20 / 86
第6章
第1話
しおりを挟む
坂本の家に嫁いでから、数ヶ月が過ぎた。
凍てつくような冬の空気も緩み、日差しに暖かさが宿る。
私がこの家にいることにも慣れてきたのか、晋太郎さんは奥から出て、ふらふらと歩き回ることが増えた。
以前よりはずっと、顔を合わす機会も増えている。
時折話しかけられたりなんかして、言葉も交わす。
奥の部屋に籠もっていた頃には、居るか居ないかも分からないような人だったのに、今は土間の床板に腰掛け、スルメをかじりながら私たちの様子を見ていた。
義母は私と奉公人まで総動員して、意気揚々とたすきをかける。
「そんなに一度にこしらえて、大丈夫なのですか?」
「面倒はいっぺんに済ませてしまうのが、コツなのです」
いただいたカブやらレンコンやらを一度に全部煮てしまって、天日に干し、漬物や砂糖漬けにしてしまおうという算段だ。
お義母さまはいつも以上に意気込んでいる。
「さて、志乃さん。煮付けの前の下準備を教えましょう。これは坂本家の作法なのですから、しっかり覚えてくださいね」
そう言うと義母はまな板を二つ並べ、包丁を置く。
「まずは野菜の切り方からね。これはうちのやり方なのですから、よろしくお願いしますよ」
私もたすきをかけた。
皮をむき、次々と切られてゆく野菜を、見よう見まねで切っていく。
大鍋に放り込んだ。
「先に出汁を取らないのですか?」
「それはいいのよ」
お義母さまには、お義母さまの流儀があるらしい。
「下味をつけると、味が濃くなっちゃいますから」
晋太郎さんは何も言わず、黙々とスルメをかじっている。
湯気の立ちこめる土間は、すっかり騒がしくなった。
天日に干すためのざるを運んだり、漬物を仕込む樽や置き石を運んだり。
力仕事は晋太郎さんも、なんとなく手伝っている。
凍てつくような冬の空気も緩み、日差しに暖かさが宿る。
私がこの家にいることにも慣れてきたのか、晋太郎さんは奥から出て、ふらふらと歩き回ることが増えた。
以前よりはずっと、顔を合わす機会も増えている。
時折話しかけられたりなんかして、言葉も交わす。
奥の部屋に籠もっていた頃には、居るか居ないかも分からないような人だったのに、今は土間の床板に腰掛け、スルメをかじりながら私たちの様子を見ていた。
義母は私と奉公人まで総動員して、意気揚々とたすきをかける。
「そんなに一度にこしらえて、大丈夫なのですか?」
「面倒はいっぺんに済ませてしまうのが、コツなのです」
いただいたカブやらレンコンやらを一度に全部煮てしまって、天日に干し、漬物や砂糖漬けにしてしまおうという算段だ。
お義母さまはいつも以上に意気込んでいる。
「さて、志乃さん。煮付けの前の下準備を教えましょう。これは坂本家の作法なのですから、しっかり覚えてくださいね」
そう言うと義母はまな板を二つ並べ、包丁を置く。
「まずは野菜の切り方からね。これはうちのやり方なのですから、よろしくお願いしますよ」
私もたすきをかけた。
皮をむき、次々と切られてゆく野菜を、見よう見まねで切っていく。
大鍋に放り込んだ。
「先に出汁を取らないのですか?」
「それはいいのよ」
お義母さまには、お義母さまの流儀があるらしい。
「下味をつけると、味が濃くなっちゃいますから」
晋太郎さんは何も言わず、黙々とスルメをかじっている。
湯気の立ちこめる土間は、すっかり騒がしくなった。
天日に干すためのざるを運んだり、漬物を仕込む樽や置き石を運んだり。
力仕事は晋太郎さんも、なんとなく手伝っている。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる