蓬莱皇国物語SS集

翡翠

文字の大きさ
12 / 73
新婚旅行で

   1

しおりを挟む

「本日はありがとうございます。 どうぞごゆっくりとおくつろぎ下さい。 ご用は備え付けの電話で、何なりとお申し付け下さいませ。

 では、御夕食の時間にご連絡させていただきます」

 御園生の御曹司二人の宿泊に女将は畳を舐めるかのように、何度も頭を下げて挨拶をして離れ屋から下がって行った。

 山間の小さな温泉場。 秘湯ブームすら取り上げなかった静かな場所。 その一番奥にその宿は位置していた。此処はかつてとある下級貴族の別邸があった場所だ。戦前の大恐慌で資産を殆ど失った彼らは、御園生 有人に救済を求めた結果、元々の建物を本館にして幾つかの離れ屋を造って高級旅館にしたのだ。

 ひっそりとした隠れ屋として、財界人の密やかな訪れが多い場所となった。

 有人が義勝と雅久の為に手配したのは最も奥にある、ホテルでいうならインペリアルスイートクラスの離れ屋だった。

 切り立った断崖が天然の壁となって三方を囲み、唯一の方向も竹垣で中を覗けないように仕切らてはいるが、内側からは外が多少見えるようになっている。 離れ屋は部屋が三間あり、専用の掛け流しの露天風呂がある。 表向きは雅久の療養と言ってある為、必要以上の世話を断ってある。

 和装姿の玲瓏な姿が女性の庇護欲をそそるらしく、昔から雅久は女性から優しく労られる。 もっとも美し過ぎる為に絶対的に恋愛の対象にはならない。 自分より美しい男を恋人にしたがる女性はいない。 幼少時を過ごした京都の花街でも、お姐さん方の扱いは綺麗な人形に対するようなものだった。

「静かな場所だな」

「本当に…」

 義勝の言葉に答えた雅久は憂い顔をしている。

「どうした?」

「私たちだけ旅行に来て、良かったのでしょうか?」

「そうだな、武と夕麿も連れて来てやりたかったな」

 女将が淹れたお茶を飲みながら、学院と御園生邸の往復しか許されない武を想う。 街に買い物に出るのがやっとの不自由さを、気にしていない様子がかえって不憫ふびんだった。

「本人が気にしていないのが、一番可哀想だな… …だから雅久、俺たちは武の分も楽しむんだ、いいな?」

「そうですね…」

 頷いてみたものの義勝の常にない笑顔に雅久は珍しく怯んだ。

「ん…? そんな顔をされると、期待に応えたくなるな、すぐに」

「期待…って義勝、ここは寮でも家でもないのですよ!?」

「大丈夫だ、お前の療養だと言って、来る時には連絡を入れるように言ってある。 せっかくの新婚旅行なんだ、腰が抜けるくらい可愛がってやる」

 迫って来た義勝から逃げるように、奥の部屋へ続く襖を開けて逃げ込む。

「なッ…!?」

 その部屋には既に布団が敷かれていた。 療養…と聞いていつでも横になれるように、宿側が気を利かせてくれたらしい。

「逃げるふりして誘うとは…お前もその気があるんじゃないか」

 それでもなお逃げようと雅久は這うように後退りする。

「あッ!」

 荒々しく布団の上に引き倒され眼鏡が取り外された。

「義勝…許して…」

 首を振って懇願しても義勝は耳を貸さない。 衣擦れの音と共に帯が解かれた。 正絹の和装は肌を滑るように脱がされ白い足袋だけが残った。 解いた帯で腕を縛り足袋を脱がす。

