私が間違っているのですか? 〜ピンクブロンドのあざと女子に真っ当なことを言っただけ〜

もーりんもも

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7 納得できないクラス編入

「私たち必死で勉強して入学時の組分け試験を頑張ったのにね」

 シャーリーが私にだけ聞こえるようにつぶやいた。

「本当にね。二組の人たちも納得いかないんじゃないかな」

 私は納得いかない。




 孤児院の慰問から数日後。
 一時間目は担任のエリック先生の授業じゃないのに、先生が授業開始前に、「連絡事項がある」と教室に入って来た。

「二組のレリル・コーエン君だが、明日からこの一組に編入することが決まった」

 高位貴族の子息令嬢たちは、学園入学前には既に感情を抑制することが当たり前のようにできるようになっている。
 そんな生徒たちの間でも、ざわり――と空気が変わったのが分かった。
 誰も一言も発していないけれど、心の内から漏れ出た感情が空気を揺らしたみたいだ。

「二組には問題のある生徒たちが複数名いるのだ。その者たちがレリル君と友好的に接することができず彼女に辛く当たるものだから、彼女はひどく傷付き、登校が困難になってしまったのだ」

 なぜか、レリル様が嬉々としてお菓子を配っている姿が目に浮かんだ。
 心の底から学園生活を楽しんでいたように見えたけれど……。

「学園側も仲裁を試みたが、思うような成果を上げられなかった――」

 学園が決定したことなので、彼女が一組に編入することは覆らない。
 なので、もう誰も、こんこんと編入すべき理由を力説する先生の話を聞いていない。

「――というような誤解があり、両者の溝が埋まらないことにレリル君は責任を感じてしまい、精神的にまいってしまったらしい。君たち一組の生徒は二組の生徒とは違うと信じている。レリル君が安心して楽しい学園生活を送れるよう留意してほしい」

 先生は、高位貴族の方たちに、『男爵令嬢に気を遣え』と言っている。
 いくら学園内では身分をひけらかさないという暗黙の了解はあるとはいえ、たかが一人の生徒のために学園がそこまで神経質に対応するのは何故なのだろう?

 私の疑問に第二王子のフレデリック殿下が答えてくださった。

「国王陛下が提唱されている理念に基づく行動ですね」
「そうだ」

 ……あ。
 先生も不穏な空気を感じ取っていたんだ。
 殿下に助け舟を出されてホッとしている。
 殿下が静かに続けた。

「国王陛下は常日頃から、『弱者に心を寄せるように』とおっしゃっています。それに、『貴族の中には、保持している特権が未来永劫続くと勘違いしている者がいる』とも」

 確かに、犯罪まがいのことをしでかして爵位を返上したり、お金に困って領地を売る家もある。
 強者が永遠に強者でいられる保証はない。


「メーベル、知ってた? 陛下ってそんなことを言っていたんだね」
「プライベートな会話かもよ?」
「でも、まあ、『明日は我が身』っていうことでしょう?」
「そう考えたところで、レリル様に優しくできるかどうか……」
「なるべく関わらなきゃいいんじゃない?」
「そうだよね。じゃあ私はシャーリーとずーっと一緒にいることにする」
「隣の席だしね!」

 とは言ったものの、不安は拭えない。
 明日からレリル様が一組に……。
 何かの拍子に彼女が落ち込めば、一度揉めたことのある私に疑いの目が向けられそうで怖い。

 レリル様がそこまで脆い精神状態なら、何気ない会話からも深読みされてしまうかも。
 それでも、安易に、「情緒が安定するまで休学すればいいのに」などと言おうものなら、逆に、「陛下のお考えに異を唱えるのか」と糾弾されることだろう。

 明日なんて来なければいいのに、と思いながら一日を過ごすことになってしまった。


   ◇◇◇   ◇◇◇


 翌朝。
 私は授業開始直前に登校した。
 授業開始前にレリル様と挨拶をするのが嫌でギリギリに教室に入ったのに、まるで私を待ち構えていたかのような、「メーベル様ぁ!」という甲高い声に捕まってしまった。

 驚いたけれど、私だって貴族令嬢の端くれ。
 すぐに気持ちを切り替えて頑張って笑顔を作って挨拶した。

「おはようございます、レリル様。今日から同じクラスですね。よろしくお願いします」

 とりあえず微笑を貼り付けて応対する。
 あれ?
 レリル様の隣にいるのはシャーリー?

「よかった~。一組の皆さんて、王子をはじめ、公爵だとか伯爵だとか、偉い家の方ばっかりで緊張しちゃって」

 あー、シャーリーが解放されたような顔をしている。
 そっか。私が来るまでずっとレリル様に捕まっていたんだね……。
 いやいや。それは置いておいて。

 今、『王子』って呼び捨てにしなかった?
 殿下って敬称をつけないと不敬罪でしょう?
 どうして誰も注意しないの?

「メーベル様? どうされました? そうだ! 私がメーベル様の隣に座れるように席を替わってもらったんです!」

 嘘でしょう!
 思わず、「お前か!」と、気まずそうに顔を伏せている子爵令息を睨んでしまった。

「私、欠席が多くて、ちゃんと授業を受けることができなくって――。分からないとところを教えていただけると嬉しいです!」

 それは家庭教師に頼むことじゃない?
 どうして私が?
 ここで安請け合いをしてしまうと、後々面倒なことになりそう。

「レリル様。このクラスの担任のエリック先生は、それはそれは優しい先生ですから、分からないことがあれば、その都度お聞きになるといいですよ」

 先生に丸投げしておこう。

「え~。先生に? でも、先生はみんなの先生でしょ? 私が独り占めしちゃいけない気がするんだけど。私はやっぱり友達同士で教え合うのがいいな」

 友達? なった覚えはないんですけど?
 私……もしかして舐められている?
 男爵令嬢が子爵令嬢の私に、有無を言わせない要求をしている。

 学園内で身分を笠に着て威張るのは、学園の理念を理解していない下劣な行為だとされている。
 それでも序列を意識した上で、最低限の礼を取るべきなのは言わずもがな。
 あー、でもなー。
 一組に編入してきた理由が理由なだけに、ちょっとでもそういうことを匂わせただけで返り討ちにあいそう。

 悩んだ挙句、何も言わずに、YESともNOとも取れる曖昧な笑顔を浮かべておいた。
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