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二章:人生の再出発
天使が天使になった所以 sideフィニルタ
ローザリンデはフィニルタにとって天使である。それは永遠に、変わらない。
ローザリンデが生まれたのはフィニルタが四歳の時である。産声を上げるローザリンデを初めて見た時、フィニルタは思わず呟いていた。『僕の天使だ』と。
フィニルタには昔から他人の魔力を探知することができた。それは人の周りを覆う濃い靄のような形で現れる。靄が大きければ大きいほど、比例して魔力量は増える。
ひとを見るのに、魔力量が先に見える。これほど嫌なものはない。靄がひとを覆い、個々の判別が不可能になるのだから。フィニルタにとって、この力は煩わしいものであった。両親や他貴族は声や仕草、魔力量でなんとか見分け、笑顔で接した。
フィニルタから見たローザリンデには、靄というものが一切見えなかった。人間、誰しも魔力を持っている。生命の源とも言われる魔力を持っていない人間など存在しない。存在しないはずなのに──妹として現れた。それを魔力が常に周囲に分散しているのだからだと、フィニルタは結論付けた。ローザリンデの魔力は無意識的に膨大な量の魔力を常に放出しており、そのため靄の濃度が極限まで薄くなって空気に溶け込んでいるのだ。
フィニルタはこれまで生きてきた四年間の中で初めて神様の存在を信じた。
愛らしい丸い瞳にふやけた口元。普通なら靄が隠しているはずのひとの姿を、顔を、はっきりと見ることができた。両親でさえも靄の塊として認知されるのだ。そのためフィニルタは両親を両親と思ったことがなかった。ただの魔力の塊。そう判断した方が楽だった。
──なのに。ローザリンデは現れた。
それは、フィニルタの人生を大きく変えることとなる。
初めて、ひとを護りたいと思えた。
初めて、ひとと接したいと思えた。
初めて、ひとを愛しいと思えた。
感情が次々と溢れ出ていく。ひとにとってそれは普通のことなのかもしれない。けれど、フィニルタにとってはそのどれもが新しい感情だった。自分だけの呼び名を作りたい、そう思い至って「ロザリー」という愛称を作り、呼ぶようになった。
彼女が笑えば胸は弾むし、彼女が泣けば魔力が暴走しそうになる。初めてのことに戸惑いながらも、フィニルタは少しずつ加減を覚えるようになった。
そんなある日のこと。
ローザリンデが魔導師になりたいと言い出した。フィニルタとしては喜ばしいことであり、何より応援したいことである。しかし両親の存在が懸念のひとつだった。金のことしか考えていないふたりはローザリンデを搾取し続けると安易に予測できたのだ。
ふたりに消えて欲しい。
そう願い、実行に移そうとするのに時間はかからなかった。幸い魔力量はかなりある方だったし、屋敷ごと燃やそうという突拍子のない計画まで建てていた。両親とも呼べない魔力の塊がふたつ消えたところでなんの損害もないだろう、と。
ローザリンデを外に連れ出した後、フィニルタは魔力を手のひらに込めた。手の上で火花が散り──いざ実行に移そうとしたところ。
『おにいさま、はなびきれいねー』
ローザリンデがにこにこと笑い、フィニルタを抱きしめたのだ。小さく柔らかな手が自らの手に触れた時、フィニルタは今から起こそうとしてたことがどうでもいいように感じた。……その日は庭で小さな花火大会を開いた。
それからふたりは魔導師になるための鍛錬を積み、成長していった。
フィニルタは度々両親の存在を消そうと思ったが、ローザリンデの親がいなくなってしまうことを危惧して踏みとどまった。
ローザリンデを取り巻く環境の中で、今まで彼女に一番愛情を注いできた人間はフィニルタであろう。フィニルタもまた、ローザリンデの愛を受けて救われた。
この先どんなことがあっても、誰が何を言おうとも、彼は胸を張ってこう言うだろう。
