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第22章
第1話
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昼休み、最近はすっかり疎遠になった山崎が、隣で他の男子と騒いでいた。
何だかじゃれあっていたのが、ふと目が合う。
「1年のマシンは、うまくいってんの?」
そう言って、俺は口に紙パックのストローをくわえ直した。
ちゅーっと最後の一息を吸い込む。
「そこそこね。お前は?」
山崎は立ち上がると、俺の横にあった椅子に座った。
机に座っている俺は、山崎の頭頂部を見下ろす。
「うん、こっちもそんなかんじ」
山崎の大きな目が、ちらりとこちらを見上げた。
俺は同じ目線で座り直す。
「設計図通りに、うまく行ってる?」
「そこは微妙に調整しつつ、何とかやってる」
「やっぱそうかー」
それを聞いて、俺は少し安心した。
そんなすんなり、行くはずないよな。
「あいつの設計図、すげーのにな」
俺がそう言ったら、山崎はちらりとこちらを見た。
「お前はどうなんだよ」
全然上手くいってないとは、口が裂けも言えない。
「まぁ、それなりに」
「へー」
両手を組んだ山崎の指がもぞもぞと動いていて、こういう時は、何か言いたいことがあるのに言えずにいる時のクセだって、知ってる。
「今でこそさ、はっきり学年とか年齢とかで分かれてるけどさ、大人になったらそういうのって、関係なくなるだろ?」
ふいに山崎が言った。
俺は飲み終わったストローの端を口にくわえたまま、その先をなんとなくガジガジかんでいる。
「なんだっけ、年功序列の反対」
「成果主義?」
俺はようやく、ストローから口を離した。
「もうそういう時代なんだよねー。でもまぁ、よく考えたら、運動部あるあるってやつかな」
「いま1年って、何人くらいいんの?」
「15人? そんくらい」
「こないだ、谷先輩が来てくれたんだ」
山崎の顔が、パッと明るくなった。
「うおーなんだよ、教えてくれよー。元気そうにしてた?」
ようやく笑顔が戻ってきた。
それで山崎はうれしそうに、体育館での様子を話し始める。
1年同士はなんだかんだで、みんな仲がいいこと。
だけど、鹿島以外は、あまり知識がないこと。
手先はそこそこ器用で、ちゃんと鹿島を手伝うし、やる気もあること。
ニューロボコンに向けた気合いだけは、十分なこと。
「まぁ、それはそれで、どうなのって思うこともあるけど、概ねいい感じだよ」
「注意とか、アドバイスみたいなことは、してんの?」
そう言うと、山崎はふっと笑って、首を横に振った。
「ま、そういうのって、あんまやりすぎると、嫌われちゃうからねー」
結局は、山崎も小さな体育館倉庫の隅っこで、運び込まれた漫画を読みながら、座っているだけらしい。
なんだよ、理科室にいた頃と、ほとんど変わりないじゃないか。
それでもこっちに戻ってこないで、体育館にいるのは、なんでだろう。
俺のことが本当に、嫌いなわけじゃないだろうし。
そりゃ人数多くて、「イケてるメンバー」の方に入ってた方が、いいよな。
1年だけど。
戻ってこいよって、言いたいけど、俺の方からは言えない。
何だかじゃれあっていたのが、ふと目が合う。
「1年のマシンは、うまくいってんの?」
そう言って、俺は口に紙パックのストローをくわえ直した。
ちゅーっと最後の一息を吸い込む。
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山崎は立ち上がると、俺の横にあった椅子に座った。
机に座っている俺は、山崎の頭頂部を見下ろす。
「うん、こっちもそんなかんじ」
山崎の大きな目が、ちらりとこちらを見上げた。
俺は同じ目線で座り直す。
「設計図通りに、うまく行ってる?」
「そこは微妙に調整しつつ、何とかやってる」
「やっぱそうかー」
それを聞いて、俺は少し安心した。
そんなすんなり、行くはずないよな。
「あいつの設計図、すげーのにな」
俺がそう言ったら、山崎はちらりとこちらを見た。
「お前はどうなんだよ」
全然上手くいってないとは、口が裂けも言えない。
「まぁ、それなりに」
「へー」
両手を組んだ山崎の指がもぞもぞと動いていて、こういう時は、何か言いたいことがあるのに言えずにいる時のクセだって、知ってる。
「今でこそさ、はっきり学年とか年齢とかで分かれてるけどさ、大人になったらそういうのって、関係なくなるだろ?」
ふいに山崎が言った。
俺は飲み終わったストローの端を口にくわえたまま、その先をなんとなくガジガジかんでいる。
「なんだっけ、年功序列の反対」
「成果主義?」
俺はようやく、ストローから口を離した。
「もうそういう時代なんだよねー。でもまぁ、よく考えたら、運動部あるあるってやつかな」
「いま1年って、何人くらいいんの?」
「15人? そんくらい」
「こないだ、谷先輩が来てくれたんだ」
山崎の顔が、パッと明るくなった。
「うおーなんだよ、教えてくれよー。元気そうにしてた?」
ようやく笑顔が戻ってきた。
それで山崎はうれしそうに、体育館での様子を話し始める。
1年同士はなんだかんだで、みんな仲がいいこと。
だけど、鹿島以外は、あまり知識がないこと。
手先はそこそこ器用で、ちゃんと鹿島を手伝うし、やる気もあること。
ニューロボコンに向けた気合いだけは、十分なこと。
「まぁ、それはそれで、どうなのって思うこともあるけど、概ねいい感じだよ」
「注意とか、アドバイスみたいなことは、してんの?」
そう言うと、山崎はふっと笑って、首を横に振った。
「ま、そういうのって、あんまやりすぎると、嫌われちゃうからねー」
結局は、山崎も小さな体育館倉庫の隅っこで、運び込まれた漫画を読みながら、座っているだけらしい。
なんだよ、理科室にいた頃と、ほとんど変わりないじゃないか。
それでもこっちに戻ってこないで、体育館にいるのは、なんでだろう。
俺のことが本当に、嫌いなわけじゃないだろうし。
そりゃ人数多くて、「イケてるメンバー」の方に入ってた方が、いいよな。
1年だけど。
戻ってこいよって、言いたいけど、俺の方からは言えない。
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