平和な世界に復讐を

清懺歌

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三章

陰の国

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 透き通るような晴天に包まれるスピリゥス王国。
 整備された道、鮮やかな色の服を着た人々、他国よりも発展しているその国はまさに『平和な世界』を表しているようだった。
 しかしその実態は『平和な世界』とは程遠く、人々は平和に飽いていた。
 刺激を求め危険行為に走る者、がんじがらめの王の政治に不満を持ちクーデターを企てる者……彼らを鎮めようか裁きをくだそうか決めることも王の務めである。
「アダー様」
 黒布を纏った家臣がスピリゥス王国の王、アダーの背後に跪く。
 アダーはガラスに反射した家臣を見て、かつての自分も先代の王から見ればこのようだったのだろうかと鼻を鳴らした。
「例の件はどうなった?」
「兄の方は既に始末が出来ました」
「ならばあと二人か」
「弟の方は確認できています。ただ……」
 黒布の家臣は言葉を濁す。
「弟の方は確か、ライオットだったな」
「はい。まだ子どもではありますが、間違いなく先代王の息子。その息子が人狼と一緒に居るところを目撃したとの情報がありまして」
「人狼と?」
 先代の王もこのスピリゥス王国に人狼の入国を許可していた。
 その血が流れているせいなのか、それともそうなる運命だったのか。
 アダーの答えはどうでもいいだった。
「とにかく先代の王の血を絶やせ」
「はっ」
 黒布の家臣は軽く頭を下げ、アダーに背を向けると、その足元から獣の尾を覗かせる。
「アダー様」
「なんだ」
「ミックスタウンで情報収集していた人狼の子が、殺されました。全てが終わってからで構いません。あの子のために花を添えてあげてください」
 黒布の家臣は人とは違う大きな顔を隠すためにフードを深々と被り直す。
 それでも横から見ると特徴的な長い鼻が飛び出している。
「あの女か。最期の最期まで報われない奴だったな」
「あの子は……サンは本当にいい子でした。何故あの子が殺されなくてはいけなかったのでしょう?」
「お人好しにも程があるぞ、ルフ。雑談をしている暇があるのならその女の分までお前が働け。先代の血を絶やしきったその時こそ死んだ女も報われるだろう」
 黒布の人狼、ルフは大きな口を噛み締めた。

 そのまま豪華な造りの城の中を歩み、暗く湿った地下室へと降りていく。地下には既に運び出したサンの死体が埋葬されていた。
 間近で彼女の死体を見た時、とても胸が苦しくなった。
 なんせ彼女はいつも一人だった。
 店番しているときも、買い物をしているときも、情報収集しているときも。
 たまに挨拶を交わす程度だったが、模範的ないい子だった。
 そして自分以外の人狼が同じようにスピリゥス王国に降ったことも知らなかった。
 なんて可哀想な子。
 なんて哀れな子。
「可哀想に。死ぬときはさぞ痛かっただろう。でも大丈夫、君の仇は仲間が取ってくれた。君は安心して休むといい」
 ルフは墓石にそう言って、身にまとっていた黒布のポケットから小さく折りたたんだ契約書を取り出す。
 ミックスタウンに入国する際に書かなければならない契約書。欄には『ループス』と『ライオット』の文字。
「君の友人は、ループスという名前だったね。美しい金の髪で、水晶玉のように透き通った目で……」
 あぁ、思い出しただけでも興奮する・・・・
 ルフは震え上がる身体を身震いさせて、ポケットから写真を取り出した。
「君がいなくなった今、僕は君の友人に恋をしてしまったよ。あの気丈な彼女をどうやって屈させようか?あの人間のような肌に牙を立てればどうなるだろうか?あの金色の髪に鼻を摺り寄せれば彼女はどんな反応をするだろうか?……今はフリーなんだろう、ループス。また君に会いたいな」
 写真に写るのはミックスタウンで撮らえたループスの写真。
 彼女の虜になってしまった彼は、その写真を見つめながら恍惚気に口元を歪ませた。
 
 
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