私が間違っているのですか? 〜ピンクブロンドのあざと女子に真っ当なことを言っただけ〜

もーりんもも

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21 生徒茶会③

 伯爵令息の圧力に屈した訳じゃないけれど、チームの輪を乱すのも嫌だったので、「エリック先生に頼んで、レリル様には主賓のテーブル向けに特別なお菓子を用意する役目をお願いする」ということで、昨日のあの場は決着した。
 格上の方に他とは違う特別なお菓子を提供するのは、それほどおかしなことではないはず――という理由まで考えてあげて、ようやく解散できたのだ。


「エリック先生には私からお願いするわ!」と、レリル様が自信満々に請け負ったので、敢えて口を挟まずに任せることにした。
 多分、私やシャーリーがそんな提案をしようものなら叱責を受けるだろうから。

『レリル様は事情があってやむなく一組に編入してきた配慮を要する生徒』と、先生は認識しているようなので、却下する場合でも、やんわりと茶会の主旨説明をしてくれることだろう。
 まあ、どっちに転んでも、「先生の判断」という言い訳を貰えるので、私とシャーリーは大助かりだ。


   ◇◇◇   ◇◇◇


 今日の放課後は、一組の生徒全員での打ち合わせだ。
 茶会開催までに準備が必要な項目の洗い出しと役割分担を決めるのだ。
 
 打ち合わせが始まる前に、自分たちもちゃんと意見を言えるよう、シャーリーと話し合っておくことにした。

「ゲストとなる二組の生徒の席決めは公爵令嬢がやりたがっていたわ。茶葉は難しそうだから、私とメーベルで、お菓子の調達を担当しない?」
「さすがシャーリー。情報が早いね。そうね。男子たちはテーブルセッティングや食器の準備をやりたいって言っていたし」
「上手くお菓子調達のお役目をもらえるといいね」
「うん」

 シャーリーとすり合わせが終わったところで、フレデリック殿下が教卓の前に立った。
 生徒全員が自然と居住まいを正し、口をつぐんだ。

「みんな。そろそろ打ち合わせを始めたいが、いいだろうか。私は残念ながら君たちと一緒に準備をすることができないので、せめて打ち合わせの司会を務めさせてもらおうと思う」

 教室にいる全員が、殿下のお言葉をありがたく聞いているところに、レリル様が飛び込んできた。

「先生から許可を貰ったわ!」

 彼女は私とシャーリーの方をしっかりと見て、大声を上げた。
 打ち合わせに参加しないのかと思っていたら、エリック先生のところへ行っていたのか。
 もしかしたら、とは思っていたけれど、先生たちの――というよりも学園側の? ――レリル様に関するは私たちが想像している以上みたいだ。

 それにしても空気を読んだ方がいいと思うんだけど。
 彼女の取り巻きの伯爵令息たちも驚いたまま何も言えずにいる。

「あら? みんなどうしたの?」

 うっ。私と同じチームメンバーだから、多分、ここは私の出番だ。
 エリック先生が許可を出したという彼女の情報に衝撃を受けたところだけど、それよりも殿下にお詫びするのが先だ。
 はぁ。

 全員の視線を集めているのに、平然として小走りに私の方に駆け寄って来るレリル様が怖い。
 これじゃあ、私が、レリル様に先生から許可を貰ってくるように頼んだと勘違いする人が出てきそう。
 嫌だなあ。


「レリル嬢。今日は一組全体で話し合いをした後、個別にペアでの検討に入ると言っておいたはずだが?」

 私が口を開く前に、フレデリック殿下が軽く諌めてくださった。
 普通の人なら、殿下に叱責されたら生きた心地がしないと思う。
 心配性でなくても家門の将来まで気にするレベルだし、家族には隠しておけないと思う。
 でもレリル嬢は、あっけらかんと「ごめんなさい」と返した。

 これには誰もが驚いた。
 王族の言葉をここまで軽く扱う人間などいないだろう。また、「ごめんなさい」は、王族に対する謝罪の言葉ではない。
 これはまずいと思ったのか、レリル様に心酔している伯爵令息の一人が、慌てて取りなそうと発言した。

「殿下。これには訳があるのです。あのメーベル嬢のせいなのです。レリル嬢は、彼女の提案によって動かされているだけなのです」

 ……は?

