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第6章
第3話
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「小田せんせー。聞いてよー」
「なんじゃこん棒担いで。ベルトはどうした?」
おじいちゃん先生は基本的に、自分の興味があることにしか興味はない。
「鬼退治サークル作りたいんだけどさー。メンバーが集まんないのー」
「は? 鬼退治か。よし。ちょっとそこで待ってろ」
腰にぶら下げた鍵の束から、体育科倉庫を開ける。
「うちにも昔は鬼退治部があってなぁ。それがまだ残っとるんじゃあ」
小田ティーチャーが取り出したのは、校章入りの立派なベルトだった。
「ホレ、お前らにやる」
「マジで! いいの?」
「かまんじゃろ」
そう言って先生は笑った。
あたしといっちーはそそくさとそれを装備する。
「昔はどこの学校にもあったんだけどなぁ。今はもう流行らんからなぁ」
「めっちゃカッコよ!」
「先生ありがとう!」
やった。
本気でうれしい。
まさかこの学校の校章入りベルトが存在するなんて、思いもしなかった。
「サークルじゃなくて正式な部活みたい!」
「やばい、やる気出てきた」
黒革のしっかりとしたベルトは、少し古風なデザインが逆に今っぽくてとてもよい。
何より制服によく似合う。
「おぉ、よく似合うな。頑張れよ」
「小田先生ありがとう!」
あたしといっちーは走り出す。
何かもうこれだけで満足しちゃいそう。
職員室前の廊下にある、大きな鏡の前に立つ。
あれこれポーズをとって騒いでいたら、堀川が顔を出した。
「……。なにそれ。どっから持ってきたのよ」
「小田先生からもらった」
「まだいっぱい体育科倉庫にあったよ」
堀川の視線は、じっと制服の上のベルトに注がれる。
深く息を吐いてから、眉間を押さえた。
「ま、いいわ。メンバーは集まったの? どうせまだなんでしょ。やれるもんならやってみなさい」
堀川はあたしたちを鏡の前から追いやると、どこかへ行ってしまった。
「なんだ? アレ」
「感じワル」
仕方なく教室に戻る。
堀川から渡されたサークル新規起ち上げ条件を、じっくりと読み返した。
「なんの部活にもサークルにも所属してない子って、知ってる?」
「完全な帰宅部ってことでしょ。そういう子って、大概他に名義貸したりしてるからなぁ」
「ねぇ。もも待って」
いっちーが紙面を指さした。
「コレ。顧問の予定が堀川になってるよ」
「うっそ。それはない」
堀川自身は別に好きでも嫌いでもなんともないけど、顧問となると話は別だ。
「誰が決めた?」
「校長? それとも堀川自身?」
顔を見合わせる。
「確か顧問の先生って、こっちから頼めば誰でもよかったよね」
生まれて初めて高校の生徒手帳、校則のページを開く。
「ほら、やっぱそうだ」
「登録許可書、堀川に内緒で新しいのもらってこよう」
いま持っている書類は、あたしの机に突っ込んだ。
顧問のアテは決まっている。
生徒手帳によると、部活やサークルの管理は生徒会の所属になっている。
生徒会室なんて学校のどこにあるのか知らなかったけど、それも生徒手帳に書いてあった。
とても便利な手帳だ。
「失礼します」
返事がして中に入る。
はーとしーの双子がいた。
「おいっす」
「ももじゃん。どうしたの?」
あたしは事情を説明した。
「あぁ、そういうことなら、新しい書類あげる」
「で、メンバーは集まりそうなの?」
「掛け持ちはダメって言われて、ちょっと苦戦してる」
「掛け持ち?」
はーとしーは同時に首をかしげた。
「そんな規則はないと思ったけど」
はーちゃんは生徒会室の棚から、何かの冊子を取り出した。
「顧問の先生は生徒自身の依頼と許可でオッケーだし、メンバーも5人は必要だけど、掛け持ちかどうかは規定にないよ。主な活動場所の確保は必要だけど」
「ホントに? じゃあなんで堀川は、あんなことを言ったんだろ」
「さぁね」
「邪魔するつもり?」
はーちゃんからしーちゃんの手に渡った何かの冊子は、ポンと元の位置に戻ってその棚の扉は閉じられる。
「つーかこのベルトなに? どうしたの?」
