初恋は、コーヒーより苦くてチョコより甘い。

薊野ざわり

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 少しだけでも太ももの隙間を狭められないかと、娘はもがいた。
 椅子ががたつくだけで終わる。腿を下から持ち上げ、膝を開かせ固定する拘束具は頑丈だ。
 手首も肘掛けに固定されているから、足首の留め具を外すことはできない。

 拘束具は革製。多少暴れても怪我もしないことは幸いなのだろうか。
 そもそも他の被検者はきっとわたしのように抵抗なんかしない。従順たれ。頭で理解できることを実行することの難しさを、娘――イオも学びつつあった。

 先ほどまで他の作業をしていたドクターが、脱いだ手袋を無造作に捨てた。頬にかかる髪を煩わしそうに指で払う。錫のような色のまっすぐな髪は、素直に白い頬に落ちてくる。彼は白衣のポケットから出した紐で手早くまとめた。手先の機能チェックを兼ねてイオが何度か触れたことのある髪を。

「被検者SRT4567-M。むやみに暴れるな、怪我をさせたくない。この検査の結果が出れば、すべて終わりだ」
「ドクター、わたし、この検査は嫌です」
「痛むのは最初だけだ。あとの六度は、基本的に無痛であることを保証しよう」
「痛いのは大丈夫です。そうじゃなくて……ドクター、やめてください」

 娘の声が上ずる。男の長い指が太ももに触れたから。
 彼の手は、びっくりするほど冷たいのに、白く柔らかな太ももはじわじわと熱を持っていく。
 左太ももの付け根近くには、ロット番号が刻まれている。これまで何度となく彼に見られてきた刻印を、今はどうしても見せたくない。

「どうした。なぜ嫌がる? 理由を述べよ、被検者SRT4567-M」

 番号で呼ばないで。
 目頭が熱くなってくる。必死にこらえた。

 なぜ嫌かなんて言葉にできない。

 生殖機能の検査では、実際に人間と性交するのだと知ってから、そして、性交相手が担当のドクターだと聞いてから、ずっと、ずっと嫌だったのだ。

 ドクターが卓上のスイッチを操作し、イオの座る拘束椅子の背もたれを倒す。彼は淡い茶色の目を鋭くさせた。なにかを見定めるように。

 イオはぎゅっと目をつぶった。
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