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第3章 1000年前の遺産
決着
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「い、今何と・・・」
クラウドのセリフを聞いた侵入者は身体を震わせて問いかける。しかし、自分がその言葉を聞き違えるはずが無い。確かに聞いたのだ『魔法使い』と。
今までも魔法使いかと問いかけてそうだと返答した者達は居た。
しかし唯の一人として居なかった。自分が求める魔法使いは。
心の中からは歓喜と恐怖が沸き上がる。身動き出来なかった1100年間のことを思い出す。身動きが出来ないため新たな力を手に入れることなど不可能。出来たのは頭を使うことだけ。
もし次に戦うことが出来るなら、どうやって倒すのか?
そればかり考えていた。
目の前の男がもし本物の魔法使いなら・・・
自分の力が通じるだろうか?
もし負ければ今度は息の根を止められるのだろうか?
それともまた長い年月を奪われるのだろうか?
集めたエネルギーはまだほんのわずか。一旦身を隠して力を溜めるか?
考えが目まぐるしく頭をよぎる。
なんせ復活してからまだ1年も経ってないのだ。満足な活動が出来たとは言い難い。
吸血鬼は他の生物からエネルギーを吸い上げることが出来る生命吸収の特性を持つため、他者からエネルギーを奪えば奪う程に自身の力を押し上げることが出来る。もっともっと力を溜めてから出会いたかったというのが本音である。
しかし
「ぐふはははっ、笑止!!!」
自分が弱気になっていることに気づいて活を入れなおす。巡り合ったのは気が狂うほどに自身が待ち望んだ相手。
彼は思い出す。力こそ全て。その考えは決して『勝つ』事に重点を置く訳では無かったことを。準備が出来ていないから後でなどという考えをかつての自分が持っていただろうか?そんな筈は無い。
それは強者として持つ矜持。
『戦いが始まれば、持てる力を尽くして勝利する』
それのみに特化した考え方であり、そこには罠も下準備も不要。真正面から敵を粉砕することにこそ意味があるのだ。
「ぐふふふ、責任は取ってもらうぞ。うおぉおぉおぉ!!!」
その男はここまで自分を興奮させておいて、取るに足らない雑魚ならば国ごと殲滅すると宣言した。
「な、な、・・・」
何とか喋ろうとアンドリューが口を動かすが、上手く言葉が出ない。既にその場で目の前の男に反抗出来る者は居なかった。ただでさえ格の違いを見せつけられたばかりだというのに。今の男からはまるで力が吹き出しているようだ。その身に纏う圧力が桁違いに上がっていく。
「ゆくぞ!!」
轟と振るわれた腕。それはまるで紫電が走ったかのよう。指を立てて繰り出された爪の一撃であったがクラウドの手前20cm程で信じられない程固い壁に止められた。
「(覚えがある。この手ごたえ・・・)」
音も無く攻撃を食い止める。びくともしないその魔法障壁に懐かしさを感じた。
「くくく。・・・がぁっ!!」
思わず漏れた笑いを噛み殺し、全身をバネのようにしならせた。すると次の瞬間上半身が弧を描くように飛び出す。
「(確かめるならばこれしかあるまい!!)」
クラウドへと向けられたのはかつてあらゆる相手を仕留めて来た自慢の牙であった。止められたのは只の一度だけ。しかし、ついに2度目を喫してしまう。
先ほどの爪と同様無音のままに止められてしまったのである。
もう疑いようが無い。
「ぐふふふ。相も変わらずふざけた魔法障壁よ。」
もう以前のように無様に狼狽える事は無かった。
前回は試す事さえ出来ずにいたが、そもそもこの魔法はおかしい。強靭な硬度を持つのは間違いないが攻撃を防ぐ時に音がしない理由が分からない。更には攻撃を仕掛けた筈の爪や牙が魔法障壁へぶつかったはずなのにその衝撃が伝わってこないのだ。まるで繰り出した攻撃が空気中で急停止させられたような錯覚に陥った。
「ぬおおおおっ!!」
男は突如高速で動き始めた。試そうとしているのはこの奇妙な魔法障壁の守備範囲である。高速移動による周囲360度からの連続攻撃。と言っても、その一つ一つが凄まじい威力を秘めた必殺の一撃である。微塵も手を抜くこと無く、全てを全力で繰り出していく。それを全て防ぐのか?それとも一部だけ防いで他の攻撃は別の手段で防ぐのか?