「めっちゃカッコイイ」
あたしはいっちーと目を合わせ、ニッと微笑む。
「まぁね」
「小田っちからもらったんだ」
「いいね!」
「うん、いい!」
はーとしーも一緒に笑う。
「頑張って」
「うまくいきますように!」
新しい書類を手にしてしまえば、なんの問題ない。
小田っちを落とし込む計画も完璧だ。
あたしたちは廊下を猛ダッシュして、まっすぐに体育科倉庫へ向かう。
小田っちはやっぱり花壇の草むしりをしていた。
「先生! あたしたちの顧問になってください!」
麦わら帽子のおじいちゃん先生は、くるりと振り返る。
「そりゃ知っとるぞ。確か顧問に国語の堀川先生がなっとったじゃろが」
「あたしたちは、先生に顧問になってほしいんです!」
小田っちはじっとあたしたちを見つめる。
いっちーは真っ赤な顔をして、もじもじと秘密兵器を取り出した。
「あ、あの……これ。入部希望者のみんなから、やっぱり小田先生に顧問やってほしいって、寄せ書きしたんです」
さっき購買部で買ってきたばかりの色紙だ。
名前を借りるついでに、こっちも書いてもらった。
製作時間正味15分の即席アイテム。
それを見た小田っちの顔がビシッと強ばる。
「先生、やっぱりみんな、小田先生がいいよねって」
「堀川先生も素敵なんですけど、いつもお世話になってる小田先生の方が、頼もしいかなって……」
「あ、あの……迷惑でしたか?」
小田っちは動かない。
失敗だったか?
そう思った瞬間、その頬に涙が流れた。
「……そうか。分かった。お前らがそんなに言うなら、ワシが顧問になっちゃる」
しわしわの手で豪快に涙を拭う。
「しっかり頑張れよ!」
やった! おだっちのピカピカ笑顔だ!
「はい!」
「全部書類が埋まったら、最後に持って来い。ワシがサインして提出しておくからな」
笑顔で手を振られる。
あたしたちも思いっきり手を振った。
先生の姿が視界から消え、息を止めてワザと真っ赤にしていた顔から、ようやく深呼吸する。
「ちっ、やっぱ活動場所の確保まではしてくれないか」
「仕方ないね。ヘンに口出しされるよりかはマシだと思わないと」
いっちーと目を合わせる。
勝負はこれからだ。
「なんじゃこん棒担いで。ベルトはどうした?」
おじいちゃん先生は基本的に、自分の興味があることにしか興味はない。
「鬼退治サークル作りたいんだけどさー。メンバーが集まんないのー」
「は? 鬼退治か。よし。ちょっとそこで待ってろ」
腰にぶら下げた鍵の束から、体育科倉庫を開ける。
「うちにも昔は鬼退治部があってなぁ。それがまだ残っとるんじゃあ」
小田ティーチャーが取り出したのは、校章入りの立派なベルトだった。
「ホレ、お前らにやる」
「マジで! いいの?」
「かまんじゃろ」
そう言って先生は笑った。
あたしといっちーはそそくさとそれを装備する。
「昔はどこの学校にもあったんだけどなぁ。今はもう流行らんからなぁ」
「めっちゃカッコよ!」
「先生ありがとう!」
やった。
本気でうれしい。
まさかこの学校の校章入りベルトが存在するなんて、思いもしなかった。
「サークルじゃなくて正式な部活みたい!」
「やばい、やる気出てきた」
黒革のしっかりとしたベルトは、少し古風なデザインが逆に今っぽくてとてもよい。
何より制服によく似合う。
「おぉ、よく似合うな。頑張れよ」
「小田先生ありがとう!」
あたしといっちーは走り出す。
何かもうこれだけで満足しちゃいそう。
職員室前の廊下にある、大きな鏡の前に立つ。
あれこれポーズをとって騒いでいたら、堀川が顔を出した。
「……。なにそれ。どっから持ってきたのよ」
「小田先生からもらった」
「まだいっぱい体育科倉庫にあったよ」
堀川の視線は、じっと制服の上のベルトに注がれる。
深く息を吐いてから、眉間を押さえた。
「ま、いいわ。メンバーは集まったの? どうせまだなんでしょ。やれるもんならやってみなさい」
堀川はあたしたちを鏡の前から追いやると、どこかへ行ってしまった。
「なんだ? アレ」
「感じワル」
仕方なく教室に戻る。
堀川から渡されたサークル新規起ち上げ条件を、じっくりと読み返した。
「なんの部活にもサークルにも所属してない子って、知ってる?」
