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第1章 古代の魔法使い
手に入れたもの①
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きっかけはユーテリア王国の王城で国王アンドリューが受けた報せであった。
それはここ最近北部の街や村で行方不明者が出はじめているというものであった。魔物の討伐に向かった冒険者や移動している商人が盗賊に襲われたとすれば話しは分かる。それは決して珍しい話しでは無いからだ。しかし、行方不明となるのは村や街で普通に暮らしている市民達ばかりとなれば捨て置ける話しでは無い。
ユーテリア王国の北部統括都市ファレンフォードの領主パルド・ノルマン伯爵は国王からの原因究明の指示を受けその調査に乗り出していた。
しかし、その進捗は遅々として進まなかった。むしろ調べれば調べる程に分からなくなっている。
調査して出てくる話しはどれもこれもが意味不明である。ある者は知人と会った後で家へと帰りつき、家の中に入っていくのを目撃されたあとで行方不明になったという。酷いのであればほんの数分前まで家族と話しをしていたのに気づけば姿が無かったというものまである。
「い、一体何が起こっているんだ?」
パルドが調査報告書に目を通しながら一人呟いている。
「我が国の民を攫っている者がいるとでも言うのか・・・?」
しかし人目のある中で誰にも見つからずになど出来る筈が無い。パルドは持てる全ての人手を使って各地での情報収集や現状の把握に力を入れていたが、解決の糸口は|杳(よう)として知れないのであった。
ミルトアの街はエリス懐妊のお祝いムードもひと段落し落ち着きを見せていた。最も、一部では依然として熱気に包まれている者も居る。その内の一人がバダックより役替えを言い渡された元メイド長ドミニカである。
エリスの身の回りの世話を言い付かって5年。彼女の献身的な姿勢はバダック、エリス共に認めるところであり、相手への気配りも完璧というスタドール家が誇るメイドである。更にはリリーを始め王族が領地にやって来た場合の対応も全て彼女が担当しておりマナーなどにも精通している。
彼女はその手腕を買われバダックより新しく生まれたスタドール家の嫡子の世話係に任命されたようだ。その大役に身が震えんばかりのドミニカは自身が出来うる限りの全てを尽くして任務を全うしようと躍起になっていた。
「これとこれ・・・、いや、これも要るわね・・・」
その彼女は現在ミルトアの街でベビー用品を買い漁っている。布おむつから始まり肌着、着替えと一人で先走っている真っ最中であった。この後、持てきれない荷物と化した商品は彼女が老婆のような態勢で腰をかがめて背負い屋敷まで帰ることになる。すでに3歳くらいまでなら新しく服を買う必要は無いまでになっていた。
その光景を見た街中を巡回する兵士の一人が呟いた。
「またやってるよ・・・」
そう、ドミニカが街へと買い物に出かけるのはこれで4日目。その度に大量に荷物を背負って帰るため、周囲の者達には既におなじみの光景となっている。
祝いと称して置いて行ったクラウドの狩った獲物たちは極めて極上な素材が多く、スタドール家の懐をそれはもう存分に潤していた。その結果、お金に余裕が出来たことでバダックがドミニカに子供用の特別予算を組んだのである。
そんなドミニカが仕える主もまた、ここ数日同じことを繰り返している。
机に座り羽ペンを持ち羊皮紙を睨みつけているのだ。
「だ、駄目だ!一体どうすればあの可愛さを名で現すことが出来るのだ・・・」
頭を抱えて机に突っ伏す。いつも通りならこの後は起き上がって頭を数回左右に振り頬を2度ほど叩いて気合を入れ直してまた羊皮紙を睨みつけることだろう。食事に呼ばれるまでこの行為を繰り返すことが最近の彼の日課となっているようだ。