 隙を見て再び雅久が這って逃げようとする。

「あゥッ!」

 足首を掴まれ引き戻される。

「そんなに激しくして欲しいのか、雅久?」

 俯せに布団に押し付けられ乱暴な手付きで太腿を開かされる。

「イヤ!義勝…いやあ…」

 もがいても力ではかなわない。 愛撫もなく蕾にジェルが塗り付けられ指が突き立てられた。

「ひィ、痛ッ…やめて…」

 悲鳴を無視して体内を義勝の太い指が蹂躙する。

「ヤあ…ああ…イヤ…」

 容赦のない指の動きに、両手を縛る帯を噛み締めて耐える。 指が抜かれ腰が持ち上げられる。

「ダメ…まだ…きゃあああ…!!」

 引き裂かれるような痛みと衝撃に身体が大きく戦慄いた。 十分に解れていない蕾をいきなり串刺しにされて、圧迫感と痛みに雅久は悲鳴を上げた。

「ヤ…苦し…」

 圧迫感に上手く呼吸が出来ない。 義勝の大きな手が、ショックで萎えたモノを包み込んで、ユルユルと刺激する。

「ああ…ン…あッ…」

 前だけを緩く刺激されるもどかしさに、肉壁が体内のモノをやわやわと絡み始めた。

「義勝…お願い…」

 切なさに腰が揺れ動く。

「嫌じゃなかったのか?」

 からかうような声が欲望の焔の色になって雅久の視界に揺らめく。

「そのまま、自分で動いてみろ」

「そんな…酷い…」

 蜜液を溢れさせ始めたモノからも手を離され、繋がっているのは受け入れた場所だけ…

「許して…義勝…欲しい…」

 懇願しても欲しい刺激は与えられない。 耐えかねた雅久は義勝に、尻を押し付けるようにして、刺激を求めて腰を動かした。

「あッ…ああン…ああ…イヤ…もっと…あン…足りない…」

 もどかしい。 恥じらいに全身を染めて、ユラユラと腰を振るだけでは満足出来ない。 雅久の腰は更なる刺激を求めて激しく動き始めた。 不安定な律動による抽挿は、体内のモノが抜けてしまいそうで怖い。

「や…お願い…義勝…」

 長い髪を振り乱して身悶えする姿は、この世のものとも思えぬ程美しい。 義勝が雅久に導かれるままに、こちら側へと踏み込んだのは、確かに彼の性癖に合わせたのは確かだ。 だが苦痛を与えられて身悶えする雅久は息を呑む程美しい… 彼の異母兄たちも恐らく、最初は虐待の意味しかなかっただろう。

 だが…この美しさの虜になっていた…と考えられるのだ。 義勝が彼らのように際限なく痛め付けるのを、コントロール出来るのはそこに愛情があるからだ。 この美しさを愛しいと思うからだ。 雅久に出会い雅久を知って、本当の美貌とは性別を超えて存在するのだと思うようになった。

