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第39話
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それからちょうど一週間が過ぎた頃だった。
愛菜が採用面接に合格し、私たちと同じ部署に配属された。
その日、彼女は判で押したような、教科書みたいな仕事着スーツで局に現れた。
「えーっ!!」
局長に連れられてやってきた彼女を見て、私は本気で驚いた。
「本当に採用されたんだね!」
彼女との親密な関係は続いていて、この一週間、直接会ってはいなかったけれども、たわいのない日常会話のやりとりは、ずっとネット上で続いていたのだ。
「本日付で採用されました、乃木愛菜です」
彼女はとても晴れやかな笑顔を見せた。
私とずっとやり取りをしていた大量のメッセージの中で、そんなことは一度も出てこなかったのに。
「皆さんには、色々とご迷惑をおかけしました。申し訳なかったと、今では反省しております。これからは同じ職場の人間として、責任をもって、仕事に邁進していきたいと思っております。どうぞよろしくお願いします」
うれしい。
七海ちゃん以来の新人さんだ。
私は惜しみなく賞賛の拍手を送った。
一生懸命、手を叩いていたのは、私だけだったけど。
愛菜はぐるりと周囲を見渡す。
芹奈さんが最初に動いた。
「山下芹奈です。私も、一ヶ月前に採用されたばかりなの。同じ新人同士、よろしくね」
あぁ、そうだった。
全く新人らしくない芹奈さんのことを、すっかり忘れていた。
彼女は右手を愛菜に差し出す。
自分より少し背の高い芹奈さんを見上げるようにして、愛菜はその手を握った。
「あなたのことは、資料を見て事前によく知っているわ。フレンド登録はしないけど、同じ職場の人間として、連絡先には登録しておきます」
愛菜は、ニッとした表情を返した。
それから順番に、部署の人間と握手を交わす。
七海ちゃんが終わって、最後に私のところへ来た。
「おめでとう!」
私の心からの賛辞を、彼女は実にあっさりと吹き飛ばした。
「どうも」
一緒にはしゃいでくれるかと思っていた私は、ちょっとがっかりしてしまった。
愛菜は凄く落ち着いていて、とても冷静だった。
まぁ、憧れの職場にようやく採用されたんだもん、そんなにふざけてばかりは、いられないよね。
彼女もきっと、緊張しているんだ。
「こっちへ来て。仕事の説明は、私からします」
芹奈さんが愛菜を呼んだ。
唐突に愛菜は、私にささやく。
「あの人も、新人なんでしょ?」
「そうだけど、すごく優秀な人だよ」
「PPは?」
「2000越え」
「へー」
愛菜は芹奈さんの勧める椅子に座った。
芹奈さんが愛菜にする説明を、横田さんはじっと腕を組んで見つめている。
「明穂さん、僕たちはこっちで、いつも通りのことをしましょう」
市山くんに促されて、私は自分の席につく。
「やっぱり、なんかいい気はしませんね」
七海ちゃんが小声でささやいた言葉に、さくらも声をひそめる。
「仕事だから、仕方ないよ。なんだかんだで世の中には、色んな人がいっぱいいるってこと」
「大丈夫。大丈夫ですよ」
市山くんは、静かに微笑む。
「僕たちは、いつものように過ごしましょう」
彼はさっきまで体を小さく丸めて小声で話していたのを、反り返って大きく伸ばした。
一度にっこりと笑顔を作ってから、彼のデスクにさしてあるロリポップキャンディーを取り出す。
「はい、どうぞ」
彼が包みを取ってくれたキャンディーを、私はそのまま口にくわえた。
甘いラズベリーの香りが、周囲に広がる。
「あー、私も欲しい!」
「はいはい」
七海ちゃんにも同じように、彼は食べさせてあげる。
いつもの風景だ。
ようやく緩んだ空気に、私も安心する。
その背中越しに、愛菜に説明を続ける芹奈さんの淡々とした声が聞こえてきた。
大丈夫、気にしない。
愛菜にとっては、やっと入れた憧れの職場だし、芹奈さんは出来る人。
いつも通りに過ごしていれば、すぐに自分の意識にもなじんでくる。
