を飲んでも無駄ですよ。すぐまた毒にかかるのですから。」

「な、なんだとーーーっ!!」

「だからさっき捕まえたかったのに・・・」

 ぶつぶつとクラウドが呟くが、バダックとコーラルはそれどころではない。

「バダック様!大至急屋敷に居る者達を確認しなければ!

 身元や紹介者はもとより、友好関係まで徹底的に洗いましょう!」

「構わんやれっ、コーラン!

 今までは尻尾が掴め無かったからこそ反撃出来なかったが・・・

 ここまでやってくれたのだ!礼をせねばなるまい!!」

 2人は打つ手を相談し始める。あーでもない、こーでもないと必死のようだ。

 その横で
「なんだか燃えてるねクラウド・・・」

「そーだな・・・」
 2人が燃えている横でクラウドとルークはおいてきぼりであった。

 昼食も出ないまま、すでに夕方が近くなっている。

「飯でも食べに行くか・・・」
「うん・・・」


 邪魔にならないようそっと部屋を出ようとする2人にコーランが気づいた。

「クラウド様、ルーク様?

 どちらへ?」

 外食に行こうとしていたことを告げるとバダックが慌てだす。

「すまん!すっかり話しに夢中であった。コーラン、お2人に大至急食事の用意をいたせ。」

「かしこまりました。

 では食堂にお越しください。」

 聞くやいなや、部屋から飛び出るコーラン。

「今更ですが、お2人はただの村人である私たちに随分と礼を尽くして下さるのですね。」

 貴族としては珍しいと思いクラウドがバダックへと話しかける。

「何を言っている。我が妻を助け出してくれた2人は私にとっても大恩人。

 礼を尽くすことくらい当然だ。」

 食堂へ移動しながらそう言うバダックは自身についての話しを始めた。

 バダックは元々貴族の家系では無く、平民の生まれらしい。ある小さな村で生まれ冒険者を夢見て身体を鍛えていたそうだ。街まで出てきたときに街の近くまで魔物の襲撃があり、身を盾にして人を守る兵士を見て憧れた。

 自分もそうありたい。

 冒険者にはならず、そのまま兵士となるべく王都に行き厳しい試験に合格したそうだ。何度か兵役をこなす中で腕前を認められ、積み上げてきた功績により騎士爵に取り上げられたらしい。

「兵士と違い騎士は最下級とはいえ立派な貴族だ。嬉しかったな、あの時は。」

 懐かしむ様子に笑みがこぼれる。そんな中、コーランがバダックの食事も一緒に運んできた。どうやら3人で食事をすることになったようだ。

 妻のエリスとの出会いもその時で、騎士として随行していた途中の街である商家の次女として紹介を受けたらしい。何度か会う中で将来を誓い合うようになったという。

「騎士爵は貴族とは言え最下級の爵位だ。一代限りでもあるし、後継者は必要ない。

 もし後継者が必要なら子供の血筋だなんだと色々面倒な話しになるが、気にせずにいられて気楽だったのだが・・・」

 騎士の中でも指折りの腕であったバダックはある時、外交へと出向く王族の警護役を任せられることになり、他国からの陰謀渦巻く刺客から見事その王族を守り切ったことで男爵に叙勲される。その後、その時の王族に気に入られ数年後に子爵の爵位を得ることになったそうだ。
 あっという間に子爵にまでなったバダックではあるが、そもそも生まれが平民であることから周りには疎まれていたらしい。

「まあ文句があるといっても、それを表だって見せん貴族ばかりでな。もう面倒としか言いようがないんだよっ!」

 食事の席で酒が入りだしたバダックには既に貴族としての威厳は無い。苦笑いを続けるクラウドとルークの元にコーランがやって来たのはついさっき。

 妻のエリスが助かる目途が立ったことで、彼の肩からは背負っていた重荷が消えた。嬉しさのあまり羽目を外してしまったようで、それを察したコーランが「恩人のお2人にこんな事まで頼むのは心苦しいのですが」と前置きした上で無理なく我慢出来る限りで自分の主に付き合って頂きたいと頭を下げたのであった。

「これほど嬉しそうなバダック様は本当に久しぶりで・・。」

 そう言うコーランもまた心から笑っている。

「コーランさんはどうしてバダック様に仕えてるんです?」

 まるで本当の身内の様にバダックに接するコーランを不思議に思いクラウドが尋ねる。

「数年前、私が住んでいた街が大勢の盗賊に襲われました。偶々居合わせた騎士や兵士達も多勢に無勢と逃げ出す中、バダック様だけは増援が来るまで民を率いて戦い続けてくれました。

 私の家族が殺されなかったのは間違いなくバダック様のおかげです。この前病死した父の遺言が『私たち家族の恩義を必ず返してくれ』でした。

 勿論言われるまでも無いんですがね。」

 そう言うとパチリと目くばせして見せたコーラン。

「(コーランさんも以外に茶目っ気があるな・・・)」

 そんなことを考えながら聞いてしまっては仕方ないとルークを早めに部屋へと戻す。

「(はぁ、このおっさん酒も強いんだろうな・・・)

 さーて、ここから先は腹を括るとするか~!」

 気合を入れなおしたクラウドとバダックの酒盛りはその夜遅くまで続いたのであった。


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