 天上の舞人。

 羽衣を脱ぎ捨てた天人。

 そうとしか思えぬ彼を抱き締める事を許された歓び。 どのような抱き方をしようとも、決して穢れる事のない美しいひと。

「ああッ…やァ!」

 いきなり引き抜かれて雅久が悲鳴を上げた。 義勝は彼を仰向けにして深く膝を折り曲げて、物足りないとヒク付く蕾を一気に貫いた。

「ひィッ…!あああッ…!」

 更なる刺激を欲していた肉壁はいきなり与えられた衝撃に、耐え切れず絶頂の収縮を繰り返す。 雅久のモノはまるで壊れたかのように、長い吐精に震えていた。

「いやあァァ…! 止めて…!」

 心臓が飛び出しそうな快感に身体が、激しく痙攣して雅久を恐怖が襲う。 義勝は覆い被さるようにして雅久の手を解き、頭を抱えるようにして抱き締めた。

「義勝…義勝…!」

 力を込めて握り締めたら折れてしまいそうな細腕を、縋るように絡み付かせて来る。

「雅久…愛している…!」

「義勝…私も…私もあなただけを…愛してます…」

 魅惑的に濡れた唇が、甘い吐息混じりに愛を告げる。 切れ長の眼から涙が流れ落ちた。 それを舌先で舐め取る。 口付けを強請るように、雅久は唇を開いて舌先で舐める。

 その妖艶さに義勝は眩暈すら覚えて、誘われるままに唇を重ねた。 舌を絡め強く吸うと肉壁が義勝のモノを締め付ける。 たまらずに打ち付けるように抽挿を始める。

「ンふ…ンン…あふ…」

 重ねた唇からくぐもった嬌声が漏れる。 唇を離して細い首に舌先を這わせ、ピアスの付けられた乳首を指先で弾く。

「あン!あッ…あッああン…それ…ダメ…許して…あッあッ…おかしく…なる…」

「ここにはお前と俺しかいない…幾らでも淫らに狂え、雅久…!」

「あッあッ…義勝…また…イく…ひィッ…やァァ…イく…あああああああッ…!!」

 体内のモノを喰い千切りそうに締め付けながら雅久は昇り詰めた。

「雅久…!!」

 義勝も有りっ丈の欲望をその体内に放出した。 目が眩む程の快感に呼吸すら忘れてしまう。 重なり合って快楽の余韻に溺れるように、どちらかともなく唇を重ねて貪る。

「ンふ…ンン…ふ…ンン…」

 どちらのともつかぬ唾液が、雅久の顎《おとがい》を流れ落ちる。 指を絡め幸せに酔いしれる。 共に歩くと誓って、武たちに見守られて杯を交わし、互いの指にリングを嵌めた。 夫婦となっての初めての契り。 本当は場所などどこでも良かった。 新しい門出の為に用意された場所。 そこで触れ合い求め合い、抱き合うのがこんなにも、歓喜に満ちているとは… 見つめ合う互いの瞳に、穏やかな光が点った。

「雅久…」

「何です…?」

「もう一度…いいか?」

「何度でも…あなたが欲しいだけ…私も…欲しい…!!」

 ホンの一年前まで、こんな日が来るとは思っても見なかった。

 学院の捕らわれ人となった義勝とどんなに抗っても、戸次家からの迎えが来れば連れ戻されてしまう雅久… …

 誰かに慰みものとして売られると聞いた時には、心臓が鷲掴みにされたようで生きた心地がしなかった。 助け出した時の血に染まった着物を、義勝は生涯忘れる事は出来ないだろう。 そして…自分のそれまでの人生を忘れ、義勝との事も忘れてしまった。

 もう一度、最初から始めれば良い… そう想っても失った原因に関わるものに接触する度に、苦しむ彼を見ると躊躇い戸惑った。 自分の想いが再び受け入れられる事はないのではないか。 不安が心をいっぱいにして、眠りさえも阻んだ。 もう一度触れ合った後も、身に染み付いた欲望が恐ろしくて、いつもどこかで怯えていた。

 いつか拒絶されるのではないか、再び忘れられてしまうのではないか…と。 帰る家を失い家族の温もりを知らずに成長した義勝は、人の愛情に対する不安を抱えていた。

 雅久が自分を忘れた時、諦めかけたのだ。 だが武がそれを許さなかった。

 夕麿が彼の不安を理解していた。 彼もまた似たり寄ったりの身の上だったから。 二人がいなかったら…きっと諦めて投げ出していた。

 だからこそ、この幸せを大切にしたい。 二人で歩き続ける為にも…

「ふふ…」

「ん? どうかしたか?」

 二人で露天風呂に浸かりながら、鳥のさえずりが響く蒼空を見上げる。

「義勝は…学院の温泉に入った事はありますか?」

「それが…ないんだ。 夕麿があの通りだからな、一人で入りに行く気にならなかったし…お前を連れては行きたくなかったしな…」

「温泉がこんなに心地良いものなら、もったいない気がします。 せめて武君に味合わせてあげたい…」

 武が雅久を兄か姉のように想うように彼もまた、不自由な立場に生まれてしまった武を大切な弟のように想う。 雅久の身分からすれば、弁えのない僭越行為ではあった。 だが何よりもそういった事を判断する夕麿が受け入れてくれている。 自分が幸せだからこそ武を想ってしまう。

「まあ、部屋に運ばせれば、学院の温泉に入れる」

「そうですね」

「そろそろ上がるぞ?」

「あ…はい」

 抱き寄せられるようにして露天風呂から出ると、義勝が全身の水気を拭ってくれる。 本当は…雅久の方がやらなければならない事だった。 雅久の実家戸次より、義勝の実家葦名の方が格上にある。ましてや自分は妻なのだから。 けれどすぐに逆上せてしまうから、いつも義勝が雅久の世話をする事になる。 申し訳ないと口にすると義勝は鮮やかに笑った。

