世界樹の下で君に祈る

岡智 みみか

文字の大きさ
34 / 50
第5章

第9話

しおりを挟む
 世界樹の庭に立ち入ることの出来る人間は、特別に許可された者だけだ。
高い石垣に囲まれた円形の庭は城の中心部にあり、入り口には鉄格子がはめられ、番兵によって常に警備されている。
エマお姉さまの成人を祝うパーティーで開放されたのが、異例中の異例だったくらいだ。
その前は私の誕生を祝う生誕パーティーだったと聞いている。
もう16年前の話だ。
もちろん中にあるものは、枯れ葉一枚土塊一つ、持ち出すことは許されていない。
一日数回の聖女たちの祈りの時間にだけ、門が開き中へ入ることが許されている。

「私がいまここで、お返事出来るものではございませんわ」
「そこをなんとか!」

 マセルはボスマン博士を振り返った。

「ブリーシュアの世界樹の庭の土なら、初めての成果となりますよね! 僕がまだここに残って、研究を続けられる成果となりますよね!」
「それは……、なんとも言えない。庭の土から何が出てくるかによる。ただ、世界樹の庭の土を分析し、公表した研究者は、他にいないことは確かだ」
「ルディさま!」

 気づけば、全研究員全ての視線が集まっていた。
私だって、協力したい気持ちがないわけじゃない。
ボスマン博士が、白髭で隠れた重い口を開いた。

「私も調べられるのなら調べてみたい、もっとも興味深い場所ではある」
「で、ですから、私の一存では、お返事出来ないと申し上げているのです」

 リシャールの紅い目が、私の視線と重なった。

「私からもお願いしたい。どうすればいい?」
「まずは、聖女であるエマお姉さまの許可をいただかないと。そこから王と議会に申請して、許可が出ればあるいは……」

 リシャールが不意にピンと背筋を伸ばした。
胸に手を当て、私に向かって丁寧に頭を下げる。

「ルディ王女。エマさまへのお取り次ぎをお願いしたい。私はこの世界の世界樹と、そこに暮らす人々を救うためにここへ来た」
「聖女のためではなくて?」
「聖女もまた国の民だ」

 あぁ、ようやく分かった。
この人は私と似ているのだ。
私に聖女としての力がないように、男として生まれたこの人にも瘴気を払う聖女の力はない。
だけど、人々を守りたいと思う気持ちは、同じなんだ。

「分かりました。努力してみましょう」
「本当か!」

 研究所内が、一気に湧き上がる。

「ただし、上手く行くかは分かりませんし、すぐにことが運ぶ保証は、どこにもありませんわよ。かけあってみるだけです」
「ありがとうございます!」

 赤茶色の髪のマセルが、飛び上がって喜んでいる。
その横で、リシャールは再び私の目を見つめた。

「ルディ。私に出来ることならいくらでも協力する。レランドを代表して、君に感謝する」
「だからまだ、それには気が早いと……」

 いくら釘をさそうとしても、もう誰も話を聞いてはいなかった。
ボスマン博士は、庭の土からどんな新発見があるか、子供のように目を輝かせてマセルと語り始めている。
もっと精度のいい分析方法を使って、どんな微量な成分も逃すこと無く測定するつもりのようだ。
そのための分析方法を新しく考えてみようと、すっかり盛り上がってしまっている。
もしこれで土から他にない成分や特徴が発見されれば、それは素晴らしい成果になると。
気の早い所員たちに半ば呆れながらも、微笑ましい気持ちになる。
世界はこうやって、誰かの手によって守られているのだ。
そんななか、ふと視界に入ったのは、厳しい表情を崩さないリンダだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

さようなら、私の初恋

しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」 物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。 だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。 「あんな女、落とすまでのゲームだよ」

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

処理中です...