私が間違っているのですか? 〜ピンクブロンドのあざと女子に真っ当なことを言っただけ〜

もーりんもも

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35 証言

「レリル嬢。君に発言を求めてはいない」
「え?」
「君の意見を聞きたい時には私がそう言う」

 生徒会長がレリル様をたしなめてくれた。
 レリル様の監視役のように側にいたヨハン様が、彼女を恐ろしい形相で睨んでいる。

「エリック先生。過去の些細な出来事を一つ一つ審議するつもりはありません。また、今のご発言はメーベル嬢を侮辱するものです。取り消していただけますか」
「……くぅぅ」
「先生はレリル嬢を庇うあまり、彼女以外の者を傷つけてしまわれるらしい。ご自覚はないようですが」
「なんだと?」

 わぁ。生徒会長は教師相手でも怯まない。すごいなぁ。

「話を戻しましょう。そもそもの発端は、前期の試験結果の発表でした。成績を付けられず対象外となった生徒について、なぜそのような措置を取ったのか、生徒会から学園側に質問状を出したのですが、満足のいく回答は頂けませんでした。そもそも、レリル嬢は組分け試験の結果が芳しくなく、面接まで行ったのですよね? 二組の生徒の中でも成績は下位であることは明らかです。そんな彼女が一組での学習についていけないことは分かりきっていたのではありませんか?」

「え~! ひど~い!」

 レリル様が瞳に涙をためて唇を尖らせている。
 まさか正式な聴取の場で、「ひど~い」などという言葉を聞くとは思わなかった。
 生徒会長も若干引いているみたい……。
 それでもキリッと、彼女に鋭い視線を投げて制止しようとしている。

「だって、ジゼル様が意地悪なんだもの!」

 はぁ。まるで子どもの言い草だ。
 殿下までいらっしゃる、この緊張した空間で、なんともいえない間抜けな発言をよくできるものだなぁ。

「レリル君。君は控えていなさい。受け答えは私がするから」
「えー、でもぉ」
「いいから!」

 さすがのエリック先生もレリル様には喋らせない方がいいと分かっている。

「数学の試験を免除されたそうですが。それはあなたの職権によるものですか? それとも学園長の指示で――」
「もちろん私の職権だ。私が担当する教科だからな。生徒の評価は私が付ける」

 なぜか先生が偉そうに胸を張っている。
 あ。殿下がイラッとしている?
 殿下のお顔を見た生徒会長が、ため息まじりに嘆いた。

「公正に評価されるのであれば誰も文句など言いません。ですが、教師が不正をしているのではないかと疑いを持たれること自体、問題だと言っているのです。レリル嬢が数学の試験を受ければ彼女の学力が露見してしまう。さすがに試験結果を操作するのは良心が痛みますよね? だから試験を受けさせなかったのではありませんか?」

 生徒が教師に対して発言しているのに、まるで年長者が噛んで含めるように言い聞かせているみたいだ。
 とうとう殿下も我慢ができなくなったらしく、生徒会長に続いた。

「確か、先生は、『レリル嬢の授業中の態度を参考に成績を付ける』ともおっしゃっていたとか?」
「ああ、そうだ」
「ですが、最終的には免除された。それはそうですよね。私も彼女と一緒に数学の授業を受けていましたが、レリル嬢は、授業では一度も指名されなかった。これでは成績の付けようがありませんね?」

「で、殿下。なっ、何を――おっしゃるのです? レリル君の数学の成績は普通に問題ないもので――」
「先生。私だけでなく、学園の生徒の大多数は、レリル嬢の試験結果が対象外になった理由を、『数学以外の試験結果が思わしくなかったので、数学一教科だけを教師の裁量でカバーしたところで全体の結果を底上げすることはできないと判断したから』ではないかと邪推していますよ?」

「なっ。なっ。なっ」

 先生は最早言葉が出ないみたい。

「先生。一組では、焼き菓子を持参して皆に配るという行為が流行っていましてね。そのお陰で面白い事実が判明しました。ホールケーキを六分の一と八分の一にカットし配布していたところ、レリル嬢が、『小さい方がいいから六分の一をもらう』と発言したのです。言い間違いでないのか確認したところ、はっきりと、『間違いではない』と本人が言っていました」

「それが何なの? どうしてみんな同じことを何度も聞くの?」

 またしてもレリル様が訳が分からないという風に、殿下と先生の会話に割って入った。

「れっ、レリル君! 何も聞かれていないのだから答えなくていい!」

 エリック先生が慌てて止めたけれど、本人が駄目押しで認めちゃったね。
 
「先生。陛下は学園長を罷免するにあたり、それはそれは丁寧に調査を行い、その結果を慎重に吟味されました。レリル嬢が入学する前からの一連の出来事についてもご存じですよ? 教師陣から様々な報告を受けているのです。あなたがレリル嬢の面接の担当官だったことも、彼女を『今年のプリンセス』にと強く推薦したことも、全てご存じでなのです」

 不意に殿下と目が合った。

「メーベル嬢。君の席はレリル嬢の隣だね。同じ教室で過ごした君に聞きたい。エリック先生とレリル嬢について」

 ……うっ。部屋にいる全員の視線が私に注がれている。胸が苦しい。
 でも、言うしかないよね?

「私は――エリック先生はレリル様のことを、その――」
「言いにくいことでも正直に話してほしい」

 殿下にそこまで言われると覚悟を決めなくっちゃ。

「はい。その――エリック先生は、レリル様のことを憎からず思っているのではないかと――」
「貴様! なんということを!」

 先生が唾を吐くほどの強い口調で私をなじった。
 いくらなんでもひどい。
『貴様』なんて初めて言われた。

「確かに、ここまで一人の生徒を贔屓していたことを思えば、そのような推測も出るだろうが――」
「でっ、殿下! 推測にしても酷すぎです! 最初に言ったではありませんか! こいつの言うことなど信用できないと!」

 今度は『こいつ』。
 まるで人が変わったような言葉遣いだ。
 でも、これじゃあ本当に私が憶測で先生のことを陥れようとしているみたいに思われるかも……。

「あの。どうしてそう思ったかというと、私、見たのです。レリル様とエリック先生が人気ひとけのない場所で二人きりでお話ししているところを。レリル様が手ずからお菓子を先生に食べさせてあげていました」

「は?」

 殿下には、「手ずから食べさせてあげた」という行為が理解できないようだ。

「ええと、その。レリル様が『アーン』と言うと、先生は口を開けて――」
「嘘よっ。だって誰もいなかったもの! 見ていたなんて作り話よ!」

 レリル様が私に詰め寄ろうとしたのを、ヨハン様が止めてくださった。

「レリル君! 黙って――私が話すので黙っていなさい!」
「だって、先生――」
「いいから黙るんだっ! あ、いや、すまない。君は何も喋るな」
「どうして? 何がいけないの? 先生にお菓子を食べさせてあげただけじゃないの」
「あぁぁ。なんてことを……」

 すごい。自分で言っちゃった……。
 その手で食べさせてあげたって肯定した。
 先生は力尽きたように項垂れている。

 生徒会役員の皆さんは、きっと高位貴族の方なのだろう。
 ギョッとされたり目を見開いたいされている。
 相当ショックを受けられたみたい。

 殿下がいち早く立ち直られた。

「エリック先生。あなたと同様に、学園長と行動を共にしていた教師陣については、陛下から直々に沙汰が下ると聞いています」
「え? さ、沙汰が――え? 陛下から直々に――」

 先生はそうつぶやくと、うつろな瞳で呆けたように黙り込んだ。
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