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2 トラブル発生
入学式直後のホームルームで、簡単な自己紹介をした後、担任となったエリック先生から、今後一年間の大まかなスケジュールが提示された。
前期と後期の試験、それと、定例イベントだ。
最初のイベントは孤児院への慰問で、これは生徒同士の親睦を深める意味もあり、入学後早々に実施される。
私は一組の実行委員に(しかもリーダーに!)選ばれたので、張り切って準備をしていた。
慰問までの数週間は、学業よりも準備作業に専念していたほどだ。
その慰問の日が明日に迫り、放課後、孤児院に運び込む予定の食材をチェックしていた時だった。
「メーベル!」
シャーリーが教室に飛び込んできた。
「大変よ、メーベル!」
「何よ、そんなに慌てて」
「だって! もう――ほんとに大変なんだって!」
お互いに子爵令嬢として常に冷静沈着でいることを幼い頃から叩き込まれている。
それなのに彼女がここまで慌てているということは、よっぽどのことが起きたに違いない。
「え? 聞きたくないかも。私は既にすっごく大変なの。予算には限りがあるのに次から次へと――」
「そう、それ! 予算にもかかわる件だよ! 二組のレリル様が発注を間違えたんだって!」
……うわぁ。
『レリル様』って聞いただけで、もう目の前が真っ暗になる。
あのピンク髪の『今年のプリンセス』かぁ。
孤児院慰問の準備期間中、一組と二組とで全体の進捗を確認することが何度かあった。
彼女に対しては、「『うふふ』って笑っていないで、さっさと仕事してよー!」と、何度叫びそうになったことか。
レリル様は今年のプリンセスなので、当初は学年を代表して孤児院の院長に挨拶をするだけの役割だった。
それなのに、彼女自ら、『挨拶だけなんて、そんなの申し訳ない。私も率先して準備を手伝いたい』と申し出て、二組の実行委員になったと聞いている。
じゃあやる気を出して準備を手伝ってくれたのかと期待していたのに、いざ、一組と二組の合同会議で進捗を確認してみると、レリル様の担当作業だけが進捗不明という事態に。
それからというもの、心配になって度々二組にお邪魔した結果、レリル様は見事に機能していないことが分かった。
一応、二組のリーダーにはそれとなく伝えてはみたんだけど、まったく改善されずに今日まで至る。
「今度は何なの? 間違えたって?」
「ミルクの発注量を間違えたんだって。五リットルでいいのに、五百リットル注文したらしいわ」
「は?」
「五リットルでいいのに、五百リットル――」
「そこは分かった。そうじゃなくて、いや、それ、注文を受ける方も間違っていると分かるでしょ! 孤児院に一日だけ慰問訪問するって主旨を知っているはずなのに、それを受けるなんてどうかしているわよ!」
「そこなんだけど。先方も、『一日で飲み切れる量でなくていいのか』、『そうでなくても保存できる量じゃないからやっぱり間違っているんじゃないか』って、何度も確認してくれたらしいんだけどね」
「うわー。その続きは聞きたくなーい」
「『昨日までに返事がほしいって何度も催促したのに何の返事もないから、明日は注文通り五百リットル持って行きますね』って、連絡があったんだって!」
……うわぁ。何それ? どうしたらいいの?
一組と二組の合同で、生徒たちが主体となって孤児院に慰問に行くという前期の一大イベントだったのに。
大失敗の大赤字で終わることが確定してしまった。
この損失は誰が補填するの?
連帯責任とか言わないよね?
この場で一緒に作業していた生徒たちも、全員私と同じことを想像したようで、顔面蒼白だ。
「たまたまレリル様宛の伝言を聞いたのが、レリル様とペアを組んでいた平民の子だったらしいの。その子、慌てふためいて、担任の先生をすっ飛ばして学園長に報告したらしいわ。レリル様はずっと休んでいて連絡が取れないらしくって、その平民の子が、『申し訳ありません』って、しくしく泣き続けていたっていう話よ」
「ああ、もう分かった。皆まで言わなくていいわ。どうせ、『レリル君には荷が重い』とか言って、誰か他の人間に尻拭いさせることにしたんでしょ?」
レリル様は、王子殿下に次いで注目されている存在だ。
ピンクブロンドの緩い巻き毛にエメラルドグリーンの瞳といった愛くるしい見た目もそうだけど、やっぱり『今年のプリンセス』に選ばれたことが大きい。
私も最初に彼女を見た時は、大人しくて優しそうだなって思った。
おっとりした性格で、いつも、「うふふ」と微笑みを絶やさない天使みたいな子。
でもその後、ポツポツと聞こえてくる彼女がらみの話は、ものすごくもやもやするもので、あっという間に関わりたくない人物に変わっていった。
「……メーベル? ねえったら!」
「ん? あ、ごめん。何だって?」
「だから、学園長がメーベルを呼んでいるんだってば!」
「えぇっ! なんで? どうして私? まさか……」
「メーベルは一組のリーダーで取りまとめ役でしょ。だからじゃない?」
「おかしいでしょ。どうして二組の代表じゃなくて一組の私なの?」
「そこは、ほら。二組って色々あったし」
「えぇぇ」
「愚痴なら後で聞くから、ほらっ。早く行った方がいいって」
「……」
学園長は私にレリル様の尻拭いをさせるつもりなんだ。
うちのディジョン子爵家もレリル様のところのコーエン男爵家と同じ下位貴族だから、侯爵家出身の学園長からすれば同じようなものなんだろう。
