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第1章 古代の魔法使い
再会
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「ここだここだ。」
カランカランと乾いた音が店内に響く。
トント村からミルトアの街までくる旅の途中で知り合ったメイソンに会うため、クラウドとルークは教えられた店に来ている。
「いらっしゃいま・・・!
クラウドさん!ルークさん!」
店にいたのはアイリスであった。
「よっ。もう随分と元気だな。」
「はい!もうすっかり良くなって!」
3人で再会を喜んでいると店の奥からメイソンが出てきた。
「こらアイリス。お客様がいるというのに何を騒いでいる。」
「お父さん、クラウドさんとルークさんだよ!」
「何っ!
おおっ!お2人共やっと来てくれましたか!」
旅の途中で娘の命を救ってくれた恩人がやって来てくれたとメイソンはご機嫌である。
「メイソンさんも元気そうだね。」
そう言われたメイソンは苦笑いを浮かべる。
「?どうかしたのメイソンさん?」
その表情が気になったルークが事情を尋ねた。
「いやなに、今回の仕事の旅は魔物に襲われたでしょう?逃げる時に身軽になる為いくらか荷物を捨てましたからね。赤字を出してしまいましてね、頭の痛いことですよ、ははは。」
頭をかきながらそう笑うメイソンがお茶でもどうぞと皆を奥へと招いた。
しばらく談笑した後で赤字を出したという行商の旅について尋ねると他地域の特産品等の仕入れに行って来たという。
「特産品ね。ミルトアにはどんなものがあるんだい?」
「ミルトアの街は南部都市の中でも一番の田舎街です。他の地域のような特産品はありませんよ。」
そう言うメイソンにクラウドは答える。
「確かに地域特有の特産品もあるかもしれないが、無いなら自分達で考えてもいいんじゃないか?」
「自分達で?」
不思議そうに尋ねるアイリス。しかしクラウドは当然のごとく頷く。聞いてみると一般的に言う特産品とは元々その地域の風土や気温に基づいて栄えてきたものが多い。川や海に隣接する街は魚介類、地域の気候に合った農作物やそれを使った名物料理などだそうだ。
「例えば新しい調理法や素材なんかがそうだね。」
「簡単に言いますが・・・」
少し不愉快そうに話しを遮ろうとしたメイソンの言葉を止めクラウドは続ける。
「アイリスちゃんが死にかけた時のこと覚えてる?」
「そ、それはもちろん。ですがそれがどうしたんです?」
「その時に使った傷薬の作り方教えてあげようか?」
「な、なんですとっ!?」
娘のアイリスが腹部を噛まれ死にかけた時、いとも簡単に治してみせたクラウド。その時の傷薬の効き目の凄まじさは、まさに身をもって知っている。メイソンはそれをクラウド秘伝の薬だと直感し、娘の恩人であるクラウドに迷惑をかけまいと敢えて聞かなかった。
「ですが、それはクラウド殿の秘伝では・・・?」
ちなみにクラウドにも秘伝の薬は存在する。古代の魔法使い達は自分の研究を行う上で、普段使う研究所の他に他者に明かさない秘密基地を持つことが一般的だった。|塒(ねぐら)と呼ばれるその施設は人によって様々である。ある者は断崖絶壁の壁に横穴を掘って作り、またある者は巨大な湖の底に魔法障壁で囲いを作ってその中に作り、またある者は長寿である巨大な魔物の体の一部に作ったりする者までいた。
塒に招待するということは魔法使いにとって本当に信頼した相手という証拠である。なお、現時点でクラウドは自分の塒に人を招待したことは無い。ルークやタニア・マーサさんには是非とも来て欲しいと考えているが、場所が場所だけに中々招待しにくいのであった。その場所は・・・
「(なかなか言う機会が無いんだよな・・・。上空8,000mに家が浮かんでいるなんて。)」
彼は家と言っているが正確には家では無い。浮かんでいるのは地面である。直径約2km四方の台地が浮かんでおり、その最高部にはクラウド自慢の塒、通称『スカイパレス』が建っている。周囲の豊富な魔力に惹かれて精霊や妖精はもとより、霊獣(神格を得た獣)などもよくやって来るというデタラメさであった。
またそこにはクラウドが昔集めてきたあらゆる研究資材が運び込まれており、その中には世界樹の苗木もある。水の上位精霊が生み出した浄化作用を持つ水に大量の魔力を流し、そこに根を浸けることで葉や幹から露となって染み出す液体。世界樹の体内を通ることで生命力に溢れるその液体は『生命の霊液』と言い、クラウドが作る秘薬は全てこれが原材料となる。
「(いっけねえ。一度出向いて片付けないとな・・・)」
クラウドはこれまで地下の研究室に引きこもっていた間ほったらかしていたことを思い出し、近いうちに掃除に行こうと考えた訳だが・・・・
スカイパレスには生命の霊液を始め、時間をかけて少しずつ少しずつ抽出する素材が数多くある。しかし1,000年間もほったらかされた結果それらは保管用の巨大コンテナや巨大タンクからさえ溢れかえっていることをクラウドはまだ知らなかった・・・
「!?
