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第十四話 ユウレスカ視点
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クラウス様は3日間、静かに眠り続けた。
私は部屋の空気を入れ替えたり、クラウス様の汗を拭ったり、付きっきりで看病をした。リファナさんに「少しでもお休みになってください」と懇願されても言うことを聞かず、ジーンさんの食事を断って、クラウス様の傍に居続けた。それでも私を心配して、カットした果物を差し入れてくれた2人には、申し訳なさとありがたさで頭が上がらない。
大したことはできないくせに、みんなに迷惑をかけて馬鹿みたいだ。だけど、私がいない間にクラウス様に何かあったら……そう思うと、どうしても離れられなかった。
3日目には、シヴァンさんが訪れた。クラウス様の様子を見に来たらしい。彼がクラウス様の部屋にいる間、私は少し仮眠をとることができた。クラウス様に何かあっても、彼がいれば大丈夫だという気がした。帰り際の「明日も来る」という言葉がどんなに心強かったことか。
次の日、クラウス様が目覚めた。ほんの一瞬、お手洗いに立った私は、クラウス様の部屋の扉を開けてものすごく驚いた。
黒い仮面をつけたクラウス様はいつも通りで、それが嬉しくて嬉しくて泣きたくなった。
「何か召し上がりますか?クラウス様には今、血が足りていません。肉、魚、卵なら何が食べられそうですか?」
とにかく、精のつくものを食べさせなくてはと思った。傷が痛むなら、痛み止めがまだ残っていたはず……っ!?
仮面の奥の麗しい顔を思い出して、胸がドキリと跳ねた。私はあの時、どうして正気でいられたんだろう!?シヴァンさんに口止めしたのは良いけれど、問題は私の羞恥心。忘れようと思うと、余計に意識してしまう。
「ユウレスカ。ちょっと話があるんだが……」
クラウス様がそう言ってくれるのに、私は今それどころでは無い。
「あ……!そ、それは後にしましょう!まずはそう、お着替えです!熱がありましたから、汗をかいているはずです!」
顔が赤くなったりしていないだろうか。変な女だと思われる前に急いで退散せねば。私はなんとかやり過ごし、部屋を出た。皆に朗報を伝えて、クラウス様の食事を用意してもらおう。
道すがら、今日も訪れたシヴァンさんに会った。クラウス様のことを話すと、嬉しそうな顔をして「君もお疲れ様」と言った。私なんかでも役立てたのだと嬉しくなる。その後、シヴァンさんはクラウス様の部屋で10分近く話していたみたいだった。
ジーンさんに話をすると、私を厨房に入れてくれて、何故だか私が料理をすることになった。店では習わなかったし、不安もあったけれど、私は料理が案外得意らしい。ジーンさんも褒めてくれた。
気持ちも落ち着いたところで、部屋を訪ねる。
「クラウス様。お食事をお持ちしました」
病み上がりだから、胃に優しい卵がゆを作ってみたけれど、食べてもらえるだろうか。
「……ありがとう」
クラウス様は食事のトレーを受け取ると、おもむろに仮面を外した。
──えっ、国宝級イケメンが……っ!!
そして、驚く私には目もくれず、食事を口に運んだ。
「……これは君が作ったのか?」
整った容姿に加え、金色の瞳が破壊的に魅力的だ。そして、スプーンを咥える赤い唇……!
「は、はい。僭越ながら私が」
私は目線を下げて、返事をする。再び襲い来る羞恥心のせいで、クラウス様を直視できないのだ。
「そうか」
食事を終えると、クラウス様は私を近くに呼び寄せた。嬉しいけど、これ以上近づくと危険だ。私は今、取り扱い注意の爆弾を抱えている。
「……もっとこちらに来い」
ヘルプ!神よ!これはなんの試練ですか!私は心でそう叫びながらも、少しずつ少しずつ距離を詰めた。互いが触れられるほどに近づいた時、クラウス様は私に手を伸ばした。
私は反射的に目をつぶる。
「──外れろ」
触れられた感触は無い。ただクラウス様の声がして、外れるはずのない首輪が、私の首を離れて地面に落ちた。
「えっ?」
いま、なにが、おきた?
ちょっとよく分からなかった。首輪は奴隷のアイデンティティだ。これがなければ私は奴隷でないし、クラウス様は私の主人ではない。
「……あの、どういうことでしょうか?」
何か理由があるんですよね?
「……看病をしてくれたと聞いた。その褒美だ」
「ご褒美……?」
「そうだ。だからもう、出て行ってくれ」
そう言って、クラウス様はベッドの中に潜ってしまった。私は黙って部屋を出て、ぼんやりと廊下を歩いた。
シヴァンさんから、私の話を聞いたのだろう。ご褒美で、奴隷解放?それにしてはなんだか、冷たい表情だった。まるで、私を突き放すような。
……まさか。私が勝手に顔を見てしまったことをクラウス様は知っている?それを警告するために仮面を外し、反省の色が見られない私に愛想を尽かした、とか。ああ、もしかするとあの口移しのことも、シヴァンさんが話して……?
