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26 秘密のお茶会⑥
「コホン。失礼しました。聞いている私がこんな姿勢では話しにくいですね。ご安心ください。この部屋での会話は、部屋を出た途端に忘れることにいたしますので。どうかメーベル様もそのおつもりで」
「ええ。もちろんです」
「話の腰を折って申し訳ございません。私、噂話は仕入れても、自分で提供することはありませんから、その点は信じていただきたいのです」
「ジゼル様のことは最初から信用しています。私が言い淀んでしまったのは、さすがにちょっと、その、憚られる内容なので」
「と言いますと?」
なぜか二人して前屈みで小声になっている。
「友人と二人だけで話がしたくて、学園の外れにある木立が生い茂った場所に行ったのですが、そこへ偶然、エリック先生とレリル様が現れたのです。私たちはまさか人が来るとは思ってもいなかったので、反射的に隠れてしまったのです」
「分かりますわ」
「レリル様は二人きりだと思われたのでしょう。随分と気安い態度で先生に接していました。そしてあろうことか、レリル様は焼き菓子を一口サイズに千切って、『アーン』と先生の口元に持っていき食べさせてあげたのです」
「えぇっ?!」
ジゼル様が目を大きく見開いて、両手で口を覆っている。
あの時のシャーリーも同じような格好だった気がする……。
「レリル様はなんて非常識なのだろうと驚きましたが、先生がそのような行為を許されたことにも驚きました。そもそも人気のない場所で男性と二人きりで会っていること自体問題になるでしょうから、私たちは誰にも言えなかったのです。でも――。そのエリック先生が、レリル様の普段の授業態度を勘案して点数をつけると聞いて、胸の中のモヤモヤが収まらないのです」
「授業態度を勘案して点数をつける? それでは――いえ、いくらなんでも考え過ぎかしら……でも……」
ジゼル様が何かを思案している。
「どうされました?」
「メーベル様。メーベル様から見てレリル様の普段の授業態度はどのような感じでしたか? まだ一組の授業には追いつけていない感じですか?」
「それは……あら……? 思い返してみれば、追いつくも何も、授業中に一度も指名されたことがないので分からない……」
「やっぱり! 一組でもそうだったのですね! 実は、レリル様がまだ二組にいらっしゃった時のことなのですが、初めて数学の授業で指名された時、あれは入学してすぐのことですから、とても簡単な数式の答えを問うものでしたが、レリル様は一言も発さず、涙を溜めて俯かれたのです。全員が答えられるはずの問題で、どうして? と疑問に感じつつも、教室中が気まずい空気に包まれました。エリック先生の方が慌てられて、『急に指名してすまない』などと、しどろもどろでその場を収められたのです。それからというもの、レリル様は数学の授業で一度も指名されていないのです」
どうやらレリル様は数学が苦手なようだけど、答えられないから指名しないというのは、必要な配慮なのだろうか。
二組は平民の生徒もいるので、貴族令嬢に恥をかかせない配慮だったのかもしれないけれど、苦手を克服するような補習も行わず、ただ誤魔化しているだけのような気がする。
国王陛下は、学園で学ぶ機会を平民にも平等に与えるとおっしゃったらしいけど、それは特別扱いをしろという意味じゃないよね。
一組に編入後も、レリル様は数学の授業で一度も指名されていない。
それなのに何をもって評価するのだろう。
他の人たちはどう思っているのかな?
この前の生徒茶会でも感じたけれど、レリル様は数学というよりも、そもそも数字が苦手なんじゃないかな。
実際、彼女の数学の学力はどれくらいなのだろう?
「意地が悪いかもしれませんが、あの問題が分からないということは、二組でダントツ最下位のような気がするのです。はっきり言って、平民よりも下なのではないかと」
うーん。気になる。レリル様の実力がどの程度のものなのか、どうしても知りたい。
私が抱えている鬱屈した思いを振り払うために必要なことなのだ。
どうすれば彼女の実力を図ることができるだろう?
どうすれば…………そうだ!
