お望み通り、消えてさしあげますわ

梨丸

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とある聖女の死

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【アマリリス・バルチェ子爵令嬢が死亡 自室に自ら火を放って焼死したと見られる】

アマリリスとウィリアムの結婚式当日──こんな謳い文句が新聞一面に載った。
自国の王太子が式を挙げるということでどこか浮かれていた貴族たちが、国民が、まさかの知らせに絶句した。

彼女の死を知らされた貴族令嬢たちは結婚式で着るはずだったドレスをそれぞれ纏い、いそいそと茶会を開いた。しかしそれは決してアマリリスを思ってのものではない。彼女にまとわりつくくらい影を、噂を語り合いたいだけなのだ。

令嬢たちは優雅に紅茶を飲み、茶菓子を嗜みながら、アマリリスの死を楽しんだ。

「ねえ、お聞きになりまして?先日アマリリス様が自死なされたのだとか」

「ええ。本当に痛々しい」

令嬢たちはアマリリスへの同情を口にしているものの、表情は嬉々としている。

アマリリスは子爵令嬢といえど、貴族の令嬢や令息と関わることがほとんどなかった。アマリリスは聖女の務めを理由に令嬢たちの誘いを断ることが多く、社交界では孤立した存在だったのだ。
アマリリスの目立つ容姿は令嬢たちの嫉妬心を駆り立て、聖女という理由だけで社交界の一番星とも言われる王太子と婚約を結んだという事実に次期王妃の座を狙っていた令嬢は落胆した。それと同時に、なんであの娘が、という気持ちが芽生えなくもなかった。同じ聖女なら家柄が上のフリージアでも良かったのでは、という気持ちもあった。王命という名目の婚約だっため、表だったことは言えなかった彼女たちの中には日頃から消化不良の膿が溜まっていたのだ。
その矢先に起きた、アマリリスの死。話題に飢えた令嬢たちの餌になるのに時間はかからなかった。

「異変に気づいた神官が早急に消火活動をしたものだから、火災としては事なきを得ましたけども……」

「あらいやだ。アマリリス様がお亡くなりになられたでしょう?」

「結婚前夜に自死するなんて、マリッジブルーだったのかしらね」

わざとらしく洋扇で口元を隠す彼女たちの言葉の端々には微かな嘲笑が混じっている。誰一人としてアマリリスの死をいたもうという気はなく、前々からあった彼女の黒い噂に花を咲かせた。

「フリージア様に聖女のお務めを全てやらせていたのよね。それなのに高嶺の花ぶって誘いを断っていたなんて」

「美しいのは外見だけ。国費も自分を着飾るためだけに使い潰していたと言うし、まさに“役立たずの聖女”ね」

ひとりの令嬢の言葉に賛同するように、令嬢たちの高らかな笑い声がティーサロンに響いた。



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