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二章
共存の世界
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一通りの買い物を終え、ループスが購入した服に着替えたライオットは新しく身に纏った服をまじまじと見ていた。
彼は陽気にぐるぐると回ったり、鏡がある店の近くを通るとポーズを決めている。
「そんなに気に入ったか?」
「うん!教会にいた時は白い服か、誰かのお下がりだったからなんだか新鮮!」
にこっと、ライオットはループスに初めて子どもらしい笑みを見せた。
まだ彼らが出会ってそれほど時は経っていない。未だ互いの素性も過去も知らないまま、こうして隣を歩いている。
……それでもいいんだ。
死人のような姿からこうしてただの子どものように無邪気な姿で笑ってくれた。人狼である私に心を許してくれた。
ただ一人でも、こうして人狼を認めてくれるのなら……
「姉ちゃん、あれ……」
ライオットが前方に指を差す。
先程朝食を済ませた『Restaurant』に人集りが出来ている。いつの間に行列が出来る店になったのか、と思っていた矢先、ループスは妙な違和感を覚えた。
行列にしては店の出入口を取り囲むように人々が集っている。
明らかにおかしい。
「ちょっと行ってみるか。もしかしたらサンに何かあったのかも知れない」
「なら早く行かないと!」
「あ、おい!」
地面を蹴り、ライオットは集う人と人狼の間を潜った。
蒸し暑くて、息苦しい。
ようやく息が出来たと思えば、目の前にあった黄色いテープが行く手を塞ぐ。テープの向こう側では店の扉が空いていて、そこから出て来た男二人がタンカーで布を被せた何かを運んでいる。布の下は見えなかった。
ライオットは店の中を見ようとテープから身を乗り出す。
しかし強い力で襟を捕まれ、彼は宙に浮いた。
「わっ!」
「君のような子どもが見ていいものじゃないよ」
人集りからライオットをつまみ出したのは、役所で微笑みをかけてくれた人狼だ。彼は険しい顔をしたまま、ライオットに注意をする。
「悪いことは言わない。今すぐここから出て行くんだ」
「どうして?」
「君のような子どもが知っていいことじゃない」
「それは聞き捨てならないな。何があったか話してくれないか」
ライオットに追いついたループスが彼に問いかける。
「しかし……」
「ここから出て行けと言うのなら連れである私もその対象だろう?その理由はなんだ。私たちが何かしたとでも言うのか?」
男はループスの鋭い瞳に怯み、大きな口を歪ませた。
やがてその口が言葉を紡ぐ。
「……ここの店の子が、誰かに殺された」
刹那の静寂。
男の言葉だけで、脈打つ鼓動まで凍りついていくようだった。
店の子。
あの店に、従業員は一人しかいない。
「……じゃあ、僕が見たのは」
「その子の死体だよ」
人々の隙間から布に包まれた死体を出来る限り目で追った。それは、男たちによってどこかへ運ばれていく。
「嘘、だろ……」
ループスは友人の元へ行こうと人混みに飛び込もうとするが、男に肩を掴まれ元の位置に引き戻された。
「離せ!サンは私の友人なんだ……!」
「気持ちは分かるが少し落ち着いてくれ。あの子が殺されただけじゃない、犯人は君たちを狙っているんだ」
「僕たちを?」
男はライオットに向かって頷いた。
「最後にあの店から出て行った奴が花屋の娘にこう尋ねたそうだ。『人間の子供と人狼の女の二人組はどこへ行った』と。恐らく犯人は君たちを探している。警察は指名手配を出すようだが、相手は武器を持っている可能性が高い」
「……なるほど。だから出て行けと」
「っ!違う、そうは言っていない!」
「いいんだ。犯人の狙いが私たちである限り、折角築き上げたこの町が崩れてしまうのも事実。心配しなくてもすぐに居なくなるとも。世話をかけたな」
友人を失った悲しみ、ここに来ても除け者として扱われる屈辱が混合する。
犯人の目当ての対象である二人が退去する道を野次が開いた。
今まで平和を保ってきた町に不穏が訪れる。
人々は受け入れたはずの目の前の種族に不安を感じ始めた。
私たちは『人』に殺されるのか。
