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2章
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◆第51話 「わたしのごはんが、誰かの中にいた」
「……お使いに行くって、久しぶりかも」
小さな買い物袋を手に、ミレイアは町の通りを歩いていた。
以前は笑顔で声をかけてくれていた人々が、今は目を逸らす。
それでも、前より怖くはなかった。
(もう、ひとりじゃないって思えるからかな)
ふと、通りの掲示板のそばに足が止まる。
そこにあったのは、数枚の小さな紙片。
誰かの筆跡で書かれた、たった一言ずつの詩のような言葉。
「あのとき、無言で出されたおにぎりに泣きそうになった。
味なんか覚えてないけど、心だけは満たされた」
ミレイアの指先が、紙にそっと触れる。
(……これ、もしかして)
「“推し飯”って言葉じゃ足りない。“誰かの明日”を背中から押してくれる味」
「忘れてた母の味が、あの炊き込みご飯で蘇った。……それだけで、また歩けた」
文字は誰の名前も書かれていなかった。
でも――ミレイアにはわかった。
(この人たち……わたしのごはんを、食べてくれた人たちだ)
目の奥が熱くなる。
誰にも見られていないと思って、そっと目尻をぬぐった。
「……ありがとう、伝えてくれて」
ラテが足元で静かに座り、「もふ」と鳴く。
「うん……わたし、まだここにいてもいいんだね」
離れていく人がいても、
それ以上に“心に残る何か”を、自分は届けられていた。
(誰にも気づかれずに、こんなふうに言葉を広げてくれた人がいる。……もしかして)
思い浮かぶのは、あの人の背中。
何も言わず、静かに隣に立ってくれて。
黙っておかわりを頼んでくれて、
でもその茶碗蒸しを、誰よりも丁寧に味わってくれた人。
「……ヴァルさん、なのかな」
口に出したら、胸がほんの少しだけきゅっとなった。
(会いたい)
そう思って歩き出した足は、気づけば店の方へ向かっていた。
⸻
その頃、店の裏手。
ヴァルは貼られた最後の一枚の紙を、じっと見つめていた。
「“好き”のかわりに、“おいしい”って言ってみた。
それでもきっと、想いは届いた気がする」
「……“おいしい”って言ったのは、君が最初だったよ」
ヴァルは、誰にともなくそう呟いた。
「……お使いに行くって、久しぶりかも」
小さな買い物袋を手に、ミレイアは町の通りを歩いていた。
以前は笑顔で声をかけてくれていた人々が、今は目を逸らす。
それでも、前より怖くはなかった。
(もう、ひとりじゃないって思えるからかな)
ふと、通りの掲示板のそばに足が止まる。
そこにあったのは、数枚の小さな紙片。
誰かの筆跡で書かれた、たった一言ずつの詩のような言葉。
「あのとき、無言で出されたおにぎりに泣きそうになった。
味なんか覚えてないけど、心だけは満たされた」
ミレイアの指先が、紙にそっと触れる。
(……これ、もしかして)
「“推し飯”って言葉じゃ足りない。“誰かの明日”を背中から押してくれる味」
「忘れてた母の味が、あの炊き込みご飯で蘇った。……それだけで、また歩けた」
文字は誰の名前も書かれていなかった。
でも――ミレイアにはわかった。
(この人たち……わたしのごはんを、食べてくれた人たちだ)
目の奥が熱くなる。
誰にも見られていないと思って、そっと目尻をぬぐった。
「……ありがとう、伝えてくれて」
ラテが足元で静かに座り、「もふ」と鳴く。
「うん……わたし、まだここにいてもいいんだね」
離れていく人がいても、
それ以上に“心に残る何か”を、自分は届けられていた。
(誰にも気づかれずに、こんなふうに言葉を広げてくれた人がいる。……もしかして)
思い浮かぶのは、あの人の背中。
何も言わず、静かに隣に立ってくれて。
黙っておかわりを頼んでくれて、
でもその茶碗蒸しを、誰よりも丁寧に味わってくれた人。
「……ヴァルさん、なのかな」
口に出したら、胸がほんの少しだけきゅっとなった。
(会いたい)
そう思って歩き出した足は、気づけば店の方へ向かっていた。
⸻
その頃、店の裏手。
ヴァルは貼られた最後の一枚の紙を、じっと見つめていた。
「“好き”のかわりに、“おいしい”って言ってみた。
それでもきっと、想いは届いた気がする」
「……“おいしい”って言ったのは、君が最初だったよ」
ヴァルは、誰にともなくそう呟いた。
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