「俺が好きでしてるんだ、嫌じゃなかったらこのままでいてくれ」

 眩しい笑顔でそう言われたら雅久には何も言えはしない。 そのままバスタオルを巻かれて、布団の曳かれた部屋へ運ばれた。 布団の上に降ろされて戸惑っていると、義勝だけがさっさと用意された浴衣を着てしまう。

「あの…義勝…?」

 なんとなく嫌な予感がする。

「さて、次はお前だな」

 そう言った義勝が手にしていたのは、和装だと目立つからと出掛ける前に外された首輪だった。 身を起こした雅久の首に嵌め、細い鎖を胸のピアスに付ける。 鎖はやや短い為、仰け反ったり手を伸ばしたりすると、自然にピアスが引っ張られる。 引き吊れた痛みが、常に雅久を刺激する。それだけで欲情してあろうことか高等部の校舎内の物陰やトイレでイかされた事が何度かある。

 首輪の付属の錠前を留められ、自分では外せなくされてしまう。 次に義勝が取り出したのは、犬などの動物を繋ぐ太目の鎖だった。

「義勝…それは…イヤ…」

 何をされるのかわかって、口ではイヤだと言いながら、腰が砕けて身動きが出来なくなる。 ゾクゾクと懊悩が身体の奥底で揺らめく。 鎖を付けられて床の間の柱まで引き摺られて行く。 首輪が引かれるとピアスまで引っ張られる。

「ひィッ!痛い! 許して…義勝!」

 だが今日の義勝は容赦がない。 鎖のもう一方を柱に回しこちら側も錠前で留めてしまった。

「ああ…こんな…こんな…酷い…」

 縋り付いて泣くと、爪先で剥き出しのモノを突つかれた。

「あッあッ…イヤ…」

 そこは既に欲望のカタチを示し蜜液を滴らせていた。

「こんなにしといて、イヤだと? 嘘吐きだな、雅久?」

「ごめんなさい…」

「はしたない奴には、お仕置きが必要だな? そうだろう?」

 残忍な笑みを浮かべて言う義勝の爪先に、雅久は伏すようにして口付けた。 それは如何なる仕打ちも受け入れるという、服従の証……

「良い子だ、雅久」

 甘い言葉とは裏腹にピアスを繋ぐ鎖を引っ張る。

「痛いッ…ああ…許して…」

 痛みに悲鳴を上げながらも淫らに腰を揺らす。 蜜液の糸をひくモノを革紐で縛り付けられ雅久は更に腰を揺らす。 瞳は欲情に潤み唇は熱い吐息を漏らしながら、閉じるのを忘れて唾液を滴らせる。 先程の挿入の余韻で未だ柔らかく解れている蕾に、催淫剤入りのローションを塗り込める。

「あン…あふン…イイ…はァン…そこ…」

 指で中を掻き回され嬌声をあげて身悶える。

「義勝…もう…欲しい…挿れて…」

 指では足りない。 もっと大きなモノが欲しい…

「たっぷりと味わえ!」

「ひィッひィッ…ああ…イヤああ…」

 与えられたのはイヤラシいカタチの太いバイブレーターだった。 蕾をいっぱいに広げて、大きくより深い場所へ挿れられたソレは、すぐに淫らな律動を始めた。

「イヤ…イヤあ…ダメ…ああッ…あッ…ひィッ…イヤ…深い…ダメ…止めて…ああッ…ああッ…」

 強い刺激に半狂乱になる。 どんなに感じても吐精は堰止められている。 切なさに腰が揺れる。 仰け反れば鎖がピアスを引っ張り、乳首に痛みを伴った快感が走る。

 ノートパソコンを開いて義勝は、今日の株価の動向をザッと眺め安堵の息を吐いた。 隣の部屋では雅久が体力を使い果たしてぐっすりと眠っていた。

 あの後、身を起こせなくなる程まで激しく彼をなぶり犯した。 鎖に繋がれたのが彼の自虐的な嗜好を刺激したのか、常になく貪欲に強請って来た。 それに応じて気が付くと雅久が、身動き出来なくなるまで自分が止められなくなってしまう。

