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二章:人生の再出発
僕の天使
「わあロザリー、凄い出迎え方だね」
「お、お兄様……?」
私が振り下ろした本はいとも容易くお兄様の手で受け止められていた。かなり力を込めたはずなのだけど、びくともしない。お兄様は何事もなかったように本を優しく棚に戻し、笑顔で言った。
「ロザリー、会いたかったよ」
一階のダイニングルームで紅茶を淹れながら、お兄様に文句を言う。
「とても吃驚しました。勝手に入るなんてこと、しないでください」
「ごめんごめん。ロザリーがどんな反応をするのか見てみたくてね」
少しも申し訳なさそうに見えない調子で謝った後、お兄様は机の上で伸びをした。
「仕事が忙しくて、全く会いにいけなかったんだ。寂しい思いをさせてしまってすまないね」
「寂しかったのはお兄様の方では?」
「そうかもね」
はは、と砕けた笑い声を出す彼を見てとても安心する。なぜかはわからないけれど、家族というものはそういうものなのだと今更ながら理解した。
「最近は魔導師が人手不足でね、てんてこまいさ」
「そうなんですか?」
「うん。あの子も勧誘を頑張ってるんだけど、容量が悪いというか……不器用なんだ。今日はね、話があってその子を連れてきた」
あの子。とは誰のことだろう。お兄様に尋ねようと口を開きかけた瞬間、玄関の扉が大きな音を立てて開けられた。お兄様は嬉しそうに肩をすくめた。見たくはないけれど、本当に見たくはないけれど……顔をゆっくりと扉の方に向ける。
「フィニルタ先輩、外に……、外に……!」
絵画を切り取ったような美しい青年が勢いよく入ってきた。魔法陣が縫われたローブを纏っていることから、魔導師だと推測される。けれど、魔法陣の色は真っ白だ。どの支部にもない色に驚き目を瞬いていると、青年はこちらを見て、私の方を睨んできた。そのままこちらにやって来て机に手をつく。
「お前誰だ」
先ほどと、かなり声色が違いますけど。それに、この屋敷は一応私のものなんですけど。
困惑しているとお兄様が首をゆっくりと傾けて言った。瞳が氷柱のように冷たい。
「僕の妹だ。カルロ、硝子細工のように扱え」
お兄様から青年への殺意が放たれている。お兄様は硬直している私に優しい眼差しを向けた。
「ごめんね、フィニルタはまだ子供なんだ。ロザリーと同い年のはずなんだけど」
「俺がこのちんちくりんと一緒!?ありえないですよ」
「カルロ」
「すみません」
青年──カルロは渋々といった感じでこちらを見やった。至近距離なので透けるような露草色の髪がかかりそうになる。
「この子がさっき言っていた不器用な子だ。三大侯爵としては最年少なのに背伸びをしながらも頑張ってるんだ、許してやって欲しい」
「三大侯爵……?」
「三大侯爵の【魔術】を担っている、カルロ・バーテンです」
不貞腐れた子供のようにカルロはそっぽを向いた。子供じみた様子から、魔導師局を統べている侯爵だと、誰が気づくだろうか。彼はそれから何かを思い出したようにあ、と声を漏らした。
「外に、木が生えていたんです!ご覧になられましたか?」
「それがどうかしたのかい?」
「え、いや、フィニルタ先輩ならここの性質を知っていますよね?木なんて生えるはずがないんです」
「そうだね」
にこにこと笑うお兄様にカルロは戸惑いを隠せなかったようだ。ゼンマイ式の人形のように顔をこちらに向けた。
「まさか、きみがあの木を……?ありえない、はずだ」
「は、はい。何か、不足がありましたか」
お兄様と懇意にしているとはいえ、侯爵を敵に回すわけにはいかない。なるべく無礼がないようにと簡素な返事をする。すると、お兄様が私をぐい、と引き寄せた。
「僕の天使は奇跡を起こす。魔導師局に必要な人材じゃないかい?」