その結果、繰り出された攻撃は前面のみを防ぐに留まる。側面、後方からの攻撃は全て通常の魔法障壁により防がれたたため、激しい攻撃音が鳴り響く。
けたたましい音を立てて攻め続ける男から離れた部屋の隅でアンドリュー達は声も出せないまま歯を食いしばって床にしがみ付いている。まるで出来の悪い幻でも見ているようだ。攻撃どころか敵の動きそのものが目で追えないのだ。しかも凄まじいスピードで部屋中を動く男のせいで部屋の中は台風が直撃したかのように暴風が吹き荒れていた。部屋中の調度品は吹き飛び上品な絨毯がまくれあがっている。
攻撃を続けていた男は集めた情報に満足していた。魔法使いが操る正体不明の魔法障壁は破壊は不可能。
出た結論はシンプルイズベスト。正面に囮の攻撃を放ち、側面から必殺の一撃を叩き込むというもの。
その瞬間、全魔力を牙へと送った。その牙は淡く光りを帯びている。
「我が全てを掛けて貴様を殺す!!」
叫び声をあげて襲い掛かかる。力を込めた牙の威力はまさに一撃必殺。クラウドはそれを魔法障壁で防いだ。その牙が音も無く止められた時、それは起こった。
突如動き出した右腕が自身の首へと振り下ろされる。
ズダンッ!!
その手刀の威力により首は刎ねられた。
「「「「「「「・・・え・・・?」」」」」」」
その場に居た者達が呆気にとられる。戦いが終わるにしても敵がいきなり自殺するとは思わなかったのだ。
ガチガチガチッ!
その時、部屋へと響く音があった。それは切り落とされた筈の男の首。宙に浮きながら魔法障壁へ牙を突き立て続けていた。牙で貫こうとするのは諦めたようで、現在はかみ砕こうとしている。音は魔法障壁を滑った牙同士が噛み合わさる音であった。
「ば、化け物・・・」
顔を真っ青にしたソフィアは見ている光景が信じられないとでも言うかのように呟いた。
その時、信じられない事が起こる。倒れるのを待つだけと思われていた首を刎ねられた身体が動きだしたのである。
それも凄まじい素早さで横へと回り込み、そのままタックルを仕掛けて来た。
ドシィッ!
重そうに響く音はクラウドが魔法障壁を展開しタックルを止めたもの。それを聞いた男の首が宙に浮いたままニヤリと笑った。
「(真紅の呪縛!)!」
首無しの身体から血が煙りだした。魔力を吸った血液が身体から血煙となって周囲へ吹き出す。
「うん?」
クラウドの身体を囲むように覆うとそのまま血煙は空中で静止した。吸血鬼が使う最も強力な拘束呪法。自身の血液を魔力で染め上げて外へと吹き出し、周囲の空間に溶け込むように固定することで中にいる者を空間ごと閉じ込め1時間程度完全に身動きを封じる。この呪法は周囲の空間も合わせて『固定』する。そのため空間を歪めて移動する転移魔法で抜け出すことが出来ない。強力な力で固定された空間は歪めることが出来ないのだ。
動けなくなったクラウドの間抜けな声を聞き、男は勝利へ向けた最後の一手を取った。
男が繰り出した一連の動きはまさに捨て身。相手を殺すためならば誇りさえ切り捨てた。囮にしたのは自身の誇りを支え続けた牙。全力を込めた噛みつきを防ぐもの、それはまず間違いなく最強の魔法障壁のはず。目の前で首を刎ねたのも実はパフォーマンスに過ぎない。実は身体は意識すれば部位の切り離しは自在である。僅かにでも動揺を誘えればと思った挙句の苦肉の策であった。
力押しのみで攻めていたのも布石の一つ。攻撃に気を引き付けることで真紅の呪縛への反応速度を少しでも落としたかった。
最後の一撃を外す訳にはいかないのだ。
首を切り落とす事で自由になった身体を側面から突っ込ませる。魔力が詰まった吸血鬼の身体には心臓の代わりに魔力を纏める核がある。至近距離から放つのは自分の核を過剰に暴走させることで起こる魔力の暴発現象。
自爆である。
全魔力を暴発させることで生じる衝撃は凄まじい。王城はおろか城を中心とした街もその殆どが消し飛ぶ事は間違いない。
それを誘発する核暴走を使うつもりなのだが、この攻撃には問題が1つある。
使えば死ぬ
が、そんなことなどどうでも良い。
問題は使えば次の攻撃が出来なくなるということ。二の矢が準備出来ない以上、必ずこの核暴走で仕留めなければならない。
「(準備は出来た、いくぞっ核暴走!!」
戦闘が始まって僅か10分。決着の時であった。
クラウドのセリフを聞いた侵入者は身体を震わせて問いかける。しかし、自分がその言葉を聞き違えるはずが無い。確かに聞いたのだ『魔法使い』と。
今までも魔法使いかと問いかけてそうだと返答した者達は居た。
しかし唯の一人として居なかった。自分が求める魔法使いは。
心の中からは歓喜と恐怖が沸き上がる。身動き出来なかった1100年間のことを思い出す。身動きが出来ないため新たな力を手に入れることなど不可能。出来たのは頭を使うことだけ。
もし次に戦うことが出来るなら、どうやって倒すのか?
