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第4話
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それからの数日は、スクール内部の至るところで、この話題がもちきりだった。
噂を聞きつけて実際に見に行った連中と、話だけで実物を目にしていない連中とで、意見が対立していた。
「な? やっぱ見に行って、正解だっただろ?」
レオンは得意げに顔を上げる。
252年前に量産されたその遺物が、現在の岸壁にたどり着いたことを知らせる、公式な発表がどこからも発信されていなかった。
ネットでは、その情報であふれかえっていたけれども、その時野次馬で集まっていた誰かの、個人的に撮影した画像か、博物館サイトから借用したような、カプセルの画像を勝手に加工した、この騒ぎに便乗した悪質なデマばかりだった。
俺は確かに、謎のカプセルの存在をこの目で見た。
ネット上でいつでも検索出来る、人類のゆりかご、絶滅の危機を救った箱船と呼ばれるカプセルと、全く同じものだった。
だけど、それを裏付ける証拠が、どこからも出ていない。
「ヘラルドとカズコも、生で見てなかったら、絶対に信じなかっただろ?」
カズコは返事の代わりにため息をつく。
「だったら、お前らも協力しろよ!」
珍しく熱心にパソコンを操作し続けているニールが、背中越しに大声をあげる。
「キャンプベースが、アレをなかったことにしようとしてるんだぜ」
「そんなこと、するわけないでしょ」
カズコが呆れたように声を漏らす。
「だってさ、これだけ世間が騒いでるのに、一切反応がないどころか、次々に投稿画像が削除されてるんだぜ」
そう、この話題をもっとも盛り上げている張本人は、隠蔽体質のキャンプベース自身。
正式に何らかの発表を出しさえすれば、それで落ち着くだろうに。
「せめてさ、現在調査中とでも一言言えばそれで済むのに、それすらないどころか、情報操作までしてるんだぜ」
「私には、そんなことに夢中になってる人間の方が信じられないわ。なにか事情があるだけよ。放っておけばいいじゃない、何がそんなに気になるのかしら」
最初にこの話題を俺たちに提供したレオンは、鼻歌を歌いながら、得意の粘土を使った造形作品の製作に夢中になっている。
「レオンは、あの中身が気にならないのかよ」
ニールの問いかけも、彼の耳には届かないらしい。
「ヘラルド、お前も見に行ったんなら、キャンビーに画像の一つくらい撮らせてるだろ?」
「いや、撮ってない」
「なんでだよ、頭おかしいだろ」
なぜそんなことで、俺の頭がおかしいと認定されなければならないのか理解に苦しむが、彼の判断基準がそこにあるのならば、俺はそういうことになるのだろう。
俺に言わせれば、ニールやジャンの方が、頭がおかしいと思うのと同じことだ。
自分に関わりがあるのなら、気にするだろう、だけど、過去の遺物が海岸に漂着したところで、好奇心はそそられても、そこまで夢中になる意味が分からない。
「ニールやジャンたちが、歴史学に興味があるとは思わなかったよ」
「俺たちは、今のキャンプのやり方が気に入らないって言ってるだけだ!」
俺は、自分のキャンビーを呼んだ。
「キャンビー、海岸に行ったときの映像とか行動記録って、残ってる?」
飛び跳ねてきた丸いキャンビーを両手に挟んで、俺はそこに額をつけた。
「該当する関連データーは、キャンプベースによって、全て削除されました」
その言葉に、俺はカズコを振り返った。
カズコはブレスレット型のキャンビーを使っている。
「私のも削除されてるわ。ま、いらないデータはできるだけさっさと削除して、軽くしておきたいタイプだから、自分で消しちゃったのかもね」
彼女はその白い顔でつぶやく。
「別に、関係ないでしょ」
それでもジャンとニールは、不毛とも思える戦いを続け、それを横目に俺たちは、粛々と与えられた課題をこなしていた。
その間に3つの大きな嵐が来て、別の5つの大雨外出禁止令が出た。
世界はとても平和だった。
やがて、キャンプベースからの公式発表が行われた。
海岸での漂着事件発生から約半年、誰もがこの話題を、忘れかけていた頃だった。
「これ、解析できる奴いるのか?」
ニールにすら、そう言わせたカプセルの公開データは、ダウンロードするのに15分もかかるようなシロモノだった。
「くだらねー、カプセルの色とか一個一個の部品のサイズとか、そんなのどうでもいいだろ、問題はコレの中身だ」
なぜか俺も、ジャンにデータ解析班に加えられ、解読を手伝わされている。
これがキャンプの公式データでなかったら、『チームワーク』の評価には繋がらないからと、断っていただろう。
ありがたいのか迷惑なのか、よく分からない状態だ。
「いまさら、こんなことをする意味があるの?」
カズコの冷たい視線を受けながらも、ここで必要とされているのは『協調性』なのだから仕方がない。
「キャンプベースの解析を待ってもいいと思うんだけどね、彼らが人類史に興味があるなんて、知らなかったよ」
カズコの批難めいた小さな鼻息が、耳に痛い。
自分が都合よく使われているだけだって、そんなことはよく分かってるさ。
「見ろ、ここに温度表記がある!」
ニールが見つけたのは、カプセルの内部空間に関する項目だった。
「タンパク質の塊、総重量48.6kg、31.3℃」
画面にならんだその文字列に、俺は目を奪われる。
