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第1章 古代の魔法使い
街中散策
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メイソンがさっそく傷薬の試作に入るというので邪魔にならないようにと店を出て来たクラウドとルーク。既に店には閉店の札がかかっているのだが、その訳はアイリスがクラウド達ともっと一緒にいたいと言い出し店番から逃げ出したためである。
可愛い妹の頼みを無碍に出来なかった2人は3人で外に出た。
「もうバダックさんのところに帰るの?」
「さっき出て来たばかりだろ?まだ戻らなくてもいいさ。それより少し寄りたいところがある。」
「「寄りたいところ?」」
2人が声を重ねて聞いてくる。
そんな3人で歩いた先には大きな建物があった。周囲の建物よりも一回りは大きく、さらには隣接するように倉庫のようなものまである。実質本位で飾り気がないその建物の看板には「冒険者ギルド」と書いてあった。
「おっ、やっぱりあったか。さっきからそれらしい奴らがこっちから来てたからあると思ったんだよな。」
クラウドはそう言いながら扉を開けて中に入る。入り口すぐに広めのホールがあり右手には大きなカウンターがあって女性が3人立っている。左手は無数の紙が張り出されている大きな板があり、その奥は広い食堂のようであった。
「ここが受付?」
声をかけながらカウンターに歩いていく。
「はい、そうです。本日はどのような御用でしょうか?」
3人いる受付のうち左右は先客がいたためクラウド達は真ん中の空いているカウンターに向かう。立っていた女性は非常に端整な顔立ちで肩下あたりまで伸びた髪は軽くカールしている。ほっそりとした肢体でありながらふくよかな胸は品のある程度に主張しており、うっすらとした化粧だけで愛想良く微笑んでいた。
「今日は冒険者の登録がしたくて来たんです。全員分お願いします。」
「えっ、僕も?」
「わ、私もするの、クラウド兄ちゃん?」
「ああ、せっかく皆で来たんだから登録していこうぜ。だってここの登録証があれば街に入るのに銀貨が要らなくなるし、あれば色々便利そうだぞ?」
それを聞いた受付嬢が少し困ったような顔で言ってきた。
「あのぉ、申し訳ないんですが冒険者登録は10歳からですのでそちらのお2人は無理かと・・・」
「え?そうなの?
それじゃ仕方ないや、俺だけでいいよ。」
そう言うクラウドに受付嬢は登録用紙を差し出した。その紙には名前、職業、適正属性、スキルを書く欄があるだけの簡単なものである。クラウドは職業に魔法使い、適正属性・スキルに無しと書いた。その用紙を見ながら隣の冒険者が話しに割り込んできた。
「がっはっはっ!残念だったなおにいちゃん!でもな通行証の代わりが欲しいから冒険者登録なんて舐めた真似してんじゃねえぞクソガキが!しかも適正属性は無しで魔法使いだあ?その歳して無役の野郎が今更夢見てんじゃねえ!」
「やめろディオス。そんな初心者にわざわざ絡むんじゃねえよ面倒くせえ。」
ディオスと呼ばれた大柄で粗暴な男とそれを止める長髪細身な男の2人組の受付していた受付嬢が割って入る。小柄で短めの髪をまとめもせずにいるがそれが逆に健康美とも言える雰囲気を彼女に持たせている。
「ちょっとちょっと。ディオスさんもレイバーさんも絡まないでくださいよぅ。」
「エマちゃんはちょっと黙ってな。俺はこういう人生舐めた奴らが許せねえんだよ。俺たち冒険者は命をかける商売だってのによ。冒険者登録をするって事は、お前達は今から命のやりとりを始めるってことなんだぜ?
こういうふうによっ!」
話し終わると同時にディオスがルークに殴りかかろうとした。右の拳を振り上げ、その勢いのままに振り下ろす。
はずであった・・・
しかし拳が振り下ろされることは無かった。
何故なら振り下ろした腕に拳が無いのだから。
完璧にルークの左頬に叩き込んだはずの右拳。しかし右腕は肘から先が無くなっている。一瞬何が起こったのか分からなかったディオスがルークから一歩下がった場所にいたクラウドの姿を視界の端に捉えた。
その手には見慣れた右腕が握られている。
「お、お、おまっ・・」
咄嗟に言葉が出ずにどもる。何をしたのか分かった者はこの場には居ない。ただ、起こった事態に気づいたのはディオス本人とそれぞれを受付していた受付嬢2人とルークのみ。アイリスとレイバーはそれぞれクラウドとディオスの体に隠れて見えていない。
「悪く思うな。いきなりルークを襲うからだよ。大体命のやり取りをしようとした男が腕一本くらいで驚くんじゃない。」
何の感情も持っていないように淡々と正論を話すクラウド。数歩前に進みディオスの前まで来たところで持っていた腕をすいっと持ち上げた。
ディオスの腕からはようやく血が滲みだしている。
「あ、ああっ・・・」
涙目になったディオスを余所に、持ち上げた腕が千切れている肘と合わさる。と、それと同時に直径20cmほどの小さな魔法陣がその接合部に現れた。
結果、ものの2秒で腕は元通りに治り、後にはわずかに血が滲んだ袖口があるのみであった。
「驚かせて悪かった。まぁ心配して貰わなくても命のやりとりをする心構えは出来てるよ。もちろんこの2人の分も含めてね。」
そう言ってポンポンと肩をたたく。
ぼーぜんとしている相棒にレイバーが声をかける。
「おい、どうしたんだディオス?」
「い、いや、な、何でもねえ・・・。それより早く行こうぜ・・・」
冒険者ランクで言うと曲がりなりにも中堅クラスにまでなったディオス。それが何をされたのかも分からないなど普通では無い。彼が出した結論は一刻も早くここを去ることであった。それだけ言うと早足で冒険者ギルドを出ていく。
「おい、待てよ。まだクエスト依頼の受付が出来てないんだぞ!」
文句を言いながらレイバーがギルドを後にした。残されたのはクラウド達3人と受付嬢2人。気づけば左側で受付をしていた冒険者達は用事を済ませたようでカウンターから離れていく。冒険者同士の喧嘩など珍しいことでもない為気にもしていないようだ。
「それじゃあ改めてこれ頼む。」
そう言って登録用紙を受付嬢に差し出す。
「あっ、はい・・・」
若干呆けながらも仕事をこなす受付嬢。すると登録はすぐ終わったようでカウンターへと戻ってきた。
「あの、登録についての説明は必要でしょうか?」
「お願いするよ。」
「はい、では説明は私ルティアがさせていただきます!」
品の良い胸をフンと張りながら冒険者ギルドについて説明をしていくルティア。その話しによると要点は
①ランクは高い順に
S:最上位冒険者
A:達人
B:ベテラン
C:一人前
D:駆け出し
E:見習い
とあり、Cランクまでは依頼の達成状況で昇格できるがB以上はギルド関係者の推薦が必要。
また、クエストと呼ばれる依頼にもランクがあり、受けられるのは自身のランク以下であるがパーティを組めば代表者のランクで依頼が受けられる。
*一部に特殊依頼といってランクに関係なく受けられる依頼がある。
②ランクに応じて買取や施設使用に特典があるが、上位ランク者(Bランク以上)はギルドからの指名依頼が発生する。(個人からの指名依頼は拒否可能だが、ギルドからの指名依頼は拒否不可)
③冒険者同士のもめごとは基本的に当事者同士で解決すること。
④クエストを受けない期間がどれほどあっても罰則はないが、ランク昇格の判断材料にはなる。
といった具合であった。
「うん、大体は思っていた通りかな、ありがとう。冒険者の身分証は何日くらいで出来ますか?」
「はい、冒険者カードは大体10日くらいでご準備出来ます。」
「結構かかるんだね?」
「ええ、内容を書き込む魔導具は各ギルド支部にもあるんですが、カードそのものを発行するのは特殊な魔導具と材料が要るんです。その魔導具は王都のギルド本部でないと置いてなくて、輸送の関係でどうしても時間がかかっちゃうんですよ。」
