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前編
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この世界は精霊が見え、触れ合うことのできる聖女によって支えられている。
私の村も聖女と精霊の存在によって守られていた。
私の村には、聖女がいた。誰もが愛する、聖女が。
リリー・ルーベルク。
彼女は、私の双子の妹で聖女と呼ばれていた。
私と彼女が生まれた際、礼拝堂の聖女の水晶が光り輝いたそうだ。
私たちが9歳の頃、リリーは家で突然、精霊が見えたと騒ぎ始めた。
1つの村に、2人の聖女が生まれることはあり得ない。
私たちのどちらかが聖女だと分かった時から、両親含む村の人たちは私たち双子のどちらが聖女だろうと、そわそわしていたのだろう。
リリーが精霊が見えると騒ぎ出した日から、私とリリーの待遇が変わっていった。
両親の関心も全て、リリーに寄せられていった。
12歳になった時には、もう誰も露骨な待遇の違いを隠そうともしなくなった。
出来損ないの姉と聖女の妹、これが村の人たちが貼ったレッテルだった。
両親にも、もう見向きもされない。
12歳の秋、私には1人友達ができた。
「わたしはルーシー自身が好きなんだよ!きっと、ルーシーが何か違う動物だったとしても、好きになると思う」
そう、笑いながら言ってくれたアンナが、私は大好きだった。
アンナと喋っていると、村の人の陰口なんて聞こえないような気がした。
全てが変わり出したのは、12歳の冬。
冬のある朝、私は風の大精霊、シーフに出会った。
私は、風の大精霊を従えることのできる聖女だったのだ。
まず、大好きなアンナに伝えに行こうと、雪道を必死で走った。
アンナを見つけ、大精霊と触れ合うことができたことを話すと、こう言われた。
「妹が羨ましいからって嘘吐かないでよ」
信じてもらえなかった。
その次の日、雪が降っている中、無理をして走ったせいか、高熱が出た。
独りでベッドで横になっていると、両親が部屋に入ってきた。
いつもは熱を出しても来てはくれないのに。
二人は私の顔を見ると、叱責した。
精霊が見えるなんて嘘を吐いてはいけない。
羨ましいからと嫉妬するな。
この嘘つきが。
頭がまっしろになった。
アンナが二人に告げ口したの?
それとも誰かがこっそり聞いていた?
どちらにせよ、私が両親にとっての「嘘つき」になったのには間違いなかった。
噂が広まるのは早い。
それから、私は村中の人から「嘘つき」として扱われるようになった。
16歳になったとき、私と話してくれるのは精霊のシーフだけになった。
私の悪評が広まれば広まるほど、リリーの周りには常にたくさんの人が増えていく。
たくさんの人の中には、アンナも含まれている。
精霊と人に愛されたリリー。嘘つきな姉の私。
その時にはもう、誰かに信じてもらおう、なんて考えは消え失せていた。
そんなある日。
村の山岳部で雪崩が起きた。
雪崩に巻き込まれた箇所には、村長の家があり、村長自身も雪崩に巻き込まれたらしい。
そんな大事件が起きたので、早朝から、雪の掘り起こし作業が始まっていた。
山岳部にシーフと様子を見にいってみると、たくさんの人が集まっていた。
今ここでシーフと協力して、村長を助けたら、嘘なんてついていないことを証明できるんじゃないか。
私の頭の中にそんな考えが浮かんだ時だった。
「ルーシー姉様!こっちの方がよく見えるわ!」
いきなり、リリーが私の腕を掴み、引っ張った。
リリーとは、もう何年も話していなかったのに。
リリーに半ば強引に連れてこられたのは、山の麓の誰も使っていないような小屋だった。
そこからは、雪崩が起こった部位がよくみえ、状況もわかりやすい。
ここからなら。村長を助けられるかもしれない。
私は、シーフに雪をどかして欲しいとお願いした。
「わかりました、ルーシー」
胸の前で手を組む。
淡い光が私の周りをふわふわと漂い始めた。
いきなり眩しい光に体が包まれ、謎の高揚感と共に目を閉じた。
「すごい!すごいわ!!精霊って!」
はっと我に帰ったのは、リリーの甲高い声が私の耳に響いたからだ。
雪崩は、風で綺麗に吹き飛ばされていた。
シーフ、リリーと共に村へ戻ると、両親やアンナがこちらへ駆け寄ってきた。
これで私のことを信じてくれる、そう思った。
この瞬間、私が声に出そうとした言葉を、リリーが大声で叫んでいた。
「私が!精霊にお願いして助けてもらったの!!」
え……?
意味がわからなかった。
村の人たちはみんな笑っていた。
さすが、聖女様だ!
村長は無傷だって。
聖女様万歳!!!
私とシーフの功績は、リリーへの賞賛になって返ってきた。
何か、何か言わなきゃ。
口が震えた。
リリーがこちらをチラリと見て、抱きついてきた。
そして私の耳元で囁いた。
「バーカ。誰も信じてくれないよ」
リリーは、聖女でもなんでもない。
ただの嘘つきだった。
その日の夜、私はこっそりこの村から隣国へ、出ることを決意した。
この村の人間は、全員リリーの味方だ。
私が何を言っても、信じてもらえることはないだろう。
私の村も聖女と精霊の存在によって守られていた。
私の村には、聖女がいた。誰もが愛する、聖女が。
リリー・ルーベルク。
彼女は、私の双子の妹で聖女と呼ばれていた。
私と彼女が生まれた際、礼拝堂の聖女の水晶が光り輝いたそうだ。
私たちが9歳の頃、リリーは家で突然、精霊が見えたと騒ぎ始めた。
1つの村に、2人の聖女が生まれることはあり得ない。
私たちのどちらかが聖女だと分かった時から、両親含む村の人たちは私たち双子のどちらが聖女だろうと、そわそわしていたのだろう。
リリーが精霊が見えると騒ぎ出した日から、私とリリーの待遇が変わっていった。
両親の関心も全て、リリーに寄せられていった。
12歳になった時には、もう誰も露骨な待遇の違いを隠そうともしなくなった。
出来損ないの姉と聖女の妹、これが村の人たちが貼ったレッテルだった。
両親にも、もう見向きもされない。
12歳の秋、私には1人友達ができた。
「わたしはルーシー自身が好きなんだよ!きっと、ルーシーが何か違う動物だったとしても、好きになると思う」
そう、笑いながら言ってくれたアンナが、私は大好きだった。
アンナと喋っていると、村の人の陰口なんて聞こえないような気がした。
全てが変わり出したのは、12歳の冬。
冬のある朝、私は風の大精霊、シーフに出会った。
私は、風の大精霊を従えることのできる聖女だったのだ。
まず、大好きなアンナに伝えに行こうと、雪道を必死で走った。
アンナを見つけ、大精霊と触れ合うことができたことを話すと、こう言われた。
「妹が羨ましいからって嘘吐かないでよ」
信じてもらえなかった。
その次の日、雪が降っている中、無理をして走ったせいか、高熱が出た。
独りでベッドで横になっていると、両親が部屋に入ってきた。
いつもは熱を出しても来てはくれないのに。
二人は私の顔を見ると、叱責した。
精霊が見えるなんて嘘を吐いてはいけない。
羨ましいからと嫉妬するな。
この嘘つきが。
頭がまっしろになった。
アンナが二人に告げ口したの?
それとも誰かがこっそり聞いていた?
どちらにせよ、私が両親にとっての「嘘つき」になったのには間違いなかった。
噂が広まるのは早い。
それから、私は村中の人から「嘘つき」として扱われるようになった。
16歳になったとき、私と話してくれるのは精霊のシーフだけになった。
私の悪評が広まれば広まるほど、リリーの周りには常にたくさんの人が増えていく。
たくさんの人の中には、アンナも含まれている。
精霊と人に愛されたリリー。嘘つきな姉の私。
その時にはもう、誰かに信じてもらおう、なんて考えは消え失せていた。
そんなある日。
村の山岳部で雪崩が起きた。
雪崩に巻き込まれた箇所には、村長の家があり、村長自身も雪崩に巻き込まれたらしい。
そんな大事件が起きたので、早朝から、雪の掘り起こし作業が始まっていた。
山岳部にシーフと様子を見にいってみると、たくさんの人が集まっていた。
今ここでシーフと協力して、村長を助けたら、嘘なんてついていないことを証明できるんじゃないか。
私の頭の中にそんな考えが浮かんだ時だった。
「ルーシー姉様!こっちの方がよく見えるわ!」
いきなり、リリーが私の腕を掴み、引っ張った。
リリーとは、もう何年も話していなかったのに。
リリーに半ば強引に連れてこられたのは、山の麓の誰も使っていないような小屋だった。
そこからは、雪崩が起こった部位がよくみえ、状況もわかりやすい。
ここからなら。村長を助けられるかもしれない。
私は、シーフに雪をどかして欲しいとお願いした。
「わかりました、ルーシー」
胸の前で手を組む。
淡い光が私の周りをふわふわと漂い始めた。
いきなり眩しい光に体が包まれ、謎の高揚感と共に目を閉じた。
「すごい!すごいわ!!精霊って!」
はっと我に帰ったのは、リリーの甲高い声が私の耳に響いたからだ。
雪崩は、風で綺麗に吹き飛ばされていた。
シーフ、リリーと共に村へ戻ると、両親やアンナがこちらへ駆け寄ってきた。
これで私のことを信じてくれる、そう思った。
この瞬間、私が声に出そうとした言葉を、リリーが大声で叫んでいた。
「私が!精霊にお願いして助けてもらったの!!」
え……?
意味がわからなかった。
村の人たちはみんな笑っていた。
さすが、聖女様だ!
村長は無傷だって。
聖女様万歳!!!
私とシーフの功績は、リリーへの賞賛になって返ってきた。
何か、何か言わなきゃ。
口が震えた。
リリーがこちらをチラリと見て、抱きついてきた。
そして私の耳元で囁いた。
「バーカ。誰も信じてくれないよ」
リリーは、聖女でもなんでもない。
ただの嘘つきだった。
その日の夜、私はこっそりこの村から隣国へ、出ることを決意した。
この村の人間は、全員リリーの味方だ。
私が何を言っても、信じてもらえることはないだろう。
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