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第2章 異世界勇者
ドラン連邦国②
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ドラン連邦国の首都サン・ミゲルの王城の謁見室でレムス国王と召喚した勇者達が参加して今後に関わる重大な会議が開かれていた。
「いい加減にしてくれ、そもそもお前達も納得した話であっただろう?」
「それは分かってます。しかし、実際にやってみるのとでは違っても仕方ないでしょう?」
彼らは今、レムリア皇国撃破後の戦勝報告を行なっている。
しかしその中で「もう戦争はしたく無い」と言う勇者達が今回の手柄を盾にして今後の参戦を断ろうとしていた。
実際に人を斬り、放った魔法で敵を殺した訳であるが彼ら勇者達は自分達の魔法の強さを戦場で初めて自覚した。焼けただれながら死んだりなます切りにされて死んでいった敵兵の亡骸を見て戦意を無くしてしまったのであった。
元々が僅かな準備期間で行われた戦争である。ドラン連邦国の国王達は勇者達が平和な世界で生きてきたことなど知らなかった。というよりも、彼らからすれば戦争の無い世界があるなど考えもしなかったのだ。
そのため準備期間は全て戦いの技術を覚えてもらうのに使いメンタルケアについては考えてもいなかった。
「しかしそうは言っても我々は既に三大国の1つを落としたのだ。始まった戦争はそう簡単には終わらん。他の国々から守るためにもお前達には戦場に立ってもらわねばならん!」
かたやレムリア皇国を撃破した実力を他国に見せたドラン連邦国。今後周囲の国から危険視されるのは間違いない。そのためにも勇者の戦闘力をそう簡単に諦めるわけにはいかない。
かたや戦争の悲惨さをまざまざと見せつけられた勇者達。半数以上が戦意を喪失している。
会議はずっと平行線である。
「ええい、埒が開かん。一旦休憩じゃ!お前達も意見を纏めてくれ。」
レムスにより小休憩が挟まれた。
今勇者達は3つのグループに分かれている。
一つ目は非戦派と呼ばれるグループ。
召喚当初から戦争を含む戦い全てに反対し、レムリア皇国とも最後まで交渉を続けるべきと主張していた。ケンタ・エンドウをリーダーとした6人グループである。
二つ目は参戦派と呼ばれるグループ。
当初は1番人数が少なかったが、ドラン連邦国より与えられる特権とも言える身分を餌に少しずつ数を増やした。依然として戦争には(相応の報酬があるなら)参加すると主張するタケヒコ・ヨシムラをリーダーとする15人。
最後の三つ目が穏健派と呼ばれるグループ。
僅か3人であったが戦意喪失を機に10人に増加。戦争には参加しないがそれ以外での協力なら考えると主張するミユキ・ニシモトをリーダーとするグループである。
各グループのリーダーが集まり話し合いが始まった。
「いい加減にしろよ!お前らも分かってんだろ!俺らはよく知りもしない世界に呼び出されたんだ。頼れる奴なんか1人も居ねぇんだぞ!今俺達を1番優遇してくれんのはこの国なんだ。戦争で誰が死のうが良いじゃねぇか。大事なのは俺ら自身だろ?」
「でも、人と殺し合うのなんか絶対に嫌よ。それより私達の力を使えば戦争以外でも絶対に役に立てるって!」
タケヒコとミユキが意見をぶつける中、ケンタだけが無言であった。彼は既に戦争が起こりクラスメイト達が大勢の敵兵を殺したことで、自分が主張していた非戦が無視されたと憤っておりクラスメイト達の声に耳を貸そうとしなかった。
その後の話し合いで結局は参戦派は引き続き戦場に立つことになり、穏健派は戦場には立たないものの裏工作などの特殊部隊兼対魔物の戦闘を行うことを了承する。
非戦派は穏健派に組み込まれるか全ての特権を放棄して農奴として村で暮らすかの2択を迫られ4人が穏健派となるが、元リーダーのケンタとその幼馴染アカネが一度は農奴になると了承したものの数日後に失踪しドラン連邦国から姿を消すことになる。
その後の会議で国王と勇者達はお互いの意見を交わす。
その結果、参戦派は今まで通り戦争に参加する代わりにこれまで同様の特権を保証することの約束を得、穏健派は特殊部隊として扱う代わりに一部の特権を放棄することで話しはついた。