私はキャンディーをくわえたまま、パソコン画面に向かった。
愛菜が採用面接に合格し、私たちと同じ部署に配属された。
その日、彼女は判で押したような、教科書みたいな仕事着スーツで局に現れた。
「えーっ!!」
局長に連れられてやってきた彼女を見て、私は本気で驚いた。
「本当に採用されたんだね!」
彼女との親密な関係は続いていて、この一週間、直接会ってはいなかったけれども、たわいのない日常会話のやりとりは、ずっとネット上で続いていたのだ。
「本日付で採用されました、乃木愛菜です」
彼女はとても晴れやかな笑顔を見せた。
私とずっとやり取りをしていた大量のメッセージの中で、そんなことは一度も出てこなかったのに。
「皆さんには、色々とご迷惑をおかけしました。申し訳なかったと、今では反省しております。これからは同じ職場の人間として、責任をもって、仕事に邁進していきたいと思っております。どうぞよろしくお願いします」
うれしい。
七海ちゃん以来の新人さんだ。
私は惜しみなく賞賛の拍手を送った。
一生懸命、手を叩いていたのは、私だけだったけど。
愛菜はぐるりと周囲を見渡す。
芹奈さんが最初に動いた。
「山下芹奈です。私も、一ヶ月前に採用されたばかりなの。同じ新人同士、よろしくね」
あぁ、そうだった。
全く新人らしくない芹奈さんのことを、すっかり忘れていた。
彼女は右手を愛菜に差し出す。
自分より少し背の高い芹奈さんを見上げるようにして、愛菜はその手を握った。
「あなたのことは、資料を見て事前によく知っているわ。フレンド登録はしないけど、同じ職場の人間として、連絡先には登録しておきます」
愛菜は、ニッとした表情を返した。
それから順番に、部署の人間と握手を交わす。
七海ちゃんが終わって、最後に私のところへ来た。
「おめでとう!」
私の心からの賛辞を、彼女は実にあっさりと吹き飛ばした。
「どうも」
一緒にはしゃいでくれるかと思っていた私は、ちょっとがっかりしてしまった。
愛菜は凄く落ち着いていて、とても冷静だった。
まぁ、憧れの職場にようやく採用されたんだもん、そんなにふざけてばかりは、いられないよね。
彼女もきっと、緊張しているんだ。
「こっちへ来て。仕事の説明は、私からします」
芹奈さんが愛菜を呼んだ。
唐突に愛菜は、私にささやく。
「あの人も、新人なんでしょ?」
「そうだけど、すごく優秀な人だよ」
「PPは?」
「2000越え」
「へー」
愛菜は芹奈さんの勧める椅子に座った。
芹奈さんが愛菜にする説明を、横田さんはじっと腕を組んで見つめている。
「明穂さん、僕たちはこっちで、いつも通りのことをしましょう」
市山くんに促されて、私は自分の席につく。
「やっぱり、なんかいい気はしませんね」
七海ちゃんが小声でささやいた言葉に、さくらも声をひそめる。
「仕事だから、仕方ないよ。なんだかんだで世の中には、色んな人がいっぱいいるってこと」
「大丈夫。大丈夫ですよ」
市山くんは、静かに微笑む。
「僕たちは、いつものように過ごしましょう」
彼はさっきまで体を小さく丸めて小声で話していたのを、反り返って大きく伸ばした。
一度にっこりと笑顔を作ってから、彼のデスクにさしてあるロリポップキャンディーを取り出す。
「はい、どうぞ」
彼が包みを取ってくれたキャンディーを、私はそのまま口にくわえた。
甘いラズベリーの香りが、周囲に広がる。
「あー、私も欲しい!」
「はいはい」
七海ちゃんにも同じように、彼は食べさせてあげる。
いつもの風景だ。
ようやく緩んだ空気に、私も安心する。
その背中越しに、愛菜に説明を続ける芹奈さんの淡々とした声が聞こえてきた。
大丈夫、気にしない。
愛菜にとっては、やっと入れた憧れの職場だし、芹奈さんは出来る人。
いつも通りに過ごしていれば、すぐに自分の意識にもなじんでくる。
私はキャンディーをくわえたまま、パソコン画面に向かった。
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