はははっ、こんなのが秘伝な訳ないよ。」
そう笑うクラウドにメイソンは目を丸くする。説明を聞いてみると驚いたことに、その傷薬は一般的な傷薬と材料が全く変わらないという。ただ作るのに7倍程材料が多く必要なだけ。要は薬草の過熱方法と薬効成分の抽出方法だと何の惜しみもなく教えるクラウド。
「なんと・・・。煎じ方を変えるだけであれほどの効果になるのですか?」
あまりに簡単なその方法にメイソンも驚いている。
「さ、さっそく作ってみますよ。」
そうやる気を見せるメイソン。クラウドにしてみれば唯の傷薬であるが、この世界において一般人が上級アイテムを手に入れるのは不可能に近い。その需要の大きさは計り知れないものがある。
その後、特製傷薬の製造方法を確立させたロズウェル商会はその傷薬を『九死一生』と名付け販売を開始。ミルトアの街から国中に一大需要を巻き起こし、数々の冒険者や兵士達がこぞって求めその命の危機を救われることになる。
カランカランと乾いた音が店内に響く。
トント村からミルトアの街までくる旅の途中で知り合ったメイソンに会うため、クラウドとルークは教えられた店に来ている。
「いらっしゃいま・・・!
クラウドさん!ルークさん!」
店にいたのはアイリスであった。
「よっ。もう随分と元気だな。」
「はい!もうすっかり良くなって!」
3人で再会を喜んでいると店の奥からメイソンが出てきた。
「こらアイリス。お客様がいるというのに何を騒いでいる。」
「お父さん、クラウドさんとルークさんだよ!」
「何っ!
おおっ!お2人共やっと来てくれましたか!」
旅の途中で娘の命を救ってくれた恩人がやって来てくれたとメイソンはご機嫌である。
「メイソンさんも元気そうだね。」
そう言われたメイソンは苦笑いを浮かべる。
「?どうかしたのメイソンさん?」
その表情が気になったルークが事情を尋ねた。
「いやなに、今回の仕事の旅は魔物に襲われたでしょう?逃げる時に身軽になる為いくらか荷物を捨てましたからね。赤字を出してしまいましてね、頭の痛いことですよ、ははは。」
頭をかきながらそう笑うメイソンがお茶でもどうぞと皆を奥へと招いた。
しばらく談笑した後で赤字を出したという行商の旅について尋ねると他地域の特産品等の仕入れに行って来たという。
「特産品ね。ミルトアにはどんなものがあるんだい?」
「ミルトアの街は南部都市の中でも一番の田舎街です。他の地域のような特産品はありませんよ。」
そう言うメイソンにクラウドは答える。
「確かに地域特有の特産品もあるかもしれないが、無いなら自分達で考えてもいいんじゃないか?」
「自分達で?」
不思議そうに尋ねるアイリス。しかしクラウドは当然のごとく頷く。聞いてみると一般的に言う特産品とは元々その地域の風土や気温に基づいて栄えてきたものが多い。川や海に隣接する街は魚介類、地域の気候に合った農作物やそれを使った名物料理などだそうだ。
「例えば新しい調理法や素材なんかがそうだね。」
「簡単に言いますが・・・」
少し不愉快そうに話しを遮ろうとしたメイソンの言葉を止めクラウドは続ける。
「アイリスちゃんが死にかけた時のこと覚えてる?」
「そ、それはもちろん。ですがそれがどうしたんです?」
「その時に使った傷薬の作り方教えてあげようか?」
「な、なんですとっ!?」
