私が間違っているのですか? 〜ピンクブロンドのあざと女子に真っ当なことを言っただけ〜

もーりんもも

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10 秘密のお茶会②

 ジゼル様は紅茶を一口飲んでティーカップをソーサーに戻すと、「ふぅ」と小さく息を吐いた。
 ソーサーをテーブルに置いて私の方へ向き直ったので、私も思わず背筋に力が入る。

「恥ずかしながら、私は勉強があまり得意ではなかったので、分相応に二組となったことに不満はありませんでした。両親からも社交を学ぶために学園に通うのだと言われておりましたし……。ですから、まずはクラスに溶け込もうと男女関係なく積極的に話しかけましたし、話しかけられれば愛想良く返事をしておりました。孤児院の慰問という二クラス合同のイベントのサブリーダーに選ばれたのも、自分で言うのはなんですが、先生が日頃の私を見てくださっていて、協調性があると判断されたからだと思いました」

 こういう話を聞く時の相槌の打ち方がよく分からない。
 話の腰を折ってもいけないので、口角を少し上げた微笑の状態で、軽く頷きながら聞くことにした。
 ジゼル様も優しく微笑み返してくれながら話を続けてくれる。

「レリル様は今年のプリンセスにも選ばれましたし、あの通り可愛らしい見目をされておりますので、入学初日からとても目立っていて、あっという間にクラスの人気者になりました。私も最初の頃はレリル様とお話しするのが楽しかったのです。ふわふわとした砂糖菓子のような方だと思いました」

 砂糖菓子のような人……確かに私もレリル様に対する第一印象はそんな感じだった。

「最初に『あら?』と違和感を感じたのは、本当に些細なことがきっかけなのです。親睦を深めるために席が近い者同士で班に分かれて課題をすることになったのですが、その班分けで、私はレリル様と同じ班になったのです。私はレリル様と同じ班になれて嬉しく思いました。もしかすると、学園卒業後も親しく付き合えるような友情を育むことになるかもしれない――などと勝手に期待しておりました」

 話の雲行きが怪しいので頷くことはせずに、ジゼル様を見つめるだけにしておく。

「ところが、レリル様は少し悲しそうに目を伏せて、こうおっしゃったのです。『私たちの班は少し偏っていますね』と」
「え? どういう意味ですか?」

 しまった。つい口を挟んでしまった。

「ふふふ。私も同じ質問をしました。私たちの班には、私の他に子爵家の令嬢がもう一人、男爵家の令嬢が一人――レリル様ですね、それと、男爵家の令息が一人、平民の女生徒が一人だったのです。他の班は男子生徒の方が多かったり、平民の方が複数いたりしていました」

 気にするほどの差はないように思うけれど……。
 そもそも課題を一緒にするだけの班だし。

「レリル様は突然『このままではケイトさんとチャーリー様が実力を発揮できないわ!』と声高に発言されたのです。皆の注目を集めたところで、『先生! 私たちの班にもう一人平民の方を入れてください。それと男性もお願いします!』と提案されたのです」

 そこまで一気に話されたジゼル様は、再びティーカップを手に取り、紅茶で喉を潤した。
 うぅぅ。我慢できない。一言いいだろうか。

「それは提案というにはあまりにお粗末だと思います」
「そうですよね。私も発言の仕方が気になりましたが、それでも先生はレリル様の提案通りに変更されたのです」
「……」
「先生が、どなたとどなたを入れ替えようかと生徒の顔を見渡されていると、レリル様は先んじておっしゃいました。『ジゼル様。平民の方は、この学園に入学して初めてジゼル様のような貴族令嬢にお会いされたはずです。だから、慣れないうちは挨拶すら難しいと思うの。今回は、あちらの方と変わってくださいますか?』と」
「え? では……」
「はい。結局、私を含めた子爵令嬢二人が違う班になり、平民が男女一人ずつ加わったのです。そういう経緯もあって、元の班はレリル様を中心とした、彼女を崇拝する生徒の集まりになりました。それから数日間は、それはもうレリル様を褒めそやす声がうるさくてかないませんでした」

 レリル様を中心にして、彼女を囲む暑苦しい生徒たちの光景が目に浮かぶ。

「まあ班ごとに個性は出ますから、私たちは気にせず課題を進めました。ところが、課題提出の締め切り前日に、レリル様から耳を疑うような申し出があったのです。どうやら彼女の班では課題が思うように進んでおらず、締め切りに間に合わないことがはっきりしたようなのです。そこで、私たちの班と合同という形で、私たちの提出分に、自分たちの班のメンバーの名前も入れてくれないかとお願いされたのです」
「は?」

 間抜けな声が出てしまったけれど無理もないはず。信じられない提案だもの!