結局戦場では勇者という戦力が半減することになったドラン連邦国。
レムス国王は勇者の半数近くが戦争に不参加と決まった事で早急に軍備強化を進めなければと考えていた。
その結果、穏健派の勇者達には魔物の討伐が言い渡される。強力な魔物でも勇者なら討伐出来るはず。その魔物の素材で武具を充実させれば良いと考えたのだ。
その後周囲の魔物を順調に討伐していたのだが、ある魔物の巣で問題が起きた。
今穏健派の勇者達は2つのグループに分かれて別行動をしている。
その内の一方、ナオキ・ケイスケ・ハルキ・モモコ・ナツミの5人は元レムリア皇国にある最も大きな魔物の領域である森に来ていた。
「はぁダルぅ~、結局魔物見つけて魔法撃つだけなのに何で5人も来てんだ?」
本来魔物の領域なら何十人居ようと足りないが、彼らは何の問題も無く魔物を倒していく。
さらに全員が全属性の魔法適正を持つ上に、人外とも言える魔力を持ち合わせている。
通常なら出会っただけで死亡が確定するような魔物さえファイアーボールのような初級魔法で倒してしまう上、無尽蔵とも言える魔力のおかげで手数も尋常ではない。
「マジそれな。1人居りゃ良かった気がするな。」
そんな軽口をかわしながら膝下ほどの小川のほとりを歩いていた時、それは起こった。
「う・・ぐぐっ・・」
いきなり最後方を歩いていたハルキが苦しみだす。
「ん?どうしたのハルキ君?」
モモコの言葉にも反応せず蹲(うずくま)ってしまう。
「どうした?」
「大丈夫かハル・・・ひぃっ!し、死んでる!」
ハルキは顔を紫色に変え泡をふきながら息絶えていた。
「どっ、どうして!!」
仲の良かった友達の死に動揺が広がる。
周囲に敵が潜んでいると確信した皆は周囲に手当たり次第魔法を打ち込んだ。
「ファイアーボール!」
「ファイアーランス!」
「ウォーターボール!」
「ウィンドカッター!」
通常の何十倍以上もの威力を秘めた魔法が周囲を破壊していく。
その結果、森は次々と破壊されその姿を変えていきレムリア皇国で最も巨大だった魔物の領域は荒野に変わる。しかし、狙いもつけずただ恐怖にかられ連射しただけの魔法は森は破壊したものの、そこに生息する魔物を多数討ち漏らす。
その結果、周囲には無数の魔物が散らばってしまうのだが、追い打ちとなったのが生態系の崩壊であった。
長い月日の果てに形成された生態バランスは外部から流れ込んでくる多数の魔物により狂わされた結果、周囲に更なる魔物の流出を引き起こす悪循環を繰り返す。
そして元レムリア皇国の領土はほとんどが多くの魔物が蔓延る魔物の領域に変わってしまうのであるが、それはもう少し後の話である。
「なんだこいつは!」
乱射していた魔法が止まった時、ハルキの影から体長60mほどのトカゲが出て来た。
「鑑定!」
鑑定スキルを持つナツミが鑑定を発動させる。そこに表示されたのは・・・
『種 族:シャドーリザード
ランク:A
特 徴
人の影に潜むことで潜んだ相手に影を通して致死の毒を送り込む。』
「シャドーリザード!こいつがハルキ君を毒殺したんだわ!」
すぐさまファイアーボールで焼き払う。すると、ほかの勇者達の影からも同様の魔物が出てきたのである。
「うおっ!俺たちの影からも出てきやがった!」
「くっそ!ウインドカッター!」
あっという間に討伐するが、自分達にもシャドーリザードが潜んでいるとは思っても無かった。
「なんてこった・・・。影に潜みながら毒にするなんて分かるかよぉっ!」
ナオキが吐き捨てる。
「でも助かったわ、毒耐性:MAXのスキルを持ってて。そういえばこのメンバーの中じゃハルキ君だけ毒耐性のスキルが無かったのね。」
他のメンバーは皆毒耐性のスキルを持っていたため助かったのであるが、ナツミがあることを思い出す。
「大変!ミユキ達の方って毒耐性持ってたっけ?」
「やばっ!すぐ連絡しよう!」
共に森へと来た別行動を取っているクラスメイトに連絡するが、時すでに遅くシャドーリザードの毒により毒耐性を持たないメンバー4人は全て死んでいたのであった。
ここで彼らは改めて知ることになる。
この世界には命の保証などない事を。自分達勇者であっても命を落とす事があるのだと。
