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第1章 古代の魔法使い

クラウド先生の魔法講義①

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「クラウドー、お弁当だよ。」


「おっ、ありがとうタニアちゃん。」


 クラウドが王都レインフォードから帰ってきてから15日が経つ。帰ってすぐにマーサ婆さん達に会いにいたクラウド。村を出てからの説明をしようとしたところでマーサ婆さんから待ったがかかった。


「お前のしたことじゃ。どうせ失敗なんざしとらんさね。それよりもようやく家族が揃って食事が出来る、早う手を洗ってくるさね。」


 結果、説明なんぞ聞く必要も無いと言われたクラウドは嬉しくて仕方が無かった。結果を聞くまでも無いという事、それはそのまま信用の証であると言える。クラウドにとっては最も欲しかったものの一つ。その『マーサ婆さんからの信用』を得たクラウドはその日は終始ご機嫌であった。
 更に食事の時に今回の褒美として無役の追加課税が無くなると話したところマーサ婆さんやタニアが喜びに湧く中で涙を流していたのがルークである。自分のせいで家族に迷惑が掛かっていることをずっと気にしていたルークである、その喜びはやはり|一入(ひとしお)であったようだ。

 久しぶりの家族の団欒を満喫していたクラウドであったが、村に帰って来ているという話しがあっという間に村中に広まり、その忙しさは食事を食べる暇も無い程であった。

 前日に食事を取れなかったクラウドを心配し、今日はタニアが診療所で一緒に食事をしようとやって来ている。


「ああ、それじゃあ皆に休憩だと知らせてくるよ。」


 そう言って席を立つ。食事だと告げるとマーサ婆さんを連れだって休憩室へとやって来た。


「そういえばマーサさんとタニアちゃんに少し相談があるんだけど。」


 食事も終わり3人がお茶を飲んでいるタイミングでクラウドが話しをきり出した。それは以前から考えていたルークについての相談であった。クラウドは2人にルークを森に連れて行きたいことや今後剣術や魔法の修行をさせていきたいと言い出した。


「ルークが森に行きたがっているのは知っておる。剣術を教えようというなら別に構わんが、魔法を教えるとはどういうことさね?」


 召喚の儀によって呼び出した精霊の力を借りて使うのが魔法である。ならば精霊を呼び出すことが出来なかった無役のルークは魔法を使えないはずである。不思議に思ったマーサ婆さんが尋ねるが、クラウドは何でもないことのように平然と言った。


「はは、精霊の力なんか借りなくても魔法は使えるさ。現に俺は借りずに使えるしね。大丈夫、ルークの事は心配いらない、俺に任せてくれ。」


「ふんっ、それならそうとさっさと言うさね。魔法やら剣術やらは私らじゃ分からん、全部お前に任せるさね。」


「ありがとうマーサさん!無茶はしないから心配はしないでくれよ!」


 常識外れと言えば常識外れであるが、マーサ婆さんは何の疑問も無く信用している。タニアもまた疑う事は無いが、少しおっとりとしている弟が心配のようだ。何度も無理しないでねと繰り返していた。



 その日の夜、食事を終え部屋へとやって来たルークとクラウド。そこでクラウドはルークにマーサ婆さんからルークと一緒に森に行く許可が出たと伝えた。


「ほんとっ!?やったあ!!」


 夜の遅い時間に大声を張り上げ翌日マーサ婆さんから大目玉をくらう事になるが、それほどルークにとっては嬉しい事のようである。




 次の日、朝早くに森の入口に向かおうとする2人であったが、ある人物の来訪によりルークは心待ちにしていた森の探索を中止せざるを得なくなる。家を出て森へと向かう2人を呼び止めるために走って来たのはトント村の村長ロデリックであった。


「おーい、すまんが2人共一度村まで戻ってくれ!」


「?何かあったのかな?」


「さあ?分からないが一旦戻るか。残念だったなルーク?」


「ほんとだよ~、せっかくおばあちゃんとお姉ちゃんに許して貰えたのに~!」


 残念そうに踵を返すルークであったが村長の家で待っていた5人を見ては文句など出るはずも無い。
 
 そこに居たのは宰相エリック、第一王子エドワード、第三王女リリー、領主バダックとその妻エリスであった。エリックは国王から命じられクラウドに報奨金を持参するためわざわざトント村までやって来たのであるが、それを聞きつけこれ幸いと案内を買って出たのがリリーである。また出発前に2人の元へやって来たエドワードがクラウドに改めて礼が言いたいからと同行を申し出たことで王族2人がエリックについて来たのである。
 ミルトアの街まで来たエリック達の案内のためバダックが加わり、バダックの命を救ってくれたクラウドへの礼を言うためエリスも一緒になってやって来たようだ。