私たちは『狼』に喰われるのか。
やがて段々分からなくなっていく。
私たちは本当に同じ世界で生きていいのだろうか、と。
彼は陽気にぐるぐると回ったり、鏡がある店の近くを通るとポーズを決めている。
「そんなに気に入ったか?」
「うん!教会にいた時は白い服か、誰かのお下がりだったからなんだか新鮮!」
にこっと、ライオットはループスに初めて子どもらしい笑みを見せた。
まだ彼らが出会ってそれほど時は経っていない。未だ互いの素性も過去も知らないまま、こうして隣を歩いている。
……それでもいいんだ。
死人のような姿からこうしてただの子どものように無邪気な姿で笑ってくれた。人狼である私に心を許してくれた。
ただ一人でも、こうして人狼を認めてくれるのなら……
「姉ちゃん、あれ……」
ライオットが前方に指を差す。
先程朝食を済ませた『Restaurant』に人集りが出来ている。いつの間に行列が出来る店になったのか、と思っていた矢先、ループスは妙な違和感を覚えた。
行列にしては店の出入口を取り囲むように人々が集っている。
明らかにおかしい。
「ちょっと行ってみるか。もしかしたらサンに何かあったのかも知れない」
「なら早く行かないと!」
「あ、おい!」
地面を蹴り、ライオットは集う人と人狼の間を潜った。
蒸し暑くて、息苦しい。
ようやく息が出来たと思えば、目の前にあった黄色いテープが行く手を塞ぐ。テープの向こう側では店の扉が空いていて、そこから出て来た男二人がタンカーで布を被せた何かを運んでいる。布の下は見えなかった。
ライオットは店の中を見ようとテープから身を乗り出す。
しかし強い力で襟を捕まれ、彼は宙に浮いた。
「わっ!」
「君のような子どもが見ていいものじゃないよ」
人集りからライオットをつまみ出したのは、役所で微笑みをかけてくれた人狼だ。彼は険しい顔をしたまま、ライオットに注意をする。
「悪いことは言わない。今すぐここから出て行くんだ」
「どうして?」
「君のような子どもが知っていいことじゃない」
「それは聞き捨てならないな。何があったか話してくれないか」
ライオットに追いついたループスが彼に問いかける。
「しかし……」
「ここから出て行けと言うのなら連れである私もその対象だろう?その理由はなんだ。私たちが何かしたとでも言うのか?」
男はループスの鋭い瞳に怯み、大きな口を歪ませた。
やがてその口が言葉を紡ぐ。
「……ここの店の子が、誰かに殺された」
刹那の静寂。
男の言葉だけで、脈打つ鼓動まで凍りついていくようだった。
店の子。
あの店に、従業員は一人しかいない。
「……じゃあ、僕が見たのは」
「その子の死体だよ」
人々の隙間から布に包まれた死体を出来る限り目で追った。それは、男たちによってどこかへ運ばれていく。
「嘘、だろ……」
ループスは友人の元へ行こうと人混みに飛び込もうとするが、男に肩を掴まれ元の位置に引き戻された。
「離せ!サンは私の友人なんだ……!」
「気持ちは分かるが少し落ち着いてくれ。あの子が殺されただけじゃない、犯人は君たちを狙っているんだ」
「僕たちを?」
男はライオットに向かって頷いた。
「最後にあの店から出て行った奴が花屋の娘にこう尋ねたそうだ。『人間の子供と人狼の女の二人組はどこへ行った』と。恐らく犯人は君たちを探している。警察は指名手配を出すようだが、相手は武器を持っている可能性が高い」
「……なるほど。だから出て行けと」
「っ!違う、そうは言っていない!」
「いいんだ。犯人の狙いが私たちである限り、折角築き上げたこの町が崩れてしまうのも事実。心配しなくてもすぐに居なくなるとも。世話をかけたな」
友人を失った悲しみ、ここに来ても除け者として扱われる屈辱が混合する。
犯人の目当ての対象である二人が退去する道を野次が開いた。
今まで平和を保ってきた町に不穏が訪れる。
人々は受け入れたはずの目の前の種族に不安を感じ始めた。
私たちは『人』に殺されるのか。
私たちは『狼』に喰われるのか。
やがて段々分からなくなっていく。
私たちは本当に同じ世界で生きていいのだろうか、と。
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