 罪悪感に駆られる義勝に彼はいつも泣いて謝罪する。 雅久にはわかっていた。 義勝が本当は優しい人間だと。 自分に出会わなければ武や夕麿たちのような、穏やかな愛情を育んでいた筈だと。義勝は雅久しか知らない。 何もかもが雅久が初めてだった。 記憶がなくてもそれくらいは気付ける。 だから雅久は義勝に申し訳ないと思っていた。 だがもう…互いに相手を手放す事は出来ない。

 せめて雅久の身体にこれ以上、疵痕を残すような行為は避けたい。 無数に付けられた疵痕は薄く目立たなくなったものも多いが、生涯消えないと思えるものもたくさんあった。刃物で切られたとしか思えない、真っ直ぐに一直線に引かれた疵痕もある。 どれも和装でも見えない場所を計算して、執拗に付けられたのがわかる。

 戸次家から助け出す前にはこれに縛られた跡があり、口付けの鬱血が無数にあった。 休み明けに帰って来た時に、それらの痛々しい虐待の証拠を見るのは、義勝は自分が拷問されるより辛かった。打撲傷も無数に幾重にも重なってあった。 ほとんど手当てもされない状態だった。

 雅久を初めて抱いたのは、中等部の3年生の夏休み明けだった。 着ているシャツに血が滲み出す程、彼は傷だらけで寮に戻って来て高熱で倒れた。 休み中、異母兄二人にずっと食事の時も責め苛まれ、ありとあらゆる方法で犯されたのだと。 眠っている間もずっと、悲鳴を上げて泣く雅久を看病した。 傷だらけで穢れた自分をもう誰も愛してはくれない。 いつか異母兄たちに殺されて自分の人生は終わるのだと言う雅久を、抱き締めて唇を重ねたのが始まりだった。

 守りたいと思った。

 救いたいと思った。

 けれどまだ子供で学院の捕らわれ人の自分は無力だった。

 武が全てを変えた。 そして……御園生に養子という形で、二人は結婚した。

 やっとたどり着いた場所だった。


 用意された夕食は山菜を使ったものに川魚や猪肉の料理だった。 有人の手配らしく雅久の分はかなり少な目に盛り付けられてはいたが、視覚的にも楽しめるように十分な工夫が凝らされていた。

「雅久、食べられるか?」

「大丈夫です、とても美味しい…」

 ちょっとはにかむような笑みを浮かべて、箸を動かす姿にホッとする。 いつもよりは食が進んでいる。

「山菜って、こんなに種類があるんだな」

「そうですね、知らない名前ばかりです。 でも…美味しい…」

 春の山菜は冬を耐えて蓄えたエネルギーがあると、古来から重宝されて来たが街中で市販されるのは栽培されたものばかりだ。 ここのものは山に入って採取した天然ものだと言う。 味も深く本当に山のエネルギーを含んでいるように感じる。

 雅久はそれらを嬉々として口に運ぶ。 天上人は空に近い場所の食物が、口に合うのだと本気で思ってしまう。

「そう言えば昔、夕麿が言ってたな…イワナを三匹食べると龍になるんだと…」

「ふふ、『龍の子太郎』ですね?」

「何だそれ?」

「日本の民話を元に書かれた、児童図書です。 その中に主人公の太郎のお母さんが、山でイワナを三匹食べて龍になってしまうんです」

「へぇ…」

「夕麿さまらしいですね?」

「あいつは…自分の母親も、龍になったと思いたかったのかもしれん」

「でも…確か太郎のお母さんの龍は、死んでしまったと記憶しています」

「龍は不死身じゃないのか?」

「いいえ…龍はまだ、聖なる獣。 寿命もありますし、傷付けば死んでしまいます。その辺は神である竜には及ばないのです。 太郎の母親は息子の願いを叶える為に、山に体当たりして崩し湖を農耕可能な大地にします。それが現代の美濃平野だという伝説があるそうです」