「体温にしちゃ、低すぎないか?」
「コレの中身が、生きてたってことだ」
ふいに、部屋の扉が開いた。
噂を聞きつけて実際に見に行った連中と、話だけで実物を目にしていない連中とで、意見が対立していた。
「な? やっぱ見に行って、正解だっただろ?」
レオンは得意げに顔を上げる。
252年前に量産されたその遺物が、現在の岸壁にたどり着いたことを知らせる、公式な発表がどこからも発信されていなかった。
ネットでは、その情報であふれかえっていたけれども、その時野次馬で集まっていた誰かの、個人的に撮影した画像か、博物館サイトから借用したような、カプセルの画像を勝手に加工した、この騒ぎに便乗した悪質なデマばかりだった。
俺は確かに、謎のカプセルの存在をこの目で見た。
ネット上でいつでも検索出来る、人類のゆりかご、絶滅の危機を救った箱船と呼ばれるカプセルと、全く同じものだった。
だけど、それを裏付ける証拠が、どこからも出ていない。
「ヘラルドとカズコも、生で見てなかったら、絶対に信じなかっただろ?」
カズコは返事の代わりにため息をつく。
「だったら、お前らも協力しろよ!」
珍しく熱心にパソコンを操作し続けているニールが、背中越しに大声をあげる。
「キャンプベースが、アレをなかったことにしようとしてるんだぜ」
「そんなこと、するわけないでしょ」
カズコが呆れたように声を漏らす。
「だってさ、これだけ世間が騒いでるのに、一切反応がないどころか、次々に投稿画像が削除されてるんだぜ」
そう、この話題をもっとも盛り上げている張本人は、隠蔽体質のキャンプベース自身。
正式に何らかの発表を出しさえすれば、それで落ち着くだろうに。
「せめてさ、現在調査中とでも一言言えばそれで済むのに、それすらないどころか、情報操作までしてるんだぜ」
「私には、そんなことに夢中になってる人間の方が信じられないわ。なにか事情があるだけよ。放っておけばいいじゃない、何がそんなに気になるのかしら」
最初にこの話題を俺たちに提供したレオンは、鼻歌を歌いながら、得意の粘土を使った造形作品の製作に夢中になっている。
「レオンは、あの中身が気にならないのかよ」
ニールの問いかけも、彼の耳には届かないらしい。
「ヘラルド、お前も見に行ったんなら、キャンビーに画像の一つくらい撮らせてるだろ?」
「いや、撮ってない」
「なんでだよ、頭おかしいだろ」
なぜそんなことで、俺の頭がおかしいと認定されなければならないのか理解に苦しむが、彼の判断基準がそこにあるのならば、俺はそういうことになるのだろう。
俺に言わせれば、ニールやジャンの方が、頭がおかしいと思うのと同じことだ。
自分に関わりがあるのなら、気にするだろう、だけど、過去の遺物が海岸に漂着したところで、好奇心はそそられても、そこまで夢中になる意味が分からない。
「ニールやジャンたちが、歴史学に興味があるとは思わなかったよ」
「俺たちは、今のキャンプのやり方が気に入らないって言ってるだけだ!」
俺は、自分のキャンビーを呼んだ。
「キャンビー、海岸に行ったときの映像とか行動記録って、残ってる?」
飛び跳ねてきた丸いキャンビーを両手に挟んで、俺はそこに額をつけた。
「該当する関連データーは、キャンプベースによって、全て削除されました」
その言葉に、俺はカズコを振り返った。
カズコはブレスレット型のキャンビーを使っている。
「私のも削除されてるわ。ま、いらないデータはできるだけさっさと削除して、軽くしておきたいタイプだから、自分で消しちゃったのかもね」
彼女はその白い顔でつぶやく。
「別に、関係ないでしょ」
それでもジャンとニールは、不毛とも思える戦いを続け、それを横目に俺たちは、粛々と与えられた課題をこなしていた。
その間に3つの大きな嵐が来て、別の5つの大雨外出禁止令が出た。
世界はとても平和だった。
やがて、キャンプベースからの公式発表が行われた。
海岸での漂着事件発生から約半年、誰もがこの話題を、忘れかけていた頃だった。
「これ、解析できる奴いるのか?」
ニールにすら、そう言わせたカプセルの公開データは、ダウンロードするのに15分もかかるようなシロモノだった。
「くだらねー、カプセルの色とか一個一個の部品のサイズとか、そんなのどうでもいいだろ、問題はコレの中身だ」
なぜか俺も、ジャンにデータ解析班に加えられ、解読を手伝わされている。
これがキャンプの公式データでなかったら、『チームワーク』の評価には繋がらないからと、断っていただろう。
ありがたいのか迷惑なのか、よく分からない状態だ。
「いまさら、こんなことをする意味があるの?」
カズコの冷たい視線を受けながらも、ここで必要とされているのは『協調性』なのだから仕方がない。
「キャンプベースの解析を待ってもいいと思うんだけどね、彼らが人類史に興味があるなんて、知らなかったよ」
カズコの批難めいた小さな鼻息が、耳に痛い。
自分が都合よく使われているだけだって、そんなことはよく分かってるさ。
「見ろ、ここに温度表記がある!」
ニールが見つけたのは、カプセルの内部空間に関する項目だった。
「タンパク質の塊、総重量48.6kg、31.3℃」
画面にならんだその文字列に、俺は目を奪われる。
「体温にしちゃ、低すぎないか?」
「コレの中身が、生きてたってことだ」
ふいに、部屋の扉が開いた。
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