「そうなの?それなら仕方ないか。置いといてくれるんだろ?すぐには来れないかもしれないから。」
「はい、それは大丈夫ですよ。2か月以内に取りに来てくださいね。」
そう答えたルティアが、ようやく本題に入れるという表情でついさっき起こったことを聞く。
「ではこれで登録についての説明は終了です。
それでクラウド様、さきほどのディオスさんとのやり取りなんですが・・・。何か腕が無くなってそれからすぐにくっついたように見えたんですが・・・」
「悪いですけど見たままですよ。それよりこっちは登録できなかった身内が2人居るんでね。退屈しているみたいだからこれでお暇しますので。」
そう言って3人は出ていった。
「一体何だったんだろうねエマちゃん・・・?」
「うん、あんなの初めて見たねぇルティアさん・・・」
後に残った2人は首をかしげていた。
それからしばらく経って、ミルトアの街に凄腕の幻術使いが現れたという噂が流れ出すのであった。
可愛い妹の頼みを無碍に出来なかった2人は3人で外に出た。
「もうバダックさんのところに帰るの?」
「さっき出て来たばかりだろ?まだ戻らなくてもいいさ。それより少し寄りたいところがある。」
「「寄りたいところ?」」
2人が声を重ねて聞いてくる。
そんな3人で歩いた先には大きな建物があった。周囲の建物よりも一回りは大きく、さらには隣接するように倉庫のようなものまである。実質本位で飾り気がないその建物の看板には「冒険者ギルド」と書いてあった。
「おっ、やっぱりあったか。さっきからそれらしい奴らがこっちから来てたからあると思ったんだよな。」
クラウドはそう言いながら扉を開けて中に入る。入り口すぐに広めのホールがあり右手には大きなカウンターがあって女性が3人立っている。左手は無数の紙が張り出されている大きな板があり、その奥は広い食堂のようであった。
「ここが受付?」
声をかけながらカウンターに歩いていく。
「はい、そうです。本日はどのような御用でしょうか?」
3人いる受付のうち左右は先客がいたためクラウド達は真ん中の空いているカウンターに向かう。立っていた女性は非常に端整な顔立ちで肩下あたりまで伸びた髪は軽くカールしている。ほっそりとした肢体でありながらふくよかな胸は品のある程度に主張しており、うっすらとした化粧だけで愛想良く微笑んでいた。
「今日は冒険者の登録がしたくて来たんです。全員分お願いします。」
「えっ、僕も?」
「わ、私もするの、クラウド兄ちゃん?」
「ああ、せっかく皆で来たんだから登録していこうぜ。だってここの登録証があれば街に入るのに銀貨が要らなくなるし、あれば色々便利そうだぞ?」
それを聞いた受付嬢が少し困ったような顔で言ってきた。
「あのぉ、申し訳ないんですが冒険者登録は10歳からですのでそちらのお2人は無理かと・・・」
「え?そうなの?
それじゃ仕方ないや、俺だけでいいよ。」
そう言うクラウドに受付嬢は登録用紙を差し出した。その紙には名前、職業、適正属性、スキルを書く欄があるだけの簡単なものである。クラウドは職業に魔法使い、適正属性・スキルに無しと書いた。その用紙を見ながら隣の冒険者が話しに割り込んできた。
「がっはっはっ!残念だったなおにいちゃん!でもな通行証の代わりが欲しいから冒険者登録なんて舐めた真似してんじゃねえぞクソガキが!しかも適正属性は無しで魔法使いだあ?その歳して無役の野郎が今更夢見てんじゃねえ!」
「やめろディオス。そんな初心者にわざわざ絡むんじゃねえよ面倒くせえ。」
ディオスと呼ばれた大柄で粗暴な男とそれを止める長髪細身な男の2人組の受付していた受付嬢が割って入る。小柄で短めの髪をまとめもせずにいるがそれが逆に健康美とも言える雰囲気を彼女に持たせている。
「ちょっとちょっと。ディオスさんもレイバーさんも絡まないでくださいよぅ。」
「エマちゃんはちょっと黙ってな。俺はこういう人生舐めた奴らが許せねえんだよ。俺たち冒険者は命をかける商売だってのによ。冒険者登録をするって事は、お前達は今から命のやりとりを始めるってことなんだぜ?