先日の生徒茶会では、残数を数えることが有耶無耶になってしまったけれど、一度、きっちり彼女に答えを出してもらえばいいんだ。
「私……レリル様の実力を確かめてみます」
「まあ!」
「いい方法を思いついたので、ジゼル様もご協力いただけますか?」
「もちろん!」
私の予想が間違っていなければ、レリル様の真の学力が分かるはず。
「ええ。もちろんです」
「話の腰を折って申し訳ございません。私、噂話は仕入れても、自分で提供することはありませんから、その点は信じていただきたいのです」
「ジゼル様のことは最初から信用しています。私が言い淀んでしまったのは、さすがにちょっと、その、憚られる内容なので」
「と言いますと?」
なぜか二人して前屈みで小声になっている。
「友人と二人だけで話がしたくて、学園の外れにある木立が生い茂った場所に行ったのですが、そこへ偶然、エリック先生とレリル様が現れたのです。私たちはまさか人が来るとは思ってもいなかったので、反射的に隠れてしまったのです」
「分かりますわ」
「レリル様は二人きりだと思われたのでしょう。随分と気安い態度で先生に接していました。そしてあろうことか、レリル様は焼き菓子を一口サイズに千切って、『アーン』と先生の口元に持っていき食べさせてあげたのです」
「えぇっ?!」
ジゼル様が目を大きく見開いて、両手で口を覆っている。
あの時のシャーリーも同じような格好だった気がする……。
「レリル様はなんて非常識なのだろうと驚きましたが、先生がそのような行為を許されたことにも驚きました。そもそも人気のない場所で男性と二人きりで会っていること自体問題になるでしょうから、私たちは誰にも言えなかったのです。でも――。そのエリック先生が、レリル様の普段の授業態度を勘案して点数をつけると聞いて、胸の中のモヤモヤが収まらないのです」
「授業態度を勘案して点数をつける? それでは――いえ、いくらなんでも考え過ぎかしら……でも……」
ジゼル様が何かを思案している。
「どうされました?」
「メーベル様。メーベル様から見てレリル様の普段の授業態度はどのような感じでしたか? まだ一組の授業には追いつけていない感じですか?」
「それは……あら……? 思い返してみれば、追いつくも何も、授業中に一度も指名されたことがないので分からない……」
「やっぱり! 一組でもそうだったのですね! 実は、レリル様がまだ二組にいらっしゃった時のことなのですが、初めて数学の授業で指名された時、あれは入学してすぐのことですから、とても簡単な数式の答えを問うものでしたが、レリル様は一言も発さず、涙を溜めて俯かれたのです。全員が答えられるはずの問題で、どうして? と疑問に感じつつも、教室中が気まずい空気に包まれました。エリック先生の方が慌てられて、『急に指名してすまない』などと、しどろもどろでその場を収められたのです。それからというもの、レリル様は数学の授業で一度も指名されていないのです」
どうやらレリル様は数学が苦手なようだけど、答えられないから指名しないというのは、必要な配慮なのだろうか。
二組は平民の生徒もいるので、貴族令嬢に恥をかかせない配慮だったのかもしれないけれど、苦手を克服するような補習も行わず、ただ誤魔化しているだけのような気がする。
国王陛下は、学園で学ぶ機会を平民にも平等に与えるとおっしゃったらしいけど、それは特別扱いをしろという意味じゃないよね。
一組に編入後も、レリル様は数学の授業で一度も指名されていない。
それなのに何をもって評価するのだろう。
他の人たちはどう思っているのかな?
この前の生徒茶会でも感じたけれど、レリル様は数学というよりも、そもそも数字が苦手なんじゃないかな。
実際、彼女の数学の学力はどれくらいなのだろう?
「意地が悪いかもしれませんが、あの問題が分からないということは、二組でダントツ最下位のような気がするのです。はっきり言って、平民よりも下なのではないかと」
うーん。気になる。レリル様の実力がどの程度のものなのか、どうしても知りたい。
私が抱えている鬱屈した思いを振り払うために必要なことなのだ。
どうすれば彼女の実力を図ることができるだろう?
どうすれば…………そうだ!
先日の生徒茶会では、残数を数えることが有耶無耶になってしまったけれど、一度、きっちり彼女に答えを出してもらえばいいんだ。
「私……レリル様の実力を確かめてみます」
「まあ!」
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「もちろん!」
私の予想が間違っていなければ、レリル様の真の学力が分かるはず。
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