そうだとしたら、クラウス様のあの態度も納得だ。きっとものすごく怒っているのだ。
『出て行ってくれ』
あの言葉は、静かな拒絶。私は弁明の機会すら与えられずに屋敷から追い出されるのだ。
私は部屋の空気を入れ替えたり、クラウス様の汗を拭ったり、付きっきりで看病をした。リファナさんに「少しでもお休みになってください」と懇願されても言うことを聞かず、ジーンさんの食事を断って、クラウス様の傍に居続けた。それでも私を心配して、カットした果物を差し入れてくれた2人には、申し訳なさとありがたさで頭が上がらない。
大したことはできないくせに、みんなに迷惑をかけて馬鹿みたいだ。だけど、私がいない間にクラウス様に何かあったら……そう思うと、どうしても離れられなかった。
3日目には、シヴァンさんが訪れた。クラウス様の様子を見に来たらしい。彼がクラウス様の部屋にいる間、私は少し仮眠をとることができた。クラウス様に何かあっても、彼がいれば大丈夫だという気がした。帰り際の「明日も来る」という言葉がどんなに心強かったことか。
次の日、クラウス様が目覚めた。ほんの一瞬、お手洗いに立った私は、クラウス様の部屋の扉を開けてものすごく驚いた。
黒い仮面をつけたクラウス様はいつも通りで、それが嬉しくて嬉しくて泣きたくなった。
「何か召し上がりますか?クラウス様には今、血が足りていません。肉、魚、卵なら何が食べられそうですか?」
とにかく、精のつくものを食べさせなくてはと思った。傷が痛むなら、痛み止めがまだ残っていたはず……っ!?
仮面の奥の麗しい顔を思い出して、胸がドキリと跳ねた。私はあの時、どうして正気でいられたんだろう!?シヴァンさんに口止めしたのは良いけれど、問題は私の羞恥心。忘れようと思うと、余計に意識してしまう。
「ユウレスカ。ちょっと話があるんだが……」
クラウス様がそう言ってくれるのに、私は今それどころでは無い。
「あ……!そ、それは後にしましょう!まずはそう、お着替えです!熱がありましたから、汗をかいているはずです!」
顔が赤くなったりしていないだろうか。変な女だと思われる前に急いで退散せねば。私はなんとかやり過ごし、部屋を出た。皆に朗報を伝えて、クラウス様の食事を用意してもらおう。
道すがら、今日も訪れたシヴァンさんに会った。クラウス様のことを話すと、嬉しそうな顔をして「君もお疲れ様」と言った。私なんかでも役立てたのだと嬉しくなる。その後、シヴァンさんはクラウス様の部屋で10分近く話していたみたいだった。
ジーンさんに話をすると、私を厨房に入れてくれて、何故だか私が料理をすることになった。店では習わなかったし、不安もあったけれど、私は料理が案外得意らしい。ジーンさんも褒めてくれた。
気持ちも落ち着いたところで、部屋を訪ねる。
「クラウス様。お食事をお持ちしました」
病み上がりだから、胃に優しい卵がゆを作ってみたけれど、食べてもらえるだろうか。
「……ありがとう」
クラウス様は食事のトレーを受け取ると、おもむろに仮面を外した。
──えっ、国宝級イケメンが……っ!!
そして、驚く私には目もくれず、食事を口に運んだ。
「……これは君が作ったのか?」
整った容姿に加え、金色の瞳が破壊的に魅力的だ。そして、スプーンを咥える赤い唇……!
「は、はい。僭越ながら私が」
私は目線を下げて、返事をする。再び襲い来る羞恥心のせいで、クラウス様を直視できないのだ。
「そうか」
食事を終えると、クラウス様は私を近くに呼び寄せた。嬉しいけど、これ以上近づくと危険だ。私は今、取り扱い注意の爆弾を抱えている。
「……もっとこちらに来い」
ヘルプ!神よ!これはなんの試練ですか!私は心でそう叫びながらも、少しずつ少しずつ距離を詰めた。互いが触れられるほどに近づいた時、クラウス様は私に手を伸ばした。
私は反射的に目をつぶる。
「──外れろ」
触れられた感触は無い。ただクラウス様の声がして、外れるはずのない首輪が、私の首を離れて地面に落ちた。
「えっ?」
いま、なにが、おきた?
ちょっとよく分からなかった。首輪は奴隷のアイデンティティだ。これがなければ私は奴隷でないし、クラウス様は私の主人ではない。
「……あの、どういうことでしょうか?」
何か理由があるんですよね?
「……看病をしてくれたと聞いた。その褒美だ」
「ご褒美……?」
「そうだ。だからもう、出て行ってくれ」
そう言って、クラウス様はベッドの中に潜ってしまった。私は黙って部屋を出て、ぼんやりと廊下を歩いた。
シヴァンさんから、私の話を聞いたのだろう。ご褒美で、奴隷解放?それにしてはなんだか、冷たい表情だった。まるで、私を突き放すような。
……まさか。私が勝手に顔を見てしまったことをクラウス様は知っている?それを警告するために仮面を外し、反省の色が見られない私に愛想を尽かした、とか。ああ、もしかするとあの口移しのことも、シヴァンさんが話して……?
そうだとしたら、クラウス様のあの態度も納得だ。きっとものすごく怒っているのだ。
『出て行ってくれ』
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