そればかり考えていた。
目の前の男がもし本物の魔法使いなら・・・
自分の力が通じるだろうか?
もし負ければ今度は息の根を止められるのだろうか?
それともまた長い年月を奪われるのだろうか?
集めたエネルギーはまだほんのわずか。一旦身を隠して力を溜めるか?
考えが目まぐるしく頭をよぎる。
なんせ復活してからまだ1年も経ってないのだ。満足な活動が出来たとは言い難い。
吸血鬼は他の生物からエネルギーを吸い上げることが出来る生命吸収の特性を持つため、他者からエネルギーを奪えば奪う程に自身の力を押し上げることが出来る。もっともっと力を溜めてから出会いたかったというのが本音である。
しかし
「ぐふはははっ、笑止!!!」
自分が弱気になっていることに気づいて活を入れなおす。巡り合ったのは気が狂うほどに自身が待ち望んだ相手。
彼は思い出す。力こそ全て。その考えは決して『勝つ』事に重点を置く訳では無かったことを。準備が出来ていないから後でなどという考えをかつての自分が持っていただろうか?そんな筈は無い。
それは強者として持つ矜持。
『戦いが始まれば、持てる力を尽くして勝利する』
それのみに特化した考え方であり、そこには罠も下準備も不要。真正面から敵を粉砕することにこそ意味があるのだ。
「ぐふふふ、責任は取ってもらうぞ。うおぉおぉおぉ!!!」
その男はここまで自分を興奮させておいて、取るに足らない雑魚ならば国ごと殲滅すると宣言した。
「な、な、・・・」
何とか喋ろうとアンドリューが口を動かすが、上手く言葉が出ない。既にその場で目の前の男に反抗出来る者は居なかった。ただでさえ格の違いを見せつけられたばかりだというのに。今の男からはまるで力が吹き出しているようだ。その身に纏う圧力が桁違いに上がっていく。
「ゆくぞ!!」
轟と振るわれた腕。それはまるで紫電が走ったかのよう。指を立てて繰り出された爪の一撃であったがクラウドの手前20cm程で信じられない程固い壁に止められた。
「(覚えがある。この手ごたえ・・・)」
音も無く攻撃を食い止める。びくともしないその魔法障壁に懐かしさを感じた。
「くくく。・・・がぁっ!!」
思わず漏れた笑いを噛み殺し、全身をバネのようにしならせた。すると次の瞬間上半身が弧を描くように飛び出す。
「(確かめるならばこれしかあるまい!!)」
クラウドへと向けられたのはかつてあらゆる相手を仕留めて来た自慢の牙であった。止められたのは只の一度だけ。しかし、ついに2度目を喫してしまう。
先ほどの爪と同様無音のままに止められてしまったのである。
もう疑いようが無い。
「ぐふふふ。相も変わらずふざけた魔法障壁よ。」
もう以前のように無様に狼狽える事は無かった。
前回は試す事さえ出来ずにいたが、そもそもこの魔法はおかしい。強靭な硬度を持つのは間違いないが攻撃を防ぐ時に音がしない理由が分からない。更には攻撃を仕掛けた筈の爪や牙が魔法障壁へぶつかったはずなのにその衝撃が伝わってこないのだ。まるで繰り出した攻撃が空気中で急停止させられたような錯覚に陥った。
「ぬおおおおっ!!」
男は突如高速で動き始めた。試そうとしているのはこの奇妙な魔法障壁の守備範囲である。高速移動による周囲360度からの連続攻撃。と言っても、その一つ一つが凄まじい威力を秘めた必殺の一撃である。微塵も手を抜くこと無く、全てを全力で繰り出していく。それを全て防ぐのか?それとも一部だけ防いで他の攻撃は別の手段で防ぐのか?