目を白黒させているカルロに、お兄様は美しく大胆不敵な笑みを浮かべた。──見えないけれど、多分浮かべているはずだ。
「お、お兄様……?」
私が振り下ろした本はいとも容易くお兄様の手で受け止められていた。かなり力を込めたはずなのだけど、びくともしない。お兄様は何事もなかったように本を優しく棚に戻し、笑顔で言った。
「ロザリー、会いたかったよ」
一階のダイニングルームで紅茶を淹れながら、お兄様に文句を言う。
「とても吃驚しました。勝手に入るなんてこと、しないでください」
「ごめんごめん。ロザリーがどんな反応をするのか見てみたくてね」
少しも申し訳なさそうに見えない調子で謝った後、お兄様は机の上で伸びをした。
「仕事が忙しくて、全く会いにいけなかったんだ。寂しい思いをさせてしまってすまないね」
「寂しかったのはお兄様の方では?」
「そうかもね」
はは、と砕けた笑い声を出す彼を見てとても安心する。なぜかはわからないけれど、家族というものはそういうものなのだと今更ながら理解した。
「最近は魔導師が人手不足でね、てんてこまいさ」
「そうなんですか?」
「うん。あの子も勧誘を頑張ってるんだけど、容量が悪いというか……不器用なんだ。今日はね、話があってその子を連れてきた」
あの子。とは誰のことだろう。お兄様に尋ねようと口を開きかけた瞬間、玄関の扉が大きな音を立てて開けられた。お兄様は嬉しそうに肩をすくめた。見たくはないけれど、本当に見たくはないけれど……顔をゆっくりと扉の方に向ける。
「フィニルタ先輩、外に……、外に……!」
絵画を切り取ったような美しい青年が勢いよく入ってきた。魔法陣が縫われたローブを纏っていることから、魔導師だと推測される。けれど、魔法陣の色は真っ白だ。どの支部にもない色に驚き目を瞬いていると、青年はこちらを見て、私の方を睨んできた。そのままこちらにやって来て机に手をつく。
「お前誰だ」
先ほどと、かなり声色が違いますけど。それに、この屋敷は一応私のものなんですけど。
困惑しているとお兄様が首をゆっくりと傾けて言った。瞳が氷柱のように冷たい。
「僕の妹だ。カルロ、硝子細工のように扱え」
お兄様から青年への殺意が放たれている。お兄様は硬直している私に優しい眼差しを向けた。
「ごめんね、フィニルタはまだ子供なんだ。ロザリーと同い年のはずなんだけど」
「俺がこのちんちくりんと一緒!?ありえないですよ」
「カルロ」
「すみません」
青年──カルロは渋々といった感じでこちらを見やった。至近距離なので透けるような露草色の髪がかかりそうになる。
「この子がさっき言っていた不器用な子だ。三大侯爵としては最年少なのに背伸びをしながらも頑張ってるんだ、許してやって欲しい」
「三大侯爵……?」
「三大侯爵の【魔術】を担っている、カルロ・バーテンです」
不貞腐れた子供のようにカルロはそっぽを向いた。子供じみた様子から、魔導師局を統べている侯爵だと、誰が気づくだろうか。彼はそれから何かを思い出したようにあ、と声を漏らした。
「外に、木が生えていたんです!ご覧になられましたか?」
「それがどうかしたのかい?」
「え、いや、フィニルタ先輩ならここの性質を知っていますよね?木なんて生えるはずがないんです」
「そうだね」
にこにこと笑うお兄様にカルロは戸惑いを隠せなかったようだ。ゼンマイ式の人形のように顔をこちらに向けた。
「まさか、きみがあの木を……?ありえない、はずだ」
「は、はい。何か、不足がありましたか」
お兄様と懇意にしているとはいえ、侯爵を敵に回すわけにはいかない。なるべく無礼がないようにと簡素な返事をする。すると、お兄様が私をぐい、と引き寄せた。
「僕の天使は奇跡を起こす。魔導師局に必要な人材じゃないかい?」
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