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異世界から来ただけの、ただの小娘です
しおりを挟む「美味しい!!なんて美味しいの!!」
「こんなに素晴らしい食べ物は初めて食べた…!」
「ニクジャガ…!!これが!…これが神の国の食べ物なのね…!!」
「信じる!私、信じるよ!あなたは神の国、ニホンから来たのね…!!」
…なんでこうなった…?
…確かに、私は皆さんの心を掴むためにこれを作ったよ?メイドさんたちに、「私は日本という異世界から来た、ただの小娘」だということを分かってもらうために、頑張って作ったよ?
…けどね?なんか、ここに涙流しながら食べてる人とかいるんだけど!?感動してくれたみたいだけど、肉じゃがに心奪われすぎだよ!これは普通の家庭料理だよ!なんか怖いよ!
「スパイだなんて言って、ごめんなさい!!」
「ニホンってすごい所なんですね!!」
「私、エドウィン様とのこと協力しますね!!」
「神様だわ!!みどり様は何を司った神様なんですか!?先代の王様は知識の神様だといわれているのですが、みどり様もそうなんですか!?」
とてもとても私の印象がアップしているようで嬉しいんだけど、一人だけ長文な上に、宗教に囚われていて怖いんですけど!神様って何!?ほんとに一人抜きん出てめっちゃ怖いんですけど!!
私は異世界から来ただけの、ただの小娘ですからっ!
…でも!それでも、メイドさんたちを味方につけることが出来て、良かった!!…エドウィンさんのこと、たっぷり教えて下さいね、先輩方!!
「…お代わりはいかがですか?先輩方!!」
私の初恋を叶えるために、全力の愛想笑いでおもてなしさせていただきますよ!!
*
その頃、公爵はエドウィンの部屋を訪れていた。
「なぁ、息子よ。お前、あの女が好きなのか…?」
遠慮がちに出されたその声は少しだけ震えていて、普段は威厳のある公爵から発せられたとは思えないものだった。
「いえ、べつに…」
うつむきがちで苦しそうな顔をしたエドウィンはボソッと否定の言葉を返す。
「ならいいのだが…」
「…彼女はスパイだったのですか…?」
少し寂しげな声音で尋ねられたそれに公爵は悟ってしまった。
──我が息子は、あの異世界人に好意を持っている。
「いいや、恐らく本当にニホンの出であろう。なにより、彼女の持つ黒髪黒目という特徴は、文献を見ても過去一人しか持つものがなく、それが初代国王ニホンマルだというのだから…」
「そうか…。やはり、彼女はスパイではないのだな…」
無自覚にだろうか、エドウィンは嬉しそうに目を細めた。
それを見た公爵は、自らの息子のためにとみどりを引き続き監視し、人間性を見極めてやろうと改めて決断するのであった。
*
…彼女がスパイでなくてほっとした。
だって、あの美しい彼女が捕まって牢に入れられるなど…。そんなの、考えたくもないからな。もしそうなったら、あの美貌に魅入られて彼女に寝返る裏切り者が国から出るかもしれないし、彼女は年の離れた国の重鎮と、望まぬ結婚を強いられるかもしれない。酷い拷問にかけられる恐れだってあった。
俺が連れ帰ってきたせいで、そんな目に合わされるのだと思うと、彼女の無実を願わずにはいられなかった。
──それに、彼女は俺のことが好きみたいだし、まだここにいたいだろう。
…いや!べつにそれは信じてないけどな!!だって、な?俺を好きになるだなんて、それだけはないだろう!?
なにしろ、この醜い容姿にねじ曲がった性格、加えて無愛想な態度の俺を…!
…やめよう。なんか悲しくなってきた。
やっぱり、これを考えるのはやめよう。
もう何度目かになるこの結論を叩き出したエドウィンは、今日も自らの部屋から一歩も出ることなくその日を終わらせるのであった…。
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