その結果、繰り出された攻撃は前面のみを防ぐに留まる。側面、後方からの攻撃は全て通常の魔法障壁により防がれたたため、激しい攻撃音が鳴り響く。
けたたましい音を立てて攻め続ける男から離れた部屋の隅でアンドリュー達は声も出せないまま歯を食いしばって床にしがみ付いている。まるで出来の悪い幻でも見ているようだ。攻撃どころか敵の動きそのものが目で追えないのだ。しかも凄まじいスピードで部屋中を動く男のせいで部屋の中は台風が直撃したかのように暴風が吹き荒れていた。部屋中の調度品は吹き飛び上品な絨毯がまくれあがっている。
攻撃を続けていた男は集めた情報に満足していた。魔法使いが操る正体不明の魔法障壁は破壊は不可能。
出た結論はシンプルイズベスト。正面に囮の攻撃を放ち、側面から必殺の一撃を叩き込むというもの。
その瞬間、全魔力を牙へと送った。その牙は淡く光りを帯びている。
「我が全てを掛けて貴様を殺す!!」
叫び声をあげて襲い掛かかる。力を込めた牙の威力はまさに一撃必殺。クラウドはそれを魔法障壁で防いだ。その牙が音も無く止められた時、それは起こった。
突如動き出した右腕が自身の首へと振り下ろされる。
ズダンッ!!
その手刀の威力により首は刎ねられた。
「「「「「「「・・・え・・・?」」」」」」」
その場に居た者達が呆気にとられる。戦いが終わるにしても敵がいきなり自殺するとは思わなかったのだ。
ガチガチガチッ!
その時、部屋へと響く音があった。それは切り落とされた筈の男の首。宙に浮きながら魔法障壁へ牙を突き立て続けていた。牙で貫こうとするのは諦めたようで、現在はかみ砕こうとしている。音は魔法障壁を滑った牙同士が噛み合わさる音であった。
「ば、化け物・・・」
顔を真っ青にしたソフィアは見ている光景が信じられないとでも言うかのように呟いた。
その時、信じられない事が起こる。倒れるのを待つだけと思われていた首を刎ねられた身体が動きだしたのである。
それも凄まじい素早さで横へと回り込み、そのままタックルを仕掛けて来た。
ドシィッ!
重そうに響く音はクラウドが魔法障壁を展開しタックルを止めたもの。それを聞いた男の首が宙に浮いたままニヤリと笑った。
「(真紅の呪縛!)!」
首無しの身体から血が煙りだした。魔力を吸った血液が身体から血煙となって周囲へ吹き出す。
「うん?」
クラウドの身体を囲むように覆うとそのまま血煙は空中で静止した。吸血鬼が使う最も強力な拘束呪法。自身の血液を魔力で染め上げて外へと吹き出し、周囲の空間に溶け込むように固定することで中にいる者を空間ごと閉じ込め1時間程度完全に身動きを封じる。この呪法は周囲の空間も合わせて『固定』する。そのため空間を歪めて移動する転移魔法で抜け出すことが出来ない。強力な力で固定された空間は歪めることが出来ないのだ。
動けなくなったクラウドの間抜けな声を聞き、男は勝利へ向けた最後の一手を取った。
男が繰り出した一連の動きはまさに捨て身。相手を殺すためならば誇りさえ切り捨てた。囮にしたのは自身の誇りを支え続けた牙。全力を込めた噛みつきを防ぐもの、それはまず間違いなく最強の魔法障壁のはず。目の前で首を刎ねたのも実はパフォーマンスに過ぎない。実は身体は意識すれば部位の切り離しは自在である。僅かにでも動揺を誘えればと思った挙句の苦肉の策であった。
力押しのみで攻めていたのも布石の一つ。攻撃に気を引き付けることで真紅の呪縛への反応速度を少しでも落としたかった。
最後の一撃を外す訳にはいかないのだ。
首を切り落とす事で自由になった身体を側面から突っ込ませる。魔力が詰まった吸血鬼の身体には心臓の代わりに魔力を纏める核がある。至近距離から放つのは自分の核を過剰に暴走させることで起こる魔力の暴発現象。
自爆である。
全魔力を暴発させることで生じる衝撃は凄まじい。王城はおろか城を中心とした街もその殆どが消し飛ぶ事は間違いない。
それを誘発する核暴走を使うつもりなのだが、この攻撃には問題が1つある。
使えば死ぬ
が、そんなことなどどうでも良い。
問題は使えば次の攻撃が出来なくなるということ。二の矢が準備出来ない以上、必ずこの核暴走で仕留めなければならない。
「(準備は出来た、いくぞっ核暴走!!」
戦闘が始まって僅か10分。決着の時であった。
応援ありがとうございます!
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