それにしてもなぁ。
いくら生徒主導といっても、こういうトラブルは先生たちで解決してほしい。
前期と後期の試験、それと、定例イベントだ。
最初のイベントは孤児院への慰問で、これは生徒同士の親睦を深める意味もあり、入学後早々に実施される。
私は一組の実行委員に(しかもリーダーに!)選ばれたので、張り切って準備をしていた。
慰問までの数週間は、学業よりも準備作業に専念していたほどだ。
その慰問の日が明日に迫り、放課後、孤児院に運び込む予定の食材をチェックしていた時だった。
「メーベル!」
シャーリーが教室に飛び込んできた。
「大変よ、メーベル!」
「何よ、そんなに慌てて」
「だって! もう――ほんとに大変なんだって!」
お互いに子爵令嬢として常に冷静沈着でいることを幼い頃から叩き込まれている。
それなのに彼女がここまで慌てているということは、よっぽどのことが起きたに違いない。
「え? 聞きたくないかも。私は既にすっごく大変なの。予算には限りがあるのに次から次へと――」
「そう、それ! 予算にもかかわる件だよ! 二組のレリル様が発注を間違えたんだって!」
……うわぁ。
『レリル様』って聞いただけで、もう目の前が真っ暗になる。
あのピンク髪の『今年のプリンセス』かぁ。
孤児院慰問の準備期間中、一組と二組とで全体の進捗を確認することが何度かあった。
彼女に対しては、「『うふふ』って笑っていないで、さっさと仕事してよー!」と、何度叫びそうになったことか。
レリル様は今年のプリンセスなので、当初は学年を代表して孤児院の院長に挨拶をするだけの役割だった。
それなのに、彼女自ら、『挨拶だけなんて、そんなの申し訳ない。私も率先して準備を手伝いたい』と申し出て、二組の実行委員になったと聞いている。
じゃあやる気を出して準備を手伝ってくれたのかと期待していたのに、いざ、一組と二組の合同会議で進捗を確認してみると、レリル様の担当作業だけが進捗不明という事態に。
それからというもの、心配になって度々二組にお邪魔した結果、レリル様は見事に機能していないことが分かった。
一応、二組のリーダーにはそれとなく伝えてはみたんだけど、まったく改善されずに今日まで至る。
「今度は何なの? 間違えたって?」
「ミルクの発注量を間違えたんだって。五リットルでいいのに、五百リットル注文したらしいわ」
「は?」
「五リットルでいいのに、五百リットル――」
「そこは分かった。そうじゃなくて、いや、それ、注文を受ける方も間違っていると分かるでしょ! 孤児院に一日だけ慰問訪問するって主旨を知っているはずなのに、それを受けるなんてどうかしているわよ!」
「そこなんだけど。先方も、『一日で飲み切れる量でなくていいのか』、『そうでなくても保存できる量じゃないからやっぱり間違っているんじゃないか』って、何度も確認してくれたらしいんだけどね」
「うわー。その続きは聞きたくなーい」
「『昨日までに返事がほしいって何度も催促したのに何の返事もないから、明日は注文通り五百リットル持って行きますね』って、連絡があったんだって!」
……うわぁ。何それ? どうしたらいいの?
一組と二組の合同で、生徒たちが主体となって孤児院に慰問に行くという前期の一大イベントだったのに。
大失敗の大赤字で終わることが確定してしまった。
この損失は誰が補填するの?
連帯責任とか言わないよね?
この場で一緒に作業していた生徒たちも、全員私と同じことを想像したようで、顔面蒼白だ。
「たまたまレリル様宛の伝言を聞いたのが、レリル様とペアを組んでいた平民の子だったらしいの。その子、慌てふためいて、担任の先生をすっ飛ばして学園長に報告したらしいわ。レリル様はずっと休んでいて連絡が取れないらしくって、その平民の子が、『申し訳ありません』って、しくしく泣き続けていたっていう話よ」
「ああ、もう分かった。皆まで言わなくていいわ。どうせ、『レリル君には荷が重い』とか言って、誰か他の人間に尻拭いさせることにしたんでしょ?」
レリル様は、王子殿下に次いで注目されている存在だ。
ピンクブロンドの緩い巻き毛にエメラルドグリーンの瞳といった愛くるしい見た目もそうだけど、やっぱり『今年のプリンセス』に選ばれたことが大きい。
私も最初に彼女を見た時は、大人しくて優しそうだなって思った。
おっとりした性格で、いつも、「うふふ」と微笑みを絶やさない天使みたいな子。
でもその後、ポツポツと聞こえてくる彼女がらみの話は、ものすごくもやもやするもので、あっという間に関わりたくない人物に変わっていった。
「……メーベル? ねえったら!」
「ん? あ、ごめん。何だって?」
「だから、学園長がメーベルを呼んでいるんだってば!」
「えぇっ! なんで? どうして私? まさか……」
「メーベルは一組のリーダーで取りまとめ役でしょ。だからじゃない?」
「おかしいでしょ。どうして二組の代表じゃなくて一組の私なの?」
「そこは、ほら。二組って色々あったし」
「えぇぇ」
「愚痴なら後で聞くから、ほらっ。早く行った方がいいって」
「……」
学園長は私にレリル様の尻拭いをさせるつもりなんだ。
うちのディジョン子爵家もレリル様のところのコーエン男爵家と同じ下位貴族だから、侯爵家出身の学園長からすれば同じようなものなんだろう。
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