私が間違っているのですか? 〜ピンクブロンドのあざと女子に真っ当なことを言っただけ〜

もーりんもも

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12 つい、うっかり

 一夜明けて学園に登校すると、先に来ていたシャーリーが椅子ごと私の近くに寄ってきた。

「おはよう、メーベル。今日も一緒に一日頑張ろ――あれ? 何かスッキリした顔してるね」
「そう? でもそうかも。まあ、悶々と悩むことはしなくなったかな」
「え? 急にどうしたの?」
「ふふふ。それはね――」

「おはようございま~す!」

 レリル様の甘ったるい声に、教室にいたほぼ全員がドアの方を向いた。

「ねえ、メーベル。彼女、相変わらずなんだけど」
「うん。まあ……そうみたい……だね」

 レリル様は天真爛漫な笑顔で、全方位に愛想を振りまいている。
 彼女の通常運転だ。
 一組の高位貴族の方にしてみれば、平民同士がする挨拶のようで奇異に感じると思うのだけれど。
 それでも皆さん、段々と慣れてきたようで、最初はあまりの馴れ馴れしさに白い目で対応されていた方も、今では普通に、「やあ、おはよう」などと返されている。

 今日は気合を入れて来たというのに、レリル様が近づいて来ると鼓動が早くなるのが分かる。
 緊張なんてしていると、上手く対応できないのに。

「おはようございまっす。メーベル様」

 なぜ語尾を上げて挨拶するのだろう? などと余計なことが脳内をよぎったため、返事が遅れてしまった。

「おはようございます。レリル様」

 私の反応の遅れを感じ取ったシャーリーが先にレリル様に挨拶してくれた。
 助かった。ありがとう!

「うふふ。おはようございまっす。シャーリー様」

「おはようございます。レリル様」

 よかった。普通に言えた。
 レリル様は授業が始まる少し前に滑り込むように教室に入ってくるので、授業開始前の会話はほとんどしなくて済む。

 それにしても、レリル様……。休みがちだったのが嘘みたいに毎日登校しているよね?
 何が変わったんだろう? 


   ◇◇◇   ◇◇◇


 初日のランチタイムに私がシャーリーと逃げ出した後、レリル様は伯爵令息たちに交じってランチを取るポジションを手に入れたらしい。
 昼食時に令息たちが楽しげに彼女を誘ってくれるので、心底ありがたい。
 レリル様も満足しているみたいだし、私とシャーリーも幸せなので、全員がハッピーな状態だ。

 授業の合間の休憩時間もランチ仲間の令息たちが積極的にレリル様に話しかけていた。
 お陰で私は彼女に構われることなく平穏な時間を過ごすことができた。
 私以上に仲良くなってくれた令息たちには感謝しかないなぁ――と、すっかり油断していたところに突然名前を呼ばれた。

「メーベル嬢、どうだろうか? 長時間の学習となると、さすがに同性同士の方がよいと思うのだが?」
「え?」

 聞いていなかった! 何の話?
 すかさずシャーリーが助けてくれた。

「コホン。ですが、レリル様は普段から親しくされている皆様と一緒に試験勉強をされたいようですけれど?」

 え? 試験勉強の話? は? 長時間……私と……?
 え? えぇぇぇぇ!

「それはそうだが、君たちもレリル嬢と親しくなるよい機会なのでは? 隣の席にいる割には会話が少ないように感じるのだが」

 うわっ。やっぱり気付かれていたのか。
 避けているように見えないよう気を付けていたつもりでも、やっぱり無理している感じは伝わってしまうのかな。

「あの……メーベル様。ご迷惑でしょうか?」

 レリル様がうるうるとした瞳で訴えかけてくる。
 どうしよう。
 何て答えるのが正解なの?
 レリル様だけでなく、伯爵令息たちも私を見ている。
 これは――逃げられない。

「あの……。家庭教師の方に教わるのが一番確実な方法なのではないでしょうか?」

 レリル様のためを思って、最善と思われることを言ったのに、彼女の顔は曇ってしまった。
 あれ? もしかして家庭教師がいないとか? だったら――。

「もし心当たりの方がいらっしゃらないようでしたら、私、良い方をご紹介できると思います」

 えっ!
 レリル様が俯いてしまった。
 はっ! 金銭的な理由で雇えないとか?
 どっ、どっ、どうしよう! 
 どうして即答しちゃったんだろう。
 あれほど『一度持ち帰って検討する』ことが大事だと教えてもらったのに。

「入学前の組分け試験が終わった段階で家庭教師の先生は来られなくなって……。メーベル様がご紹介くださるような……皆さんのところの家庭教師の先生は名のある家の方たちでしょう? 私の家は歴史も浅く、お世辞にも裕福とはいえない男爵家……きっと……ううん。どれだけ背伸びした条件でご依頼してもお断りされると思うのです。お金をかけることもできないから――諦めるしかないのかな……」

 え? どうしてそんな結論に?
 家庭教師っていうのは一案に過ぎないんだよ?
 っていうか、無理だったら伯爵令息たちに教えてもらえばいいのでは?
 うわっ。伯爵令息たちの表情が強張っている。

「ええと――」
「ひどいじゃないか。どこの家にも事情はあるものだ。成人して家督を継いだ者でない限り、家庭環境を変えるのは不可能な話だ。容易にはできないことを分かっていながら話題にあげるとは」
「え?」

 私は教えることを専門としている方に教わるのがよいのではないかと提案しただけなのに。
 伯爵令息たちは、私が回りくどい理屈で男爵家に対して侮蔑するような発言をしたと思ったらしい。
 深読みどころか、曲解されているんですけど。

「私、自分が勉強が得意じゃないことは自覚しているんです。みんなは一度聞けば理解できるのに、私は何度も聞かないと理解できないし。覚えたと思っても、すぐに忘れてしまうから、何度も何度も覚え直さないといけないし……。分かっているんです。私は頭が悪いんです」

 レリル様、ちょっと待って! 先に誤解をとかせて!
 伯爵令息たちがどんどん怒気を帯びていくのが分かる。
 え? えぇぇ?
 
「ご、ごめんなさい。私――」

 レリル様はほろりと涙を一雫流すと、そのまま教室を出て行ってしまった。
 もう、最悪!
 こんな状況でいなくなるなんて。 

「メーベル嬢。見損なったよ。君の家は随分と立派なのだな」
「ああ、そうだな。メーベル嬢はレリル嬢が一組に編入することになった理由を聞いていながら、まったく配慮するつもりがないらしい」

 ものすごい非難の嵐だ。
 勝手にレリル様の世話を頼んでおきながら、自分たちの思うような結果にならなかったからといって、そこまで言う?
 レリル様にはあんなに優しく接することができるのに、どうして私に対してはそこまで辛辣になれるの?

 こんな短い時間で、ほんの一言しか発していないのに、ここまでダメージを受けるとは……。
 何て答えたらよかったの?
 こんなの難し過ぎるよ!
 レリル様や周囲の人たちに曲解されることのないよう、しかも言葉尻を捉えられないように当たり障りのないことを言うなんて、瞬時に判断して最適な言葉を見つけなきゃこんなことになるの?


 これって、学生生活で必要とされる社交のレベルなの?!
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