「息子の願いを叶える為に、我が身を犠牲にする…あの女と真逆だな」

「そうですね。 夕麿さまは本当に救いを求めておられたのか…それともご自分が龍になられたかったのでは?」

「かもしれないな」

 気が付くといつの間にか、武と夕麿の話をしている。 義勝は『家族』とは、こういうものなのかもしれないと思った。

「それで、明日は何をする? ここは余り、観光出来そうではないが?」

「そうですね」

 雅久は小首を傾げて考え込む。

「竜笛を山の神にお聞かせしたく思います」

「庭に席を造らせよう」

「お願いします…忍冬を、思う存分鳴らしてみたい」

「対話は進んでるのか?」

 名笛『忍冬すいかずら』は、夕麿の実家六条家に代々伝えられて来た。 昨年の秋、祖父から相続していた夕麿が雅久に与えたのである。

「長い間、どなたも鳴らす方がいらっしゃらなかったみたいで…眠っていました。 まだ目が覚めたばかりですから、これから良い音色を見せてくれると思います」

「そうか。 ここの空気の状態だと、午前中の方が良さそうだな?」

「そうですね。 10時頃がベストかもしれません」

 楽器は気温や湿度で音色が変化する。 特に笛は敏感である。

 義勝は夕食の片付けに来た女将に、庭に場所を設けてくれるように依頼し、代わりに柵の向こう側からなら聴くのを許可した。せっかく二人きりなのを、他者の無遠慮な眼差しに邪魔されたくはない。 人目を気にせずに思う存分、鳴らせてやりたいのだ。

「午後からは俺の散歩に付き合ってくれ」

「………また、鎖…ですか…?」

「お前が希望するなら、やっても構わないが?」

 布団に組み敷かれて問うと、雅久は困った顔をしながら頬を染める。 寮や御園生邸では出来ない事が望みらしい。

「やって欲しいみたいだな? 裸で首輪と鎖か? それともまた、中に何か挿れられたいか?」

「ああ…許して…」

 顔を背けた雅久の浴衣の裾を割って、何も着けていない場所へ手を差し入れる。

「なんだ、もう想像して感じたのか? いやらしいな、雅久」

「イヤ…」

「イヤじゃないだろう。 自分で脱いでもっと良く見せてみろ」

 雅久は震える指で浴衣の帯を解いて、脱ぎ捨て布団に横たわった。

「あれだけシたのに、まだ欲しいのか? 足らないのか? 欲しいならちゃんとどこに欲しいのか、俺に見せて強請ってみろ」

 義勝の言葉に雅久の胸が大きく上下した。 おずおずと膝を折り脚を開いた。

「それじゃ見えんぞ」

 雅久の口から羞恥の吐息が漏れる。 脚を大きく開き膝を折り曲げて、秘めたる部分を愛しい人にさらす。 ここへ着いてから既に何度も抱かれたというのに、まだ身体は貪欲に欲しがる。

