いえ、魔術師ではなくドローンを連れた迷子のアンドロイドです。男になるのも女になるのも容易いですが異世界の紛争解決に武器を使うのは……

もーりんもも

文字の大きさ
8 / 48

8 お手並み拝見

しおりを挟む
 翌日からミッチェルはロイドに教育を始めた。
 「イースの護衛見習い」として恥ずかしくない教養と剣術を身に付けさせるためだ。
 人前に出せるまでには最低でも一月はかかるだろうとふんでいたが、見事に裏切られた。

 ロイドの地頭の良さは半端ではなかった。一度聞いたことは決して忘れないのだ。それどころか、知識量の増加に伴って先読みを始める始末だ。
 ミッチェルは王都でもここまで優秀な人間を見たことがなかった。

(魔術師だと名乗るだけのことはありますね)

 まさに「一を聞いて十を知る」を地でいっていた。
 基本的な地政学を早々に、隣国の情勢やクーレイニー王国の歴史、貴族の勢力図などを話しただけで、ロイドはブーロン領のおかれている立場を正確に言い当てた。

 ロイドに王都と王宮の位置を聞かれた時は、ミッチェルは不安を覚えたほどだ。
 まるで、「いざという時のため、攻め込む算段をしてみましょうか」と言われたように感じてしまったのだ。

 結局、最低限必要な教養は午前中で身に付けてしまい、午後からは剣術の稽古を行うことになった。
 ロイドは剣を持ったことがないというので軽めの剣を持たせたが、一振りしただけで不満そうに言った。

「もう少し軽いものはないですか? イースが使っていたような細めの剣の方が扱いやすい気がするのですが。幅もこんなには必要ありません」

 ロイドは剣についての知識はあったが、実物を手にして改めて非効率な武器であることを認識した。
 この世界での警護はなんと無防備なことか。思わずため息が漏れた。

 ミッチェルは気落ちしている様子のロイドに、思わず口元がほころんだ。
 彼は自分と同じ頭脳派で、肉体派ではないということらしい。

(そうか。腕の筋力がないのかもしれませんね。体力作りが先でしたか……)

「重いですか? イースの剣は特別にあつらえたものですからね。まずは子供用のサイズで振ってみますか」

 長さも幅も成人用の半分程度のものに変わると、ロイドはシュッシュッと上下左右に振って確かめた。

「これくらいの方が扱いやすいですね」

 剣の攻撃力は、長さや重さに比例している訳ではない。重ければ振るスピードが落ち、毎秒あたりの殺傷人数も減ってしまう。

 制圧支援ドローンには、直径一センチほどのしなやかで強靭なチューブと、三日月型の薄い刃が装備されている。
 これらは高速で繰り出すからこそ、その威力が発揮されるのだ。

「では、まずは試し切りをしてみましょう。剣そのものの力を感じてください」

 二人は城の正門近く、兵士詰め所の横で練習をしていたため、訓練中の兵士たちがときおり好奇の目を向けていた。

 ミッチェルの言葉を合図に、新参者のお手並み拝見とばかり、兵士たちは訓練を中断してロイドの一振りに注目した。
 兵士たちは皆ニヤニヤとうすら笑いを浮かべている。
 へっぴり腰のロイドが失敗するところを笑ってやろうと待ち構えているのだ。

 ミッチェルは剣の代わりに直径五センチほどの細長い棒を両手で持ち、ロイドの正面で構えた。
 ロイドは剣を振り下ろす角度とスピードを素早く計算した。切り落とした棒がミッチェルを傷付けることのないように。

「ほら。大丈夫ですよ。まずは両手でしっかり握り、上から斜め下へ思いっきり振り下ろしてみてください」

 ミッチェルが言い終わる前に、棒が半分、ぽとりと地面に転がった。
 ロイドは右手で持った剣を下ろしたまま平然と立っている。

「おい、今の見たか? いや、見えたか――?」
「どうなってんだ。アイツ、剣を振ったか?」
「いや、剣は持ったままだろ――」

 兵士たちがざわつき始めた。ミッチェルはロイドに駆け寄り両肩をつかんで耳打ちした。

「また魔術を使いましたね。使用禁止と言ったはずです」

(ふむ。どうやら振り下ろすスピードが早すぎたのですね。人並みのスピードに調整する必要があります。ああそう言えば――)

 ロイドは左手の拳を握って自分の頭を軽く小突いた。

「てへ」

 それから舌先を少しだけ、ぺろっと出した。

 ミッチェルも兵士たちも――誰も何も言わなかった。
 笑いもせず怒りもせず、ジオラマの城の前に立たされている人形のように固まっていた。

(おや。違いましたか。データ通りにやったつもりですが。この時代ではなかったのでしょうか。まあ風習はかなり狭いエリアに限定されることもありますしね。また違う機会に試してみましょう)

「この剣をいただけないでしょうか。使い方は兵士の皆さんの訓練を参考にしますので」

 ミッチェルは、予測不能なロイドにほとほと困り果てた。

「見取り稽古で十分ということですか。はあ。君という人は――」

 ロイドが兵士たちの方を向き、大声で叫んだ。

「という訳ですので、しばらく見学させてくださーい!」

 兵士たちは目の前で起こったことをまだ咀嚼できずにいたので、当の本人から話しかけられ動揺を隠しきれない。

「み、見たいなら好きにすりゃあいいさ。なあ?」
「お、おう」
「あ、俺はちょっと休憩しようかな……」
「はあ? なんだと。ずるいだろ、そんなの」

 兵士たちは、たかが少年一人の言動で醜態をさらし始めた。

「皆さん。いつも通りで結構ですから。何も特別なことをしていただく必要はありません」

 ミッチェルは領主不在の折には代行を任される人物だ。
 そのミッチェルが、「見本を見せてやれ」と言わんばかりに、不満げな視線を投げつけてきたので、兵士たちは一人また一人と剣を取り、しぶしぶ訓練を再開した。



 ロイドの教育はあっという間に終了し、ミッチェルはイースの教育係に戻った。
 ロイドは城内の書物を読んだり、使用人や兵士と会話するなどして、情報を収集することにした。

 城内の至る所で噂話を聞き出し、その内容とドローンからの映像で得た情報を突き合わせるのがロイドの日課になった。


 ロイドは起動後の自分の成長に満足していた。
 ほんの数日間で、人間たちとさりげない会話を交わす習慣を身に付けたし、真夜中に足音をさせずに城内を歩き回ると、人間たちが悲鳴をあげることも学習したのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
 2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。  死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。  命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。  自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

死んだ土を最強の畑に変える「土壌神の恵み」〜元農家、異世界の食糧難を救い、やがて伝説の開拓領主になる〜

黒崎隼人
ファンタジー
土を愛し、土に愛された男、アロン。 日本の農家として過労死した彼は、不作と飢饉に喘ぐ異世界の貧しい村の少年として転生する。 そこは、栄養を失い、死に絶えた土が広がる絶望の土地だった。 だが、アロンには前世の知識と、土の状態を見抜き活性化させる異能『土壌神の恵み』があった! 「この死んだ土地を、世界で一番豊かな畑に変えてみせる」 一本のスコップと規格外の農業スキルで、アロンは大地を蘇らせていく。 生み出されるのは、異世界人がかつて味わったことのない絶品野菜と料理の数々。 飢えた村人を救い、病弱な公爵令嬢を元気にし、やがてその評判は国をも動かすことに――。 食で人々を繋ぎ、戦わずして国を救う。 最強の農家による、痛快異世界農業ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...