微笑ましいその光景は以前のスタド-ル家では考えられないものである。敬愛する主の幸せそうな姿を見て家宰のバートや執事のコーランもまた頬が緩んでいた。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
聖十字国は宗教色が非常に色濃い国である。それは建国時の出来事に由来するもので、遥か昔は荒れ地であったこの場所は住人達が貧困に喘ぐほどに貧しい地域であった。国とは言えないような小さな自治区が並び立っていたこの場所を一人の青年が統一する。強力な魔法を操る魔術師であったその青年は自治区の合間に点在していた魔物の生息地を壊滅させ少しずつ人間の支配領域を拡大していき、僅か10年で大陸一の国土を誇る大国へと変貌させた。
その青年が非常に|敬虔(けいけん)な信奉論者であったため国の中枢を担う者達もまたその色合いが強くなる。その結果、いつしか国はその名を聖十字国と呼ばれる宗教国家となったのであった。
国教としているのは世界を創造した神ゼニスこそが唯一絶対の存在であるというゼニス教。
神に愛された人間こそが至高の種族であり、そのために人間は他の種族を導かなければならないというのがその教えの骨子である。そのためゼニス教の信者たちは見下すとまではいかずとも他種族を下に見る傾向があった。
今、その聖十字国は非常に重大な局面に差し掛かっている。それは自国を含め三大国と呼ばれていたレムリア皇国が小国のドラン連邦国に滅ぼされたという報せ以降、血道をあげて行われていた一つの成果がお披露目されることになっているからだ。
「お待たせいたしました法王猊下。」
「うむ、それでは見せてもらおうか。」
聖十字国を治めるのは法王ユリウス・アルバーン。その下に5人の枢機卿と呼ばれる権力者がおりそれぞれが統括する部門に司教・司祭・神父が所属する。
現在法王が住む聖地マルグリッドでは神の力を宿したとされる神具(聖十字国の中での強力な魔導具の呼称)の開発が急ピッチで進められていた。
レムリア皇国敗北の一報を受けた聖十字国はドラン連邦国を危険視した。すぐさま敵対するような愚は犯さないが、対抗するための措置は講じるべきだと複数の枢機卿が意見する。国内には強力な魔術師も多いがすぐにその数を増やすのは難しい。
それが出来るならとっくにやっている。
そのために以前から続けられていた魔導具の開発に更に力を入れていたのである。現在魔導具は遺跡などから発掘されるものを修理・手入れして使われている。もし自国でそれが開発出来れば、さらにされが強力な効果を持つものであれば自国はどれ程の強みを持てるか。他国では誰もが不可能と思っているが、神からの祝福を受けた自分達ならば神の力を宿した神具の開発は可能なはず
しかし一から魔導具を作る等至難の業である。
理論が先行して結果が追いついていなかったその研究はふとしたことから驚くほどの進展を見せた。
きっかけは領土内を移動している商人が盗賊に襲われたことである。川の上流で休んでいたところ盗賊が襲撃、護衛が殺される中必死で逃げたその商人は馬車ごと崖から落ちてしまう。その商人は死んでしまうが現場にやって来た遺族がなんとか一つでも遺品は無いものかと崖をおりようとした時にそれはあった。
その崖は本来ならば大渓谷ともいう程に深いものであったが長い年月の中に晒されたことで、ある時は崩れ、ある時は人の手で整地されと少しづつその深さを無くしていた。更に深さを無くすにつれて生息していた魔物たちは住処を変えてしまい、現在の100mほどの高さの崖には魔物は一匹たりとも住みついて無い。
その崖の中程に横へと伸びる穴があった。
報せを聞いた地域の司祭が調査した結果、そこは驚くほどに高度な神具が山と積まれた遺跡であった。見たことも無い文献や資料は全く分からなかったが手に入った神具は今まで同様微量の魔力で起動した。使い道さえ分からないものがある中、急ピッチで実験が繰り返されることとなる。
とてもその全てをコピーするとまではいかないが、なんとか複製に成功したものがいくつかあった。今日はその成果が法王にお披露目されることになっているのである。
