7 / 37
第1章
§7
しおりを挟む
一人で静かに過ごすはずだった俺の誕生日が、親父の命日と重なったせいで、こんなにもにぎやかになる。
食事が終わった後も、結局なんだかんだで、空き部屋になっていた二階の部屋の掃除とか、片付けやらを手伝わされた。
体を動かしていたのは俺なのに、指示していたのだけのあいつらは、頭使って疲れたとかで、夕飯の買い出しにも行かされた。
が、まぁそれはいい。
あいつらが買い出しに行って、料理するとか言いだすと、まともな食事が出来るのかとハラハラして、そっちの方が落ち着かない。
夜になっても、シャンプーがどうとか、シャワーの出が悪いとか、なんだかんだでバタバタして、ずっと振り回され続けた。
俺はすっかりくたびれて、自分の部屋に戻った時には、いつのまにか寝落ちしてしまっていた。
朝になって、二人を追い出すことが不可能と悟った俺は、うるさいのが起き出す前に、朝食の準備を完璧に済ませておいた。
箸置きもみそ汁の温度も完璧だ。
そうしておけば、いちいち顔を合わせなくてすむし、文句も言われずにすむ。
俺はそうやって奴らを出し抜いてやったことで、非常に爽快な気分で店の前を掃除していた。
「私は魂の指導者!」
目の前をさっと黒い影が横切ったと思ったら、昨日の老猫だった。
「あ、おはよう」
「お前はそれでいいのか」
「なにが?」
「このまま、何もない無能かつ平凡な男として、一生を終わらせるか」
足元にうずくまった老猫の鋭い目が、キッとにらみつける。
「それとも、修行をつんで魔法使いになるか」
この猫は、どこまで本気でそんなことを言ってるんだろう。
確かに魔法使いは魅力的だけど、修行となると面倒くさい。
「えぇ~、でも俺、面倒くさいこととか、しんどいことって、基本嫌いなんだよねぇー」
「このままだと、あいつらのいいように使われて人生が終わるぞ」
「あいつらの、いいように使われる?」
あいつらって、どいつらのことなんだろう。
昨日来た祈祷師?
それとも、時々店にやってくる万引きの常習犯?
それとも、やたら高慢な商店街のお偉いさんたちのこと?
この先俺を、いいように扱うであろう可能性のある人間の数を想像してみると、急に背筋がぶるっと震えた。
違う、そんなどうでもいい奴らのことじゃない、うちに転がりこんできた、あの女共のことだ!
「そんなこと、いいわけないだろ!」
「よし! 作戦会議だ!」
「作戦会議だ!」
店の中に飛び込んでいった老猫を、慌てて追いかける。
店に入った猫は、当たり前のようにレジ台の上に飛び上がり、俺がいつも座っている座布団の上に腰を下ろす。
「あのさ、猫が苦手な人もいるんだから、そこはやめてくれない?」
「私は魂の指導者!」
「あぁもう、分かったよ」
それを認めないと、話しが進まないらしい。
俺は時々やってくる常連のお婆ちゃんのために用意してあった座布団を、レジ横の座布団の隣に並べた。
「じゃあ、ここにして」
老猫は、案外すんなりと場所を移動してくれる。
「まずは、どんな魔法使いになりたいかだ。その方向性によって、修行の内容も変わってくる」
「えー、修行って、本当に必要なの?」
「当たり前だ!」
「うぅ~ん、どうしよっかなぁ~」
俺は、自分が魔法使いになった姿を想像してみる。
箒で空を飛べても、店番をしないといけないから、出かけることは出来ないし、お部屋を綺麗にする魔法だって、普段からこまめに掃除しているから、特段必要ではない。
「やっぱ、いいや」
「なにか叶えたい望みはないのか?」
「俺の、望み?」
食事が終わった後も、結局なんだかんだで、空き部屋になっていた二階の部屋の掃除とか、片付けやらを手伝わされた。
体を動かしていたのは俺なのに、指示していたのだけのあいつらは、頭使って疲れたとかで、夕飯の買い出しにも行かされた。
が、まぁそれはいい。
あいつらが買い出しに行って、料理するとか言いだすと、まともな食事が出来るのかとハラハラして、そっちの方が落ち着かない。
夜になっても、シャンプーがどうとか、シャワーの出が悪いとか、なんだかんだでバタバタして、ずっと振り回され続けた。
俺はすっかりくたびれて、自分の部屋に戻った時には、いつのまにか寝落ちしてしまっていた。
朝になって、二人を追い出すことが不可能と悟った俺は、うるさいのが起き出す前に、朝食の準備を完璧に済ませておいた。
箸置きもみそ汁の温度も完璧だ。
そうしておけば、いちいち顔を合わせなくてすむし、文句も言われずにすむ。
俺はそうやって奴らを出し抜いてやったことで、非常に爽快な気分で店の前を掃除していた。
「私は魂の指導者!」
目の前をさっと黒い影が横切ったと思ったら、昨日の老猫だった。
「あ、おはよう」
「お前はそれでいいのか」
「なにが?」
「このまま、何もない無能かつ平凡な男として、一生を終わらせるか」
足元にうずくまった老猫の鋭い目が、キッとにらみつける。
「それとも、修行をつんで魔法使いになるか」
この猫は、どこまで本気でそんなことを言ってるんだろう。
確かに魔法使いは魅力的だけど、修行となると面倒くさい。
「えぇ~、でも俺、面倒くさいこととか、しんどいことって、基本嫌いなんだよねぇー」
「このままだと、あいつらのいいように使われて人生が終わるぞ」
「あいつらの、いいように使われる?」
あいつらって、どいつらのことなんだろう。
昨日来た祈祷師?
それとも、時々店にやってくる万引きの常習犯?
それとも、やたら高慢な商店街のお偉いさんたちのこと?
この先俺を、いいように扱うであろう可能性のある人間の数を想像してみると、急に背筋がぶるっと震えた。
違う、そんなどうでもいい奴らのことじゃない、うちに転がりこんできた、あの女共のことだ!
「そんなこと、いいわけないだろ!」
「よし! 作戦会議だ!」
「作戦会議だ!」
店の中に飛び込んでいった老猫を、慌てて追いかける。
店に入った猫は、当たり前のようにレジ台の上に飛び上がり、俺がいつも座っている座布団の上に腰を下ろす。
「あのさ、猫が苦手な人もいるんだから、そこはやめてくれない?」
「私は魂の指導者!」
「あぁもう、分かったよ」
それを認めないと、話しが進まないらしい。
俺は時々やってくる常連のお婆ちゃんのために用意してあった座布団を、レジ横の座布団の隣に並べた。
「じゃあ、ここにして」
老猫は、案外すんなりと場所を移動してくれる。
「まずは、どんな魔法使いになりたいかだ。その方向性によって、修行の内容も変わってくる」
「えー、修行って、本当に必要なの?」
「当たり前だ!」
「うぅ~ん、どうしよっかなぁ~」
俺は、自分が魔法使いになった姿を想像してみる。
箒で空を飛べても、店番をしないといけないから、出かけることは出来ないし、お部屋を綺麗にする魔法だって、普段からこまめに掃除しているから、特段必要ではない。
「やっぱ、いいや」
「なにか叶えたい望みはないのか?」
「俺の、望み?」
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる