『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi

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8章

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第72話『風がやさしい夜に、夢をひとつ』

 *

 「ぴぴぴぃぃっ! 王都の紙、多すぎるぅぅっ!!」

 「モル、“しさつ”って、“おじゃま”のこと!?」

 「ちがうよ! お客様だけど、お手伝いお願いするかも……あわわわ!」

 リィナは、書類の山に半分埋もれていた。

 王都から続々と届くのは、
 「共存モデル見学希望」「氷菓子販売体験希望」「魔物との会話体験希望」など、なんとも自由な視察依頼。

 「……うれしいけど、さすがに、いっぺんには無理だよぉ」

 レオは書類を手に取りながら、穏やかに笑う。

 「リィナさん、視察は断っても失礼にはなりませんよ。“この町のリズムが第一”ですから」

 「……そう、ですよね。じゃあ、“今月はお休み中”って書いておこうかな……」

 *

 夜。

 涼しい風が町を包み込むように吹き抜けるなか、
 リィナとレオは、並んで町の小道を歩いていた。

 少し前までなら、緊張して話せなかったかもしれない距離。
 でも、今は――自然に隣を歩けていた。

 「……最近、すこし会えてない気がして、すれ違っちゃったらどうしようって思ったんです」

 「……僕も、同じことを考えていました」

 「……えへへ、同じですね」

 レオは、少し迷ってから、そっとリィナの手に自分の手を重ねた。

 「すれ違っても、追いつきます。
 あなたが歩く場所に、僕は必ずいますから」

 リィナはうなずきながら、顔を少しだけレオの肩に近づけた。

 「わたし、わたしの歩幅で歩いてもいいんですね」

 「もちろんです。あなたの歩幅が、僕にとっての“ちょうどいい速さ”ですから」

 *

 一方、屋根の上ではピノが月を見ながら大あくびしていた。

 「ぴぴ(人間の恋は、まどろっこしいな)」

 モルはその横で、ノートを開いてなにか書いている。

 「モル、“あいさつとわらうこと”れんしゅうちゅう!」

 そのとき、ユルがそっと隣に腰を下ろした。

 「……夢を見た」

 「モル、どんなの?」

 「……わたしが、“光の中を歩いてる”夢。こわくない夢」

 ピノがそっと言う。

 「ぴ(それ、現実かもな)」

 月の下、ユルの影はやわらかく、静かに揺れていた。
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