「ジゼル様! そんなの――それって――あ、あまりに常軌を逸していて、何と言うか、百歩譲って、進捗が思わしくないと分かった段階で相談に乗ってほしいと言うのなら分かりますわ。いえ、それも本来ならば先生に言うことですが。自分が提案して班のメンバーを入れ替えておきながら、力不足で課題ができなかったからといって、いいえ! できなかったとしても、正直に途中までの成果物を提出するべきです! それを――そんな――他人の成果を自分のものにしようだなんて、不正です!」

 ……あ。ついつい興奮してしまい思いの丈をぶつけてしまった。

「メーベル様。ありがとうございます。私のために怒ってくださって」

 ジゼル様が破顔したのを見て、ほっとした。

「その時は、レリル様があまりにも無邪気におっしゃったので、その言葉の意味を飲み込むのに時間がかかりました。ああ、いえ、結局飲み込めませんでした。私も、その場で、『それはやってもいない課題をやったことにしたいとおっしゃっているのですか? 私たちが出した結果を寄越せと?』と、聞き返してしまったのです」

「私がジゼル様でもきっと同じことを言ったと思います。それにしてもレリル様はどういうお考えでそんな提案を持ちかけられたのでしょうか?」

「さぁ。あの方のお考えは本当に分かりませんわ。普通の方でしたら、まずそのような提案はなさらないでしょうし、私の言葉を聞いて自分がしようとしていたことに気がつくはずですもの。でもレリル様は違いました。何故か私が快諾するものとお考えだったようで、私が苦言を呈したことに目を見開いて驚かれました。それから、『え? 寄越せだなんて、そんな……私はただ、二つの班を一つにしてほしくて、それだけお願いしたつもりなのに……』と、それはそれは打ちひしがれた様子で悲しそうにおっしゃいました。周囲にいた数名は、私がレリル様に何かひどいことを言って傷付けたと誤解したようでした」

 うわぁ。それは……お気の毒に。
 遠目から見ていただけの人に、どういった内容の会話かも理解されずに勝手な解釈をされるのは辛いよね。

「結局、レリル様の班は課題をこなせなかったのですが、担任の先生からは遠回しに注意されました。『便宜上、班に分けたが、同じクラスの仲間同士助け合うのは当然だ。私から指示しなくても君たちなら協力し合うだろうと期待していたのだがな。どうやら違ったようだ』と。気のせいかもしれませんが、先生は私を見ていた気がしますわ」
「そんな……。レリル様ができなかった言い訳にジゼル様の名前を出すのもおかしいですし、ましてや、先生がレリル様の言い分を聞いただけでそのようなことをおっしゃるなんて……」
「日頃の先生への接し方の差でしょうね。それでも、私と同じ班の方をはじめ数人は私に味方してくれましたので、クラスで孤立せずにすみました」

 ジゼル様は、話はこれからだというように、私をまっすぐ見てから切り出した。

「メーベル様。くれぐれも用心なさってください。レリル様の振る舞いが、高位貴族が集められている一組でどのように受け止められるかは分かりませんが、もしメーベル様とレリル様との間でトラブルのようなものが発生した場合、高位貴族の方からは、『たかだか子爵家が男爵家に向かって偉そうに』と、下位貴族の間の序列を持ち出しているように見られるかもしれません」
「え?」

 一組の高位貴族の方たちは、それこそ下位貴族の私たちには関心すらないように見えるけれど。

「今思えば、レリル様の男爵令嬢という身分も大きかったと思うのです。私がなまじ子爵令嬢だったので、身分の高い私が自分よりも身分の低いレリル様をいじめているように映ったようです。それと、平民にしてみれば、男爵家と子爵家では、やはり男爵家の方が親しみやすいようで、平民の方々の当たりが目に見えて強くなりましたわ。『レリル様をお守りするのだ』などと言っているのを聞いたこともあります。特に男子は、ほとんどの生徒が、いつの間にかそのようなことを言うようになりました。孤児院の慰問イベントで、レリル様が平民の方とペアを組んだのも、学園側が意図的にそうしたのだと思います」

「そういえば、あのイベントでレリル様とペアを組んだのは平民の方だと聞きました。レリル様から進捗を共有されていなかったのですよね? それで学園長に報告せざるを得なくなったとお聞きしましたけれど」

 レリル様にかなり迷惑をかけられたはずだけど、彼女のことをどう思っているんだろう?

「ええ。あの時はリーダーも私も別の場所で作業をしておりましたから。相当勇気がいったと思います」
「その方はレリル様とその後どんな感じなのですか?」
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