その後ドラン連邦国に帰った彼らは仲間たちに事情を説明する。
勇者達が魔物との戦闘も渋りだしたのは言うまでもなかった。
「いい加減にしてくれ、そもそもお前達も納得した話であっただろう?」
「それは分かってます。しかし、実際にやってみるのとでは違っても仕方ないでしょう?」
彼らは今、レムリア皇国撃破後の戦勝報告を行なっている。
しかしその中で「もう戦争はしたく無い」と言う勇者達が今回の手柄を盾にして今後の参戦を断ろうとしていた。
実際に人を斬り、放った魔法で敵を殺した訳であるが彼ら勇者達は自分達の魔法の強さを戦場で初めて自覚した。焼けただれながら死んだりなます切りにされて死んでいった敵兵の亡骸を見て戦意を無くしてしまったのであった。
元々が僅かな準備期間で行われた戦争である。ドラン連邦国の国王達は勇者達が平和な世界で生きてきたことなど知らなかった。というよりも、彼らからすれば戦争の無い世界があるなど考えもしなかったのだ。
そのため準備期間は全て戦いの技術を覚えてもらうのに使いメンタルケアについては考えてもいなかった。
「しかしそうは言っても我々は既に三大国の1つを落としたのだ。始まった戦争はそう簡単には終わらん。他の国々から守るためにもお前達には戦場に立ってもらわねばならん!」
かたやレムリア皇国を撃破した実力を他国に見せたドラン連邦国。今後周囲の国から危険視されるのは間違いない。そのためにも勇者の戦闘力をそう簡単に諦めるわけにはいかない。
かたや戦争の悲惨さをまざまざと見せつけられた勇者達。半数以上が戦意を喪失している。
会議はずっと平行線である。
「ええい、埒が開かん。一旦休憩じゃ!お前達も意見を纏めてくれ。」
レムスにより小休憩が挟まれた。
今勇者達は3つのグループに分かれている。
一つ目は非戦派と呼ばれるグループ。
召喚当初から戦争を含む戦い全てに反対し、レムリア皇国とも最後まで交渉を続けるべきと主張していた。ケンタ・エンドウをリーダーとした6人グループである。
二つ目は参戦派と呼ばれるグループ。
当初は1番人数が少なかったが、ドラン連邦国より与えられる特権とも言える身分を餌に少しずつ数を増やした。依然として戦争には(相応の報酬があるなら)参加すると主張するタケヒコ・ヨシムラをリーダーとする15人。
最後の三つ目が穏健派と呼ばれるグループ。
僅か3人であったが戦意喪失を機に10人に増加。戦争には参加しないがそれ以外での協力なら考えると主張するミユキ・ニシモトをリーダーとするグループである。
各グループのリーダーが集まり話し合いが始まった。
「いい加減にしろよ!お前らも分かってんだろ!俺らはよく知りもしない世界に呼び出されたんだ。頼れる奴なんか1人も居ねぇんだぞ!今俺達を1番優遇してくれんのはこの国なんだ。戦争で誰が死のうが良いじゃねぇか。大事なのは俺ら自身だろ?」
「でも、人と殺し合うのなんか絶対に嫌よ。それより私達の力を使えば戦争以外でも絶対に役に立てるって!」
タケヒコとミユキが意見をぶつける中、ケンタだけが無言であった。彼は既に戦争が起こりクラスメイト達が大勢の敵兵を殺したことで、自分が主張していた非戦が無視されたと憤っておりクラスメイト達の声に耳を貸そうとしなかった。
その後の話し合いで結局は参戦派は引き続き戦場に立つことになり、穏健派は戦場には立たないものの裏工作などの特殊部隊兼対魔物の戦闘を行うことを了承する。
非戦派は穏健派に組み込まれるか全ての特権を放棄して農奴として村で暮らすかの2択を迫られ4人が穏健派となるが、元リーダーのケンタとその幼馴染アカネが一度は農奴になると了承したものの数日後に失踪しドラン連邦国から姿を消すことになる。
その後の会議で国王と勇者達はお互いの意見を交わす。
その結果、参戦派は今まで通り戦争に参加する代わりにこれまで同様の特権を保証することの約束を得、穏健派は特殊部隊として扱う代わりに一部の特権を放棄することで話しはついた。
結局戦場では勇者という戦力が半減することになったドラン連邦国。
レムス国王は勇者の半数近くが戦争に不参加と決まった事で早急に軍備強化を進めなければと考えていた。