 淫らな自分を浅ましいと思う。 だから罰して欲しい。

「それで終わりか?」

 まだダメだともっと淫らに請えと声は言う。雅久は自らの両脚の膝下に手を入れて、胸に膝がつくほど引き寄せた。羞恥と期待に蕾がヒク付いている。

「お願いです、義勝」

「そんなに欲しいのか?だったらこれを自分で塗って、解してから言え」

 胸の上にローションの容器が投げられる。息を詰めた雅久に、なおも意地の悪い言葉が与えられる。

「さあ、見ててやるから、自分でやってみろ」

 雅久は唇を噛み締めて容器を手に取り、中のローションを指先に垂らす。おずおずとその指先を、蕾へと伸ばしローションを塗り付ける。

「ン…ああ…ン…」

 見つめられている。淫らな自分の行為を見られている。雅久は上半身を起こして、ローションを蕾に直接垂らした。

「ンふ…あッ…義勝…見てください…私を…もっと…見て…」

 指先を蕾の中に挿れてわざと音させて掻き回す。義勝が欲情に喉を鳴らすのがはっきりと聞こえた。

「ああ…足りません…もっと…大きくて…熱いのを…挿れて…」

 その淫らさにむしゃぶりつきそうになるのを、ぐっと堪えて義勝は寝転がって言った。

「そんなに欲しいなら、自分で挿れてみろ」

 今度は雅久が喉を鳴らす。這うように義勝に近付いて、浴衣の裾を捲り下着を引き下ろす。義勝のモノは蜜液を溢れさせて下着を濡らし銀色の糸をひいていた。

「ああ…もうこんなになって…」

 欲望に満ちた声が、悦びに震えていた。雅久は義勝に跨ると、蕾に彼の猛るモノを当てて、大きく息を吐き出しながら、一気に腰を落とした。

「あッああッン…」

 圧し上がる快感に仰け反り戦慄く。すぐに腰を激しく動かし始めた。快楽を貪る身体が止められない。雅久の動きに合わせて、下から激しく突き上げられるともう堪らなかった。口から唾液を滴らせながら、嬌声が啜り泣くように漏れる。長い髪を振り乱して、ひたすら絶頂へと欲望が身体を突き動かす。

「義勝…義勝…熱い…熱い…」

 義勝は身を起こすと、雅久の唇を貪りながらその両脚を抱え上げた。 全体重が蕾にかかり、抽挿が深く奥を抉る。 凄まじい勢いで、快楽が螺旋を描いて駆け昇った。

「ひぃあッン…あゥ…あッああッああッ…!!」

 義勝の首に縋り付き、自分のモノを愛しい人の腹に擦り付けながら、雅久は激しく戦慄いて吐精した。 ほぼ同時に義勝の放ったものが雅久の体内を濡らした。


 次の日、雅久は春の日差しの中で竜笛を吹き鳴らした。 最初は静かにゆっくりと忍冬の目覚めが確かになるように。 長い間、眠らされていた故の機嫌の悪さを解すように。 それはやがて清流のように時には激しく、時には穏やかに美しい調べを紡ぎ織り成して行く。雅久はそれらを乱舞する色として、一つひとつ目で確かめ、竜笛の調子を整えて行く。

 岩の壁が天然の反響板になり、山間の温泉地を竜笛の音色が満たして行く。 大気は澄み渡り木々の緑は冴え水は澱みを清め、音色に耳を傾ける人々の心は癒されて行く。

 これぞ名笛の色。

 これぞ天人の調べ。

 雅久の演奏を聞き慣れている義勝すら、この日の音色に陶酔を覚えた。 天賦の才と名笛の組み合わせが、如何に凄まじいものである事か!

 夕麿が六条家の家宝を惜しげもなく、彼に与えた意味がここに存在している。

 名手あっての名笛。

 ただ家宝として飾っておくなぞ、何の意味があろうか。 宝の持ち腐れどころではない。 文化の損失である。

 1時間ほど吹き鳴らして、雅久は忍冬から唇を離して微笑んだ。

「やっと、本来の音が鳴りました」

 彼はこれからが本当の音色だと言う。 再び唇を添えて雅久が奏で始めたのは…『蘭陵王』。 雅久が舞うのを観てから、武のお気に入りの曲である。

 竜笛だけで奏でられる『蘭陵王』。 それはまるで彼の美しさのみを取り出したかの如く、鮮やかな煌めきを帯びて大気を震わせた。 低音は貫くように大気が震え、高音は大気を切り裂くように響いた。 最後の音色が空に消えて、雅久は静かに唇を離して、忍冬を膝に置いた。

 竹垣の向こうにいる人々から、歓声と拍手が起こった。

 雅久の顔が綻ぶ。

 彼は義勝の手を借りて立ち上がり、少し寄りかかるようにして外へと踏み出した。 萌葱色の単に茜紫の帯を締めた彼は、ほんのりと汗ばんで匂い立つような色香を放っていた。 片手に忍冬を持った姿に、集まった人々が感嘆の溜息を吐く。

 雅久は艶やかに微笑むと、人々に一礼して再び竹垣の中へと戻った。


 この日、彼を自分の宿泊している部屋へ呼びたがる客の対応に、女将が奔走したのを彼らは知らない。

 女将は必死になって、こう言って断り続けた。

「あのお方は皇帝陛下のの御前で舞をなされ程、高貴な人なのでございますよ。本日だってたまたま、ご気分がよろしくて演奏されただけです」 と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

男の娘と暮らす

守 秀斗
BL
ある日、会社から帰ると男の娘がアパートの前に寝てた。そして、そのまま、一緒に暮らすことになってしまう。でも、俺はその趣味はないし、あっても関係ないんだよなあ。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...