1000年の月日を超えて発見された古代魔法使いの研究所。その要とも言える塒の一つが聖十字国の手に落ちたのであった。
それはここ最近北部の街や村で行方不明者が出はじめているというものであった。魔物の討伐に向かった冒険者や移動している商人が盗賊に襲われたとすれば話しは分かる。それは決して珍しい話しでは無いからだ。しかし、行方不明となるのは村や街で普通に暮らしている市民達ばかりとなれば捨て置ける話しでは無い。
ユーテリア王国の北部統括都市ファレンフォードの領主パルド・ノルマン伯爵は国王からの原因究明の指示を受けその調査に乗り出していた。
しかし、その進捗は遅々として進まなかった。むしろ調べれば調べる程に分からなくなっている。
調査して出てくる話しはどれもこれもが意味不明である。ある者は知人と会った後で家へと帰りつき、家の中に入っていくのを目撃されたあとで行方不明になったという。酷いのであればほんの数分前まで家族と話しをしていたのに気づけば姿が無かったというものまである。
「い、一体何が起こっているんだ?」
パルドが調査報告書に目を通しながら一人呟いている。
「我が国の民を攫っている者がいるとでも言うのか・・・?」
しかし人目のある中で誰にも見つからずになど出来る筈が無い。パルドは持てる全ての人手を使って各地での情報収集や現状の把握に力を入れていたが、解決の糸口は|杳(よう)として知れないのであった。
ミルトアの街はエリス懐妊のお祝いムードもひと段落し落ち着きを見せていた。最も、一部では依然として熱気に包まれている者も居る。その内の一人がバダックより役替えを言い渡された元メイド長ドミニカである。
エリスの身の回りの世話を言い付かって5年。彼女の献身的な姿勢はバダック、エリス共に認めるところであり、相手への気配りも完璧というスタドール家が誇るメイドである。更にはリリーを始め王族が領地にやって来た場合の対応も全て彼女が担当しておりマナーなどにも精通している。
彼女はその手腕を買われバダックより新しく生まれたスタドール家の嫡子の世話係に任命されたようだ。その大役に身が震えんばかりのドミニカは自身が出来うる限りの全てを尽くして任務を全うしようと躍起になっていた。
「これとこれ・・・、いや、これも要るわね・・・」
その彼女は現在ミルトアの街でベビー用品を買い漁っている。布おむつから始まり肌着、着替えと一人で先走っている真っ最中であった。この後、持てきれない荷物と化した商品は彼女が老婆のような態勢で腰をかがめて背負い屋敷まで帰ることになる。すでに3歳くらいまでなら新しく服を買う必要は無いまでになっていた。
その光景を見た街中を巡回する兵士の一人が呟いた。
「またやってるよ・・・」
そう、ドミニカが街へと買い物に出かけるのはこれで4日目。その度に大量に荷物を背負って帰るため、周囲の者達には既におなじみの光景となっている。
祝いと称して置いて行ったクラウドの狩った獲物たちは極めて極上な素材が多く、スタドール家の懐をそれはもう存分に潤していた。その結果、お金に余裕が出来たことでバダックがドミニカに子供用の特別予算を組んだのである。
そんなドミニカが仕える主もまた、ここ数日同じことを繰り返している。
机に座り羽ペンを持ち羊皮紙を睨みつけているのだ。
「だ、駄目だ!一体どうすればあの可愛さを名で現すことが出来るのだ・・・」
頭を抱えて机に突っ伏す。いつも通りならこの後は起き上がって頭を数回左右に振り頬を2度ほど叩いて気合を入れ直してまた羊皮紙を睨みつけることだろう。食事に呼ばれるまでこの行為を繰り返すことが最近の彼の日課となっているようだ。
微笑ましいその光景は以前のスタド-ル家では考えられないものである。敬愛する主の幸せそうな姿を見て家宰のバートや執事のコーランもまた頬が緩んでいた。