その結果、穏健派の勇者達には魔物の討伐が言い渡される。強力な魔物でも勇者なら討伐出来るはず。その魔物の素材で武具を充実させれば良いと考えたのだ。
その後周囲の魔物を順調に討伐していたのだが、ある魔物の巣で問題が起きた。
今穏健派の勇者達は2つのグループに分かれて別行動をしている。
その内の一方、ナオキ・ケイスケ・ハルキ・モモコ・ナツミの5人は元レムリア皇国にある最も大きな魔物の領域である森に来ていた。
「はぁダルぅ~、結局魔物見つけて魔法撃つだけなのに何で5人も来てんだ?」
本来魔物の領域なら何十人居ようと足りないが、彼らは何の問題も無く魔物を倒していく。
さらに全員が全属性の魔法適正を持つ上に、人外とも言える魔力を持ち合わせている。
通常なら出会っただけで死亡が確定するような魔物さえファイアーボールのような初級魔法で倒してしまう上、無尽蔵とも言える魔力のおかげで手数も尋常ではない。
「マジそれな。1人居りゃ良かった気がするな。」
そんな軽口をかわしながら膝下ほどの小川のほとりを歩いていた時、それは起こった。
「う・・ぐぐっ・・」
いきなり最後方を歩いていたハルキが苦しみだす。
「ん?どうしたのハルキ君?」
モモコの言葉にも反応せず蹲(うずくま)ってしまう。
「どうした?」
「大丈夫かハル・・・ひぃっ!し、死んでる!」
ハルキは顔を紫色に変え泡をふきながら息絶えていた。
「どっ、どうして!!」
仲の良かった友達の死に動揺が広がる。
周囲に敵が潜んでいると確信した皆は周囲に手当たり次第魔法を打ち込んだ。
「ファイアーボール!」
「ファイアーランス!」
「ウォーターボール!」
「ウィンドカッター!」
通常の何十倍以上もの威力を秘めた魔法が周囲を破壊していく。
その結果、森は次々と破壊されその姿を変えていきレムリア皇国で最も巨大だった魔物の領域は荒野に変わる。しかし、狙いもつけずただ恐怖にかられ連射しただけの魔法は森は破壊したものの、そこに生息する魔物を多数討ち漏らす。
その結果、周囲には無数の魔物が散らばってしまうのだが、追い打ちとなったのが生態系の崩壊であった。
長い月日の果てに形成された生態バランスは外部から流れ込んでくる多数の魔物により狂わされた結果、周囲に更なる魔物の流出を引き起こす悪循環を繰り返す。
そして元レムリア皇国の領土はほとんどが多くの魔物が蔓延る魔物の領域に変わってしまうのであるが、それはもう少し後の話である。
「なんだこいつは!」
乱射していた魔法が止まった時、ハルキの影から体長60mほどのトカゲが出て来た。
「鑑定!」
鑑定スキルを持つナツミが鑑定を発動させる。そこに表示されたのは・・・
『種 族:シャドーリザード
ランク:A
特 徴
人の影に潜むことで潜んだ相手に影を通して致死の毒を送り込む。』
「シャドーリザード!こいつがハルキ君を毒殺したんだわ!」
すぐさまファイアーボールで焼き払う。すると、ほかの勇者達の影からも同様の魔物が出てきたのである。
「うおっ!俺たちの影からも出てきやがった!」
「くっそ!ウインドカッター!」
あっという間に討伐するが、自分達にもシャドーリザードが潜んでいるとは思っても無かった。
「なんてこった・・・。影に潜みながら毒にするなんて分かるかよぉっ!」
ナオキが吐き捨てる。
「でも助かったわ、毒耐性:MAXのスキルを持ってて。そういえばこのメンバーの中じゃハルキ君だけ毒耐性のスキルが無かったのね。」
他のメンバーは皆毒耐性のスキルを持っていたため助かったのであるが、ナツミがあることを思い出す。
「大変!ミユキ達の方って毒耐性持ってたっけ?」
「やばっ!すぐ連絡しよう!」
共に森へと来た別行動を取っているクラスメイトに連絡するが、時すでに遅くシャドーリザードの毒により毒耐性を持たないメンバー4人は全て死んでいたのであった。
ここで彼らは改めて知ることになる。
この世界には命の保証などない事を。自分達勇者であっても命を落とす事があるのだと。
その後ドラン連邦国に帰った彼らは仲間たちに事情を説明する。
勇者達が魔物との戦闘も渋りだしたのは言うまでもなかった。
応援ありがとうございます!
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