こういうふうによっ!」
話し終わると同時にディオスがルークに殴りかかろうとした。右の拳を振り上げ、その勢いのままに振り下ろす。
はずであった・・・
しかし拳が振り下ろされることは無かった。
何故なら振り下ろした腕に拳が無いのだから。
完璧にルークの左頬に叩き込んだはずの右拳。しかし右腕は肘から先が無くなっている。一瞬何が起こったのか分からなかったディオスがルークから一歩下がった場所にいたクラウドの姿を視界の端に捉えた。
その手には見慣れた右腕が握られている。
「お、お、おまっ・・」
咄嗟に言葉が出ずにどもる。何をしたのか分かった者はこの場には居ない。ただ、起こった事態に気づいたのはディオス本人とそれぞれを受付していた受付嬢2人とルークのみ。アイリスとレイバーはそれぞれクラウドとディオスの体に隠れて見えていない。
「悪く思うな。いきなりルークを襲うからだよ。大体命のやり取りをしようとした男が腕一本くらいで驚くんじゃない。」
何の感情も持っていないように淡々と正論を話すクラウド。数歩前に進みディオスの前まで来たところで持っていた腕をすいっと持ち上げた。
ディオスの腕からはようやく血が滲みだしている。
「あ、ああっ・・・」
涙目になったディオスを余所に、持ち上げた腕が千切れている肘と合わさる。と、それと同時に直径20cmほどの小さな魔法陣がその接合部に現れた。
結果、ものの2秒で腕は元通りに治り、後にはわずかに血が滲んだ袖口があるのみであった。
「驚かせて悪かった。まぁ心配して貰わなくても命のやりとりをする心構えは出来てるよ。もちろんこの2人の分も含めてね。」
そう言ってポンポンと肩をたたく。
ぼーぜんとしている相棒にレイバーが声をかける。
「おい、どうしたんだディオス?」
「い、いや、な、何でもねえ・・・。それより早く行こうぜ・・・」
冒険者ランクで言うと曲がりなりにも中堅クラスにまでなったディオス。それが何をされたのかも分からないなど普通では無い。彼が出した結論は一刻も早くここを去ることであった。それだけ言うと早足で冒険者ギルドを出ていく。
「おい、待てよ。まだクエスト依頼の受付が出来てないんだぞ!」
文句を言いながらレイバーがギルドを後にした。残されたのはクラウド達3人と受付嬢2人。気づけば左側で受付をしていた冒険者達は用事を済ませたようでカウンターから離れていく。冒険者同士の喧嘩など珍しいことでもない為気にもしていないようだ。
「それじゃあ改めてこれ頼む。」
そう言って登録用紙を受付嬢に差し出す。
「あっ、はい・・・」
若干呆けながらも仕事をこなす受付嬢。すると登録はすぐ終わったようでカウンターへと戻ってきた。
「あの、登録についての説明は必要でしょうか?」
「お願いするよ。」
「はい、では説明は私ルティアがさせていただきます!」
品の良い胸をフンと張りながら冒険者ギルドについて説明をしていくルティア。その話しによると要点は
①ランクは高い順に
S:最上位冒険者
A:達人
B:ベテラン
C:一人前
D:駆け出し
E:見習い
とあり、Cランクまでは依頼の達成状況で昇格できるがB以上はギルド関係者の推薦が必要。
また、クエストと呼ばれる依頼にもランクがあり、受けられるのは自身のランク以下であるがパーティを組めば代表者のランクで依頼が受けられる。
*一部に特殊依頼といってランクに関係なく受けられる依頼がある。
②ランクに応じて買取や施設使用に特典があるが、上位ランク者(Bランク以上)はギルドからの指名依頼が発生する。(個人からの指名依頼は拒否可能だが、ギルドからの指名依頼は拒否不可)
③冒険者同士のもめごとは基本的に当事者同士で解決すること。
④クエストを受けない期間がどれほどあっても罰則はないが、ランク昇格の判断材料にはなる。
といった具合であった。
「うん、大体は思っていた通りかな、ありがとう。冒険者の身分証は何日くらいで出来ますか?」
「はい、冒険者カードは大体10日くらいでご準備出来ます。」
「結構かかるんだね?」
「ええ、内容を書き込む魔導具は各ギルド支部にもあるんですが、カードそのものを発行するのは特殊な魔導具と材料が要るんです。その魔導具は王都のギルド本部でないと置いてなくて、輸送の関係でどうしても時間がかかっちゃうんですよ。」
「そうなの?それなら仕方ないか。置いといてくれるんだろ?すぐには来れないかもしれないから。」
「はい、それは大丈夫ですよ。2か月以内に取りに来てくださいね。」
そう答えたルティアが、ようやく本題に入れるという表情でついさっき起こったことを聞く。
「ではこれで登録についての説明は終了です。
それでクラウド様、さきほどのディオスさんとのやり取りなんですが・・・。何か腕が無くなってそれからすぐにくっついたように見えたんですが・・・」
「悪いですけど見たままですよ。それよりこっちは登録できなかった身内が2人居るんでね。退屈しているみたいだからこれでお暇しますので。」
そう言って3人は出ていった。
「一体何だったんだろうねエマちゃん・・・?」
「うん、あんなの初めて見たねぇルティアさん・・・」
後に残った2人は首をかしげていた。
それからしばらく経って、ミルトアの街に凄腕の幻術使いが現れたという噂が流れ出すのであった。
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