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聖十字国は宗教色が非常に色濃い国である。それは建国時の出来事に由来するもので、遥か昔は荒れ地であったこの場所は住人達が貧困に喘ぐほどに貧しい地域であった。国とは言えないような小さな自治区が並び立っていたこの場所を一人の青年が統一する。強力な魔法を操る魔術師であったその青年は自治区の合間に点在していた魔物の生息地を壊滅させ少しずつ人間の支配領域を拡大していき、僅か10年で大陸一の国土を誇る大国へと変貌させた。
その青年が非常に|敬虔(けいけん)な信奉論者であったため国の中枢を担う者達もまたその色合いが強くなる。その結果、いつしか国はその名を聖十字国と呼ばれる宗教国家となったのであった。
国教としているのは世界を創造した神ゼニスこそが唯一絶対の存在であるというゼニス教。
神に愛された人間こそが至高の種族であり、そのために人間は他の種族を導かなければならないというのがその教えの骨子である。そのためゼニス教の信者たちは見下すとまではいかずとも他種族を下に見る傾向があった。
今、その聖十字国は非常に重大な局面に差し掛かっている。それは自国を含め三大国と呼ばれていたレムリア皇国が小国のドラン連邦国に滅ぼされたという報せ以降、血道をあげて行われていた一つの成果がお披露目されることになっているからだ。
「お待たせいたしました法王猊下。」
「うむ、それでは見せてもらおうか。」
聖十字国を治めるのは法王ユリウス・アルバーン。その下に5人の枢機卿と呼ばれる権力者がおりそれぞれが統括する部門に司教・司祭・神父が所属する。
現在法王が住む聖地マルグリッドでは神の力を宿したとされる神具(聖十字国の中での強力な魔導具の呼称)の開発が急ピッチで進められていた。
レムリア皇国敗北の一報を受けた聖十字国はドラン連邦国を危険視した。すぐさま敵対するような愚は犯さないが、対抗するための措置は講じるべきだと複数の枢機卿が意見する。国内には強力な魔術師も多いがすぐにその数を増やすのは難しい。
それが出来るならとっくにやっている。
そのために以前から続けられていた魔導具の開発に更に力を入れていたのである。現在魔導具は遺跡などから発掘されるものを修理・手入れして使われている。もし自国でそれが開発出来れば、さらにされが強力な効果を持つものであれば自国はどれ程の強みを持てるか。他国では誰もが不可能と思っているが、神からの祝福を受けた自分達ならば神の力を宿した神具の開発は可能なはず
しかし一から魔導具を作る等至難の業である。
理論が先行して結果が追いついていなかったその研究はふとしたことから驚くほどの進展を見せた。
きっかけは領土内を移動している商人が盗賊に襲われたことである。川の上流で休んでいたところ盗賊が襲撃、護衛が殺される中必死で逃げたその商人は馬車ごと崖から落ちてしまう。その商人は死んでしまうが現場にやって来た遺族がなんとか一つでも遺品は無いものかと崖をおりようとした時にそれはあった。
その崖は本来ならば大渓谷ともいう程に深いものであったが長い年月の中に晒されたことで、ある時は崩れ、ある時は人の手で整地されと少しづつその深さを無くしていた。更に深さを無くすにつれて生息していた魔物たちは住処を変えてしまい、現在の100mほどの高さの崖には魔物は一匹たりとも住みついて無い。
その崖の中程に横へと伸びる穴があった。
報せを聞いた地域の司祭が調査した結果、そこは驚くほどに高度な神具が山と積まれた遺跡であった。見たことも無い文献や資料は全く分からなかったが手に入った神具は今まで同様微量の魔力で起動した。使い道さえ分からないものがある中、急ピッチで実験が繰り返されることとなる。
とてもその全てをコピーするとまではいかないが、なんとか複製に成功したものがいくつかあった。今日はその成果が法王にお披露目されることになっているのである。
1000年の月日を超えて発見された古代魔法使いの研究所。その要とも言える塒の一つが聖十字国の手に落ちたのであった。
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