「完全な帰宅部ってことでしょ。そういう子って、大概他に名義貸したりしてるからなぁ」
「ねぇ。もも待って」
いっちーが紙面を指さした。
「コレ。顧問の予定が堀川になってるよ」
「うっそ。それはない」
堀川自身は別に好きでも嫌いでもなんともないけど、顧問となると話は別だ。
「誰が決めた?」
「校長? それとも堀川自身?」
顔を見合わせる。
「確か顧問の先生って、こっちから頼めば誰でもよかったよね」
生まれて初めて高校の生徒手帳、校則のページを開く。
「ほら、やっぱそうだ」
「登録許可書、堀川に内緒で新しいのもらってこよう」
いま持っている書類は、あたしの机に突っ込んだ。
顧問のアテは決まっている。
生徒手帳によると、部活やサークルの管理は生徒会の所属になっている。
生徒会室なんて学校のどこにあるのか知らなかったけど、それも生徒手帳に書いてあった。
とても便利な手帳だ。
「失礼します」
返事がして中に入る。
はーとしーの双子がいた。
「おいっす」
「ももじゃん。どうしたの?」
あたしは事情を説明した。
「あぁ、そういうことなら、新しい書類あげる」
「で、メンバーは集まりそうなの?」
「掛け持ちはダメって言われて、ちょっと苦戦してる」
「掛け持ち?」
はーとしーは同時に首をかしげた。
「そんな規則はないと思ったけど」
はーちゃんは生徒会室の棚から、何かの冊子を取り出した。
「顧問の先生は生徒自身の依頼と許可でオッケーだし、メンバーも5人は必要だけど、掛け持ちかどうかは規定にないよ。主な活動場所の確保は必要だけど」
「ホントに? じゃあなんで堀川は、あんなことを言ったんだろ」
「さぁね」
「邪魔するつもり?」
はーちゃんからしーちゃんの手に渡った何かの冊子は、ポンと元の位置に戻ってその棚の扉は閉じられる。
「つーかこのベルトなに? どうしたの?」
「めっちゃカッコイイ」
あたしはいっちーと目を合わせ、ニッと微笑む。
「まぁね」
「小田っちからもらったんだ」
「いいね!」
「うん、いい!」
はーとしーも一緒に笑う。
「頑張って」
「うまくいきますように!」
新しい書類を手にしてしまえば、なんの問題ない。
小田っちを落とし込む計画も完璧だ。
あたしたちは廊下を猛ダッシュして、まっすぐに体育科倉庫へ向かう。
小田っちはやっぱり花壇の草むしりをしていた。
「先生! あたしたちの顧問になってください!」
麦わら帽子のおじいちゃん先生は、くるりと振り返る。
「そりゃ知っとるぞ。確か顧問に国語の堀川先生がなっとったじゃろが」
「あたしたちは、先生に顧問になってほしいんです!」
小田っちはじっとあたしたちを見つめる。
いっちーは真っ赤な顔をして、もじもじと秘密兵器を取り出した。
「あ、あの……これ。入部希望者のみんなから、やっぱり小田先生に顧問やってほしいって、寄せ書きしたんです」
さっき購買部で買ってきたばかりの色紙だ。
名前を借りるついでに、こっちも書いてもらった。
製作時間正味15分の即席アイテム。
それを見た小田っちの顔がビシッと強ばる。
「先生、やっぱりみんな、小田先生がいいよねって」
「堀川先生も素敵なんですけど、いつもお世話になってる小田先生の方が、頼もしいかなって……」
「あ、あの……迷惑でしたか?」
小田っちは動かない。
失敗だったか?
そう思った瞬間、その頬に涙が流れた。
「……そうか。分かった。お前らがそんなに言うなら、ワシが顧問になっちゃる」
しわしわの手で豪快に涙を拭う。
「しっかり頑張れよ!」
やった! おだっちのピカピカ笑顔だ!
「はい!」
「全部書類が埋まったら、最後に持って来い。ワシがサインして提出しておくからな」
笑顔で手を振られる。
あたしたちも思いっきり手を振った。
先生の姿が視界から消え、息を止めてワザと真っ赤にしていた顔から、ようやく深呼吸する。
「ちっ、やっぱ活動場所の確保まではしてくれないか」
「仕方ないね。ヘンに口出しされるよりかはマシだと思わないと」
いっちーと目を合わせる。
勝負はこれからだ。
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