「茶菓子は、茶会に慣れていない平民でも食べやすいクッキーと決まっているはずなのに、主賓のいるテーブルにだけ、レリル嬢に手作りの特別な焼き菓子を用意させ、自分たちの評価を上げようという魂胆なのです」

 信じられない。
 本当に信じられない。本気で言っているの?

「へぇ。随分とリスクのあるやり方だけど、そんなことで君の言うように評価が上がるだろうか? 本当にメーベル嬢がそんなことを考えていたのかい? 君はいつ聞いたのかな? 聞いた時にすぐさま止めるように助言しなかったのは何故なのかな?」

 殿下からの畳み掛けるような問いかけに、令息は、「ひっ」と息を漏らしただけで返事ができず震えている。
 残りの二人の令息も援護はしないらしい。二人とも部外者を決め込んで目を逸らしている。

「どうやら憶測のようだね。今の発言は聞かなかったことにするよ。じゃあ、続けようか」


 その後、殿下がテキパキと指示してくださり、私とシャーリーは希望通り、お菓子の調達を担当することができた。


   ◇◇◇   ◇◇◇


 生徒茶会は、余計な緊張を取り除くという配慮のもと、カフェテリアのテーブルや厨房をそのまま借りて開催される。

 茶会は合計四回開催される。
 一回目と三回目は、一組の生徒の半数がホスト役、二組の生徒の半数がゲスト役だ。
 二回目と四回目は、その逆になる。
 フレデリック殿下が主賓として参加されるのも初回だけなので、殿下のいらっしゃるテーブルに特別なお菓子を提供することになった私たちのチームが、必然的に初回のホスト役となる。

 まさか本当に、レリル様が殿下がいらっしゃるテーブルの焼き菓子を担当することになるとは。
 学園側が許可したのは、生徒茶会は公式行事扱いなので殿下の毒見役がいるからだと思う。
 もう、それについては学園と殿下とレリル様だけの問題として切り離すことにした。
 何が起こっても、私とシャーリーはノータッチなので無関係だ。




 二組の最初のゲスト役は、入場する際、中央のテーブルにフレデリック殿下が鎮座ましましていることに一様に驚愕しては、あからさまに目を逸らしていた。
 まぁ、そうなるよね。

 そして全員が着席したところで、レリル様の出番だ。
 身内しかいなくとも、大きなイベントではプリンセスとしての仕事が当てがわれるらしい。

 レリル様は、いつも以上にキラキラとした笑顔を振りまきながら、中央のテーブルの側に立ち――殿下の斜め後ろに立っているせいで、殿下の側近のように見える――静かに周囲を見渡している。


「ねえ、メーベル。あれって、全員の注目が集まるまでは喋らないわよって言っているみたいね」
「ふふ。確かに。でもうまいわね。どうしたって殿下は注目の的だもの。その側に立てば、自然と注目を集められるわ」

 大したものだ。
 レリル様は自分の見せ方をよく分かっている。


「皆さん。そんなに緊張しなくても大丈夫よ! 友達同士のお茶会ですもの! 私は今日という日をとっても楽しみにしていました。さあ、みんなで楽しいお茶会にしましょう!」

 ……え?

「メーベル……」
「どうしよう。やっぱりレリル様は勘違いしているみたい。プライベートな茶会じゃなく、オフィシャルな茶会って、何度も言ったよね?」
「うん、言った。私たち、しつこいくらいレリル様には、『公式な茶会』だって言った」
「はぁ」

 ホスト側の挨拶も体験練習の内なので、レリル様の開会宣言については、後日、先生方から講評されるはず。
 今日のところは、考えないようにしよう。
 まずは無事にホスト役をやり終えなければ。
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