コンビニバイト店員ですが、実は特殊公安警察やってます(『僕らの目に見えている世界のこと』より改題)

岡智 みみか

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第2章

第1話

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木造2階建ての中古物件。

時代遅れの引き戸玄関扉をガラガラと開けると、俺は靴をその場に脱ぎ捨て、階段を駆け上った。

「重人、どこ行ってたの。ご飯は?」

「いらない」

文句をいう母の声が階下から響く。

悪いが今はそれどころじゃない。

渡されたディスクの1枚目をパソコンに放り込む。

立ち上がったそれは、ラベリング通りのアニメを流し始めた。

「重人!」

襖が開いて、母が顔を出す。

「久しぶりに外に出てたんでしょ。どこに行ってたか、ちょっとくらい母さんと話しをしてくれてもいいじゃない。大体あんたは何にも話してくれな……」

母の視線は、パソコン画面のアニメにくぎ付けだ。

「重人。あんたねぇ、このままいつまでも引きこもってて、平気だと思ってるの? 母さんも父さんもいつまでも生きてないし、お姉ちゃんだって……」

「いいから!」

つい声を荒げてしまう。

「俺が自分からここを開けるまで、絶対に入ってくんなっていつも言ってんだろ」

ギロリとにらみつける。

母さんの心配は分かるが、俺には俺の事情ってもんがある。

勉強も出来てスポーツ万能、ご近所でも有名なよく出来た自慢の息子だった。

そんな俺に、母はため息をつく。

「下にご飯……、おいてあるから」

その声には、わずかに涙が混じる。

母は襖を閉めて下りていった。

俺だけが残された部屋で、キーキーと甲高いアニメ声優の声が響く。

俺はいま、ただの引きこもりニートだ。

大きく一つ深呼吸をして、その画面をじっと見つめる。

理学部数学科大学院博士課程を修了してからさらに2年。

あらゆる試練に耐え、ようやく目の前にあるのは、ただのアニメなんかじゃない。

警視庁サイバー攻撃特別捜査対応専門機動部隊への入隊試験だ。

俺は首を横に振った。

集中しよう。ここが正念場なんだ。

違う。間違えるな。

ただ映像を流していただけでは、ダメなんだ。

早送りして最後のエンドロールを過ぎた特典画像まで目を通す。

特に変わったことはなにもない。

サブリミナルだなんていう映像処理も見当たらなかった。

だとしたら、残る答えはただ一つ……。

俺は自作プログラムを立ち上げた。

改良に改良を重ね、この長期にわたる試練のために開発したソフトだ。

そいつにディスクを読み込ませる。

この組織における独特なセキュリティーを解除し、さらに暗号を解かなければ、彼らからのメッセージは受け取れない。

一つ一つ与えられた課題をこなしていくことが、この解読とプログラムを完成させていく過程になっていると気づいたのは、いつだっただろう。

紆余曲折を経て地道な作業を重ね、2年という歳月をかけたプログラムの完成が、ようやく目の前にある。

「当たりだ」

カモフラージュ映像の下に、部隊の組み込んだプログラムを見つける。

それだけを抽出し解析を始めた。

2枚のディスクに含まれているコードを、それまでのシステムに組み込めという指示だ。

「くっそ」

面倒な作業だ。

だけどきっと正しくそれができれば、俺のプログラムはそのまま部隊の端末として機能するはずだ。

そのわずかな見込みだけが、俺の崩れていきそうな気持ちをようやく支えている。

時計を見上げた。

夕方7時前には帰宅したはずが、もう25時を回ろうとしている。

作業はようやく2枚目のディスクの読み込みに入った。

入れかえをして走らせる。

カタカタという作動音を聞きながら、俺はいつの間にか眠りに落ちていた。
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