「すまんなクラウド殿、聞けば出掛けるところだったとか・・・。」


「なあに気にする程の事も無いさ。」


 エリックの言葉を聞きフランクに返すクラウドにロデリックがハラハラする中、エドワードが口を開いた。第一王子という事で今回の一行の責任者となっているエドワードが持参した報奨金をクラウドに渡す。


「クラウド殿、今回は王都にて仕留められた魔獣の買い取り金を持参しました。詳しくはエリックからお聞きください。」


 そう言うエドワード達の目の前には硬貨袋が積まれている。


「・・・一体いくらあるんだこれ?」


「今回持参しましたのは白金貨228枚、金貨60枚です。こちらは冒険者ギルドの買い取り分も含まれております。魔獣毎の詳しい明細も必要ですかな?」


「いや、そんなのは要らないけど・・・」


「本来これほどの金額となれば冒険者ギルドなどに預けるものですが、マジックポーチを持つクラウド殿ならば何の問題も無いと思い全額を持参しました。」


 見たことも無い大金を見てルークが固まる中、あっそうと言いながらアイテムリングへ硬貨を収納するクラウド。


「クラウドは何処へ行くつもりだったの?」


 聞いてきたのはリリーである。勿論面白そうなら自分も行こうと考えているようだ。


「ルークと森に行こうかと思ってたんだよ。」


「何?クラウド殿はともかくルーク殿は大丈夫なのか?」


 護衛の難しさを知るバダックが心配そうに聞いてきた。しかし、その返答を聞きその場にいた全員が固まることとなる。


「大丈夫さ。今は俺が付いているし、これからはルークも鍛えようとも思っているからな。魔法も覚えてもらうしな。」


「何!?しかし、ルーク殿は無役では無かったか?だからこそ今回のクラウド殿の報酬が無役えの追加課税廃止となったのだろう?」


 訝し気に話すバダックへ向けクラウドは衝撃の事実を告げる。


「なんだあバダックさんまで。マーサさんにも言ったけど精霊なんかいなくても魔法は使えるよ。そもそも精霊魔法ってやつは初心者向けの初級魔法だろう?俺がそんなもんだけ教えるはずないだろ。」


「「「「「は?」」」」」


 その場にいたエドワード達から声が上がる。一体クラウドが何を言っているのかが分からないのだ。そんな中、教えると言われた当の本人がクラウドへ尋ねた。


「え、っと、あの、クラウド?知ってるだろうけど僕は精霊がいないから魔法は使えないんだよ?いくら初級魔法といっても精霊が居なくちゃあ精霊魔法は使えないでしょ?」


 それはその場の皆が思っていた疑問である。しかし、


「違う違う。精霊魔法の初級魔法を教えるって言ったんじゃないよ。ああもう、面倒くさいな全く。」


 知識の差からくるすれ違いがもどかしいクラウド。その時リリーから質問があった。


「ん、今クラウドは精霊魔法の初級魔法を教えるって言ってない。精霊魔法が初級魔法みたいな言い方だった・・・?」


「どういう事だろう、クラウド殿?よければ我々にも教えて頂けないだろうか?」


 エドワードがそう言いだしたことで急きょクラウドによる魔法講座が始まることとなった。


「んじゃあ軽くな。全部話してたら時間がいくらあっても足らないから。それじゃあまずこっちから質問だ。魔法は何種類あるか知ってるかいバダックさん?」


「何?・・・そうだな、まず火・水・土・風の4種類と言いたいが、複合魔法もあるしな。氷や雷も合わせれば・・・、嫌待てよ、治癒魔法や身体強化魔法を忘れていたぞ、よし、8種類でどうだろう?」


「不正解。正解は5種類だ。」


「5種類?数が合わなくないかクラウド殿?」


「合わなくないさ。そもそも俺は魔法の種類を聞いたんだ。バダックさんが言ってるのはほとんど精霊魔法の中で分けてある属性魔法のことじゃないか。」


「何だと・・・?どういう事だ?」


「まあ今の魔法の分け方は知らないけどね。魔法の種類とはまず一つ目が数種の属性を操る『精霊魔法』だ。二つ目が異界へ干渉する『召喚魔法』、ドラン連邦国が手を出してたやつだな。三つ目が殺傷能力に優れる『|上位魔法(エルダーマジック)』、これはよく魔族や魔人達が高い殺傷能力を好んで使うところから別称として『闇魔法』や『暗黒魔法』とも呼ばれることがある。四つ目が『秘伝魔法』と呼ばれるもので通常の魔法術式で発動させるのでは無く媒介アイテムなんかと組み合わせて使うものだ。魔法使いでは無い戦士タイプの奴らに合う魔法だな。最後が『禁術魔法』と呼ばれる魔法だ。現在では人が操ることは不可能と言われ古代エルフが操ったエルフ魔法や上位竜種が操る|竜魔法(ドラゴンマジック)なんかがそうだ。ここまでは良いかい?」






「「「「・・・・」」」」








 良くなさそうであったという・・・




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