娘のアイリスが腹部を噛まれ死にかけた時、いとも簡単に治してみせたクラウド。その時の傷薬の効き目の凄まじさは、まさに身をもって知っている。メイソンはそれをクラウド秘伝の薬だと直感し、娘の恩人であるクラウドに迷惑をかけまいと敢えて聞かなかった。
「ですが、それはクラウド殿の秘伝では・・・?」
ちなみにクラウドにも秘伝の薬は存在する。古代の魔法使い達は自分の研究を行う上で、普段使う研究所の他に他者に明かさない秘密基地を持つことが一般的だった。|塒(ねぐら)と呼ばれるその施設は人によって様々である。ある者は断崖絶壁の壁に横穴を掘って作り、またある者は巨大な湖の底に魔法障壁で囲いを作ってその中に作り、またある者は長寿である巨大な魔物の体の一部に作ったりする者までいた。
塒に招待するということは魔法使いにとって本当に信頼した相手という証拠である。なお、現時点でクラウドは自分の塒に人を招待したことは無い。ルークやタニア・マーサさんには是非とも来て欲しいと考えているが、場所が場所だけに中々招待しにくいのであった。その場所は・・・
「(なかなか言う機会が無いんだよな・・・。上空8,000mに家が浮かんでいるなんて。)」
彼は家と言っているが正確には家では無い。浮かんでいるのは地面である。直径約2km四方の台地が浮かんでおり、その最高部にはクラウド自慢の塒、通称『スカイパレス』が建っている。周囲の豊富な魔力に惹かれて精霊や妖精はもとより、霊獣(神格を得た獣)などもよくやって来るというデタラメさであった。
またそこにはクラウドが昔集めてきたあらゆる研究資材が運び込まれており、その中には世界樹の苗木もある。水の上位精霊が生み出した浄化作用を持つ水に大量の魔力を流し、そこに根を浸けることで葉や幹から露となって染み出す液体。世界樹の体内を通ることで生命力に溢れるその液体は『生命の霊液』と言い、クラウドが作る秘薬は全てこれが原材料となる。
「(いっけねえ。一度出向いて片付けないとな・・・)」
クラウドはこれまで地下の研究室に引きこもっていた間ほったらかしていたことを思い出し、近いうちに掃除に行こうと考えた訳だが・・・・
スカイパレスには生命の霊液を始め、時間をかけて少しずつ少しずつ抽出する素材が数多くある。しかし1,000年間もほったらかされた結果それらは保管用の巨大コンテナや巨大タンクからさえ溢れかえっていることをクラウドはまだ知らなかった・・・
「!?
はははっ、こんなのが秘伝な訳ないよ。」
そう笑うクラウドにメイソンは目を丸くする。説明を聞いてみると驚いたことに、その傷薬は一般的な傷薬と材料が全く変わらないという。ただ作るのに7倍程材料が多く必要なだけ。要は薬草の過熱方法と薬効成分の抽出方法だと何の惜しみもなく教えるクラウド。
「なんと・・・。煎じ方を変えるだけであれほどの効果になるのですか?」
あまりに簡単なその方法にメイソンも驚いている。
「さ、さっそく作ってみますよ。」
そうやる気を見せるメイソン。クラウドにしてみれば唯の傷薬であるが、この世界において一般人が上級アイテムを手に入れるのは不可能に近い。その需要の大きさは計り知れないものがある。
その後、特製傷薬の製造方法を確立させたロズウェル商会はその傷薬を『九死一生』と名付け販売を開始。ミルトアの街から国中に一大需要を巻き起こし、数々の冒険者や兵士達がこぞって求めその命の危機を救われることになる。
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