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第1章
第1話
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いつもの駅でいつもと反対のホームに立つ。
一度やってみたいと思っていた。
月曜の朝にいつもと反対の電車に乗って、行けるところまで行ってみること。
肩にかついだこん棒をじろじろと見られていることは知ってるけど、覚悟の決まったあたしにはそんなこと関係ない。
こん棒は鬼退治を目指す者の修行中の証。
正当な剣士と認められれば、刀が授けられる。
あたしにそれをくれるのが、どんな人になるのかは知らないけど。
車窓から差す朝の光は眩しくて、それが月曜の朝の学校サボりってだけで、また特別な感じがする。
トンネルを抜けると、視界に海が飛び込んできた。
ずっとずっと電車に揺られていた。
海なんて見るの久しぶり。
行く当てなんてどこにもなかった。
偶然停まった駅で気まぐれにホームに降り立つ。
スマホでチェックしてみたら、案外海まで遠かった。
それでも歩き出す。
「うわ、こん棒担いでるよ、こいつ」
「鬼退治かよ、ダッセー!」
集団登校の小学生たちが、そう言ってあたしを指さす。
キッとにらみ返したら、高い声できゃあきゃあと笑いながら駆け抜けて行った。
その最後尾にいた女の子がくるりと振り返る。
彼女はあたしを見て、グッと親指を突き出した。
『グッドラック。幸運を。君の歩む未来に幸あれ』
あたしもすぐ、同じようにそれを返した。
他の子には見つからないように、こっそりと出された親指と、そのランドセルを見送る。
ありがとう。
あなたの気持ちは受け取った。
大丈夫よ。
あたしは負けない。
朝の住宅街はどこまでも平和で、あたしは人々の行く波に逆らい海を目指す。
「どうしたの?」
ある日の昼下がり、ショッピングモールで泣いている女の子を見かけた。
つい数日前のことだ。
彼女はしきりに泣きじゃくり、鬼が出たと訴えていたのに……。
小さな女の子だった。
あの時のあたしも。この時のその子も。
他の誰も声をかけないから、思わず足が動いた。
泣いている小さな肩に触れたら、彼女は涙をとめどなく流しながら見上げた。
「鬼が……、鬼がいたの。あたしの腕をつかんで、連れて行こうとしたの。逃げ出したら追いかけてきて……」
大丈夫よと言って、抱きしめた。
あたしは泣きやんだ彼女と手をとりあって歩く。
鬼が出たと言われて連れてこられたのは、イベントホールのど真ん中だった。
「本当よ。さっきここにいたの」
「信じるよ」
丸テーブルと椅子が並んでいる。
真ん中には大きな白い樹のオブジェがあって、クリスマスでもないのに金の飾りつけが輝いていた。
賑やかな音楽が流れ、行き交う人々は思い思いに過ごしている。
どこにでもあるごくごく普通の風景で、おかしなところは何もない。
彼女の両親と思われる二人が駆け寄ってきた。
「どこへ行ってたの、心配したじゃない!」
その時の彼女があたしの手をぎゅっと握りしめたことを、一生忘れない。
「ママとパパ?」
「うん」
小さな手は自ら離れていった。
あたしは迷子を連れてきたお礼を言われ、そのまま手を振って別れた。
「もう鬼は大丈夫なの?」と聞いたら、パパはその子を叱った。
「またバカなこと言って」って。
彼女は真っ赤な顔をしてうなずいた。
あたしはそれに悲しくなる。
知ってるよ。
キミが嘘なんかついてないってこと。
一度やってみたいと思っていた。
月曜の朝にいつもと反対の電車に乗って、行けるところまで行ってみること。
肩にかついだこん棒をじろじろと見られていることは知ってるけど、覚悟の決まったあたしにはそんなこと関係ない。
こん棒は鬼退治を目指す者の修行中の証。
正当な剣士と認められれば、刀が授けられる。
あたしにそれをくれるのが、どんな人になるのかは知らないけど。
車窓から差す朝の光は眩しくて、それが月曜の朝の学校サボりってだけで、また特別な感じがする。
トンネルを抜けると、視界に海が飛び込んできた。
ずっとずっと電車に揺られていた。
海なんて見るの久しぶり。
行く当てなんてどこにもなかった。
偶然停まった駅で気まぐれにホームに降り立つ。
スマホでチェックしてみたら、案外海まで遠かった。
それでも歩き出す。
「うわ、こん棒担いでるよ、こいつ」
「鬼退治かよ、ダッセー!」
集団登校の小学生たちが、そう言ってあたしを指さす。
キッとにらみ返したら、高い声できゃあきゃあと笑いながら駆け抜けて行った。
その最後尾にいた女の子がくるりと振り返る。
彼女はあたしを見て、グッと親指を突き出した。
『グッドラック。幸運を。君の歩む未来に幸あれ』
あたしもすぐ、同じようにそれを返した。
他の子には見つからないように、こっそりと出された親指と、そのランドセルを見送る。
ありがとう。
あなたの気持ちは受け取った。
大丈夫よ。
あたしは負けない。
朝の住宅街はどこまでも平和で、あたしは人々の行く波に逆らい海を目指す。
「どうしたの?」
ある日の昼下がり、ショッピングモールで泣いている女の子を見かけた。
つい数日前のことだ。
彼女はしきりに泣きじゃくり、鬼が出たと訴えていたのに……。
小さな女の子だった。
あの時のあたしも。この時のその子も。
他の誰も声をかけないから、思わず足が動いた。
泣いている小さな肩に触れたら、彼女は涙をとめどなく流しながら見上げた。
「鬼が……、鬼がいたの。あたしの腕をつかんで、連れて行こうとしたの。逃げ出したら追いかけてきて……」
大丈夫よと言って、抱きしめた。
あたしは泣きやんだ彼女と手をとりあって歩く。
鬼が出たと言われて連れてこられたのは、イベントホールのど真ん中だった。
「本当よ。さっきここにいたの」
「信じるよ」
丸テーブルと椅子が並んでいる。
真ん中には大きな白い樹のオブジェがあって、クリスマスでもないのに金の飾りつけが輝いていた。
賑やかな音楽が流れ、行き交う人々は思い思いに過ごしている。
どこにでもあるごくごく普通の風景で、おかしなところは何もない。
彼女の両親と思われる二人が駆け寄ってきた。
「どこへ行ってたの、心配したじゃない!」
その時の彼女があたしの手をぎゅっと握りしめたことを、一生忘れない。
「ママとパパ?」
「うん」
小さな手は自ら離れていった。
あたしは迷子を連れてきたお礼を言われ、そのまま手を振って別れた。
「もう鬼は大丈夫なの?」と聞いたら、パパはその子を叱った。
「またバカなこと言って」って。
彼女は真っ赤な顔をしてうなずいた。
あたしはそれに悲しくなる。
知ってるよ。
キミが嘘なんかついてないってこと。
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