ロザリーは間違いなく僕の天使だ、と。
ローザリンデが生まれたのはフィニルタが四歳の時である。産声を上げるローザリンデを初めて見た時、フィニルタは思わず呟いていた。『僕の天使だ』と。
フィニルタには昔から他人の魔力を探知することができた。それは人の周りを覆う濃い靄のような形で現れる。靄が大きければ大きいほど、比例して魔力量は増える。
ひとを見るのに、魔力量が先に見える。これほど嫌なものはない。靄がひとを覆い、個々の判別が不可能になるのだから。フィニルタにとって、この力は煩わしいものであった。両親や他貴族は声や仕草、魔力量でなんとか見分け、笑顔で接した。
フィニルタから見たローザリンデには、靄というものが一切見えなかった。人間、誰しも魔力を持っている。生命の源とも言われる魔力を持っていない人間など存在しない。存在しないはずなのに──妹として現れた。それを魔力が常に周囲に分散しているのだからだと、フィニルタは結論付けた。ローザリンデの魔力は無意識的に膨大な量の魔力を常に放出しており、そのため靄の濃度が極限まで薄くなって空気に溶け込んでいるのだ。
フィニルタはこれまで生きてきた四年間の中で初めて神様の存在を信じた。
愛らしい丸い瞳にふやけた口元。普通なら靄が隠しているはずのひとの姿を、顔を、はっきりと見ることができた。両親でさえも靄の塊として認知されるのだ。そのためフィニルタは両親を両親と思ったことがなかった。ただの魔力の塊。そう判断した方が楽だった。
──なのに。ローザリンデは現れた。
それは、フィニルタの人生を大きく変えることとなる。
初めて、ひとを護りたいと思えた。
初めて、ひとと接したいと思えた。
初めて、ひとを愛しいと思えた。
感情が次々と溢れ出ていく。ひとにとってそれは普通のことなのかもしれない。けれど、フィニルタにとってはそのどれもが新しい感情だった。自分だけの呼び名を作りたい、そう思い至って「ロザリー」という愛称を作り、呼ぶようになった。
彼女が笑えば胸は弾むし、彼女が泣けば魔力が暴走しそうになる。初めてのことに戸惑いながらも、フィニルタは少しずつ加減を覚えるようになった。
そんなある日のこと。
ローザリンデが魔導師になりたいと言い出した。フィニルタとしては喜ばしいことであり、何より応援したいことである。しかし両親の存在が懸念のひとつだった。金のことしか考えていないふたりはローザリンデを搾取し続けると安易に予測できたのだ。
ふたりに消えて欲しい。
そう願い、実行に移そうとするのに時間はかからなかった。幸い魔力量はかなりある方だったし、屋敷ごと燃やそうという突拍子のない計画まで建てていた。両親とも呼べない魔力の塊がふたつ消えたところでなんの損害もないだろう、と。
ローザリンデを外に連れ出した後、フィニルタは魔力を手のひらに込めた。手の上で火花が散り──いざ実行に移そうとしたところ。
『おにいさま、はなびきれいねー』
ローザリンデがにこにこと笑い、フィニルタを抱きしめたのだ。小さく柔らかな手が自らの手に触れた時、フィニルタは今から起こそうとしてたことがどうでもいいように感じた。……その日は庭で小さな花火大会を開いた。
それからふたりは魔導師になるための鍛錬を積み、成長していった。
フィニルタは度々両親の存在を消そうと思ったが、ローザリンデの親がいなくなってしまうことを危惧して踏みとどまった。
ローザリンデを取り巻く環境の中で、今まで彼女に一番愛情を注いできた人間はフィニルタであろう。フィニルタもまた、ローザリンデの愛を受けて救われた。
この先どんなことがあっても、誰が何を言おうとも、彼は胸を張ってこう言うだろう。
ロザリーは間違いなく僕の天使だ、と。
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